何故か伍長というジオン軍の階級を貰ってしまった。
シャアもオレに軍の階級が与えられるのは全くあずかり知らないことだったようで、オレを兵隊にすまいと反発したのだが、このアクシズのトップであるマハラジャ・カーンの決裁は既に降りていた為に、結局は決定に従うことになってしまった。
前回の連邦軍のアクシズ襲撃時は、状況把握の為に動ける人間がオレしかいなかった為にある意味仕方がなくシャアはオレに調査を頼んだという経緯があったのだが、本音としてはオレくらいの子供を戦闘に参加する軍人にしてしまうのは反対だったようだ。
勿論あくまで“名誉”伍長なので、職業軍人という訳ではない。
扱いとしては予備役みたいなもので、基本的にはいつも通りのトト家での仕事に従事しているのだが、連邦軍が攻めてきたりと有事が起こった際に召集されて、敵と戦うのだ。
「はぁ...。」
それでも、頻度は低いが平時においても軍の訓練に参加することを義務付けられており、日々トト家で行われている訓練だけでもいっぱいなオレにとっては面倒くさいことこの上ない。
しかも軍の訓練は数時間で終わるような単純なものではなく、数日間駐屯地に拘束されて訓練漬けの生活を送ることになるので質が悪い。
「なんだ。
元気がないじゃないか。」
いつものグレミーの声が聞こえると、オレが座っている椅子の隣の椅子にポスリと音を立てて座る音がした。
オレが連行された事件以降、前にも増してグレミーのオレに対する絡みが激しいな。
休憩にオレが入るたびに様子を見に来ている気がする。
「だってまだ軍になんて入りたくなかったし。
シャア大佐とかハマーンさんとかと模擬戦を好きにしてた方が楽しいし...。」
「ん-そうか?
でも本物の制服着れるんだろ?コスプレとかじゃなくてさ。
カッコいいじゃん。
どっちにしろシャア大佐達と模擬戦出来る機会も減ったんだし、軍で訓練できるなら丁度いいよ。」
「そりゃそうだけど...。」
グレミーは純粋だなぁ。
まさに穢れを知らないと言うかなんというか。
グレミーを見たついでに近くの時計も見ると、思ったよりも休憩をとってしまっていた。
いかん、そろそろまた訓練に戻らなければ。
オレは立ち上がると、その場を後にしようとする。
「あ、おい。
どこいくんだよ?」
グレミーはまだまだ話し足らないとでも言うように、オレの袖を掴んで離すまいとしてくるが、あいにく訓練に行かないといけないなんだ、すまんな。
訓練に行くからと言ってグレミーの手を優しく払うと、彼の手の飴玉を握らせてあげる。
この前オレを助けようとして頑張ってくれたお礼だぞ。
それでもまだ少し寂しそうにしていたが、これ以上遅れる訳にはいかない。
オレはグレミーに背を向けて歩き始めた。
「そういえば明日、パパがまたムサシと同じニュータイプ?を家に連れてくるらしいぞ。
それでお前に教育を任せるってパパが言ってて、それで、んーと、僕がそいつをお前の部屋まで連れて行くから待っててな。」
グレミーの言葉に、サムズアップして答える。
ほう。このアクシズに来て一年近くになるが、ようやくオレにも後輩というものが出来るのか。
先輩になるという事実にワクワクの気持ちも強いが、どんな人物が来るのか少し不安でもある。
明日はしっかりと、新人の後輩を出迎えてやらねば。
そして次の日。
グレミーがオレの後輩となる人間を連れてくると言うので、オレは自室にある数少ない私物を押し入れに無理やり押し込めると、なんとか何人かが入ることが出来そうなスペースを確保した。
先日軍から貸与された下士官用の制服も着てしっかりとキマっているし、今の完璧なオレに死角は無い。
「プルプルプルプルプル~♪
ここ?ここなの!?
なんだか胸がキュンキュンする!」
まだ少し舌足らず感を残したままの、幼い声が階段の下から聞こえてくる。
お、この声の主がオレの後輩ってやつか?
