運命のヒモ男《ヒモ・ファタール》   作:ヤン・デ・レェ

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感想が嬉しくて涙が出た。泣きすぎて乾燥した。感謝を形に、いい感じに完走したい。博識な世紀末諸兄にダンケなっす。これからもフィーリングでロストワールドを爆走していきます。


03愛の持続

03愛の持続

 

 

 

第三の目伝えて曰く、焼き固められた小麦の菓子が腐れ落ち土塊に帰る頃、マルドゥークとその勇気ある輩は11の魔物達を全て倒し、遂にキングゥを包囲した。

 

力が尽きたキングゥは鎖で宮殿の門を閉ざし、一人軍勢の前に立ちはだかった。

 

マルドゥークはキングゥに「おぉ、キングゥよ!哀れな子よ!!お前に許しを与えよう!お前が私にアマロ様が何処におられるのかについて快く教えてくれるのならば、私はお前の全てを許そう!!」と言って笑いかけた。

 

キングゥは身体中から力の源を零しながら、マルドゥークへ「では私も問おう!そこに父上の子供としての私はいるのか!母上は父上の隣にいるのか!私と母上は共に父上を愛することができるのか!!」と問いかけた。

 

マルドゥークは答えて曰く、「いいや。残念だがティアマトが、我が母が二度とアマロ様のお近くにいることは許されない。私が許せないのだ。私を除いて、どうして他のものがあの美しいアマロ様の傍に立てると言うのか。キングゥよ、お前もそうだ。お前は神としてアマロ様に仕えるのだ。彼の方が大切になさる、さぞかし可愛がられるような、最愛の御子になど、お前がなっていいはずがない。私はお前が、私以上に御子としてアマロ様に愛していただくことが我慢ならないのだから。」

 

キングゥは豪快に笑い応えて曰く、「やはりな!お前は根の部分ですっかり独りよがりではないか!結局お前は自分ばかりが父上にも愛されたくて仕方がなかったのだ!ただそれだけのために母上の幸せも、父上の平穏も、私が父上へと愛を捧げる時間すらも奪ったのだ!そんな賊にどうして私が降ることがあろう!どうして父上の居場所を教えることがあろうか!」

 

そう言うとキングゥはマルドゥークに飛びかかった。マルドゥークは灼熱の火を噴いてキングゥを溶かしてしまった。溶けて泥になったキングゥの亡骸は細かく散らばり人間になった。美しいキングゥの血を引いた者が人間となった、だから後世この世界には似た顔の美人が多いのである。

 

アマロの血を受け継いだキングゥはこの世にまたと居ない美貌の持ち主だった。キングゥが溶けてしまったことで、神々の足元に渦巻く神代の混沌はキングゥよりも美しく溶けることはできないと慎み恥じらい、少しずつその身を固め始めた。

 

固まった所にキングゥの泥が注ぎ込まれ、不細工な型にはまった歪な泥人形ができた。泥人形は戦に飽きた神々の手慰みに育てられた。

 

育った泥人形は少しずつ神々の言葉や生活の技法を学び始め、そのうち独自の文明を築いていった。

 

初めて泥人形の手で作られた小麦と葡萄を使って作られたパンと葡萄酒は神に供えられた。

 

神の供えられたそれは神の許しを得る前に二人の泥人形が食べて飲んでしまった。

 

食い意地を張った神の怒りに触れた泥人形は元の姿に戻れない呪いと、一度朽ちると二度と同じ姿に戻れない呪いを浴びせられた。

 

呪いのせいで泥の代わりに柔らかい皮を手に入れた二人の元泥人形は神々から教わったことを思い出しながら文明を営み始めた。

 

