「人間ひとりに獣人ふたり。我ら宝鐘海賊団!船もないけど仲良くしてね!!」
「あっはい」
なんか良く分からないけど愉快な人たちだ。先に出会った少女がややぶっきらぼうだっただけに、明るそうな獣人2人の登場でなんとなく緊張がほぐれたような気がする。
「わためぇは角巻わため。そしてこっちが......」
「兎田ぺこらペコ!そんでこっちが宝鐘マリン。さっきも言ったけど、この3人で泣く子も漏らす宝鐘海賊団!!フッフッフ~命乞いするなら早い方がいいペコよ~」
兎田ぺこらと名乗った兎の獣人の少女は、声のトーンを必死に落として低い声を作る。その精一杯の大根演技が妙に愛くるしくて、庇護欲や母性のようなものが刺激される。
いや、それはそうとして......
「宝鐘......かいぞく......団?」
「うっそぺこーらたちのこと知らないペコか!?」
「はい......すみません。あっ!えっと......わたしは......」
そこでまたぐぅとお腹が鳴る。
「ひとまずご飯にしよ!自己紹介や詳しい話は落ち着いてから」
角巻わためという獣人がそう笑いかけた。
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「宝鐘海賊団?」
「そう。世界中で差別の対象にされている獣人や特異な能力者を開放することを目的とした革命軍的な組織だったんだけどね。活動が過激化しすぎてきた、白銀と桐生に討伐命令が下った」
今朝、用があると家にやって来たフレアさんは、歩きがてらに現在従事している任務について語ってくれていた。
「そこのリーダーの宝鐘マリンって人がこれまた強くてさあ。周辺諸国最強である白銀騎士団の団員3人分に相当する強さって言われてるんだよね。私も2度戦ってるんだけど、強かったなぁ......一対一なら少し厳しいかも」
フレアさんの保有する魔力量は、メルさんに匹敵する。メルさんは学生とはいえ、生まれ、才能、努力量どれも申し分なく、下手な成人の天使悪魔を上回る。
加えて人界の生物は天界や魔界と比べて魔力を体内に取り込みにくい分、戦闘能力や生存能力は一、ニ段階下になってしまう。
「それでも、ノエルやココちゃんクラスとなると難しいだろうけどね。実際2人はそれぞれ一度、宝鐘マリンに勝ってるわけだし」
「そんなに何度も戦いを?」
「不幸な遭遇戦の時もあったけどね。一人ひとりの質では負けるつもりはないけど、なにぶん数が多かったから。騎士団だけだったら、ノエル以外は全滅してたよ」
「強いんだね......ノエル、さんって」
「うん。単に信頼してるってのもあるけど、あれほどまでに逸脱して強い人を私は知らない。ノエル一人で、小国に匹敵する力があるよ」
いくらなんでも逸脱しすぎな気がする。
人間の範疇に収まっていない。
「で、そのノエルがかなたちゃんに会いたいんだって。昨日のことを謝りたいんだと思う」
そういえば、昨日城に落ちたボクの首筋には銀髪の騎士、白銀ノエルの剣が向けられていた。
「今までの話を聞いてると身構えちゃうかもしれないけど、優しくて明るいこだから、仲良くしてあげてね」
せやろか。
せやった。
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「と、いうわけで!これからにっくきお菓子の国の都に殴り込みに行くペコ!」
「これから!?」
どういうわけなのか、理解できるポイントが1つもない。
「たった3人で国を相手にするんですか!?」
「4人ペコ」
「トワも!?」
「命を救ってやったんだから、恩は返してもらわないと困るペコ」
「助けたのぺこらちゃんじゃないけどね」
わためちゃんがこちらを向いて言う。
「今回の目的は、虜囚として捕まっている船員さんの解放。ぺこらちゃんと船長が時間稼ぎをしている間に、わためとトワちんで城の地下に忍び込むの」
「トワちん?」
「うん。トワちん」
「トワちん.......」
トワちん......トワちんかぁ......
