「どうしたらいいと思います?」
「う~ん............わからないかな」
「そんなあっさりと......」
友だち作りって難しい。
別に、自分が位の高い悪魔だとは思っていない。お世辞にも成績優秀とは言えないし、魔力だってせいぜい中の上だ。周りから距離をおかれる要素は、自分にはない。
それでも自分に同学年の友だちがいないのは、コミュ障故か。
ただし、目の前にいる先輩が一枚噛んでいるのは事実なのではないかと思う。別に責任転嫁をしているわけではないのだが、自覚のない人気者というのは厄介なもので、周囲の者たちが勝手に拗れていく。
魔界学校三年、夜空メル。整った容姿、抜群のスタイル、優秀な魔力量、高貴な身分。足りないものを探す方が難しい、学内のアイドルだ。
私はそんなメル先輩と、所謂幼なじみの関係にある。
どんな因果関係でそうなったのか、私の両親とメル先輩の両親は仲が良い。結果として、その関係は娘である私たちにも引き継がれたわけだが、面倒見の良いメル先輩は、一日中後ろを着いていく私を邪魔者扱いすることはなかった。
そんなメル先輩に甘えて育った私は、友だちの作り方も知らない、一人前のコミュ障悪魔となったのである。
そしてそれが意味することは、今でも私は『学校の休み時間や昼食休憩などはメル先輩と一緒にいる』ということ。そしてそしてそれが意味することは、『学内のアイドルであり、高嶺の花であるメル先輩に近づくひとがいないので自然と私も距離をおかれるようになる』ということだ。
まぁ、そんなことを言って、結局悪いのは自分なのだけど。
「学校きつい。もうやだ。やめたい」
思わず食堂の机に突っ伏してしまう。孤独というのは想像以上に辛いもので、学校という空間であるならば尚更だ。
「どうしたのですか?トワちゃん」
「るしあ先輩」
潤羽るしあ先輩。魔界学校二年生。
るしあ先輩は「隣、失礼しますね」と私の横に座ると、穏やかな顔で私を慰めてくれた。
「そんな浮かない顔では、幸せが逃げていっちゃいますよ」
ヨシヨシと頭を撫でてくれるるしあ先輩。この人と友だちで本当に良かった。
「友だちがなかなか作れないって悩んでるんだって。トワ、ちょっと人見知りなところがあるから」
「なるほど。私も人見知りなのは同じなので気持ちは良く分かります」
るしあ先輩の周りには、魔力でできた蝶がひらひらと舞っていた。
「私もメル先輩がいなかったら孤立していた立場だから、なんとも言えないけど......トワちゃんには同い年の友だちはいないのですか?」
「いるにはいる......ん、ですが......別の学校で」
危うく、彼女のことを話しそうになる。
「ホントに遠いところにいるんです。家庭も特殊だから、なかなか会えなくて......」
「そっか......私、一年生にも何人か知り合いがいるから、トワちゃんと気が合う子さがしてみるよ」
「いえ、大丈夫ですよ。いい加減に自分で何とかしなきゃいけないので」
というか、メル先輩と話せるひとなんて、一部の上流階級だけだろう。怖くて話せたものじゃない。
「トワはトワのペースで頑張りますよ。この状態が永久(とわ)に続くかもしれませんけど」
「 」
..........................................
「え?」「ん?」
「......」
「......」
「え?」
「やめろォォォォォォオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
「ビックリした......なんの脈略もなく急に入れてくるんだもん......」
「うおぉぉ......」
慣れないことはするものじゃない。もう恥ずかしくて仕方なかった。
チクチク刺してくるなメル先輩......