初めて生まれた人間は少しずつ増えていき、神々の戦争が終わる頃、王となって現れたマルドゥークに従えられてバビロニアという国家を築くことになった。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、キングゥの死を知ったアマロは生まれたばかりの幼い魔物、アマロが鎖をかけて愛ていたムシュフシュと共に幾日と涕泣し続けた。ティアマトはキングゥがアマロを一人の情ある者として愛していたことに僅かな不満を覚えていたが、アマロを守って死んだ我が子の死を素直に悼んだ。そしてアマロの嘆きに心を痛め、怒りを燃やしてマルドゥークの軍勢を混沌の泥で丸々呑み込むと、すぐにはやって来れないほど遠くに、世界の果てに投げ飛ばしてしまった。マルドゥークは久しぶりに耳にしたアマロの声が悲痛な涙を伴うものだと知り、悔恨の余り腹を激しく下した。マルドゥークは決して治らぬ痔を患った。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、軍勢を投げ飛ばして辺りが静かになってから、ティアマトはアマロを胸に抱いてあやし続けた。これほどに泣いてもらえるキングゥへの嫉妬すら忘れて、ティアマトはアマロの揺籠に徹した。

 

破滅の釜のように荒れていた混沌がキングゥの死によってすっかり固まってしまった頃にアマロは泣き止んだ。

 

泣きつかれたアマロは眠ってしまった。アマロを膝枕から寝台に移したティアマトは、今度こそ暫しの別れを覚悟した。ティアマトは宮殿の外へ向かった。

 

宮殿の外では純黒の旗が見渡す限りにたなびいていた。軍勢の中から嵐の戦車に乗ったマルドゥークが出てきて「母よ。ティアマトよ。私は決着をつけにきたぞ。」と言った。

 

ティアマトは「それは私も同じ。貴方は子供達の中でも最も優れていたかもしれないけれど、最も愚かな子だったわ。私はアマロを泣かせた貴方に然るべき罰を与えるわ。」と凄んだ。

 

マルドゥークは「もはや、話し合うまでもない!さぁ、その泥からまた魔物を好きなだけ産むといい!!私はもう逃げる気などない!!ティアマトよ!貴女は強大だが、愛しい人の涙で覚悟を決めたのが自分だけだとは思わないことだ!!」と叫ぶと嵐の戦車を駆り、ティアマトめがけて全ての洪水と風をけしかけた。

 

マルドゥークに続いて全てを覆うような魔物と神々の軍勢がティアマトめがけて突撃した。世界を覆う荒波と、嵐と、旋風と、矢の雨と、剣の煌めきとがティアマトを呑み込もうと脈動したのだ。

 

ティアマトは厳かに、その美しくも冷たい瞳を瞑り、そして開いた。

 

ティアマトは「全て私が産んだ。貴方達も、貴方達が今立っている混沌も。全てが私なのに、全てを創り上げたと言うのに、どうして今頃になって私に、私の幸せだけを奪おうとするの。マルドゥークよ、子供達よ、お前達には試練が必要だ。」と言って世界を生み形創った混沌をその身に収束させた。莫大な真っ黒の泥が半球状にマルドゥークの軍勢とティアマトを覆った。

 

天井から崩れるように全てが文字通りに泥に浸ってしまった。洗い流されるようにマルドゥークの軍勢は消えてなくなり、生き残ったのは泥を纏えない空気の神や真空の神、泥に覆われなかった太陽の神や月の神だけだった。彼らは若い神々だった。古い神々の中で唯一生きていたのは、やはり最も勇敢で嵐の戦車に乗っていたマルドゥークだけであった。

 

マルドゥークはティアマトに「あぁ、なんと酷い。ティアマトよ!どうしてご自分の子供達を洗い流してしまわれたのか!!彼らの中には心穏やかな者達もおられたでしょうに!!」と詰問した。

 

ティアマトは答えずに、渾々と湧き出る泥から次々に魔物達や若い半神達を生み出して、生き残った神々に襲い掛からせた。

 

マルドゥークは最早こと此処に至って母を弑することを覚悟した。

ティアマトを倒すだけではいけない、母を殺さなければならないとマルドゥークは覚悟したのだ。

 

嵐の戦車でティアマトの追跡を逃げ切ったマルドゥークは、閉じ切られた宮殿の門を渾身の一撃で数えきれないほど打ち込んだ末に何とか突き破ると、奥へ奥へと向かった。

 

マルドゥークは巨大な宝の箱を見つけた。そして、これをこじ開けた。

 

神々の掃討に気を取られていたティアマトに気づかれるより先に、マルドゥークはアマロを見つけた。

 