......じゃなくて、
「マリン船長がリーダーなのに時間稼ぎなんですか?やっぱり目立つから?」
「それもあるけど、単純にわためじゃその役が勤まらないからね。新参者のわためじゃ信用されない可能性もあるから、こっちはこっちで難しいんだけどね」
そこでマリン船長が説明を引き継ぐ。
「警戒すべきなのは白銀ノエル、不知火フレア、桐生ココ、白銀騎士団団員。桐生会も厄介だけど、兵の練度は白銀の方が上。ぺこらやわためじゃコイツらの相手は十秒ももたないから、私が行くしかないんですよ」
「面目ない」
「その間ぺこーらは城下町のあちこちを動き回って陽動をするぺこ。金髪エルフを除けばぺこーらに追い付けるやつなんていないペコ!......いないペコよね?」
「正直そこは賭けだね。どちらにせよ、こういう配置になってるのはそういう理由。わためには戦闘力がないから、護衛として一緒にいてくれるとありがたいかな」
「............」
「恩返しだと思って......」
「お願いするペコ......」
「ッ~~~~~!!もう!わかりました!てつだいますよ!元々悪魔ですし?悪事とか大得意ですから!」
「「やったーー!!」」
さすがに助けてもらった恩を持ち出されてしまったら何も言えない。
「三日三晩かけて必要な品は揃えたペコ。今から突撃するぺこ!」
「衝撃に備えろー!お菓子の国ー!」
本当に大丈夫だろうか............気が滅入る。
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「いや~ごめんね!ルーナ姫は早くに両親に先立たれてから、権力を握りたい奴らに無理やり王座にのしあげられてから、そいつらに好き勝手されないように頑張ってるからストレス溜まってて不安定なんだよね。だからなるべく心配させたくなくてさ」
白銀ノエルは年相応に気さくで明るく、若干おっとりした少女だった。
さしずめ『ゆるふわ騎士』といったところか。
「あ、お菓子もっと食べる?いっぱいあるよ」
「いや、結構です......」
めっちゃ食うなこの人。太らないのだろうか。訓練の賜物?それともあのデカい胸にばかり栄養が集中するのだろうか。
「でもココちゃんが興味を示すなんてね。意外じゃ意外じゃって思ってたんだけど。どう?一晩一緒に生活してみて」
「どう、と言われても ......散らかってるし、それが全部ドラコンサイズだし、寝相悪いし、そのせいで潰されそうになるし、朝ごはん作らないし、、、」
「あっはっはっは!仲良くできとるみたいで何より何より」
今のどこに仲良し要素が?
「ノエル、そろそろ」
「あっ、そっか」
フレアさんの声掛けを受け、ノエルさんが立ち上がる。
「私の自由時間はもうすぐ終わりだから、今日はこれで。また会おうね」
「はい......あっ!そうだ!」
人界に来てから、まだトワと会えていない。
「もし、余裕があれば、ボクの友人を探してほしいんです。ボクの全力を尽くしますけど、1人じゃどのくらい時間がかかるかわからなくて......」
「いいよ!どんな娘なの?」
「っ!ありがとうございます!えっと、紫の髪に黒の帽子を被ってて、金の瞳にショートパンツの......あ、でも、着替えとかを手に入れてたら」
「大丈夫。紫の髪も金の瞳もここらじゃ珍しいから。帰りはどうする?」
「大丈夫。私が送ってくよ。ノエルは先に行ってて」
「ありがとう、フレア。じゃそういうことで」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!!」
ノエルさんは手を大きく振って去っていく。
昨日は混乱と疲労で何もできなかったけど、トワとなんとか合流して、魔界学校に戻らなくてはいけない。
皆は無事だろうか。
そんなことを考えながら、ボクとフレアさんも帰路につくのだった。
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「......町の人たちには申し訳ないけれど......小規模だから、ちょっとだけ我慢してもらうペコ!」
町の西端で爆発が起こるのと、フレアさんが駆け出すのはほぼ同時だった。
どうしてよいか分からず、なんとか後を追いかける。
「何があったんですか、あれ!?」
「事故じゃないっぽいね!こんな大胆なテロは久しぶりだなあ!!」
続けざまに2ヵ所、3ヵ所で爆風が巻き上がり、人々の悲鳴がこだます。
「なっ!?」
「あの時の宝鐘海賊団は限界まで育っていた......あれ以上の質を増やすのは難しいだろうし、逃亡した兎田ぺこらで間違いない!_______ッ!?」
フレアさんは前を見て慌てて足を止める。
相対するのは、真っ赤な衣装に身を包んだ海賊。
「ここから先には行かせません」
「宝鐘マリン!」
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「フッ_____ハァ!!」
焔の騎士不知火フレアと紅の海賊宝鐘マリン。
