機動戦士ガンダムー漆黒の流星ー   作:たれちゃん

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第11話

「あ″~!」

 

 模擬戦が終わった後にシャワーは浴びたのだが、体に籠った熱はそう簡単に抜けてくれない。

 火照った顔に冷えたおしぼりを当てると、あまりの気持ちよさについ変な声が出てしまった。

 

「ふふ、ムサシ君なんだかおじさんみたいよ?」

 

「あ、すみません...。」

 

 ハマーンさんから指摘されて謝ってしまうが、よく考えれば前世も含めればもう立派なおじさんだしなぁ。

 こうしてみると、ここに来ている人間の中でオレが一番精神年齢年上なのでは?

 

 気を取り直して、前の席に座る面々を見据える。

 左から、ハマーンさん、シャア、ナタリーさんの順番だ。

 

 結論から言うと、模擬戦はシャアとは引き分け、ハマーンさんには僅差で勝つことが出来た。

 しかし、結果を見るだけでは分からないこともあるので、実際に戦ってみたオレの感想を聞きたいというシャアやハマーンさんの強い要望から反省会(仮)を行うことになり、話し合いにちょうどいい駐留基地内部の食堂に来た訳だ。

 まぁ自分自身正直この結果は本当にマグレだと思ったので、改善点を洗い出す為にも反省会を行うのはオレとしても願ったり叶ったりではあった。

 

「それで、ゼロ・ジ・アールとシュネー・ヴァイスだが...。」

 

 シャアが少し痺れを切らしたようにオレに尋ねてくる。

 ハマーンさんやナタリーさんもこちらをじっと見て、オレの話す一言一句を聞き逃すまいとしている様子だ。

 

「はい、まずシャア大佐のゼロ・ジ・アールですが...。」

 

 確かに圧倒的な推力と火力、Iフィールドの鉄壁の防御力を備えた、正に動く要塞と言っても過言ではない程の機体だった。

 しかし、人型であるMSの特性を生かした超人的な機動で戦い続けてきたシャアの戦闘スタイルと、拠点防衛用に開発されたゼロ・ジ・アール自体の機体のコンセプトが完全にミスマッチしている。

 実際にシャアは巨大な機体を持て余したようで、いつものキレのある動きは鳴りを潜めていた。

 いや、それでもめちゃくちゃ速いことには変わりないんだが。

 そういった経緯があったのと、アクト・ザクの性能にも助けられて、オレはシャアと引き分けることが出来たのだ。

 

「なにより、ゼロ・ジ・アールに乗っているシャア大佐って全然楽しそうじゃありませんでしたし。

 最初の模擬戦でゲルググで出撃してきた時の方が余程生き生きしてましたよ。」

 

 っといかん、余計なことを言ってしまっただろうか?

 そう思いながらシャアを見てみるが、彼は顎に手を添えて考えに沈んでいる様だった。

 その様はいつぞやの演技掛かった仕草などでは決してなく、真剣に悩んでいるようで、どこか絵になるような美しさがあった。

 

「生き生きか...。

 私としたことが、大切なことを忘れていたのかもしれん。

 ありがとう。」

 

 最後には得心がいったよう大きく頷くと、シャアは手持ちの端末のキーを叩き始めた。

 恐らくゼロ・ジ・アールの大幅な改善案か何かを作成しているのだろう。

 

 シャアが仕事モードになったことを確認したオレは、次はシュネー・ヴァイスのことを話そうとハマーンさんのを方を向いてみた。

 しかし、そこにはハマーンさんというよりも一人の恋する乙女...。

 そう。言うなれば、はにゃーんさんと化した少女の顔があった。

 「ほぅ...」って悩まし気なため息なんてついちゃってるし。

 

 真剣なシャアのイケメン顔に見惚れたのか!?

 ナタリーさんどうしよう!

 ハマーンさんが骨抜きにされてますよ!

 

 助けを求めるようにナタリーさんの方をチラ見するが、そこには恋する乙女②の姿が...。

 ダメじゃんこの人達。

 

 目の前の甘ったるい雰囲気に呑まれてしまって胸やけを起こしかけたオレは、一目散に食堂のおばちゃんのところへ向かう。

 こうなったオレは誰にも止められない!止めさせない!

 

「おばちゃん!

 フルーツパフェのクリーム少な目フルーツマシマシで!

