パパに僕の生まれて初めてのわがままを聞いてもらってから少し経った頃。
パパは家に一人の子供を連れて帰ってきた。
家に帰ってきたパパに手を引かれて室内に入ってきたのは、黒い髪の毛に黄色人種特有の色づいた肌を持ち、極めつけは凹凸の少なめな、のっぺりとした顔面。
よくも悪くもモブ顔の東洋人というイメージがしっくりくるような子供だった。
しかし、モブっぽいのはそのイメージだけで、実際の能力は数多くの子供達の中からパパのお眼鏡にかなっただけあり、非常に高いんだろう。
自分が望んで連れてきて貰った子ではあるけれど、どのくらいの有能さを発揮してくるのかが未知数で、好奇心よりも警戒心の方が少し勝ってしまった。
まさか幼い頃から英才教育を受けてきた僕よりも能力が高いというは無いだろうとは思うのだけど、どこか本能が慢心するな。警戒しろと言っているんだ。
しょうがないだろう?
パパからその子の身柄を預けられてから、とりあえず僕の部屋に連れてきてはみた。
けれど、何を話していいのかわからない。
そもそもこの子はちゃんと言葉は話せるのかな?
さっき挨拶くらいは出来ていたみたいだけど。
この子の顔をチラ見
次に体をチラ見
最後に足をチラ見(なんかもじもじしてる)
あ、かなり痩せてるなこの子。
体も僕よりかなり小さい。
東洋系の人間は僕たちみたいな欧米系に比べて体が小さいとはよく聞くけど、それを加味しても小さいな。
あまりご飯とかも食べれてなかったのかな?
そう思いながらチラチラとみていたら、急にその子が立ち上がってからペコリとお辞儀をしてきた。
「初めましてグレミー様!
グレミー様のお父様に拾って頂き、本日からこのお屋敷でお世話になることになりました!
不束者ではございますが、何卒よろしくお願い致します!
ところでグレミー様のお父様って、カッコよくて威厳があって、素敵なお父様ですね!」
うわ、びっくりした!
こんなにスラスラ話せるの!?
というか最後なんて言ったの?素敵なお父様?
「当たり前だ。
僕のパパは世界一素晴らしいパパなんだからな!」
尊敬するパパを褒められ、つい誇らしくなってしまう。
鼻の穴が広がり、フンスと鼻息が荒くなってしまっているのが自分でも分かって少し恥ずかしい。
「分かります!分かります!」
目の前の小さい子はそう言うと、僕の手を両手で握ってきた。
温かい彼の体温が伝わり、気持ちよくもどこかこそばゆい。
それを感じた僕は、何故か自分の心までホカホカと温まってくるような気がして、気付いたら次々とパパやママの凄いところを話し始めてしまっていた。
話し始めてしまうともう止まらない。
それに彼は話の聞き上手でもあって、話している僕も実に気持ちがいい。
いつもであれば一人でゲームをしている時間を無くしてまで、彼とのおしゃべりに興じるのであった。
数日後、早くもその子をいいやつ認定した僕は、どこに行くにも彼を伴って出かけるようになった。
その過程で分かったのが、想像以上の彼の能力だ。
僕が分からない宿題の問題もスラスラ解いたり(←前世の記憶があるので、小学校レベルの問題などお茶の子さいさいなだけです)
僕のクリア出来なかったゲームの難しいマップも簡単にクリアしてしまったり(←実験によって動体視力が強化されているだけです)
分野によっては、僕よりも秀でている場合があるんだ。
そんなところに少し嫉妬心のような感情が沸き上がらなくもなかったけど、僕の方が体は大きいし力は強いし体力はあるしで、外で遊ぶときは必ず僕が先頭。彼が後ろをはぁはぁ言いながらついてくるのを見ていると、次第にそんなことも気にならなくなってきた。
そうこうして僕がガキ大将みたいなノリでしばらく遊びまわっていると、なんだか弟が出来たような気分になってきた。
もちろん本当の弟なんかいたことは無いから、それが本当に正しい感情なのかは分からなかったけど、少なくとも弟分くらいには思ってもいいのかな?