一進一退の攻防はあまりに高い技術とフィジカルによって、完成された舞のように、視た者を魅了してしまう苛烈さと優雅さがあるように思われた。
しかしそれは、人々を楽しませるための演劇や戯曲などでは断じてない。
一切慈悲の入る余地のない、命の削り合いであった。
エルフであるフレアは、種族的特徴や経験から、弓矢の扱いを得意とする人物だ。そもそもエルフの弓兵は人界の兵士の中でも最も多芸な兵の一種だ。彼女も例外ではなく、短剣やレイピアを用いた剣術、体内を流動する魔力すら利用したしなやかな動きで相手を翻弄する体術を身に付けている。これらを器用に使いこなし、相手に一切の隙を与えることなく完封するのだ。
しかし、それに遅れをとる宝鐘海賊団の船長ではない。
フレアとは対照的に、死と隣り合わせの経験から生まれた、野性的で、それでいて落ち着いて敵の命を狙うハンターのような戦闘スタイルをもつ。武器はサーベルと銃の2つ。
本来サーベルとは非常に脆い武器であり、騎士団で活躍するフレアの筋力を相手にすれば数合と保たずに折れてしまうだろう。それを理解している彼女は、打ち合うことはせずに、攻撃は回避しながら突きや斬撃をはなつ。戦っている相手の力量を考えれば、針の穴に糸を通すような繊細な動きである。
天音かなたは、ただ見ていることしかできなかった。
自分は天使。神から遣わされる使徒であるにも関わらず、この間に割って入るどころか、フレアの援護でさえすることが叶わない。
圧倒的なまでの実力不足。
歯がゆい思いを圧し殺し、自分が今すべきことを探す。この戦いを見届けたい気持ちもあるが、自分の役割があるのはここではない。
考えなくてはいけない。
先程までの爆発はお世辞にも規模が大きいと言えるものではない。敵は国内随一の機動力をもつフレアが、あの爆破テロを止めに行かないように足止め、あわよくば撃ち取ってしまおうと考えている。ならば、町の爆破が目的であるはずがない。これはあくまで撹乱。本命は別にある。
今フレアは手が離せない。ならば、ここは彼女を信じ、天音かなたは、偉大なる龍の家へと走った。
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「姫!騎士不知火フレアが敵の首魁、宝鐘マリンと交戦中!現在増援が向かっていますが白銀騎士団は避難誘導で手一杯。桐生は............おそらく家で寝ています」
「ノエルちゃんは?」
「現在白銀団長は中心部の民の避難誘導で手が離せない状況です!今彼女に離れられると、心の拠り所を失った民を抑える手段がなくなります」
「そっか......仕方ないのら。『地下室の彼女』を動かすのら。連中の狙いは地下牢。必ず捕まえるのら」
「あれは......確かに強力ですが、さすがに過剰せん_____」
「そんなことだから宝鐘海賊団があそこまで大きくなるのを見逃すことになったのら。研究室のやつらにも同じことを伝えるのら」
「..................了解しました」
兵士が走り出していき、独り、椅子の背もたれに身を委ね、疲れの溜まった目元をほぐす。
わざとらしい大きなため息をつくが、嫌味な態度は誰にも届かなかった。
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戦いを見る者がいなくなろうとも、2人の戦いは終わらない。
戦況は互角、いや、わずかにフレアが勝っていた。
「クッ......」
「悪いけど、私もあの時から遊んでたわけじゃないからね。あの時は3対1だから勝てたけど、今度は私ひとりでも!」
「.......そうみたいですね。それならこちらも出し惜しみは無しです」
マリンは右目の眼帯を外す。
刹那。フレアは紙一重で突きを回避した。
単に視野が広がっただけではない。
目に見えて動きが俊敏になり、攻撃にも力が入る。
自分が優位に立っていたことで若干生まれた心の余裕がそのまま隙になっていた、と自分を反省する。
再び打ち合うために気持ちを切り替えるが、サーベルの動きを見るので精一杯だった。
「......ッァ!?」
武器に意識が向いた隙を狙ったマリンの肘打ちがフレアの腹筋を貫く。
しかし、初めてマリンの体がフレアに接触した瞬間だ。そのチャンスを見逃さず、フレアは武器を捨て、マリンに組み付く。
さすがに虚を突かれたマリンは武器を落とし、背中を地に打ち付け苦悶の表情を浮かべる。
小細工の通用しない肉弾戦ではフレアには敵わないことはマリンも重々理解していた。
やや大振りの蹴りで僅かにフレアが体をそらした隙を狙って無手の範囲から脱出する。
狙ったわけではなかったが、幸いにも落とした武器の近くに戻ることができたため、即座に武器を拾って構え直が、それは相手も同じこと。
お互い疲労が溜まり、膠着状態に陥る。
「副団長!」
フレアは駆けつけてきた部下の声を背中で聞いた。どうやらタイマン勝負はここまでのようだ。
(不知火フレア一人でも一杯一杯なのに、今この状況で白銀の増援はまずい......)
