ハマーンさんは順調に回復し、先日無事退院したみたいだ。
ただ、彼女が退院してからオレは、今までのように気軽に会えなくなってしまった。
ハマーンさんは先日の連邦軍のアクシズ襲撃の時にアクシズを守った功績を認められて、ジオン公国の現公王、ミネバ・ラオ・ザビの世話役に就任することになってしまったのだ。
シャアもそれに合わせて皇室警護官とかいう役職に任命されて現場に出る機会が減るそうで、これはあまり模擬戦を出来なくなりそうな予感...。
そう悲観しても仕方がないか..。
これからはリカルド中尉やアンディ中尉に相手してもらうか、一人で頑張るしかないな。
話は変わって今日だが、先日の戦いに勝った記念とハマーンさんの世話役就任を祝う凱旋パレードを行うということで久しぶりにオフを貰い、居住区であるモウサのメインストリートまでグレミーと一緒に見に来た。
パレードにはハマーンさんもシャアも参加するらしいから楽しみだな。
二人とも元気にやってるだろうか。
メインストリートに着くと、そこには既に多くの群衆が埋め尽くしており、なかなか良い場所を取ることが出来ない。
最近はハマーンさんの人気が凄いから、やはり皆それが目当てなのだろう。
ハマーンさんが連邦軍の襲撃時に、ジオン公国の独立を守るために「私一人でも戦う!」と、ごたついた司令部に檄を飛ばして取りまとめた映像がTVではしきりに流されていて、それで熱狂的なファンが多く付いたのだとか。
アイドル性とカリスマ性を兼ね合わせた美少女だもんな。
人気が出ない方がおかしいか。
オレとグレミーはメインストリートで近くからパレードを見ることを諦め、少し離れたところにあった建物の屋上へと上って見ることにした。
高いところからの眺めは思ったほど悪くはなく、パレードの様子もしっかりと確認できる。
「うぅ...。
僕のハマーンさんが、どんどん手の届かないところ行ってしまう...。」
「いや、お兄ちゃん。
そもそもハマーンさんはお兄ちゃんのものでも無いし、どんなに好意寄せてもノーチャンだと思うよ?
ハマーンさんが誰を好きかなんて一目瞭然じゃん。」
「ぐはっ...。」
グレミーは100のダメージを受けた。
グレミーは力尽きてしまった。
ちょっと大人げなかったかな?
うな垂れて動かなくなってしまったグレミーの肩をバシバシと叩いて元気づけようとすると、反撃の拳が飛んできた。
今のオレはこれくらい躱すことも容易いが...。
ゴチンと鈍い音がして頭が揺れる。
わざと当たったは良いが、思ったよりも痛い。
こりゃタンコブが出来ちゃうな。
気を取り直してパレードの方に目を移すと、車列がかなり近くまで近づいてきていた。
ストリートに集まる人々の熱気も最高潮になっている。
あ、ハマーンさんとシャアだ。
オープンカータイプの車両に乗る二人はどうやら話し込んでいるようで、こちらには全く気付いていないようだ。
そりゃ距離も少し離れているし、オレ達屋上にいるし、そうそうこんなところにいるなんて分からないよなー。
ちょっとハマーンさんはどこか不安そうな顔をしているのが心配だな。
15歳そこそこで公王の世話役なんて大役を与えられたんだ、無理もない。
しかし、今まで以上にハマーンさんは雲の上のような存在になってしまった。
オレは彼女が不安を克服して、頑張ってくれることを祈る事しかできない。
こんなことになる前に、もう少し仲良くなっておきたかったんだけどなぁ。
遠い目でハマーンさんを見ていると、いきなり頭をガシリと捕まれた。
グレミーがじゃれてきたのかと思ったが、よく考えると手の大きさがグレミーよりも大きいし、どこか殺気めいたものを感じる。
「なに?」
振り向くと、ジオン軍の兵士数人がオレを取り囲んでいた。
中には銃を構えている者もおり、今にも発砲しそうな雰囲気を出している。
「貴様がムサシ・ミヤモトか?」
オレを囲んでいる中で一番階級が高そうな兵士が進み出てきて問いかけてくる。
丸眼鏡に禿散らかした頭と、見るからに胡散臭い風貌をしているが、軍服はれっきとしたジオン軍の士官のものだ。
顔にも怒気をにじませており、間違っても友好的な雰囲気では無い。
「え、はい。
そうですけど...。」
「貴様にはMSの私的利用及び、連邦軍と結託して連邦艦隊をアクシズに誘引した反逆罪の疑いがかかっている。
大人しくついてきて貰おうか!」
そう士官が言い終わるや否や、オレは複数の兵士に地面に押さえつけられて手首に手錠をかけられる。
いくらオレが鍛えているとは言っても、大の大人数人に勝てるわけがない。
圧迫されている為に徐々に息がしずらくなり、酸欠で視界が少し暗くなってきた。
「おとうっ、いや、そいつは我がトト家のものだ!
勝手は許さない!」
「グレミー・トト様ですね?
この件は軍の決定です。
これを覆すことは、いくら貴方でも出来ません。
大人しく諦めて下さい。」
グレミーが、オレを押さえつけている兵士達に掴みかかろうとするも、別の兵士に止められてしまう。
それでもしばらく彼はもがいていたが、最後は兵士達が乗ってきたと思われる軍用のエレカに乗せられてどこかに連れて行かれていった。
兵士たちも流石に名家トト家の嫡男であるグレミーに直接手を出すことはないと思うが...。
でも、これで最後の望みも消えてしまった。
もうオレ駄目なやつじゃん。
「ほら、歩け!」
銃を背中に突きつけられて立たされたオレは、柵付きの護送車に乗せられて久方ぶりのドナドナ気分を束の間味わうのだった。
うげっ、口の中から鉄の味がする。
十数分の護送車でのドライブの後に連行された先は、ジオン軍の捕虜収容施設。
ゲートを越えて独房エリアまで連れて行かれると、その中の独房の一つに押し込められた。
入れられた室内にはベットはおろかトイレも無く、ただただ何もない無機質な灰色の空間が広がっている。
照明も落としてあって部屋はほぼ真っ暗になっており、微かに物の輪郭を感じられるのみ。
こんなとこに何時間もいたら狂ってしまいそうだ。
やばいなこれ、人権ガン無視じゃないか。
ドアをどんどんと叩いて出してくれと叫ぶが、外からの返答は無し。
予想はしていたが。
それでも数分続けたが、完全に無駄だと悟って止めてしまう。
腰を丸めて一人座っていると、容赦なく寂しさと虚しさの感情が心を襲ってきた。
いけない、このままでは...。
誰か助けに来てくれ...。
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場所は変わって、凱旋パレードが終わった後のパレード行進参加者達の休憩室。
それぞれがドリンクを片手に思い思いの形で寛いでいて、その中心には今回のパレードの主役であった二人の男女が向かい合って話していた。
「ふふふっ。
う...今何かが...。」
それまで楽しそうに笑っていたピンクの髪を結わえた少女の方が、いきなり顔を顰めて頭を抱える。
金髪の男性が驚いたように駆け寄ると、少女を支えた。
「どうした、ハマーン!?
何かを感じたのか?」
「ううん、立ち眩みをしたみたいです大佐。
気を使わせてしまってすみません。」