機動戦士ガンダムー漆黒の流星ー   作:たれちゃん

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第13話

「結局押し切られてしまった...。」

 

 悲しいかな。

 ハッキリと断ることがなかなか出来ないという日本人の悲しい性のせいか、シャアの頼みを無碍にすることも出来ずに受けてしまったのだ。

 最近、シャアには驚かされたり上手く使われてばかりのような気がする。

 絶対に次は仕返ししてやろう。

 

 そう心に決めながら、廃艦隊を見た宙域へと戻っていく。

 シャアから聞いた話では、廃艦隊の集結にはジオン軍内部の強硬派が一枚噛んでいるらしい。

 こんな辺境で何を企んでいるのか知らないが、全く困ったことをしてくれるものだ。

 

 監視対象に見つからないように、核融合炉の稼働も最小限にして動く。

 岩塊やデブリのスキマをしばらくすり抜けていくと、機体を固定しやすく、かつ隠しやすそうな窪みを見つけた。

 そこに機体を入れると、監視用に、ということで追加で受け取った装備をアクト・ザクの頭部に装着する。

 

 "三眼カメラユニット"

 

 三つ目のスコープカメラによって長大な索敵や監視を可能としており、元々は強行偵察型のMSの装備として開発されたものをルーツに持つが、後の1年戦争後期にはエリート部隊のキマイラ隊にも配備されたとの逸話も残る優れ物である。

 この装備によって、オレのアクト・ザクは通常の数倍近い索敵能力を獲得することに成功した。

 

 早速スコープの倍率を上げていくと、監視を始める。

 今回は強硬派のザクⅡに追いかけられた時よりも更に遠くからの監視であるし、再び見つかってしまう可能性も低いだろう。

 オレはセンサーから入ってくる各種情報を取捨選択するとキーに打ち込んで、どのようにシャアに報告していこうかと熟考する。

 あれだけシャアも真剣だったのだ。

 オレとしても適当な情報を持って帰る訳にはいかない。

 

「廃艦隊の近くに僅かだがスラスター光が見えるな。

 もう少し画像を拡大してみるか。」

 

 高感度のカメラのお陰で、初めて艦隊を見つけた時には分からなかった情報が続々と入ってくる。

 どうやら廃艦隊の近くに、実働部隊が展開しているようだ。

 出来ればもう少し近づいてみたくもあったが、これ以上の接近は厳しいか。

 

 ピピピッ!

 

 新たな物体がアクト・ザクの索敵範囲に入ったことを知らせる音が鳴り、オレはそちらへとカメラを向ける。

 

「こちらもかなり遠いが、スラスター光か?

 廃艦隊に近づいて行っているが強硬派の補強部隊にしては数が...。

 いや、進行方向がアクシズ方面だと!」

 

 ジオン軍の部隊だとすれば、拠点のアクシズの反対側から来るのはおかしい。

 オレはコンソールを操作してカメラの倍率を最大まで上げると、新たに増えたスラスター光の主を突き止める為に全力を捧げる。

 廃艦隊の監視に回していたセンサーまで導入したことで、次第に廃艦隊に近づく者達の全貌が見えてきた。

 

「ジオン軍の艦艇と違う角張ったフォルムに、特徴的な灰色の船体...。

 くそ!シャア!ハマーンさん!気付いてくれよ!!!」

 

 あれはジオン軍じゃない、連邦軍だ!

 そして連邦軍がここに来てしまったということは、アクシズに危険が迫っているということだ。

 しかし、アクシズまで報告に戻っている暇は無い。

 オレはシャア達が気付いてくれることを願い、異常を知らせる特大の信号弾をぶち上げた。

 

 炸裂した信号弾が宙で綺麗な7色の光球を咲かせたのを見届けたオレは、アクト・ザクの腰部にマウントしていたブルパップガンとザクマシンガンを左右それぞれのマニピュレーターで持つと、機体に急加速をかける。

 信号弾を上げたことで、連邦艦隊にオレの存在を察知されたことは確実だ。

 シャア達が到着するまで、せいぜい暴れ回ってやろうじゃないか。

 

 敵の主砲から発射されたメガ粒子砲を数発避けると、奥の連邦艦から続々とMSが発進し、一目散にオレの方へ殺到しようとしているのが見えた。

 一瞬呼吸を止めて手の震えを小さくすると、敵MSの1機を精密にロックオンしてブルパップガンを発射する。

 何度も訓練では行った動きだ、そうそう外すことは無いだろう。

 オレの放った弾は正確に敵に向けて進んでいき、その機体を破壊...