たまにこの可愛い弟分とゲーム対戦とかをした時に負けてムカつくけど、そこは兄貴分の広い心で許してやろうと思う。
僕と弟分のムサシがだいぶ打ち解けてきた頃。
あ、最近ついに弟分に名前が付いたんだ。
なんか、日本の昔のケンゴウ?のなまえから取ったんだって。
よくわからないけど、なんだかカッコよさげな名前だったからとりあえずヨシヨシして褒めておいた。
話を戻そう。そう、打ち解けてきた頃。
僕とムサシはジオン軍の基地に遊びにいったんだ。
見たこともないようなカッコいいMSばかりで、ついつい僕のテンションも爆上げ。
トコトコと走り回って、今まで行ったことのないエリアに入ってしまった時、金髪グラサンに赤くカスタムされた軍服という奇抜なファッションをしている軍人さんに呼び止められてしまう。
しかもその軍人さんは妙に圧力が凄いし、声もどこか有無を言わせないような迫力があって怖いしで、僕はちょっと泣きそうになってしまっていたんだ。
その時ばかりは怒られるとか思って僕が一歩も動けなくなっていたところを、颯爽と僕とその軍人さんの間に入り、僕をかばってくれた小さい影があった。
軍人さんに怒られる思った恐怖で瞑っていた目を少し開くと、そこには弟分のムサシがいた。
ムサシと軍人さんが何かを話して、僕たちは食堂に連れていかれることになる。
その軍人さんは結局怒ったりはしなかったんだけど、その軍人さんと話した後のムサシは凄く体調が悪そうだった。
僕よりも小さいのに、弟分なのに、兄貴分の僕を助けてくれたんだ。
ありがとう。そしてごめんなムサシ。
その一件があってから、僕はムサシを今まで以上に可愛がることにした。
ヨシヨシする頻度も倍にしたし、遊びに行ったときは必ずアメちゃんを買ってあげるようにしたんだ。
ムサシはなぜか微妙な顔をすることもあったけど、基本的には嬉しそうで、その時の笑顔がまた兄貴心をくすぐられた。
なんだかほんとに弟が出来たみたいで可愛かった。
そんな時だ。
ムサシがあの金髪グラサンの怪しげな軍人に攫われたという話を使用人から聞いたのは。
それなことがあったことを知った僕は、急いで屋敷を出てタクシーを拾い、そのムサシを攫った軍人のエレカを追跡させた。
追跡するエレカが軍の施設に入っていったので、渋るタクシーの運転手にお金を握らせて施設の門を強行突破しようとするけど、強固な検問に阻まれてしまう。
そこを通してくれ!
弟が、僕の弟が攫われたんだ!
僕が助けないといけないんだ!
ここで助けることが出来ないと何故か一生ムサシに会えなくなるような気がして必死に叫ぶけど、検問の兵隊は頑として入れてくれない。
ムサシに会えないと思うと、短いながらも濃厚に過ごした彼との思い出が過ぎり、急に胸がキュウと締め付けられる。
こんなちっぽけな僕ではどうにもならないんだ。
そう思うと、頬をつうと涙が流れてくる。
悔しさや寂しさや、本当に色々な感情が渦巻いて自分でもよく分からなくなってきてしまう。
何時間泣いただろうか。
最後にふと、この検問をぶち壊してもいいから中に押し入ってやろうかと考え始めたその時。
「そんなところで何をしているんですか?
さあ、一緒に帰りましょう。」
後ろから聞こえてきたのは、待ち望んだ人間の声。
僕の弟分の声だ。
「ム``サ``シ``ぃ~!!!!!」
どうして戻ってこれた?
なんで?
だが、そんなことはもうどうでもいい。
弟が帰ってきてくれた、今はそれだけで十分だった僕は、ムサシの手を取るともう二度と離さないという風に力強く握りしめ、家への道を急ぐのだった。