運命のヒモ男《ヒモ・ファタール》   作:ヤン・デ・レェ

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感想と評価ありがとうございます。愛ある種馬と愉快な仲間たちを宜しくお願いします。
未実装の登場人物も多いかと思われますので英雄タグをつけております。英"霊"としては登場しない子たちです。ではどうぞ。


メソポタミア編
01愛の化身


01愛の化身

 

 

 

愛の化身と聞かれて諸君は何を想像するだろうか。

 

ある人は愛の営みにより生まれた赤子を。

 

ある人は生涯に一人と決めた最愛の人を。

 

また、ある人は自らをこの世界に産み落としてくれた親を。

 

愛の化身は様々だ。だが一つ共通点を挙げるとするならば、自分が深い愛を注いでいるものに癇癪を起こされると、それはそれは恐ろしい目に遭うということだ。

 

いつの時代も尻に敷かれている内が平和である。とある世界線での隋の独孤皇后と文帝楊堅しかり、皇帝ネロ・クラウディウス・ドルスス・ゲルマニクスと母小アグリッピナしかりである。(*カエサルはユリウス・クラウディウス朝歴代皇帝の全員についているので省いた)

 

 

 

さて、ここにもまた一組の母と子がいた。

 

 

 

母の名前はティアマト。原始の母である。母胎回帰を奨励するくらいに愛情深い彼女であるから、その愛が憎しみに変わると極端にすぎるであろうことは想像に難くない。

 

そして子供の名前はマルドゥーク。雷とか嵐とかを飼い慣らす英雄である。そしてやんぬるかな、彼は生まれてこの方ずっと反抗期である。

 

見目麗しい母から生まれた見目麗しい男神。人はここに反則的な母子の情愛劇を想像するかもしれないが、母ティアマトと子マルドゥーク両者の関係はお世辞にも目と目が合った瞬間に恋に発展するほど温暖ではなかったのである。

 

神代の歴史は一種のタブーとして、一種の特権として古代から続く魔術師や錬金術師、神々の従僕となった選ばれし人間の一部によって綿々と紡がれ、秘匿され、守られてきた。

 

凡ゆる災難から守る為に、その身こそ祝福により長寿で剛健になっていたとはいえ、常人の身である人間の従者の多くは、秘密の場所を自身の終の住処の床下や地下、土蔵の奥にと決める者が多かった。

 

海に重石と共に投げ込もうと言うもの達もいない訳ではなかったが、彼らは例外といえよう。従者達といえども、やはり人間であるから、自身の手で完成させた世紀の力作を、再び日の目を浴びる確率が甚だ低いであろう海底深くへと沈める勇気はなかったのである。

 

さて、そんな人々が書き残した神代の石板に、当時の彼女達の親子仲が如何に冷めきっていたのかを教える記述がある。特徴的な超古代文字であるから、その解読には幾人かの権威を冥府から引っ張り出してくる必要があったのは言うまでもない。よって、以下の条文は何時ぞやの聖杯戦争の際に参加者の錬金術師、或いは魔法使いが召喚した神代のサーヴァント、ここでは偶然にも神古代の文字を解読し得る者に当たった者達をして解読させたものであると伝わっている。

 

アマロ伝説の謎は海底1万メートルよりも深く、果てしない奥行きをもつ研究分野であるから、現代に続く神秘の伝導者たる錬金術師や魔術師の殆どが少なからず一度は彼の謎に熱中することはまず間違いない事だ。そのため、誰がそのサーヴァントを使役して解読させたのかは正確には判明していない。もし判明しようものならば、その原文目当ての者達が研究者の家を荒らす事間違いなしであるから、と言うこともあるだろうが。

 

 

以下「古石板解読文の複写資料〜黒曜石の希望の章〜」より

 

 

ーーーーー

 

 

 

