糞狸転生〜過去に戻って本気出す〜   作:ライム酒

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後編

 

 目覚めの場所は白い部屋。

 なんてことはなく知らない天井だ。

 

 あれから特に怪しまれることなく数日が経つ。

 それまでに起きたことといえば、非常事態態勢の発令、フィットア領調査隊の派遣、各地でフィットア領住民の目撃例、水不足と水害、交通障害等だ。

 

 予定ではそろそろ派遣した調査隊がフィットア領に到着するころだろう。

 早く捜索隊を立ち上げたいので、現状の報告を正式にあげて欲しい。

 

 王都では、何が起きたのか、どこかからの攻撃なのか、第二波はくるのかと毎日が混乱状態である。

 政務は一向に進まず苛立ちがつのる。

 

 時間を無駄にするわけにはいかないので、現状できることをやった。

 

 まずは自衛の手段。

 はっきり言ってこの身体は貧弱だ。

 動きはとろいし、体力はないし、魔法はほとんど適性がない。

 

 魔法が使えないのは、アニメ風に言ったら魔力回路が開いていない感覚。

 現実風に言ったら久しぶりに喋ろうとすると声が出ない感覚だ。

 

 魂の過去転移、もとい過去転生魔法は成功したら過去の俺に、失敗したらそのまま消滅すると考えていたため、他人に転生した際の計画は考えていなかった。

 しかし、俺は魔法が自前で使えなくても発動できる方法を知っている。

 魔法陣だ。

 魔法陣は理論上、固有魔術を除くほぼ全ての魔法を再現できる。

 過去転生とかいう、頭の中では決して計算しきれない複雑な魔法を発動するため、何十年にもわたって魔法陣について研究してきた。

 その知識は全てここにある。

 

 さっそく魔法陣で十八番の重力魔法を作製しようと思ったのだが材料が集まらなかった。

 市場でドラゴンの素材を買うのは馬鹿高いのだ。

 自身がどれだけイージーモードだったのかがようやく理解できた。

 

 しょうがないのでウォータシールドとアースウォールの魔法陣だけ作製しといた。

 これを売って素材を集めてもいいが、これが出回った世界を考えるとルナティックモードに突入するため自制した。

 魔法陣が出回っていない理由はここにあるのだと思う。

 

 次に独自の調査隊。

 フィットア領の調査はすでに終了している。

 報告ではフィットア領は全て消失しており、最大深度5mほどのクレーターもできているとのことだ。

 そのため水害がひどく、このままではフィットア領に大きな湖ができるだろうと綴られている。

 

 復興のためには土系統の魔術師が必要になる。

 魔法三国に依頼でも出しておくか。

 聖級魔術を好きなだけ使っていいとでも言えば何人かは釣れそうだ。

 ある程度整地するまで立ち入り禁止にした方がいいかもしれないな。

 

 住民の救助は蛇の道は蛇ということで人攫いのギルドに依頼した。

 順調といえば順調なのだが痛い出費だ。

 後で潰して回収してしまおうか。

 

 紛争地帯については難航している。

 そもそも定期連絡が取れないため、どれだけ進捗があるかもわからない状態だ。

 ここにはいない神に祈るしかないだろう。

 

 次にシルフィの安否について。

 会話はできていないが一目見ることはできた。

 見慣れた白い髪をなびかせてキリリと歩く。

 ときたまドジをしていた。

 かわいいなあ。

 

 無事アリエルと友好関係を築けたようである。

 ルークはヒトガミの使徒になる可能性があるため、今のうちに暗殺指令を出しておいた。

 その際アリエルとフィッツは傷つけないようにとも指示している。

 

 ヒトガミは当然俺のことに気づいているはずだ。

 いまだ夢に現れないのは俺に何を言っても無駄だからだろう。

 

 アイツが夢に現れるのは結構パターンが決まっている。

 操る時とネタバラシの時だけだ。

 夢に現れることがヒトガミの使徒になる条件なら、おそらく使徒の数には上限がある。

 その数が数人なのか数百人なのかは知らないが、俺の見立てでは十人もいない。

 

 その少ない数に、転移事件という多くの命を弄ぶ絶好の機会で、操ることができない俺に会うことはまずないだろう。

 しかしルークは違う。

 アイツはいつ使徒になってもおかしくない要素を持っている。

 ヤレる時にヤルべきだ。

 

 最後にトリスティーナについて。

 彼女には俺の正体がバレた。

 

