早くウクライナにも平和が訪れて欲しいものです。
連邦軍のアクシズ強襲作戦は、シャアを始めとするジオン軍の奮闘によって阻止された。
連邦艦隊の大半は降伏し、人員は収容施設に入れられたらしい。
結果だけ見るとジオンが勝ったようにも思えるが、ジオン側も被害は甚大であり、これから軍の立て直しに忙殺されることになるだろう。
ハマーンさんはアクシズに戻ってからも意識を失ったままであり、すぐに居住区のモウサ内にあるサナトリウム病院に移送された。
外傷はやはり無かったのだが、それでも意識を失っている為にしばらく入院することになるようだ。
ハマーンさんを病院に連れて行ったナタリーさんの話では、ハマーンさんの症状は精神的な負荷がかかりすぎたことが原因らしい。
ナタリーさんもこの件でかなりショックを受けているのか、憔悴した様子だった。
ハマーンさんは優れたニュータイプだという話なので、もしかすると戦場で人の死をダイレクトに感じすぎてしまい、精神が防御作用を起こしたのかもしれない。
ニュータイプってのも案外繊細すぎて、普通の人以上に大変なんだな。
今はハマーンさんが元のように元気になることを祈っておこう。
え、オレ?
オレはニュータイプ能力が低いからなのか、それとも鈍感なだけなのか、ハマーンさんのようになることは無かった。
これでも以前拉致監禁されていたフラナガン機関とやらの施設では、優秀な方だったはずなんだが。
それでトト家に連れてこられたくらいだし。
ちなみにシャアがオレの働きをトト家の当主に報告してくれていたようで、毎日の食事が少し豪勢になった。
本格的に戦力になるとも思われたのか、ますます訓練はハードになったが...。
特に白兵戦闘の教官がいらぬやる気をだしてしまい、CQCの訓練の難易度が鬼になったのは本当にやめてほしい。
シャアも今回の事件の後始末で忙しいのかMSの模擬戦に誘ってくる頻度も減ってしまうし、最近はCQCばかりだ。
「ぐはっおええええ...。」
教官から脳天から地面に落とされ、ひどい頭痛と吐き気が襲ってくる。
毎日こんな調子で、身も心もボロボロになってきた。
教官と訓練するたびに、少しずつ技術が上達していることを感じられるのが唯一の救いか。
「よし、今日はここまで!」
訓練の終了を教官から告げられたので本当はすぐにでも自室に帰って休みたいのだが、うつぶせになったまま動けない。
全身が打撲の痛みや筋肉痛で悲鳴をあげているのだ。
もう少しこのままでいてもいいかな。
目を閉じるとすぐにでも気絶しそうな気がしたので、なんとか目を見開いて意識を保とうと努力する。
傍から見れば、目をガン開きしたまま芋虫のように転がっている不審者だが、動けないんだからしゃーないよね。
「どうしたのだ、ムサシ君?」
しばらくそのまま休んでいると、頭の上から聞き覚えのあるイケボが聞こえてくる。
うつぶせになっているのでオレに話しかけてきた人物の顔はうかがえないが、このイケボといい話し方といい、該当者は一人しかいないだろう。
「いや、ちょっと白兵戦闘訓練でボコボコにされて...。
それにしても久しぶりですね、シャア大佐。
もう事件の処理は終わったので?」
「そうか。
全てが終わったわけではないが、ハマーンの意識が戻ったらしいからな。
私はこれから様子を見に行こうと思っているのだが、君はどうする?」
白兵戦闘と聞いて何故かシャアは少し苦々しいような声を出したが、すぐに元のいつもの調子に戻すと、ハマーンさんの覚醒の報を知らせてくる。
白兵戦に何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
士官学校をトップの成績で卒業したシャアが、そうそう苦戦するようには思えないが。
それはそうと、ハマーンさんの意識が戻ったのか、良かった!
もちろんお見舞いに行きたい!