第三の目が伝えて曰く、大いなる母神ティアマトは偉大な英雄マルドゥークを産み落とした。大地を成す先兄の魔獣達は波打ち、マルドゥークの美貌を受け止めた。マルドゥークは四つの目を持っていたが恐ろしさよりも美しさに勝る容貌をしていた。マルドゥークは勇敢な戦士として育ち、或いは母にも勝る優秀な言葉を操る迄に育った。マルドゥークは母の持つ天の支配権を求めたが、ティアマトはマルドゥークの激しい気性を危ぶみ断った。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、ある時、マルドゥークは黒曜石の絢爛に輝く一柱の希望を手に入れた。その日からマルドゥークは母に対する無礼を謝し、諸兄を敬い、弟達や妹達に深い愛を持って接した。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、マルドゥークは黒曜石の希望を母に打ち明けることなく幸福な時を過ごしていた。ある時に母ティアマトによりマルドゥークは召喚された。マルドゥークは愛する黒曜石の希望に傅いて、帰りが母の息吹が我が兄弟の顔に穏やかに降るころであると、それまで決して門を開いてはならぬと言い伝えてから宮殿を後にした。

 

ティアマトの使いはマルドゥークを従えて母神への道を教えた。マルドゥークは母神の宮殿への道のりを進んだが、一向に終わりがない。不審に思い、マルドゥークは自身の足元を見遣った。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、マルドゥークの足元に道はなく、代わりに蠢く巨竜の背帷子があった。マルドゥークは激怒した。「母は何故私を欺かれたのか」とマルドゥークは天に訴えた。天からは母の声の代わりに、愛しい黒曜石の希望の声が聞こえた。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、マルドゥークは言った。「おぉ、全ての宝玉にも勝る我が美しき人よ、どうして貴方のお声が我が耳に届けられるのか。」黒曜石の希望は答えていった。「私はマルドゥーク殿が仰られた通りに母神の温かな息吹が諸兄の顔に降るのを目にしてから宮殿の門を開きましたとも」と。

 

マルドゥークは声を荒げて言った。「我が古の嵐に誓ってそのようなことはありませぬ。」と。黒曜石の希望は声を失った。マルドゥークは嘆いた。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、マルドゥークが嘆いていると母ティアマトの声が聞こえてきた。ティアマトが言って曰く、「マルドゥーク、我が子、我が英雄よ。貴方は私に秘密を作ってはならない。どうして我が子であるお前が私にこのような重大な秘密を作ったのか。」と。

 

マルドゥークは怒りを声に滲ませて母へと訴えて曰く、「母よ!このようなことがあって良いのでありますか!貴女は私に秘密を作るななど一つも教えてくれなかったではありませんか!!」と。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、マルドゥークはティアマトに黒曜石の希望を返してほしいと訴えたが、ティアマトは静かにこう返した「そんなに彼を返してほしいのであれば、彼の名前を呼びなさい。もし、本当に愛を献げているのであれば、貴方にはこの美しい彼の名前を贈られていても、おかしいことではないはずよ。」と。

 

マルドゥークは言葉に窮した。ティアマトはマルドゥークの言葉を待たずに「ほら見なさい。貴方は私に秘密を作った挙句、嘘までついた。独りよがりに彼を愛しているなどと言ったのよ。その嘘の代償は払われて然るべきだわ。私が貴方からこの美しい子を貰って上げましょう。これまでのどの神よりも、彼こそが私の夫に相応しい。」と言って、マルドゥークの声を聞くよりも早くその身を宮殿に隠してしまった。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、マルドゥークは長く永く悲嘆に暮れた。マルドゥークは初め、奪われたアマロを取り返す為に兄弟や信頼のおける仲間達に声をかけて回った。

 

