「ハマーンさんがこのMSのパイロットなんですか!?」
「ええ、そうよ。
あまり思い出したい記憶じゃ無いけど...、実は私もあの機関にいたことがあって、このMSにも適性があるんですって。
ムサシ君みたいな小さい子だって頑張っているのに、私だけ逃げるなんて出来ないもの。」
驚きのあまりに倒れそうになるのをなんとかこらえると、シャアの隣にいたハマーンさんに聞いてみたが、どうやら本当にそうらしい。
彼女もニュータイプ能力を持っている可能性があるということは以前シャアから聞いていたけれど、まさかもうMSのテストパイロットに選抜されるなんて...。
しかも、フラナガン機関とかいう研究施設での実験は決して生やさしいものでは無かったし、あそこの実験を経験したのなら自ら進んでニュータイプだとかMSだとかに関わりたいとは思わないはずだが。
何の後ろ盾も無く、無理矢理このアクシズに連れてこられたオレ達みたいなのはともかく、彼女はアクシズの統括責任者の娘だろ?
シャアという超えるべき目標が出来たお陰で、今はMSの操縦にやる気を出してはいるが、オレが頑張っているのも元はやまれぬ止まれぬ事情からであって...。
そう思いながらハマーンさんを見ていたのだが、どこか彼女の様子がおかしい。
ちょっと待て。
よく見ると彼女が、軽く頬を赤らめながらシャアをチラチラと見ているではないか。
あー、そういうことか。
ハマーンさんがニュータイプなどに再び関わろうとした切っ掛けになんとなく気付きはしたが、ここでオレが指摘するのは野暮というものだろう。
今気付いてしまったことは心の中にしまいつつ、オレは模擬戦の為に気持ちを切り替えることにした。
「ところでここにそのシュネー・ヴァイスを持ってきたってことは、もしかしてハマーンさんも?」
「そう!
最初は見学だけのつもりだったのだけど、機体の調整が追いついたから私もって...。
ですよね、大佐?」
「ああ、今日はハマーンにも参加して貰うことになる。
よろしく頼む。」
ハマーンさんとも模擬戦をすることが出来るとはな。
彼女のシュネー・ヴァイスはニュータイプ専用に設計されていて、ビットを使用したオールレンジ攻撃も可能な機体らしいし、今回の模擬戦はいつも以上に得るものも大きいだろう。
それぞれ自身のMSに搭乗するためにシャアやハマーンさんと別れたオレは、早速ノーマルスーツに身を包むと、いつも借りているザクの収容されているブロックに向かう。
しかし、そこにあるはずのザクは影も形も無く、オレは呆気にとられてしまった。
MSが無いのにどう模擬戦を戦えと?
「日系っぽい顔で6歳前後くらいの男の子っと...、あ!いた!
貴方がムサシ君?」
名前を呼びかけられて後ろを振り向くと、ジオン軍の士官の軍服に身を包みながらも、どこか優しげな雰囲気を漂わせた女性が立っていた。
その女性の肩の階級章を見ると、中尉の階級章が煌びやかに輝いている。
「はい、そうですが。
何かご用でしょうか?」
「ちょうど良かった!
私はナタリー・ビアンキ!
貴方を新しいMSのところまで案内してくれってシャア大佐に言われて来たのよ。
こっちにあるらしいから付いてきて!
あ、ちなみに普通に呼び方はナタリーでいいわよ。」
パチリとウインクをすると、そのナタリーさんはスタスタと歩いて行った。
ふむ、どうやら新しい機体を貸してくれるようだ。
それでいつものザクがなかったのか。
ザクに愛着が湧きつつあったので少し寂しくはあったが、性能のいい新しい機体を貸してくれるというのなら断る理由は無い。
オレは大人しく彼女についていくことにした。
「本当に小さい男の子だったのね。
シャア大佐からはエース級のパイロットって聞いてたから、本当かしら?と思ってたけど。」
「まぁ色々とありまして...。
エース級かは分かりませんがシャア大佐にも鍛えて頂いていますし、ボチボチは得意ですかね。」
ナタリーさんは意外と話好きなのか、どちらか言うと不愛想気味のオレにも気さくに話しかけてくれる。
移動中に二人で様々なことを話したのだが、ナタリーさんはあのハマーンさんともとても仲がいいらしい。
シャアのことも尊敬してると、少しはにかみながら語ってくれた。
ハマーンさんだけでなくナタリーさんもか。
二人の美女に慕われているとかどこのハーレム野郎だよシャア・アズナブル。
話上手のナタリーさんのお蔭で話が思いの外弾んでしまい、危うく目的を忘れるところだったが、オレ達は無事にMSブロックまで着くことが出来た。
ブロック内を進んでいくと、やがてMSが多数並んでいる開けたところに出た。
「はい、この機体が貴方の新しい機体よ!」
ナタリーさんに言われてそこにあったMSを見てみると、あれ?
これって色が変わっただけのザクじゃないのか?
