機動戦士ガンダムー漆黒の流星ー   作:たれちゃん

16 / 25
第14話

 連邦軍の艦隊を見つけはしたが、その周辺は直掩のMS部隊が取り囲んで防御隊形を取っている。

 無策に突っ込むと、こちらが撃墜されてしまうのは明らかだろう。

 

 オレはザクマシンガンをデブリに固定して指定の秒後にオートで作動するように設定すると、その場を離れて次のポイントに向かう。

 敵艦を攻撃する場所を分散させることによって、オレのいる場所を敵から分かりにくくするとともに、数機のジオン軍機が周辺まで進出してきていると誤認させる作戦だ。

 と言っても武装の数が少なすぎて、どこまで効果があるのかは疑問だが。

 

「まずは艦隊の足を止める!」

 

 オレはブルパップガンを敵艦に向けて構えると、照準を合わせていく。

 通常であれば狙撃などには全く向かない装備であるが、今回は三眼カメラユニットの性能によって、多少無理矢理ではあるが長距離からの攻撃を可能としている。

 敵艦の熱核ロケット・エンジンに狙いを定めると、一気に4発撃ち込んだ。

 同時にオートで設定していたザクマシンガンも射撃を開始したようで、更に数発が敵艦へと向かっていく。

 

 カメラ越しに見える敵艦から炎が吹き出すのを確認し、次の敵艦にターゲットを移す。

 回避行動を取ろうとする敵艦を逃さずに、続けて弾倉に残っていた弾丸を全て発射するが、その攻撃は熱核ロケット・エンジンを外してしまったようで、艦橋付近が爆散するのが見えた。

 

「チッ...、エンジンを外したか。」

 

 エンジンを止めなければ、艦の作戦行動を完全に止めることは出来ない。

 しかし艦の直掩のMS部隊がオレを包囲せんと既に向かってきており、これ以上艦隊を相手にしている訳にもいかず、オレは戦術機動を取りながらその場を離れるとブルパップガンを腰部にマウントし直す。

 

 代わりに取り出したヒートホークを握りしめて対MS戦に移るが、状況はあまり良くない。

 おとりのザクマシンガンの方に向かった敵は少数で、ほぼ全てがオレに向かって来たのだ。

 やはり子供だましのようなおとりでは無理があったか。

 

 突撃してきた敵MSのビーム射撃をザクに急減速をかけることで避けると、そのまま身を翻して近くのデブリに身を隠す。

 敵がオレの隠れたデブリを我武者羅に撃ってくるが、デブリが厚かったお陰でビームが貫通してくることはなく、僅かに震動が来るのみだ。

 敵も最初にオレが壊滅させた部隊の戦闘データが共有されているのか、格闘戦に秀でたオレのザクと正面から近接戦闘をするのは不利だと学んでいるらしい。

 何が何でも射撃戦でオレを撃墜しようという意志を感じる。

 

 だが、いくら弾幕を張っていてもリロードのタイミングはくるもの。

 敵の弾幕が薄くなった瞬間を見計らってデブリの陰から勢いよく飛び出し、小隊長機と思われる機体にタックルをかました。

 

「一か八か試してみるしか無いか!」

 

 急にオレにタックルされた敵機がバランスを崩したところを、ヒートホークでビーム兵器を持った方のマニュピレーターを切り飛ばし、敵の攻撃力を削ぐ。

 オレに接近戦に持ち込まれたことを悟った敵機も諦めずに逃げようとするが、すかさずスラスター噴出口を殴りつけて破壊し、移動も不可能な状態にした上で、頭部を掴んで動きを封じてコックピット部にヒートホークを押し当てる。

 

「連邦軍の兵士達、聞こえているか!

