ホログラムストーリー   作:すダコ

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ホログラムストーリー 5話

 宝鐘海賊団の緊急アジト内は、重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

「………何があったんですか」

 

 始めに口を開いたのはマリンだった。

 

 それに応じる形で、わためが答える。

 

「最初は普通の女の子だと思ったんだ。でも違ったの。あの子……いや、あれ?なんでもいいけど。とにかくどうしようもないくらいヤバくて、ミサイルみたいなやつをバンバン飛ばしてきて……急に動きが止まったからなんとか逃げ出せたけど。船長、1つ言えるのは、この国の最強は二強じゃなくて三強かもしれないって事だよ」

 

「そこまでか……」

 

 ため息交じりの呟き。一緒に弱音も漏れてこなかったのは彼女の胆力の賜物か、それとも言葉も出ないほど心が衰弱しきってしまっているのか。

 

「あの…ぺこらちゃんは?」

 

 恐る恐るトワが尋ねる。

 

「ぺこらちゃんは…ちょっとね。大した怪我人が出なかったのは幸いだったけど、戦いとは無縁の人を傷つけることになったのはさすがに堪えたみたい」

 

「そっか………」

 

 しばしの沈黙。緊張ではなく絶望が漂う。

 

 誰もが口を開くことを憚られた。

 

「ねえ、船長。ううん、マリンちゃん。もうやめない?」

 

 それは角巻わための、彼女の精一杯の一言だった。

 

「もう十分だよ。マリンちゃんたちのやったことはすごく大きなだし、きっと後の歴史にだって残る。いつか、それに感化された人が立ち上がってくれるよ。それまで獣人はもう一踏ん張り……」

 

「だめだ!!」

 

「っ!?」

 

 外で雷鳴が轟くのと同時だった。

 

 込められた感情は、わための弱音に対する怒りなどではなく、深い、深い悲しみ。

 

 今にも泣き出してしまいそうな声色に、思わずわためも口をつぐむ。

 

「だめだ……それじゃだめなんだ。そんなことじゃるしあは…るしあは……」

 

 るしあ。その人物をトワは知っている。

 

 悪魔と人間の混血児。魔界でも珍しい死霊使い。災害の影響で身体に欠陥を抱えた不幸な少女。人界からやってきた来訪者。自分のよく知る学校の先輩。

 

 トワはそれを伝えることができなかった。

 

 マリンの顔を見て、溜め込んで、溜め込んで、爆発寸前の表情を見て、それを伝える勇気はなかった。

 

 思えば、常闇トワにとって潤羽るしあはよく知る人物と言い切れるのか微妙な気がしてきた。

 

 災害により彼女が抱えることとなった問題については知らない。どうやって人界に来たのか知らない。今無事なのかを知らない。彼女のもとに駆けつける術を知らない。

 

 変に期待させて、それをその場で裏切って。そんなとき、目の前の彼女がどう思うかなど想像したくなかったし、実行してみる気にもなれなかった。

 

「そういえば……城下町にいた白い女の子。トワさんの知り合いのようでしたが」

 

「はい。幼いころからの友人で、はぐれていたんですけど」

 

 あの状況で会えたのは幸福とは言い難かった。

 

「どうすればいいんだろ……これから」

 

 誰にも聞こえないよう小さくつぶやいて、座り込んだ状態の自分の膝に顔をうずめるのだった。

 

__________________________________________________

 

 思い悩んでいたのは、天音かなたも同じ事。

 

 窓辺に座り、意味もなく外を眺めていた。

 

「………」

 

「……………」

 

「…………………………」

 

「あ”あ”ーーーっ!!もうッ!こっちの気も滅入るからやめろっての!」

 

 サイズを抑えた同居人の言葉に、天使もようやく黄昏れることをやめた。

 

「あれ、お前の友人なんだろ?」

 

「うん」

 

「どうすんだ」

 

「わかんないよ………」

 

 涙のにじむ顔を見られたくなくて、両手で顔を覆い隠す。

 

 友人がテロリストまがいの集団と一緒にいるのは何故なのか。

 

 脅されているのか、自らの意志なのか、だとしたら何故なのか。

 

 いくら頭を働かせても、何もない自分にはどうしようもなかった。

 

「なんでボクはこんなに弱いんだろう」 

 

 もっと力があれば、広い知見が、何処へでも飛べる魔法があれば、もっと、立ち止まっていないで自分の足で探りに行ける心の強さがあれば。

 

 自分が何に迷っているのかも分からぬままに迷い続け、何度目かも分からない錆び付いた溜息をついた。

 

「強さが欲しいのか。だったら手ェ貸してやるよ!」

 

「え?」

 

 顔を上げると人間態の桐生ココの眩しい笑顔がこちらを捉えていた。

 

 よく見ると整った顔立ちをしている。

 

 身の回りはだらしないが、その出で立ちは実に凜としていて、猛々しさを感じさせる。

 

 変身魔法を使えるから外見スペックの調整は自由なのか、竜特有の能力による変化なだけで、竜以外はこの姿にしかなれないのか。質量に変化があまりにも大きいので後者であるのだろう。

 

 ココはゆっくりと手を差し伸べる。

 

 細くも力強く、頼もしい指先に自分の手を乗せるかなたは、自分が筆舌に尽くしがたい不思議な感情にあることを理解した。

 

