運命のヒモ男《ヒモ・ファタール》   作:ヤン・デ・レェ

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感想ダンケなっす。感謝の連日投稿です。ご賞味あれ。


02愛の結晶

02愛の結晶

 

 

 

第三の目伝えて曰く、11の魔物を除く全ての神々と全ての魔物達がマルドゥークの友となった。それまで彼の言葉を信じなかったもの達は過ちを認めて力になれるようにマルドゥークの元へと毎日のように通った。

 

神々はマルドゥークに自らの血と骨で作った嵐の戦車を与え、他にも剣や槍を多く与えた。マルドゥークは友を率いて母ティアマトの宮殿へと向かった。長い長い道のりをマルドゥークと彼の友は勇壮にアマロの輝きを模した純黒の旗を掲げて一歩一歩確かめながら進んだ。

 

宮殿の中ではティアマトと11の魔物達がアマロを中心に楽しそうに戯れ合っていた。ティアマトは「愛しいアマロ。貴方はなんて美しいの。なんて優しいの。一度として私のことを顧みてくれる者はいなかったと言うのに、顧みられなくてもいいと思っていたのに、貴方と出会ってしまったから私は二度と貴方なしではいられなくなってしまったわ。ああ、なんと幸せなことでしょう。」と最愛の夫を褒め称えては頻りに彼の手を握ったり、その手で自分の頭を撫でさせたりした。

 

アマロも言って曰く、「お母さんというのは世の中で最も大変なお仕事ですから。貴女は人よりもずっと頑張ってらしたんでしょう。私は貴女のこれまでを存じてないけれど、とても心根の温かい、愛情深い素敵な人だということはこの身を持ってよく知っていますよ。」とティアマトを褒めては彼女の背を摩ったり、頭を優しく撫でたりした。ティアマトの尻尾は嬉しげに揺れ、角は淡く光ったり、温かくなったりした。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、ふいにアマロは「貴女と共にある幸福を願って。」と言って、ティアマトの額に口づけを落とした。

 

ティアマトは涙を浮かべて感激して「あぁ!愛しい!この気持ちをどう表していいものでしょう!!」と言うと、心を込めて夫の唇に口づけた。

 

すると、ティアマトの額からアマロには到底及ばないが素晴らしい絶世の美男が産まれた。

 

ティアマトとアマロの幸せそうな様子を喜んでいた周囲の魔物達はこの美男を受け止めて、彼らの母の元へ届けた。

 

ティアマトは喜んで「まぁ、貴方はなんと運がいい子なんでしょう。貴方は私とアマロの子供なのよ。私がいない間、私の代わりに父に尽くせる美しい子に育つのですよ。」と我が子の誕生を祝福した。

 

アマロも驚きつつ「子供がこんなに簡単に産まれてしまうとはたまげたなぁ。けれど私の子供に間違いない。よく産まれてくれたね、健やかに育ってほしいな。」と喜んだ。

 

ティアマトは生まれた子供を抱き上げて「貴方にはその生まれに相応しい、キングゥの名前を授けましょう。よく学び、よく育ち、芳しき愛を知るのですよ。」と優しくあやした。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、キングゥが健やかに宮殿で育ち、逞しくも輝かんばかりの美貌を備えた青年神へと育った頃、永い道のりを越えてマルドゥークの軍がやってきた。

 

宮殿の門を固く閉ざし、11の魔物を従えた若いキングゥはマルドゥークの軍に向かって「何の要件があってここにきたのか!!宮殿に土足で踏み入ろうと企む輩!!其方達は剣を帯び、雷を従えて天への階に足をかけることが神の母たるティアマトと私の父上に無礼であることを知らぬのか!!」と一喝した。

 

キングゥの声に追従するように魔物達の恐ろしい声が怒りの響きを纏って奏でられた。

 

今度はマルドゥークが全身に煌びやかな宝具を纏って進み出て「おぉ、私の荒れ狂う風はお前の噂をも運んできたぞ!!キングゥよ、お前は私の最愛の方であるアマロ様の子であると聞いた。そんな貴方に問おう、アマロ様を私の元に連れてくるのだ!一度でいいからお会いしたい!一眼でいいからこの目に焼き付けたいのだ!」と訴えた。マルドゥークは跪き叩頭してキングゥへ訴えた。

 

だが、キングゥはマルドゥークの必死の訴えを「いいや、残念だがそれは出来ない。神ティアマトは私を産み落としたが、私は愛父アマロが居なくては生まれてこれなかった存在だ。母はマルドゥーク殿に怒りを抱かれてはいないが、もしも彼の方をティアマトから引き離したいのであればやめておくのが賢明だ。母は決して、私の父をその身から離すことをお許しにはならないからだ。」と言って断った。

 

マルドゥークはそれからも幾度もキングゥへと頼み込み、それは引き連れてきた軍勢の中の魔物の何頭かが力尽き血肉と骨になり、新しい世界の材料に変わるまで続いた。

 

痺れを切らしたマルドゥークは「全く!貴様のような話の通じないやつは初めてだ!それほどまでに私の話を聞く気がないのであれば、例え愛しきアマロ様の御子だとしても打ち叩かねば通してはくれまい。ましてや貴様はアマロ様の御子であって、私の愛するアマロ様ではないのだから打ち殺されても文句は言うまいな!」と口から怒りの火を噴きながら嵐の戦車に鞭打った。

 

