ミネバ・ラオ・ザビがジオン公国の公王位継承を継承する。
そのニュースに1年戦争以来陰鬱としていたアクシズ内はにわかに活気づき、久方ぶりのお祝い行事ということで街を行く人々の顔もいつもより明るい。
まぁトト家の私兵であるオレの生活にはあまり関係は無いのだがね。
オレは今日も元気に鍛錬と農作業、模擬戦の日々である。
最近はシャアの口利きもあってアクト・ザクを割と自由に操縦出来るようになり、シャアとの模擬戦の時以外にも暇を見つけてはジオン軍の基地を訪れてMSを使わせてもらっている。
その代わり操縦データの提出や、ニュータイプ用の謎の脳波計測器などを付けての操縦を義務づけられているのは少々面倒くさいが、やはりシミュレーターで訓練するよりも実機での訓練の方が操縦技術が上がりやすいようだ。
最近では操縦技術もみるみると上がり、この前の模擬戦の結果を受けてゼロ・ジ・アールからゲルググに乗り換えたシャアには相変わらずボコボコにされているものの、シャアやハマーンさんがいない時に相手をしてくれるリカルド中尉やアンディ中尉にはそうそう負けないようになってきた。
リカルド中尉なんかはオレに負けるのが相当悔しいと見えて、最近は日々厳しい自主練をこなしているらしい。
毎回オレとの模擬戦のたびに、自主練で覚えたとかいう奇抜な戦法を試してくるので、オレとしても彼から学ぶことが多くてありがたい。
さて今日だが、ミネバ・ラオ・ザビの公王位継承式典やその警備などに多くの軍人やアクシズの有力者が駆り出されており、シャアやハマーンさんはおろか、リカルド中尉やアンディ中尉さえもいない。
誰かしら基地に残っているだろうと思ってここまで来たのだが、どうも考えが甘かった様だ。
ここまで来て何もせず帰るのも悔しく思い、オレはいつも通りアクト・ザクのコックピットまで登って機体を起動させる。
機体の調子を見ようと操作レバーまで手を伸ばすと、そこには何かの紙が張り付いていた。
テープで止められていた紙を外し、書かれていた文章を読んでみる。
「えー何々?今日は誰も相手を出来ないから特別に...。
へえ、シャアも太っ腹じゃん。」
近くにマウントされていた武装をマニピュレーターで掴むと、カタパルトに乗ってアクシズを飛び出す。
今回の武装はブルパップガンにザクマシンガン、お馴染みのヒートホークというラインナップだ。
だがいつもと違うことが一点。
今日の武装だが、実はいつもの模擬弾ではなく実弾が装填されているのだ。
いつもの模擬戦では、危険な実弾などを使うことは勿論出来ない
しかし今回は模擬戦の相手もいないし、公王位継承の警備の関係で外洋に出ている艦隊もあまりいないということで、アクシズに向けてさえ撃たなければある程度好きに撃って構わないというシャアのお墨付きを得た(先程の紙にそう書いてあった)オレは、アクト・ザクで宙域を縦横無尽に駆け回り、手ごろな隕石やデブリなどを的にして実弾訓練を行うことにした。
「まずはあれを狙うか!」
加速に緩急をつけることで敵にロックオンされずらくなるという、以前シャアから教えてもらった動きを復習しながら機動していると、センサーの端にデブリのような影を捉えた。
大きさは艦艇にそっくりだし、しかもそこそこの数がある。
敵艦攻撃訓練にうってつけじゃないか!
最近はMSとの模擬戦ばかりだったので、敵艦攻撃訓練を行うのは最初の模擬戦の時にガガウル級駆逐艦を撃沈して以来だ。
MSとの戦闘訓練も有意義だが、やはり巨大な艦を撃沈する時の高揚感は忘れられない。
歓びにニヤリと笑ってしまっているのが自分でも分かり、オレはすぐさまそのデブリのもとへと急行した。
しかし、近づくにつれて最初の高揚感などは掻き消え、次第に言いようのない不安が心を支配してくるのを感じる。
はっきりと何がとは確信を持って言うことは出来ないが、どこか気持ちが悪いような、本能が警鐘を鳴らしている感覚がするのだ。
その感覚を無視する訳にもいかず、目標だったデブリをメインカメラの最大望遠で視認可能な距離までザクを移動させると、岩陰に身を隠しながら覗き込むことにした。
機体を固定し、徐々にメインカメラの倍率を上げていく。
「あれは...、デブリなんかじゃない!