マルドゥークは眠るアマロの姿を目にすると「あぁ!!アマロ様!!お会いしとうございました!!どうか、今は私のことをお許しにならなくてもよろしいですから、どうか私と共に居てください!」と感涙しつつも力強く眠ったままのアマロの体を抱えて宮殿を後にした。

 

宮殿の外で暴れるティアマトの前に、アマロを抱えたマルドゥークが現れた。

 

ティアマトは「マルドゥーク!!お前は決して許されないことをした!!最早お前は私の子供ではない!!今すぐに奈落へ落としてやる!!!」と金切り声を上げてマルドゥークの嵐の戦車へと迫った。

 

マルドゥークは嵐の戦車を巧みに操作してティアマトの懐に入ると、「ティアマトよ!貴女がそう言ったのだ!!ならば私も言わねばなるまい!!最早私は貴女の子ではない!!貴女からの愛は求めないとも!!だが、アマロ様は私が貰っていくぞ!!安心して眠るがいい!!」と吼えながら嵐と洪水をありったけ、ティアマトが纏っていた泥へとぶつけた。

 

マルドゥークの嵐と洪水は産みの主人へと牙を剥き、その身の消滅と引き換えにティアマトの力の根源たる混沌の泥を一瞬の間完全に吹き飛ばしてしまった。

 

「あぁ!アマロ!!私の愛しいアマロ!!!!」とティアマトが叫んだ。

 

ティアマトの叫びと同時に、マルドゥークの嵐の戦車がティアマトの体を二つに裂いた。

 

「アマロ…運命の人。どうか私を忘れないで。」とティアマトが言い遺すと、ティアマトの体は上半身が青空に、下半身が果てのない海と実りある豊かな大地となった。

 

マルドゥークの腕の中で目覚めたアマロはマルドゥークとの再会を喜んだが、ティアマトとの別れを知り滂沱の涙を流した。

 

ティアマトの体で唯一変わることがなかった禍々しい角羊はマルドゥークの命令で欠片と残さず拾い集められ、アマロへと献上された。アマロはこの美しい角羊をマルドゥークに頼んで神々一番の鍛治上手と細工上手の技術で黒く美しい首飾りに生まれ変わらせた。

 

以後、アマロの首元にはいついかなる時も超常の黒い首飾りが輝いていた。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、マルドゥークの勝利で終わった神々の戦争は、あまりにも多くの犠牲を払うことになった。

 

勝ったマルドゥークは生き残った全ての神々を従えて、戦から免れた神々が育てていた泥人形と、食い意地の張った神々のご馳走をつまみ食いしてしまった者達の子孫が生きる世界へと降り立った。

 

マルドゥークは此処にバビロニアという国を建て、自ら王を名乗った。

 

泥人形はマルドゥークの命令で全て柔らかい皮が与えられ、初めて皮で身を包んだ泥人形達の子孫と共に暮らせるようにした。

 

マルドゥークは王として都を建てた。そして、泥人形だった者たちは人間と呼ばれるようになり、神々が歳を重ねるうちに、彼らはすぐさま優れた文明と文化を築くようになった。

 

王の顧問官として宰相を越える最高位を与えられていたアマロは、片時も最愛の子と妻達のことを忘れることなく、しかし卑屈になることも絶望することもなく愛と強かさを携えて賢く健やかに暮らした。

 

マルドゥークの治世が最高のものとなった時、遂に神秘が目に見えて薄れてきた。神々は戦き、すぐさま天上へと戻るか、己の神殿に引き篭もるかどちらかした。

 

マルドゥークだけはアマロの側を死んでも離れたくはないと、自分の肉体が痩せ衰えていく恐怖に負けることなく王座から離れなかった。

 

それから更に月日が経ったある日、マルドゥークはアマロに「アマロ様は、私を恨んでおいでですか。」と問いかけた。

 

玉座の隣に、玉座よりは小さく、硬い玉座よりもうんと座り心地の良さそうな椅子に腰を沈めていたアマロは穏やかな微笑を浮かべて「いいえ。全く、滅相もありませんよ。どうして自分を愛してくれる人を、たとえ自分の愛する人を奪ったからと言って恨むことができましょうか。もしも恨むのならば、私は自分自身を恨まずにどうして貴方を恨まなければならないのでしょう。」とキッパリと答えたのだった。