こうなっては、防御に全力を回しても不利。そう悟ったマリンだったが、今自分がここで踏みとどまらなければ計画は完全におじゃんになってしまうという思いが、なんとか自分を奮い立たせる。
増援は2人。以前負けた時と同じ状況。
(............問題ない)
しっかりと敵を見据えるマリンの目は、歴戦の猛者たる白銀騎士でもそう感じたことのない殺気を纏っている。
それぞれが武器を手に、相手の意識が揺らぐ一瞬の隙をつくために、神経を極限まで研ぎ澄ませる。
そんなこの場の空気を破ったのは、フレアでもマリンでも白銀騎士でもない全くの第四者だった。
「せんちょー!」
「わため!?」
「計画は失敗!撤退するよ!地下にとんでもない奴がいた!!」
(考えることは山ほどあるけど、取りあえず今は_____)
わための言葉に従って撤退を決めるマリンだったが、戦闘態勢が崩れた一瞬を見逃すフレアではない。
「行かせない!」
強く地面を蹴り、首筋目掛けて短剣を向ける、が_____
「ペコォ!」
突如現れた兎の獣人のかかと落としを避けるために瞬時に身を引く。
「トワちゃん!でっかいの頼むペコ!悪魔なんだからそのくらいできるペコでしょ!」
「あー!もう分かりました!≪
本来は吸い込んだ者の精神を崩壊させる霧を広範囲に撒き散らす危険な魔術だが、また勉強中の身であるトワが使えば、多少は警戒に値する牽制程度に収まる。
「今のうちに逃げるペコ!」
「くッ!」
「ま、待て!」
「危険です!副団長!」
自分の手で決着をつけられなかったのは悔しいが、この有利な状況下で敵を逃がすわけにはいかない。フレアは霧にも臆することなく進んでいく。
と、そこに新たなる乱入者がいた。
「どぉりゃぁぁぁあああああ!!!!」
「ぴゃァァァアァァアァアアア!!!!」
「オラァ!天使公!どいつだテロリストってのは!......あれ?もう終わるところ?」
強大すぎる増援に、フレアはすぐさま声をかける。
「っ!ココちゃん!そいつら!逃げられる!!」
「おお!そいつらか!よっシャァ!!」
ココは魔力を纏った拳を大きく振りかぶる。彼女の力であれば、ある程度離れた距離の敵も一掃できてしまう。
しかし、ココの腰に抱き着いてなんとか振り落とされないようについてきたかなたが声を上げた。
「ってトワ!?」
「え?かなたん!?」
天使と悪魔の目であれば、たいした魔力の込められていない霧など無視してその先を視認できる。
「え?知り合いデスか?」
天使公の思いもよらぬ反応に、ココも一瞬ながら戦意を削がれる。
「..................今ペコ!逃げるペコーーー!!!!」
「あっちょっと、」
「脱兎のごとくーーー!!!!!」
どんな手を使ったのかはわからないが、あっという間に姿が見えなくなってしまう宝鐘海賊団一行。
天音かなたは、彼女らが消えた先を呆然と見つめるしかなかった。
今さらながら若干の性格、一人称、二人称改変等はご了承ください。ホロライブタレントの皆さんを貶める意図はございません。前にも言ってた?そうでしたっけ......
地の文書くのって難しいなぁ......