「アハハ、やっぱりトワ面白いよ!」
などとるしあ先輩は笑っているが、あくまでそれは、メル先輩とのやり取りがあることを前提とした面白さだろう。
「るしあもよく笑うようになったね」
「え?」
「初めて会った時なんて酷かったんだよ。目も合わせてくれないし、幽霊と話してるのなんて、端から見れば独り言を言ってる変な子に見えちゃうんだから」
確かに、るしあ先輩の印象は初対面の時とはだいぶ変わった。
初めてあった時はただただ大人しくて、恥ずかしがりやな少女という印象だったが、喜怒哀楽のはっきりした明るく心優しい人物だということが分かってきた。
今ではその保護欲をそそられる容姿と、思いやりのある性格から学内にもファンが多い。
ただし、彼女はメル先輩と違い、そういった存在に気づきながらも、決して関わろうとはしない。
なぜなら----------------
「常闇さん、今少し空いてる?」
「先生。どうかしました?」
「昼食が済んだら、これをちょこ先生に届けてほしいの」
「わかりました。私はもう食べ終わったので、今行ってきます」
「ありがとうね」
「先輩方.......そういうことなので」
「うん。わかった。大丈夫だよ」
「またね。トワ」
「はい。それでは」
____________________________________
「あんたさぁ......マジでメル先輩のなんなわけ?」
「えーっと......」
うわぁ......
今までは、こんなに大胆な行動はとって来なかったんだけどな......
こんなことをするのは、漫画の中の世界のひとだけだと思っていたけれど、事実は小説より奇なりってことか。べつに「奇」なんかとはとても呼べないけど。
「るしあ先輩とも楽しく会話しちゃってさ。大した生まれでもないくせに、何様のつもり?」
私とメル先輩が幼なじみの関係にあることは、あまり知られていない。
るしあ先輩がなぜメル先輩や私と一緒にいることが多いのか......というか、どうしてここに来ることになったのか。それも知られていない。そもそもこちらに関しては、あまり表沙汰にするわけにもいかない話だ。
「話はそれだけ?ならもう行かせてもらうよ」
「待った」
先程は3人しかいなかったはずなのにいつの間にか4人増えている。完全に囲まれた状態だ。
「よっと!」
「あぐっ!?」
いきなり腹部を蹴られ、思わず倒れこんでしまった。
「メル先輩もるしあ先輩もお嬢様なわけじゃん?身代金目当ての拉致監禁とか不安じゃない?お二人の側にいるんだったら......そういうのから守れるくらい強くならないとねー」
「アハハハハ!!大丈夫大丈夫!あたしらが鍛えてあげる......よ!!」
「あぅ!!」
胸部を踏みつけられ、声にならない呻き声をもらす。
痛い。
本当にこんなことは、今まで一度たりともなかったのに。
「いたい!いゃ...やめてください!」
「は?何?あたしらに命令するの?」
「違う!そんなんじゃ」
「うるさいんだよ!!」
「ごふっ!?」
やばい。本気でやばい。
最初は蹴るだけだったが、時間がたつにつれて魔力を使い始めた。そこまで魔法耐性が高くない私からすれば、当たりどころと出力次第では学生の一撃でも致命傷になりうる。
段々頭がボーっとしてきた。痛みはあるはずなのに、意識は薄れていく。少しずつ視界が狭まってきた。
そのときだった。
「お前さんたち、何をしているんだ」
あえて言うなら、苛烈で、熱烈で、壮絶で、猛烈で、それでいて儚くて可憐な、そんな存在感を放っていた。
「校内でのいじめは余が取り締まることになっとる。あまりおいたが過ぎると......」
「余も少し強引な手段をとらなきゃならん」
その場の全員が、完全に彼女の気迫に呑まれていた。
「あ......あぅ、いこっ!皆」
「まったく......大丈夫か?助けるのが遅くなってごめんな」
美しく煌びやかな白髪をなびかせて振り返った彼女は、先程の凛々しい顔とは一変、どこか幼さを感じさせる可愛らしい笑みを向ける。
「あ、はい......」
「ひどい怪我じゃないか......ほら、肩を貸すから」