 

マルドゥークは「やはり貴方と出会えてよかった。私は貴方の隣にいられるなら、神々の王としてではなく、人間の王として衰えて死んだとしても悔いはない。いや、貴方の隣であればこれ以上幸せなことはない。」と感嘆して涙を流しながら言った。

 

マルドゥークはそれからも良く民を治めた。人間の文明はいよいよ素晴らしい発展を見せ、日々の食事を奪われる恐怖に怯えずに食べられるほどに豊かになっていた。そして、そのことは神々の神秘に頼らずとも彼らが幸せに生きていくことができることを証明していた。

 

いよいよ、最後のひと吹きで消えようとしている神秘の灯火。

 

祭壇を兼ねた王の私室で、硬い石の寝台に体を横たえたマルドゥークはゆっくりと味わうように一息一息を吐き出しながら、傍で手を握るアマロへと顔を向けた。

 

胡乱げな瞳だが、そこには間違いなくアマロの顔が写り込んでいて、マルドゥークが最期のその時まで彼に夢中であることを示していた。肉体は細く痩せ衰えて、髪や髭は真っ白に色が抜け、弱々しい人間の末期の姿そのままであった。覇気と神威だけが厳としてその双瞳から発せられ、いつしかそれも霧散するような弱々しさに変わっていった。

 

マルドゥークは嗄れた声で「あぁ、貴方は、アマロ様は私の最期の時まで、こうして傍にいて下さるのですね。私は幸せものだ。バビロニアはこれから更に豊かになっていくことでしょう…そしていつしか私のように衰えて、そしてまた新しい王が立つのでしょう。」と言った。

 

手を握るアマロは確かに少しも歳をとっていない。何時ぞや見た時と同じくらいに、いや、その時以上に美しい黒曜石の後光を纏っているように思えてならなかった。

 

マルドゥークはアマロと合わせた目を細めながら「アマロ様、私は幸せでした。この年になって、人間として生きてきて思いました。母は、私を愛してくれていたんだと思います…たまたま同じ方を愛してしまったが故に、不幸な争いごとになりましたが…あれも、よく考えれば私が幼かったために意地を張ったのが原因なのかもしれません…」と懐かしむように、ほんのり懺悔を滲ませて言った。

 

マルドゥークはここで一つ、二つ咳き込んだ。周囲に侍っていた医官や侍女が寄り添ったが、大事ないと言い張り、すぐに彼らに部屋の外に出るように言った。

 

二人になったところでアマロの手を両手で握ったマルドゥークは「此処までくるのに随分と時間がかかりました…長かったな…いや、貴方と過ごせた時間はいっそ短いくらいでした…アマロ様はお気持ちが離れるまで、どうか私の国にいらしてください…すべて、整えるようにと…私の血の者達に堅く遺言しております……さようなら…愛しき人よ…」と言い遺して間も無く息を引き取った。

 

偉大な王が死に、それからと言うもの代々の王族は国を挙げて顧問官アマロを厚遇した。厚遇すればするほど、バビロニアは不思議な力で凡ゆる災厄からその平穏を守ることができた。旱魃や洪水の祈願のためにアマロのための神殿が建てられ、最も良質の品々は王よりも先にアマロの神殿に貢がれた。

 

 

 

第三の目伝えて曰く、アマロの加護は厚遇を打ち切り酒食に耽った愚王の誕生まで続き、その間にバビロニアは圧倒的隆盛を極めた。

 

愚王により厚遇を打ち切られたアマロは一度、バビロニアの地を後にした。

 

間も無く最初のバビロニアは呆気なく滅び去り、その跡に新たな王が立った。

 

新たな王は手にした土地を懸命に治めたが水利が弱く、民は間も無く飢えた。

 

幾人もの王が死に都が滅んだ。そして遂に新たな王が立った。

 

王ルガルバンダは古代王朝の祖マルドゥークの遺言に従い、黒曜石の希望を探すよう国中に命令を発した。

 