 

「よし、スプラッシュワン!

 ...って、え!?」

 

 出来ませんでした()

 

 弾が着弾する直前で、敵のMSが変態的な機動を取って回避したのだ。

 あんな動き見たことがない、シャアでも出来るのか怪しいぞ。

 

 気を取り直して数度射撃を続けるが、毎回のように避けられてしまう。

 まさかオレの実力が低すぎるのか?

 それとも敵はエース揃いなのか?

 いや、その割には敵のMSは全くプレッシャーも放っていなければ、攻撃精度もそこまで正確な訳ではない。

 

 どこか違和感を感じたオレは、持っていた武器を片方ヒートホークに換え、砲火の中をかいくぐりながらも敵MSに接近する。

 盾を前面に押し出して防御の態勢を取った相手を盾ごと蹴飛ばし、バランスを崩してがら空きになった胴体にヒートホークを叩き込む。

 MSの装甲がヒートホークの直撃に少し抵抗した感覚を感じたが、なんなく一刀両断することに成功した。

 

「ようやく1機か...、ぐッ!」

 

 だが近接戦をする為に敵部隊に近づいてしまったことから敵からの攻撃は苛烈さを増し、数え切れない程のビーム光がこちらに集中してきている。

 破壊した敵を足場にして無理矢理方向転換をしてビームを回避すると、そのまま手持ちのヒートホークを次の敵の頭部に突き刺してメインカメラを破壊し、トドメとばかりに至近距離でザクマシンガンを連射。

 遠距離からの狙撃は驚異的な回避で躱してくるものの、流石に至近からのマシンガン連射は避けれず敵は火を噴いて爆散。

 

『ちくしょう!!!

 小隊長をよくも!』

 

 連射のきかないビームライフルではオレのアクト・ザクに当てることは出来ないと察したのか、牽制の頭部バルカンを撃ちながらビームサーベルで突きを繰り出してくる。

 

「うお!」

 

 致命傷となるサーベルは避けることに成功したが、バルカン弾が数発ザクの胸部に直撃。

 とっさにザクの腕をクロスさせて助かったが、被弾を知らせる揺れがコックピットを襲う。

 衝撃で操作レバーから離れかけた手を握り直して必死に操作し、相手とのすれ違いざまに裏拳を叩き込む。

 オレのザクの渾身の裏拳は上手く当たり、コックピットがきしみを上げてひしゃげるような音を出して敵は動かなくなった。

 

 なんとか数機は撃墜できたが、オレ一人で全てを相手をするには敵が多すぎる。

 後には巡洋艦クラスも控えているのに...。

 

 ヒートホークの代わりにマウントしていたブルパップガンを再度取り出そうとするが、思うように取ることが出来ない。

 いかん。被弾のダメージと殴りつけた衝撃でマニュピレーターの反応に若干のラグが出たか。

 

「シャア達はまだなのか!」

 

 オレの放った信号弾に気付いていればそろそろ来てもおかしくないのだが、何故まだ来ない!

 まさか連邦軍を迎撃するだけの戦力を集めることが出来ていないのか?

 

 援軍がしばらく来ないと考えたオレは、アクト・ザクを敵の本隊がいると思われる方向に向けて加速する。

 途中の敵MSを相手にしていたらどう考えても弾薬が足りない。

 ここは本隊を潰すことで、敵の継戦能力を奪おう。

 

 機体を前進させながらも、再び三眼スコープを装着して敵の本隊の正確な位置を知るために索敵を続けるが、すぐには見つけることが出来ない。

 

 元々偵察用でも、狙撃用でも無いこのアクト・ザクは、専用の処理装置を積んでいないのだ。

 スコープを付けたことで機体が得ることの出来る情報量は飛躍的に上がるが、その情報をしっかりと処理できるかはオレの手にかかっている。

 

 眼を皿のようにして索敵を続けていると、MSよりも大きなスラスター光をカメラが感知した。

 倍率を上げて、ジオンの強硬派の艦なのか、それとも連邦軍の艦なのかを解析する。

 

「ビンゴ!ってか?」

 

 オレが見た先には、先程見失ってしまった連邦軍の艦隊が存在した。


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