「あっ......ありがとうございま......す......」
そこまで言って手を伸ばしたところで、私の意識は完全に闇に沈んだ。
____________________________________
「あら?目が覚めたかしら?」
「......ここは......?」
どうやら自分はベッドの上で横になっていたらしい。
机に向かっていた保健室の癒月ちょこ先生がこちらに体を向け直す。
「大きな怪我がなかったのは幸いね。目立った外傷は魔法で治療済みだから安心して」
教育機関に勤める者としては、あまりにエロチックな衣装に身を包み(そもそも胸は包みきれていない)、常時甘いフェロモンを纏った彼女に対し、百合っ子でもないのに、自分が女であることも忘れて見入ってしまう。
「どうしたの?呼吸が若干荒いけど......まだどこか痛む?」
「あぇ!?......いえ、何でも」
「そう?ならいいんだけど」
実のところ、このひとは外見以上に中身がエロい。
男子生徒にでも無防備なところを晒してドギマギさせる。それも天然ならいいのだが(逆に危ない気もするが)、彼女は間違いなくわざとだ。なんなら男子生徒にこそその様子をよく見せ、その反応を楽しんでいるのだ。
このひとがサキュバスじゃないとか絶対嘘だろ。
「ところで......トワ......私は、あの時どうなってたんですか?」
「どう......か。そうね......」
ちょこ先生は少し考える素振りを見せ、私の問いに答えた。
「あなたは集団リンチにあってボコボコにされた。その理由までは知らないし、言いたくないなら訊きはしないけど。で、あやめ様があなたを助けたってわけ」
「あやめって、生徒会長の百鬼あやめ先輩ですか?」
「そう。後でお礼とか言っておいてね。彼女、感謝されると嬉しくなって伸びるタイプだから」
「あの......私、百鬼先輩のことはよく知らないんですけど、どんなひとなんですか?いや、助けていただいたわけですから、いいひとなのは分かってるんですけど」
「う~ん......そうね......一言で言うなら、正義感が強くて明るい子ね。ここだけの話、今の天使と魔族との関係を改善したいって思ってて、いずれは魔界学校と天使学校の交流授業みたいなことをしたいって考えてるの」
天使学校との交流。
その言葉は、私にとっては何よりも魅力的なことだった。確かに、一学生に数世紀に及ぶわだかまりを改善することなど無謀もいいところだ。しかし、それを志すひとが現れたということは、確かに状況が良い方向に向かっているという証ではないか。
「では、ちょこ先生。私はこれで」
「大丈夫?送っていきましょうか?」
「いえ。さすがにそこまでしていただくのは申し訳ないですよ。では、ありがとうございました」
百鬼あやめ先輩、か。
____________________________________
「ごめん!あの時、トワを一人にしなければ......」
「大丈夫ですよ。あんなの想像できっこないですって」
「ううん......本当にごめんね......」
シュンとしおらしい反応を見せるメル先輩。可哀想は可愛いとはよく言ったもので、年上であるはずの彼女に、言葉では表し尽くせないほどの庇護欲に襲われる。
自分が男だったら、我慢できずに理性が飛ぶか、鼻の下を伸ばして気持ちの悪い笑みを浮かべていたことだろう。
「また何かあったら、必ず言ってね。二度とこんなことが起きないよう......ん......とにかくなんとかしてみるけど、やっぱり、絶対大丈夫っては、言ってあげられないから」
「いや、本当に大丈夫ですから......そんな反応をされるとこっちが困っちゃいますよ!」
なんせここは以前と同じ食堂。公共の場である。すぐ近くにはいないというだけで、周りを見渡せば、こちらを見ている者たちは多い。学内のアイドルを泣かせたなどと噂があがってはたまったものでは_________
「あーあ!トワ、メルちゃんを泣かせた~いけないんだ~」
「ちょっ!だから違いますって!」
「あっはははははは!!!」
いったい何がそんなに面白いのか。甲高く幼い印象を覚えるような笑い声をあげる少女。