「ココ……」

 

 いつの間にか呼び捨てになっていた相手の名を呼ぶ。

 

「天使公……」

 

「ココ………」

 

「よっしゃ、今から鍛えるぞ!」

 

「え”」

 

「まずは筋トレ!腹筋百回からじゃ!」

 

「あの、ボクが嘆いていた弱さっていうのは、その、心の弱さ的なアレであって」

 

「関係ねぇ!健全な肉体にこそ健全な精神が宿るって言うだろ!?行くぞ!!」

 

「ちょっとまって~~~!?!?」

 

 お菓子の国の都の一画。

 

 巨大な家に天使の儚い悲鳴がむなしくこだますのだった。

 

__________________________________________________

 

 王城に隣接する上級貴族の屋敷の敷地には兵士の訓練施設が存在し、あらゆる状況を想定した実戦的な訓練で危機察知能力や咄嗟の対応力を育む。

 

 今はすでに太陽が沈み、月明かりと街灯を頼りに皆が外を歩いている。

 

 そんな時間にそこを使えるのは、管理人の許可を得た者。あるいは___

 

「ハァッ!!」

 

 すらりと伸びた美脚が白と黒の鎧を捉える。

 

 エルフのスペックと日々の鍛錬により、外見以上の破壊力を宿した剛脚。

 

 しかし、それを受ける相手は、それで倒れるほどヤワではない。上空からの踵落としを両腕でガードする。

 

 上からの衝撃に一切ひるむ様子の見せない白銀ノエルは、続く斬撃のことごとくを最小限の動きで対処する。元の立ち位置から一、二歩の動きで回避行動を済ませるノエルにフレアは思い切って踏み込み、両手の短剣により先程以上の斬撃の群を放つ。

 

 常人では目視することすら困難な刃の舞踏。それをノエルは正面から両手剣一本で捌ききり、思い切り一歩を踏み込む。

 

 震脚によって発生した揺れに体勢を崩され、後ろに倒れそうになるのをなんとか耐えるフレア。

 

 だが、愛用のメイスに武器を持ち替えたノエルの横薙ぎの風圧に飛ばされ、一瞬宙に浮いた感覚を覚えた後尻餅をつく。

 

 うめき声を上げる間もなく、剣先を眼前に突きつけられ、降参を意味する両腕を上げた。

 

「立てる?」

 

「大丈夫。ありがと」

 

 ノエルに手を引かれ、フレアはよっこらせと声を漏らしながら立ち上がった。

 

 お尻の辺りの汚れを叩いて払う。

 

「いやー………やっぱ強いねノエちゃんは」

 

 二人きりの時にしか使わない二人称であっけらかんとそう言った。

 

 そう言ったのだが、奥深くに含まれる感情を感じ取って押し黙る。

 

「ノエちゃん………」

 

 弱々しく潤んだ声だった。

 

「私………また勝てなかった……なんでこんなに弱いんだろう。私、頑張ってきたのに」

 

 嗚咽混じりにこぼれ出す感情を吐露する。

 

「このままじゃ、弱いままだよ……強くなりたい………」

 

 フレアは十分に強い。そう言おうとしてノエルは慌てて口をつぐむ。

 

 ノエルは国内どころか周辺諸国最強の人間だ。謙遜しても、それは純然たる事実だ。

 

 互いがそんな気がないことを分かっていても、嫌味っぽくなってしまうのは臨むところではない。

 

 宝鐘海賊団残党の城下町襲撃事件。それは、多くの人の心に影を落とすことになった。

 

 それは、この少女も例外ではなく___

 

「あぅぅ……うあああああ!!!」

 

 自室のベッドで枕に顔を埋め、声を押し殺すこともできずに泣く少女。

 

 使用人は気を遣って扉を開けない。

 

「なんでっ……なんでルーナの時ばっかり!!」

 

 それは、なんの力も持たないちっぽけな少女の魂の慟哭。

 

 お菓子の国は2代前までは他国と友好的な関係を築いていた。

 

 それが変わったのが、先代、つまり彼女の父の代。

 

 過激な行い、重税、強者が弱者を喰らう徹底した実力主義。よく国が崩壊しなかったと思うほかない。

 

 彼は母親にも度々暴力を振るい、腹の中の子どもごと殺してしまった。後継者を失った彼は、孤児院から特別優秀だったルーナを引き取り、幼子にとっては拷問まがいの教育を強制した。

 

 おそらく誅殺されたのであろう父の後釜として担ぎ上げられた。

 

 誰一人として信用できない王宮。小国の軍事力に匹敵するレベルまで拡大した宝鐘海賊団。なぜか自分に忠誠を誓うドラゴンと、抱えきれない悩みの種。

 

 彼女は限界だった。

 

 そんなときに現れた天使に、壊滅したはずの海賊団の残党。もはや彼女にはどうすることも出来なかった。

 

 ……あの天使はあの場で殺すこともできた。自分はなぜそれをしなかったのだろうか。

 

 考えても仕方のない事だった。

 

 




本作オリジナル設定のせいで船長と姫の精神状態がかなり危険なことになっておりますが、これをどう解決していくかが腕の見せ所………なんて大口をたたく度胸はございません。
頑張って良い作品にしていきますので、ほどほどに応援していただければと思います。
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