ホログラムストーリー   作:すダコ

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ホログラムストーリー 6話

「オラァ!キビキビ動けェ!!」

 

「ひぃ~!!」

 

 天使がジョギングしていた。

 

「ジョギングじゃだめなんだよ、ダッシュしろや!」

 

「ひぃ~!!」

 

 天使がダッシュしていた。

 

 天音かなたがお菓子の国に来てから2週間。現在彼女は宝鐘海賊団の行方を追う傍ら、同居人桐生ココと筋トレやランニングに励んでいた。

 

「っ、ハァ、ハァ、ハァ……もう……限界…………」

 

「そこそこ走ったし、今日はここまでにするか」

 

「よかった……」

 

かなたは地べたの上で大の字になり、目元の汗を拭った。

 

「意外と伸びしろあるじゃねえか。目に見えて成長してるぞ。やっぱ天使だからか?」

 

 ココはニヤッと笑って見せ、かなたにタオルと水筒を渡す。

 

「ありがと。それで、相談したい事って?」

 

 汗をタオルに染み込ませながらココを見上げるかなた。

 

 この日のかなたはココから相談を受けていた。具体的な内容は今日やることが済んでからと保留にしていたが、ここで話を持ってきたようだった。

 

「あぁ、それが、うちのお姫様の話でな」

 

「お姫様って、ルーナちゃん?」

 

「ちゃん付けだぁ!?」

 

「……ルーナ姫」

 

 かなたは不満そうに水を飲んだ。

 

「とりあえず、うちのお姫様と遊んできて欲しいんだよ」

 

「ブッフォ!!?」

 

 盛大に吐き出された水が宙を舞い、綺麗な虹が出来た。

 

「けほっ、けほっ、けほっ!!なんて!?」

 

「以前話したことあったよな。私は2年くらい前にルーナたんに出会ってな。どっかの盗賊に攫われて人質にされかけてたところを助けたんだが、そン時の仕草や態度、外見や性格に惚れちまってな。ソッコーで仕えに行ったのよ。魔法で別の姿をとってたから私だとは気付かれなかったけどな。後から境遇を知ったんだが、私じゃどうすることも出来なかったよ」

 

 現在姫森ルーナを心から心配しているのは桐生ココ、白銀ノエル、不知火フレアの三名のみ。ただしそれも彼女が信用しているかは別の話だ。

 

 国のトップに担ぎ上げられ、片手で数えられる年数に多くの人間の汚さに出会った。今更好意を向けられたところで信用できるはずもなかった。

 

「そんなところに今更ボクが入り込もうとしても無駄なんじゃない?」

 

「そんなことないぞ。何か新しい風を吹かせられるかもしれないし、お前には他とは違う何かがあるような気がするんだよ」

 

 慣れない褒め言葉に照れてしまったのか、かなたはその真っ白な頬を真っ赤に染めた。

 

「変な冗談やめてよ。恥ずかしいよ」

 

「恥ずかしいことなんかないさ。真面目な話だよ」

 

「…………」

 

 竜、あるいはドラゴンとは地域によって様々な扱いを受ける。創作ではもっぱら、主人公が乗り越えるべき最初の敵として設定されることも増えた。しかし神様として奉られるパターンや創世神と同一視されるパターンまで存在する。

 

 桐生ココというドラゴンの在り方がどのようなものなのかは分からない。竜種のような特殊な力のある生物は、その存在自体に明確な理由が含まれている場合だってある。

 

 幻獣種や神獣種がそういった類いだ。

 

 善と悪。そういった存在にとって、それは生まれたときから決められている。力の代償とでも言うのだろうか。

 

桐生ココ。彼女はきっと生まれながらの善なのだ。きっとそうだと信じたかった。

 

「正直藁にすがる思いだってのは自覚してる。でもこれ以上一人で涙を流すルーナたんを見ていたくはないんだよ」

 

 今までの人生で、ここまで真摯な視線を向けられたことがあっただろうか。

 

 紅のごとき力強い瞳。睨まれれば蛇に睨まれた蛙のようになってしまいそうな眼力があっても、今は引き込まれるような暖かさがあった。

 

「わかった。ココを信じてみる。それと、自分自身のことも」

 

「おう!」

 

 太陽のような眩い笑顔につられて微笑んだ。

 

_________________________

 

「なんだお前。邪魔なのら。帰るのら。消えるのら」

 

「ッア”ア”ア”!!!!!!!」

 

 天使の苦悩はしばらく続きそうである。

 

__________________________________________________

 

「…………」

 

「トワちゃんずっと黙ってるけど、何やってるペコ?」

 

「シーッ、詳しいことは分からないけど、今なんか高位の魔術使ってるみたいだから。話しかけないでって」

 

「ふぅん…………」

 

 トワが行っているのは、わずかな痕跡や手がかりからその人との縁を探る探知魔術の中でも、魔界学校で習う範囲では最高位の魔術だった。

 

 本当は学校で学ぶ範囲での、しかも一年生の範囲での最高位であって、魔術全体で見れば全然大したことの無い術なのだが、相手が何も知らないのでなんとなく見栄をはってしまった。

 

 人間界で見れば限られた人しか使うことができない術なのだから、彼女らの立場から見れば実質高位といっても過言ではないだろうという若干甘い判定が加わっている。

 

 しかし___

 

「ハァ、ハァ、ハァ………だめ……か」

 

 結果は魔力と体力を無駄に消費しただけだった。探していたものは見つからなかったのだ。

 

(いや、少なくとも探知魔術以外の方法に頼らなければいけないってことが分かっただけでも収穫だよ。まだ方法はあるはず……頑張ろう)

 

 トワが探していたのは、天音かなたというよく知る天使。そしてトワとわためが遭遇した地下室の人物と白銀騎士団の団員。偶然[[rb:縁 > よすが]]を手に入れたため、場合によっては動向を監視しようというマリンの意見だった。

 

 現在四人が身を寄せている山小屋は、風が轟々と叫び声を上げている山中で孤独に佇んでいる。

 

 人や獣が近づく心配は無いが、逆に自分達もうかつに移動できない立地だ。十分な戦力が整っていないにもかかわらず顔が知れ渡っており、裏社会ですら生きづらくなってしまった宝鐘海賊団にとっては、第三者から見れば過剰なレベルの対策でも講じなくては不安が残るのだ。

 

 だからこそ、”その人物”が現れたとき、その場にいた全員が自分の目を疑った。

 

「常闇トワちゃん。天音かなたちゃんのお友達だよね?」

 

「誰だ!?」

 

「これからどうするべきか、ウチの方から一言助言したくて」

 

 その場にいた全員が武器を構えるも、そんな牽制はお構いなしに話し始める。声からして女性だろう。フードを深々とかぶっており、顔の特徴を捉えることは出来ない。

 

「別にこのままでもお菓子の国はなんとかなりそうだけど、その後がね」

 

「何をブツブツと……」

 

「あなたたちは今すぐにでも行動を起こすべきだよ。白銀騎士団副団長、不知火フレア。宝鐘マリンちゃん、あなたは彼女に会わなきゃいけない」

 

「それってどういう___ッ!?」

 

 伝えることだけ伝えた謎の人物は、相手方の反応を確かめることもせず、蜃気楼のように消えてしまった。

 

 トワたちはその様子を黙ってみていることしか出来なかった。




今回かなり短めです。お菓子の国のお話は次かその次くらいで終わり、ようやく物語も進展すると思います。
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