「いや~トワが虐められたっていうから来てみれば、アイドルオタクの暴走に巻き込まれたとは驚きだな~」
「言い方に若干トゲがあるんですが」
「え?今大丈夫?」
「はい。ちょこ先生に治療してもらったので」
「ちょこ先生......へぇ......」
ニヤニヤしやがって......なんやねん
今この場にいるのは、昨日のメル先輩とるしあ先輩、そして目の前にいるシオン......さん。
彼女は魔界学校の生徒ではない。内部の設備にかなり詳しいことから、この学校の卒業生であることは予想できるのだが、名簿に名前が載っていないのは確かだ。
............このひといったい何してるひとなんだろ。
本人曰く、大人の女性である、とのことで、正直、普段の子供っぽい言動を見せられてそうなのかと納得することはできない。
シオンさんとか、シオン先輩というよりは、シオンちゃんと呼ぶ方が適切だろう。
「で、私を笑うためだけに来たんですか?」
「ん?あぁ、そうだった。るしあの定期検診。この後時間ある?」
「はい。特に予定はないのです」
「ならよかった。いつもごめんね」
「いえ、そんな......私は助けてもらっている立場ですから」
シオンちゃんはこうやって度々るしあ先輩の様子を見に来る。向き合って会話するだけでも、魔力の調子はなんとなく感じ取れるのだそうだ。
「そういえばメル先輩、私を助けてくれた百鬼先輩にお礼を言いたいんですけど、私一人じゃ会わせてもらえないと思うので、申し訳ないんですけど、パイプになってもらえませんか?」
「わかった。むしろそれくらいはさせて」
「ありがとうございます......あの、百鬼先輩って、どんなひとなんですか?先輩のことは噂程度でしか聞いたことがなくて」
「そうだね......一言で言うなら、正義感が強くて明るい子、かな」
意外なことに、メル先輩の口からはちょこ先生と全く同じ答えが返ってきた。
「あの子も不器用だよね。なまじ力があるせいで、自分にしかできないことってのに執着してる。可愛い限りだよ」
なまじって......
百鬼先輩は歴代生徒会長の中でも最上位に位置する力をもっており、もはや学生の域を軽く超えた存在と言っていい。(本人の話を信じるなら)いくら大人でもあまり余裕のある発言はできないのではないか。
シオンちゃんはいつの間にかるしあ先輩の背後にまわり、ほっぺをぷにぷにと触りながらこちらに視線を向けてくる。
「あの子は夢の割に社会を知らなすぎるというか、人との関わりが圧倒的に少ない。メルちゃんやちょこちゃん以外にも、ちゃんとお話できるひとを増やすべきなんだよ。トワ、良かったら、あやめちゃんと友達になってあげてくれない?」
「そんなそんな......まだ会ってもいないのに気が早いですよ」
シオンちゃんは私の話を聞いた後、う~んと子首をかしげて唸り、
「それもそっか」
とだけ言った。
「でも、そうだね。せっかくトワがあやめちゃんとお話してくれるなら、もっと友達も増えてほしいよね。るしあちゃんとか、すごく気が合うと思うよ、彼女」
「へぇっ?」
それまで話題に出ていなかった自分の名前が急に出てきたことで、素っ頓狂な声を上げるるしあ先輩。
「あの子は、色々と似てるから。るしあちゃんと」
「私と、似てる......えっ!?どんなところなのですか!?」
恥ずかしがり屋ではあるものの、人との関わりに飢えているるしあ先輩は、かなり食い付きの良い反応を見せた。
それにしても、色々と......か。
るしあ先輩と似ているということは、そういうことなのだろうか。
しかし、私には深く思案を廻らせられるような頭はない。それなら、実際に会って、雰囲気次第では、話してみても良いかもしれない。
遠い遠い友人を。手が届いても、繋いでいられない友人のことを。
この作品は、ホロライブの二次創作小説です。いずれ戦闘シーンが出てくることもありますので、苦手な方は閲覧をお控えください。ホロメンを傷つける意図はまったくないので、ご理解いただければ幸いです。若干の設定、性格の変更があるのもご理解ください。