ルガルバンダは王命が中々果たされないことに悩み、ある年、ある神殿で神々へと希望を祈願した。

 

神々が言って曰く、「汝が子は力ある御子なり。強く、眩い輝きを纏って育つことだろう。」と。王は喜び、ひと月と経たずに子供が生まれた。

 

ルガルバンダの王命から七年のある日、彼の息子が狩で森に入った。

 

鬱蒼とした森の中で彼は眩い黒曜石の希望と出会った。

 

王は息子に命じて黒曜石の希望を国に迎え入れた。

 

新たなバビロニア王国は忽ち豊かになり、路上でパンを乞う哀れな老人の姿は見ることがなくなった。

 

迎えられた黒曜石の希望はアマロと名乗った。アマロは王から息子の教育を任せられた。王の息子は賢いが大人達の言うことを聞かないこと暴れん坊として、その名が高らかに広まっていた。

 

王の息子はアマロにどんな時もついて回った。食事の時も読書の時も、文字を書く時も、時にはアマロに用を足すからついてきてくれと言うほど、片時も彼から離れようとしなかった。余談ではあるが、アマロの体は人間のそれと同じであったが排便の必要がなかった。

 

しかし、アマロが王の息子の教育係になると、息子はすっかり人が変わり、アマロが見たいと言った武芸の技や、読み聞かせてほしいと言った書物の内容を、乾いてひび割れた大地が水を飲むように瞬く間に自らのものとしてしまった。

 

王にせがまれると王の息子はそこそこ素晴らしい武技を披露したが、アマロが頼むと王の息子は喜んで最高の技芸を披露した。それでもルガルバンダはアマロに感謝して宝物を捧げ、息子の成長を心から喜んだ。

 

ルガルバンダ王が老い衰え死んだ。王の妻であり、王の息子の母である女神リマトニンスンは神殿に籠った。王の息子が王として立った。

 

ルガルバンダ王の息子の名をギルガメシュと言う。

 

 

 

「黒曜石の希望の章」より

 

 

 

ーーーーー

 

 

冬木市にある古寺の境内に落ちていたと言い伝えられるこの複写文書の解読者が何者なのか判明していないが、解読された時期は約二百年ほど前とされている。当初は真贋確かなからぬ存在として、しかし捨てるに惜しいものであったからロンドンへと送られ、大英博物館での研究が進められていた。第一次聖杯戦争後に古代都市ウルクの遺跡近辺で発掘された石版と、その内容が酷似していることから取り沙汰された。

 

解読者の名前、解読した者の素性などは全くと言って判明しなかったが、後に解読者の直筆と思われる書簡が複数発見される。

 

発見元は英国のロンドン。ランドマークの時計塔の奥に秘物として扱われていた書類の中、偶然にも上記の文書を研究していた者の手で発見された。

 

[驚くべきことにこのような存在は他の如何なる並行世界にも存在していない。改めるべく全力を尽くしたが、ひと匙の改竄も、回帰も、干渉をも許されなかったことは初めてだ。]

 

[何人の干渉を受け付けず、何人の存在も興隆衰亡も妨げない。ただ惑わされれば才能や権力の有無に関係なく飲み込まれてしまう。そのことが当人達にとってこの上ない幸福に違いないのだから厄介だ。]

 

[磨かれずとも原石にして彼は根源に至っている。道理で神秘に愛されるわけだ。魔法使い達が彼の謎に一喜一憂することも当然だ。確かにこれは夢中で研究してしまう。月に噛まれたことに心から感謝したのも初めてだ。如何なる宝石にも勝ると言う表現は間違いがない、彼は霊長には早すぎた賢者の石だ。宵のアマロは実在する。]

 

解読者のメモは内容が不鮮明かつ抽象的で理解不能に尽きており、学術的な価値が無に等しいことが判明した。このことは殆どの研究者の期待が裏切られる結果となったが、一方で時計塔の管理者集団は頑なに公への開示を拒み、内容を知った者達には部外秘として扱うことを誓わせる誓約書を書かせる徹底ぶりであった。

 

アマロの謎はまた一つ深まった。

 

 

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