キングゥは落ち着き払った不敵な微笑を浮かべて「マルドゥーク殿も諦めが悪い。ティアマトは今、初めて愛を知っているのです。私は母からの言いつけを護って、初めて父からの愛を与えられるのだから、ここを通すわけには何としてもいかないのです。私の愛父に恋している貴方ならば私の想いもよく理解できるはずではありませんかな。」と言うと、ティアマトから指揮権を引き継いだ11の魔物達をマルドゥークの軍に襲い掛からせた。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、七日七晩戦い続けた両者は一度互いの野営地へと戻った。あたりは一面が抉り返され、神々の足元に泥のつかなかった所は無いほどであった。

 

マルドゥークは炎を噴きすぎて体が熱を持ち、口からは暫く煙が上がり続けた。マルドゥークの体に触れた友の魔獣の一人がこんがりと焼けてしまい、彼の香りに引き寄せられて沢山の魔獣がマルドゥークの周りに集まった。集まった魔物達は皆焼けてしまった。

 

マルドゥーク達は友の亡骸を葬るか、腹に納めてしまおうか悩んだ。そんな時、神の一人が「腹が減ったのだ。食べてしまっても良いだろう。」と言ったので、マルドゥークの軍は皆喜んで魔物の肉を食べた。

 

食べ終えたマルドゥーク達は自分達が何も食べ物を持ってこなかったことを思い出した。死んだ魔物のお陰でマルドゥーク達は飢えずに済んだのであった。

 

宮殿に帰ったキングゥは11の魔獣達から泥を落とし、拭った泥の塊を纏めて壺へと納めた。

 

キングゥは自身も泥と血に汚れ、汗をかいていることに気づき、母と父に会う前に体を清い水で洗い流した。

 

キングゥの体を汚していた神々の血や神代の泥は清水と共に壺へと注がれた。

 

身支度を終えたキングゥは魔物達を引き連れて母と父の元へ向かった。

 

宮殿の奥でキングゥを一人迎え入れたティアマトは「貴方は良い子ね。あの人にご褒美を貰うといいわ。」と褒め称え、キングゥを父の元に自ら案内した。

 

キングゥがティアマトに従い宮殿の中を進むと、幅の広い道を歩くアマロの姿があった。魔獣の首に鎖をつけて之に引かれながら散策するアマロは、やはり美しく、キングゥとティアマトは見惚れずにはおられなかった。

 

自身に見惚れているキングゥとティアマトに気づいたアマロは魔獣の鎖を引いて二人に近づいた。アマロはキングゥと見つめあって「おかえり、キングゥ。戦いのことはわからないけれど、キングゥが無事で何よりも安心したよ。ご褒美と言っても、私がキングゥに贈れるものは多くないからこれを譲ろう。」と言ってキングゥを抱き締めると、彼の手に自分の魔獣の首につけていた美しい鎖を譲り渡した。

 

アマロは「これは私がティアマトから譲ってもらったものなんだ。魔物の散歩に使えるものだから、他のどんな鎖よりも良いものだと思う。この鎖が私の持つものの中で、ティアマトとキングゥの次に一番素晴らしいものだから、これを私の子供である君に譲るよ。」と言うと、魔獣の首からも鎖を外してしまった。

 

キングゥは「私はこれ以上のものを頂いたことが一度しかありません。その一度は父上と母上の愛から産まれた際に生命を与えられた際の一度です。この鎖に誓って、私は母上に従い、共に父上をお守りします。」と鎖を抱きしめて宣言した。頬を染めた姿は父親に似てとても美しく、鎖を外された魔物も逃げることなくキングゥに見惚れていた。

 

キングゥは母と父に囲まれて共に過ごした。魔物達は皆、彼ら親子の穏やかな時間が少しでも長く続くようにと月と太陽を追い立てた。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、太陽と月を追い立てる魔物達が疲れて寝てしまった頃、再び戦いの日がティアマトの宮殿にやってきた。押し寄せる、以前にもまして夥しい数の神々と魔物、対してキングゥとティアマトが従えるのは11の魔物だけだ。アマロを宮殿の奥深くに隠してから、ティアマトは独り子のキングゥと11の魔物を連れてマルドゥークの軍団の前に進み出た。

 

ティアマトはマルドゥークに向けて「我が子マルドゥークよ!お前の罪を許そう!もしも、お前が自身の軍勢を初めからいなかったかのように全て元通りにすることができたのなら、私はお前を許そう。そして、お前に魔物と神々の王としての力を与えてやろう。これ以上、私の大切なアマロを怯えさせないでちょうだい。」と言って、キングゥを前に出した。

 

進み出たキングゥは「それが不服だというならば、私が率いる11の魔物を倒し、私のこの鎖から逃げ切り、母ティアマトの怒りをその身に浴びせられる、それに耐えられる覚悟と自信を示すがいい!!」と吼えて、煌々とした美しい鎖を天高く巻き上げると、一思いにマルドゥークの軍勢に叩きつけた。

 

マルドゥークの軍勢はその底に至るまで真っ二つに裂けてしまった。神々は恐れ慄き、魔物達は尻尾を丸め、首を引っ込めて唸るばかりになってしまった。

 

耐えかねたマルドゥークは進み出て「ティアマトよ!キングゥよ!あなた方の言いたいことはよくわかった!!だが、私にはあなた達の友とならなかった良心ある神々の手で鍛えられた強靭な宝具がある!!キングゥよ!お前の魔獣達は私の宝具の前に葬られるがいい!!」と吼え返して、嵐の戦車に跨り、頼りない神々や魔物達を跳ね飛ばしながら洪水の風に11の魔物達を襲わせた。その姿に勇気あるもの達が次々に続いた。

 

遂にマルドゥークとティアマトの戦争が始まったのだ。

 

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