パプア級に、ムサイの初期型か?
こんなところにいるなんて聞いてないぞ!」
オレの不安が的中してしまったのかもしれない。
本来いるはずの無い宙域にジオン軍の艦艇が集結している。
しかも何故かその多くは二戦級以下の旧式艦であり、廃艦と言ってもいいようなものばかりだった。
何が起こっているのか状況を照会しようと通信システムを開いてアクシズの管制室との通信を試みるが、ミノフスキー粒子の影響か音声にノイズがかかって上手く聞き取れない。
ここは大人しくアクシズに戻るべきだろうか?
いやしかし...。
考えた結果、集結しているジオン艦艇間の通信を一度聞いてから結論を出すことにしたオレは、アクト・ザクの通信システムをジオン軍の軍用回線の周波数へと合わせていく。
アクシズよりも近い位置に艦隊がいるお蔭で、アクシズと通信するよりは聞きやすそうだ。
徐々に聞こえてくる音を拾い、紙にメモしていく。
「廃艦で...連邦を.......ジオン独立?
何を言っているのかサッパリ分からん」
聞き取れた単語を並べてみたが、今一つピンと来ない。
こんな時に頭のキレるシャアでもいたら楽だったんだけどなぁ。
「ん?」
いない人間ねだりしてもしょうがない、諦めてアクシズに戻ることにしよう。
メインモニターに視線を移したオレだったが、一瞬、遠くで揺らめくかすかな光を捉えた。
「光...?
いや、スラスターか!
まさか、アクト・ザクで通信を拾っていたのがバレたのか!」
それがスラスターの発する光だということをオレが認識するのと同時に、近づいてきていると思われるMSから通信が届く。
『貴様何者だ!
所属と官姓名を明らかにせよ!』
完全にバレてるし、相手怒ってる!
頭の中には、捕まってから修正(物理)されてしまう自分の姿が一瞬浮かぶが、オレだってエースやベテランのパイロットと日々模擬戦をしているのだ。
簡単に捕まえらえて堪るか。
「ここは三十六計逃げるが勝ちってね!」
幸いなことに、相手のMSはただのザクⅡだ。
機動性でオレのアクト・ザクに追いつけるはずがない。
相手が威嚇で発砲してきた弾もなんなく躱し、オレはぐんぐんと距離を引き離して撒くことに成功した。
ここならザクⅡの索敵範囲は確実に超えているし、大丈夫だろう。
安心した瞬間、疲れがドッと押し寄せてきた。
もう帰ろう...。
万が一にもさっきのザクに見つからないように、スラスターはあまり使わずにデブリを蹴った時の反動を使って進んでいく。
スピードは遅くなるが、この方が確実だ。
この調子ならあと30分もすればアクシズに着くだろう。
それに、ここまで近づけばアクシズとも連絡がつくはずだから、そうすればさっきの謎の廃艦隊のこともわかるかな。
オレは通信システムを起動させると、アクシズへ通信を送る。
「えー、こちらムサシ・ミヤモトです。
あと30分ほどで帰還しますので、受け入れ準備をお願いします。
それと、先ほどポイントE060周辺で航行予定の提出されていないジオン艦艇を多数発見。
確認されたし、以上。」
伝えるべきことは伝えたし、後はジオン軍が上手くどうにかしてくれるはずだ。
オレは管制室から了解という返信のメッセージを受け取って、通信を終了するボタンへと手を伸ばす。
が、急にブオンという機械音とともにモニターに表示されたシャアの顔を見て終了しそこなってしまった。
「私だ。」
自分で言わなくても見りゃ分かりますよ。なんて軽口を叩こうとしたが、いつになく真剣な表情をしたシャアの気迫を受けて、上手く言葉が出ない。
画面越しにも彼のプレッシャーを軽く感じ、思わず初めてシャアと会った時を思い出してしまうかのようだった。
「君がその宙域に出ていてくれたことは僥倖だった。
先ほど報告してくれた艦隊...、それの監視と、可能であれば調査をお願いしたい。
これにはアクシズの、いや、スペースノイドの命運が掛かっているかもしれんのだ!
私は今は動くことが出来ん、どうか代わりに頼む。」
「ゑ?」
予想外のシャアの頼みに、オレはただただ口をポカンと開けるしかなかった。
本当はバレンタインまでにとあるキャラ達を出したかったです...。