「ナタリーさん、これってただのザクじゃ...。」
同じザクになるのなら、態々新しい機体を用意しなくてもよかったではないか。
せっかく前のザクに馴染んできたところだったのに。
そう思ったオレはナタリーさんに抗議をしようとしたのだが、
「いやーね!
これはアクト・ザクっていって、今までムサシ君の乗っていたF型とは全くの別物よ。
駆動部に施されたマグネットコーティングで機動性は大幅に上がっているし、ビーム兵器も使えるの。」
と言われてしまった。
どうやらかなり強化されたザクだったらしい。
ザクの違いが分からない素人ですみませんナタリーさん。
気を取り直してアクト・ザクのコックピットまで登り、システムを起動させてみると、機体の各種情報がモニターに表示されて機体のスペックや武装を確認することが出来た。
うお!操作方法は基本的に通常のザクとは変わらないけど、エネルギーゲインが段違いだ!
流石、ビーム兵器が使えるというだけあるな。
シートに座ってベルトを締めてコックピットハッチも閉じると、モニターにMSのカメラが捉えている外の映像が表示される。
ナタリーさんがその場から離れたのを確認して軽く機体を動かしてみるが特に問題は感じられず、むしろ以前のザクよりも動作の一つ一つが滑らかになっているのを感じた。
新しくなったザクに満足して電磁カタパルトへと機体の足を乗せると、発進体制に移って管制官の指示を待つ。
『ムサシ君、機体の調子はどう?』
コックピットにナタリーさんの声が響くとモニターの一部が変わり、そこに彼女の顔が表示された。
「万全ですね。
前の機体をマシンスペックは大幅に凌駕していますし、期待が持てそうです。
それよりも何故ナタリーさんが?」
『今回は私が管制するわ。
こういうのも得意なのよ。
それで、発進は大丈夫そう?』
「はい。カタパルトとの接続も大丈夫ですし、いつでも出れますよ。」
『了解!
それじゃ、気を付けてね。』
ナタリーさんの許可を受けて、いつも通りカタパルトからMSを発進させる。
機体を安定させてからアクト・ザクを加速させると、今までのF型のザクとは比べ物にならない程のスピードを計器が計測し、Gもかなりかかっていることを感じた。
だが、最早MSのGにもある程度は慣れたものであり、以前のように胃の中身が出そうになるということは無い。
オレは機体を一気にトップスピードまで加速させ、ハマーンさんのシュネー・ヴァイスやシャアの待っている宙域へと急ぐ。
しばらく機体を走らせていると、アクト・ザクの優秀なセンサーが前方に友軍マーカーのついた機体を二機感知した。
恐らくこの二機があの二人のMSだろうが...。
いや、一機は反応が普通のMSよりもかなり大きい。
どういうことだ?
更に進んでいくと、少しずつ件の二機が見えてきた。
真っ白に塗装された方はハマーンさんのシュネー・ヴァイスでいいだろう。
しかしその横に鎮座していたのは、シュネー・ヴァイスの数倍はあるであろう巨体に多数のメガ粒子砲を備えるという、他を圧する火力と圧力を持つ真っ赤な謎の機体であった。
「は?なんッ!」
思わず口から漏れてしまった言葉を遮るように、コックピット内部にビー!ビー!とロックオンされたことを知らせる警報が鳴り響く。
ヤラれる!
そう思う前に、すでに操作スティックを握る手は動いていた。
アクト・ザクのAMBACを駆使して初撃を回避すると、とんぼ返りの要領で巨大な赤い機体の上を取って逆に模擬弾の装填されたブルパップガンで撃ち返す。
しかし、赤い機体もその巨体に似合わぬ俊敏さを見せて、オレの攻撃は回避されてしまった。
ちッ!と舌打ちが出てしまうが、元よりすぐに勝負がつくとは思っていない。
正面からの撃ち合いでは火力的に不利だと考えたオレは、機動を取りながらも近くのデブリに一度身を隠した。
『あの攻撃を躱すか。
以前よりもMSの動きが洗練されてきたな、ムサシ君。』
それを見計らったように、赤い巨大な機体から通信が送られてくる。
やはりあれのパイロットはシャアか。
『今回の模擬戦は、新造された私のゼロ・ジ・アールとハマーンのシュネー・ヴァイスの性能評価を下す為のものでもある。
ゆえに君は連戦になってしまうが、本物の戦場ではこのような展開になることも十分あり得るからな。
いつも以上に実戦形式の戦闘になるので、気を引き締めて欲しい。』
シャアとハマーンさんの二人と戦えるとはなんて、逆にこちらがお礼を言いたいくらいだ。
スーパーエースとして知られるシャアと、新進気鋭のニュータイプのハマーンさん。
相手にとって不足はない、この際多くを学ばせてもらおう!
『大佐とムサシ君の模擬戦中は、私はここで見学しています。
大変だろうけど頑張ってね、ムサシ君。』
オレを気遣うハマーンさんの優しさが染みる...。
一通りの通信を終えると、オレのアクト・ザクとシャアのゼロ・ジ・アールは再び宙(そら)へと身を躍らせていった。