 貴様らの隊長の生殺与奪の権はオレが握った。

 隊長を助けたくば、直ちに武装を解除して核融合炉を止め、降伏せよ!」

 

 回線をオープンにすると、周囲でオレを囲んでいた連邦軍のMS達に通信を送る。

 人質を取るという、小物臭が漂うやり方ではあるが、この際四の五の言っていられない。

 射撃の腕から敵のMSパイロットがベテランで無いことは分かっていたので、戦力と心の拠り所である隊長格を失うことは避けようとするはずだ。

 それに隊長機とオレの機体が密着しているので、誤射を恐れておいそれと攻撃も出来ないだろう。

 後は、仲間を殺すこと覚悟で、仲間ごとオレを撃ち抜こうという奴がいなければ...。

 

 敵は隊長がオレに捕らえられたことでパニックに陥っているらしく、オロオロとするばかり。

 お肌の触れあい回線を通じて、隊長が「俺の機体ごと撃て!」とか男らしいことを言っているのが聞こえるが、それを実行に移そうとする者はいない。

 

「武装を解除して融合炉を止めろと言っている!!!

 オレは気が短い。早くしろ!」

 

 オレは怒鳴りながら、隊長機のコックピットの装甲にヒートホークの刃を薄く入れ始める。

 殺してしまうと人質の意味が無くなるので完全にコックピットを潰す気は無いが、ある程度この連邦の隊長にも恐怖を感じて貰った方が都合が良い。

 今頃ヒートホークの熱気でモニターがバグを起こし、コックピット内部もかなりの温度に上がっているだろう。

 隊長が苦しむ声が聞こえてくると、更に敵は落ち着きを無くしたようだ。

 もう一押しか...。

 

「もし貴官らが降伏したとしても、南極条約に基づく捕虜の扱いを約束しよう。

 このアラン・ローレンス少佐が保障する。」

 

 勿論真っ赤な嘘だ。

 アラン某なんて人間はジオン軍にいないはずだし、彼らの身柄がジオン軍に確保された後にどうなろうがオレの知ったこっちゃ無い。

 ただ、彼らが降伏しやすいように、高級士官であると騙って誘導しただけ。

 

『わ、分かった。

 貴官の言う通りにする。

 隊長を解放してくれ。』

 

 オレの与えたアメが効いたのか最初の1機が武装を解除すると、続々と他の敵も武装を解除して核融合炉を止め始める。

 

「よし、良いだろう。

 万が一の為に、貴官らのMSのスラスターは破壊するが悪く思うなよ。」

 

 敵機から通信で抗議の声が聞こえてくるが、融合炉を停止した機体がすぐに何を出来るはずも無く、無抵抗のままオレにスラスターを破壊されていく。

 全てのスラスターを破壊したオレは、拘束したままだった隊長機を放り投げると、再び速度を上げて敵艦隊の追跡に移った。

 

「あれか!」

 

 今度はそこまで距離を離されていなかったようで、すぐに敵艦隊を捕捉することが出来た。

 オレはブルパップガンの弾倉を交換して、射撃体勢に移る。

 思いの外弾薬を消費しすぎたようで少々弾数が心許なくはあったが、ここはオレがどうにかするしか無い。

 

 未だ少数残っていた艦隊直掩の敵MS部隊に狙いを定めると、モニターに表示されたロックオンサークルが縮まっていくのを待つ。

 完全な死角からの攻撃だ。一撃で仕留めてやる。

 

 そしてトリガーに指をかけて撃とうとした瞬間、オレが狙っていた敵機がいきなり爆散した。

 

「なんだ!」

 

 突然の出来事に驚くが、急いでカメラの倍率を上げて状況の把握に努める。

 敵艦隊のいる宙域を隈無く探していると、敵の間を縦横無尽に動く小さな物体を発見した。

 

「あれはビット!?

 ハマーンさんが来てくれたのか!」

 

 やっと反撃の戦力を集めることが出来たんだ!

 オレはハマーンさんという強力な来援の存在を確信し、援護すべく陣地転換を行う。

 

 その瞬間、ザクのセンサーが急速に近づいて来る遊軍機の反応を感知すると、その友軍機は一瞬でオレの機体を追い越し、戦場へと身を躍らせていく。

 モニターに映るのは、赤く染められた角付きのゲルググ。

 

 

「ムサシ君、良くここまで耐えてくれた!

 だが、問題が発生した。

 ハマーンが単独で戦艦を沈めようとしているのだ!

 どうにかして止めなければ!」

 

「わ、分かりました!」

 

 まさかハマーンさんが危険を冒してまで戦艦を沈めようとしているなんて。

 オレはスラスターを全開にすると、シャアを追いかけた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。