彼は「我が母は私を欺き、私の最も大切なものを奪った。私が先に護っていたものを、偉大な母は自らその名誉を汚してまで手に入れたのだ。もはや母は天ではない。」と言って勇者を募ったが、多くの魔物や良心のあるもの達は「マルドゥークよ、英雄よ、偉大な戦士よ、貴方のおっしゃることはよくわかった。だがね、あの偉大な母が子供である私たちから大切なものを奪うだなんてことをなさるとは到底思えんよ。もしも本当に貴方からその最愛の何かを奪ったのが母だったとして、その証はどこにあるのか。悪戯に天の機嫌を損ねるものではないよ。」と言って皆寝ぐらに帰ってしまった。

 

長い永い年月の間にティアマトは創造の力を発揮して大いに世界を豊かにした。彼女の子らは大いに喜び、マルドゥークを除く全ての良心あるもの達は彼らの偉大な母を賞賛する碑文を捧げた。マルドゥークが耐え続ける間、ティアマトの力は増しに増し、遂に彼女は二人で天を成していた最初の夫のアプスーを自らの手で打ち殺した。彼女は自分一人で天となり、即ち海こそが天となった。そして、彼女はその子供達に「私は次の子が生まれるより先に最後の夫を皆に紹介しよう。」と宣言した。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、海の母神ティアマトは自分が産み落とした数々の神々と魔物を宮殿に集めて、それまで秘めていた黒曜石の希望を紹介して「私の最後の夫はこの黒曜石の希望その人に違いない。私は夫にこの方を迎え入れよう。私の子供は皆、この方に傅いて忠誠を誓いなさい。」と言った。

 

ティアマトが嬉しそうに子供達に紹介したのは眩い黒曜石の後光に包まれた言葉を喪失する他ない美の人であった。多くの魔物達は「おぉ!これほど美しい存在はどこにも置いて他に見たことがない!!我らが母ティアマトよ!!貴女の最後の夫の名はなんと言うのか!!」と問いかけた。

 

ティアマトはその美貌に喜びを湛えて「この方の名前はアマロ。愛しいアマロよ。どうか私の夫になってちょうだい。」と言った。

 

すると、宮殿の前の神々の中から大きな声が聞こえてきた。「母よ!!私は私の愛しい方の名前を呼べるぞ!!愛しいアマロよ!!どうか私の元に帰ってきておくれ!!母よ!今こそ約束を果たしてほしい!!!」マルドゥークが叫んだのだ。これに対して良心ある神々は「母よ!!それは真か!!おぉ、マルドゥークよ!貴方は正しかったのか!!」と口々にいった。

 

ティアマトは之に応えて曰く、「子供達よ!お前達の気持ちもわかるわ、けれど、私にとって最早アマロはどんな宝玉すら霞む何よりの大事になってしまったの!!マルドゥーク、貴方に渡すことなんてこれっぽっちも出来ないわ!!」と叫んで、アマロを横に抱えると宮殿の奥へと帰ってしまった。

 

マルドゥークは雷声で周囲の神々に「良心ある神々よ!!天は既に陰りを帯びられたのだ!!我が母は遂にその夫アプスーまでその手にかけたのだ!!我が大切のアマロを奪ったのは、私が秘密を作ったことを咎めるためではなく、最初から自らのものとする為だったのだ!!今こそ正義を知らしめる時だ!!神々よ!私に力を貸してくれ!!!さすれば私は母を破り、その身から新たな神々を産み落とそう!!」と言った。

 

これに神々は大いに奮い「おお!勇壮なマルドゥークよ!貴方には信義があるようだ。我らの母は乱心されておる、天が乱れているのだから正義を正さねばならない!!マルドゥークよ!勇気あるものよ!どうか、正義を果たしてくれ!!そのためなら我らは力を貸そう!!」とマルドゥークに応えた。

 

 




長くなりました。メソポタミア前編は三部構成でお送りします。オリジナルでも書かせていただいておりますので、交互に投稿していければと思います。筆が乗れば連投します。余談なんですけど拙者、実は世界史が好きでロランの歌とかの日本語訳の本を読みまして、それで硬派な文体で軟派な内容を描くことに可能性を見出しました。今後はこんな感じでぼちぼち参ります。
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