 会計はシャア大佐にツケでお願いします!!!」

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 胃腸によさそうなフルーツをマシマシにした特製パフェを黙々と食べ続けて数分。

 ようやくハマーンさんとナタリーさんが我に返ったことを確認したオレは、再び説明を始めることにした。

 

「正直なところ、ハマーンさんのニュータイプとしての能力は僕なんかよりも遥かに高いと思います。

 ただ、問題はやはり機体自体。

 あのシュネー・ヴァイスでは、ハマーンさんの能力を十分に引き出すことが出来ない...、それについてはハマーンさんご自身も感じたのでは?」

 

 オレが問いかけると、ハマーンさんはゆっくりと首を縦に振った。

 そう。シュネー・ヴァイスはシャアのゼロ・ジ・アールのように向き不向きを論じる以前の問題で、マシンスペックが圧倒的に足りなかったのだ。

 

「私もそれは感じた。

 ビットがハマーンの感覚についてこれていない。」

 

 一瞬キーを押す手を止めたシャアもオレの発言を補足するように話し、オレ達の周りを暗い空気が漂い始める。

 ハマーンさんは少しうつむいて、「シャア大佐の役に立てない...?」なんてボソッと小声で言ってるので聞いていて少し可哀そうになってきてしまうが、現実は非情である。

 万年資源不足のアクシズで新しい機体をすぐに用意できる訳でもなく、シュネー・ヴァイスをどうにかして使っていくしかないのだ。

 

「多分ですけど、ハマーンさんの能力はこれからもっと強くなっていくと思います。

 操縦技術も格段に向上していくでしょう。

 でも、それに合わせた新型のサイコミュ搭載機が無いと...。」

 

 皆で首をひねって打開策を考えるが、そもそもオレ達はサイコミュ研究の担当者でもなければ技術畑の人間でさえない。

 良い考えは浮かばず、時間は過ぎていくばかりだ。

 

 一度頭をリフレッシュさせようと、それぞれドリンクを買って飲み始める。

 オレは最近人気だとかいうタピオカミルクティーなるものを飲んでみたが、持続性のある甘さが口内を蹂躙して思わず顔をしかめてしまった。

 

「と言うか、確かサイコミュの研究自体まだ黎明期もいいとこなんですよね?

 エルメス系統の設計思考から離れて新しく構成を組んだりとかは出来ないんでしょうか?」

 

 しかめっ面になってしまったのをごまかそうと、それっぽいことを話してみるが、シャア達の反応はいま一つ。

 そりゃあたりまえだけどもさ。

 ため息を吐き、頭の後ろで腕を組むと、ふんふん♪と軽く歌を口ずさむ。

 最近アクシズで人気の「哀戦士」とか言う名前の歌だ。

 ふんふん♪と歌い続けて、曲も終盤に差し掛かった頃。

 いきなりオレの近くの席が、ガタリと勢い良く倒れる音が食堂に響き渡った。

 

 何事かと音の出どころを見ると、丸い眼鏡をかけた少女が考え込んだ様子で何やらブツブツと独り言を話してる。

 彼女のそばには倒れた椅子があり、今の音の原因は彼女で間違いないだろう。

 

「そうよ!

 エルメスが成功したからってその設計思考に捕らわれてるから...。

 あの子の言う通り、サイコミュの装置を一度設計しなおせばあるいは....?」

 

 え、こわい。なんだあの子。

 

 しばらくブツブツと言い続けていた少女だったが、急に顔をパアア!と輝かせるとコチラにペコリと一度だけお辞儀をし、食堂を大急ぎで出て行った。

 少女の行動に、訳も分からず呆気にとられるオレ達。

 

「彼女は確かエンツォ大佐のところの...。」

 

 シャアなんかは、さっきの少女の身元に心当たりがあると見えるが。

 いや、今は関係ない。

 あまり気にしないでおこう。

 

 その後もしばらく4人で話し続けたがいい案は浮かばず、解散する流れとなった。

 ハマーンさんが落ち込んでいるみたいなので、彼女はシャアに送ってもらおう。

 それで少しは元気が出ると良いのだが。

 オレは、未だ病室で寝続けているグレミーを叩き起こしてからタクシーでも拾って二人で帰ればいいか。

 

 そう考えて病室に向かおうと一歩踏み出したところで、大切なことを思い出した。

 ちょいちょいと手招きして、ハマーンを送ろうとエレカのエンジンを掛けにいったシャアを呼び止める。

 シャアが戻ってくると、彼の耳に口を近づけて二言。

 

「シャア大佐、このままだと貴方いつか刺されますよ。

 女性関係はしっかりしなきゃぁ。」

 

 オレが思い出した大切なこと。

 それはハーレム野郎であるシャアへの忠告だ。

 オレの経験上、今に痛い目にあうと思うんだ。

 痴情のもつれでシャアが殺されたりしたら、ほんと目も当てられんからな。

 

「あ、ああ...。

 ムサシ君、君は本当に子供か?」

 

 オレの言葉を聞いて怪訝そうな顔をするシャアをエレカに押し込んで見送ると、オレはグレミーを迎えに病室へと歩いて行くのであった。


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