体に力を込めて立ち上がろうとするが、まだ体に力が十分に入らずにバランスを崩してしまう。
「大丈夫か?」
倒れこんで地面に激突しそうになったが、すんでのところでシャアに支えられて、新たに怪我することは避けられた。
だが、シャアがオレの腰に手を回して支えるという構図が少女漫画のようで恥ずかしい。
こんなことを素面で出来るシャアのイケメン力よ。
「あ、ありがとうございます。
申し訳ないんですが、近くに体を支えることが出来るような枝か何かあれば持ってきて頂けませんでしょうか...。」
「いや、無理に動くとよくない。
私がエレカまで連れて行こう。」
オレはシャアにひょいと持ち上げられて運ばれる。
今回の戦いで、連邦軍の残存部隊すべてを降伏させるという大戦果をあげたシャアに対する国民たちの評価はうなぎ上りになっている。
英雄であり、ジオン反攻の象徴のようになったシャアに抱えらるボロボロのオレ。
シャア大佐に何させてるんだとでも言いたげに見えるトト家の使用人たちの視線が突き刺さるが、背に腹は代えられん、このまま連れて行ってもらおう。
エレカに着くと、後部座席に横たえさせられた。
どこから持ってきたのかタオルケットをシャアは取り出すと、ふさりとそれをオレに掛けてくれる。
あかん。ちょっとした気遣いが心に染みる。
「せっかく病院に行くんだ。
ついでにその傷も治療してもらうといい。」
シャアはそう言って運転席に座り、エレカのエンジンをかける。
ガソリン車と違って静音に配慮された設計は、今の傷ついたわが身にはありがたい。
エレカが発進するのを確認したのを最後に、オレの意識は闇に消えていった。
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「ムサシ君、そろそろハマーンとの面会時間だ。」
肩をトントンと叩かれる感覚がして、ぼやけていた意識が少しずつ覚醒してくる。
どうやら少し眠ってしまっていたらしい。
目を開けると、視界に飛び込んできたのは一面真っ白な天井。
鼻にはツンとした消毒液の臭いが飛び込んできた。
「知らない天井だ...。」
どこか既視感を感じる。
前にもこんなことがあったような...。
まだ上手く回っていない頭でぼーっと考えると、シャアと初めてMSで模擬戦をしてボコボコにされて、医務室に運ばれた時のことを思い出した。
あー、あの時のことか。
得心がいってスッキリしたので、痛む体を起こて自身の体を見回してみる。
各所に包帯や絆創膏が巻かれていて、どうやら寝ている間に治療まで終わっていたようだ。
ベット横の手すりに体重をかけて立ち上がり、軽く足踏みをしてみると、万全とまではいかないまでも、なんとか動けるまでには回復しているのを感じる。
「ハマーンは今は中庭にいるらしい。
そこに向かおう。」
シャアに先導されて、オレが寝ている間に合流したというナタリーさんも一緒にハマーンさんを探し始めると、すぐに車椅子に乗ったピンク髪の少女の姿が見えてきた。
「ナタリー!シャア大佐も!」
まさに喜びに満ち溢れた少女の声が辺りに響く。
この声はやっぱりハマーンさんだ、元気そうで良かった!
って、あれ?ナタリーさんとシャアだけ?オレは?
「ハマーンさん!
もう一人ここにいますよ~!」
オレもいることをアピールしようと、痛む体を押してぴょんぴょんと飛び跳ねる。
それでハマーンさんもオレの存在に気が付いたのか、一瞬驚いたような表情を見せた後、頬を緩めて微笑んでくれた。
そうか、二人の影に隠れてしまってハマーンさんから見えなかったのか。
まだオレも、年齢十代にも届いていないドチビだってことを忘れてた。
「来てくれてありがとう!
ムサシ君、最初気付かなくてごめんね。」
「大丈夫ですよ。」
ハマーンさんの可愛らしい謝罪を受け、許さない者がいるだろうか?
いや、いない。
その後は、ハマーンさんの回復を祝って四人で談笑をした。
シャアからリカルド中尉アンディ中尉達も生き残ったことを聞き、そして楽しそうに話す面々を見ていると、一時的かもしれないとはいえ、全員で平和を享受できていることへの喜びがこみあげてくる。
「あら、ムサシ君どうしたの?」
安心すると、堰を切ったように涙があふれ出てきた。
オレも案外、初めての戦場の恐ろしさに直面して、精神が摩耗していたのかもしれない。
「なんでもないです...。」
急に涙が出てしまったことに自分でも驚くが、一度出始めてしまったものはなかなか止まらない。
そのままさめざめと泣いていると、不意に体全体をふわりとした感覚が包み、心が温かくなってくる。
顔を上げると、ナタリーさんの横顔が目に入り、彼女に抱きしめられているのだと実感する。
「大丈夫、大丈夫よ。」
ハマーンさんもオレの手を握って慰めてくれ、シャアも頭をくしゃりと撫でてくれた。
ようやく泣き止んだ時には泣き顔を見られたことで気恥ずかしく思ったが、三人のお蔭で完全に心が落ち着いた。
その後は、ハマーンさんの見舞いだと言って、オクサーナ・ボギンスカヤと名乗る人物が来たりもしたが、特に何もなく終わった。
あ、オクサーナ・ボギンスカヤさんから、シャアとの関係性を聞かれて恥ずかしがるナタリーさん、とても良かったです。