しめしめ、オレよりも歳も下っぽいな。
これからどのように可愛がって(教育して)やろうか。
「そうだぞ、プル。
全員ちゃんとついて来いよ?
お前達の教育係を紹介してやるから。」
これはグレミーの声だ。
全員、ということはオレの後輩になるのは一人じゃないということか?
耳に神経を集中させると、なるほど、階段を昇ってくる音が多い。
これは一人や二人では無さそうだな。
ふむ、それはそれで鍛えがいがあるというものだ。
オレは気を引き締めて身構えると、口をキッと結んで精一杯の真面目な顔をする。
腕も腰の後ろで組んで休めの姿勢を取り、手には指示棒。
こういうのは一度相手に舐められたらお終いなのだ。
どんな奴らが来ても、決して動じないようにしなければ。
そしてそいつらが来たら、開口一番言ってやるのだ。
『地獄の一丁目へようこそ!
オレが貴様らの教育を担当するムサシ鬼伍長だぁ!
これからビシバシと鍛えてやるからそのつもりでいろ!』
とね。
実際にビシバシはしないけどね?
バタンとドアが開き、ぞろぞろと人が入ってくる気配がする。
来たっ....!
オレは窓側も向いていた体をクルリと回してドアの方を見ると、3〜4歳くらいと思われる少女達の姿が目に写った。
(えっ!?)
オレの心臓がドクンドクンと一気に鼓動を速めていく。
なんだこの子達は!!!
目をクリクリとさせて天真爛漫そうな笑顔を見せる少女を筆頭に、ちょっとキツそうな顔をして機嫌が悪そうな少女、不安そうにオレの顔を伺っている少女etc...。
こんなに可愛らしい生物が存在したのか...?
この子達がオレの後輩...?
舐められない様にと、さっきまで虚勢を張って作っていた外面のメッキがボロボロと壊れていくのを感じる。
最早、地獄の一丁目がどうこうと言うよりも、一目散に駆け寄って少女達をわしゃわしゃと撫でくり回して愛でたい気分。
それはそれで変態ぽくてヤバいが...。
いや、ダメだ。
どちらが先輩でどちらが後輩なのかはハッキリとさせなければ!
欠片ほどにまだ残っていたプライドを奮い立たせると、少女達に少し歩み寄る。
よし、言うぞ...言うぞ.....。
「オレが君達のお兄ちゃんです!」
よし!言ってやったぞ!
心は晴れ晴れとして、スッキリとした気持ちになってくる。
もう何もこわくない、オレは無敵だ!
「「「「え???」」」」
圧倒的達成感に酔いしれていると、グレミーや少女達が一斉に不思議そうに、または怪しいものでも見るような顔でオレを見てくる。
若干1名、天真爛漫そうな少女はさっきよりも更に目をキラキラと輝かせているが。
なんだ?反応がオレの予想と違うんだが。
まさか通じてないのか?もう一度ゆっくり言ってみよう。
「オレが、君達の、お兄ちゃん、です。」
んんんんん????
ちょっと待て、今オレはなんて言ったんだ?
自分の行った言葉を頭の中で反芻していると、違和感の正体に気付いてきた。
お兄ちゃん?
オレは何を言って...?
アホな事を言ってしまったことを自覚すると、少しずつ顔が熱くなってきた。
「わ〜いプルプルプル〜!
みんな、あたし達のお兄ちゃんだって!
よろしくお兄ちゃん!」
「こら待てお前達!」
勝手に行動し始めた少女達をグレミーが制止しようとするが、もう彼女達は止まらない。
恥ずかしさに打ち震えているオレを少女達がわらわらとオレを取り囲み、オレによじ登ったり、頬や髪の毛を引っ張ってみたりと好き放題だ。
やめて!禿げちゃうからやめて!
あ、一人ポカポカと殴ってくる子もいる...。
少女達の数の暴力に屈してもみくちゃにされるオレ、このままどうなってしまうのだろうか。
魔性のロリ達の登場です。