 正確には俺がダリウスに憑依した悪魔だと思われている。

 どこかで聞いたことのある話だ。

 

 経緯を簡単に説明すると、過去転生をする直前に本物のダリウスが苦しみだしたそうだ。

 「やめろ、来るな、うわあああ」って感じに。

 その直後に外で爆音が響き、彼女はベッドから転げ落ちた。

 顔を上げたらダリウスが笑って泣いていた。

 不気味だな。

 その後はダリウスにしては心遣いのある行動から、悪魔が成り代わったと確信を持ったそうだ。

 

 最初に怪しまれることはなかったと言ったが、アレは嘘だ。

 嘘ほどではないが正確には疑われていた。

 そして確信された。

 こいつは本当に厄介な種だった。

 

 それをカミングアウトした後、彼女は俺に助けを求めてくる。

 もう奴隷は嫌だ、屋敷にいる人からの目線に耐えられない、助けて欲しいと。

 彼女的には悪魔との契約だろう。

 

 俺の正体を誰にも明かさないとの条件で受け入れた。

 もし逃げるようなら殺すしかないので縛れるなら好都合だ。

 

 時期をみて奴隷から解放してやる。

 それまではダリウスの仕草を教えてもらう。

 あと屋敷に住む人と貴族の名前を教えろ。

 

 なんとも都合のいい契約を結んだ。

 

 そのおかげもあって、ほかのやつらに怪しまれることはなかった。

 

 開幕躓きはあったが思いのほか順調すぎる。

 アレから何をやってもうまくいかなかったのだ。

 やはり神の存命が俺の運気の源なのだろう。

 

 そうして今日もここにはいない神に「嗚呼、神よ」と日頃の感謝を告げて眠る。

 もちろんトリスティーナには怯えられた。

 

 

「ダリウス様。本日は国王陛下主催の会食がございます。アリエル殿下と新任の守護術師フィッツ殿も参加されるようです。歓談のお席をセッティングいたしましょうか?」

 

 今日は朝から執事のモーニングコールだ。

 トリスティーナ、改めトリスは執事が入ってくるなり、逃げるように部屋から出ていった。

 

 ついにフィッツ先輩のお披露目だ。

 歓談の席。

 是非用意してもらいたいが、シルフィに汚物を見るような目を向けられるのは耐えられそうにない。

 ぽっくり死んでしまいそうだ。

 

 機会があったら立ち話でもするとだけ伝えた。

 ヘタレである。

 

 パーティはグラーヴェルと一緒に入場してくれと打診があった。

 グラーヴェルからの誘いだ。

 断る理由もないので了承と返しておいた。

 

 久しぶりの立食パーティー。

 エリスの誕生日以来だろうか。

 

 ふと、この世界にいる俺とエリスを思う。

 今は魔大陸のどの辺りか。

 アイツの指示に従いルイジェルドと旅をしていることだろう。

 

 楽しかった。

 あの冒険の日々がずっと続けばいいと思う。

 フィットア領に戻らず、そのまま。

 

 ルイジェルドさんとエリス、二人で紛争地帯を探索して。

 ラノア魔法大学から推薦されて。

 先輩に会って。

 ザノバやクリフとバカやって。

 パウロから連絡がきて。

 ベカリット大陸で一緒にゼニスを助けて。

 師匠にエリスを紹介して。

 勢いで3人と両親の前で結婚する。

 

 都合が良すぎるだろうか。

 多くの人に怒られたり殴られたりするだろうか。

 

 クリフやノルンからはしばらく口を聞いてもらえないかもしれない。

 ゼニスも俺をポカポカと叩いてくるかもしれない。

 パウロは笑って俺の子だと言ってくれるかもしれない。

 

 シルフィ、エリス、そしてロキシー。

 

 みんな一緒に暮らせたなら。

 そんな未来があったなら。

 

 気がつくと涙を流していた。

 執事は少し引いていた。

 しかし俺と目が合うとすぐに姿勢を正した。

 

 優秀なやつだ。

 

 咳払いをして話を戻す。

 何を話していたか。

 

「元ノトス家の嫡男、S級冒険者のパウロと名乗る男が国南部の冒険者ギルドで馬を借りたという報告がありました」

 

 今度は咳き込んだ。

 なんだその情報は。

 

「た、確かパウロはフィットア領に住んでいたな」

 

「さすがは、よくご存知で。彼がフィットア領に着き次第、住民捜索の指揮をとってもらおうかと思っているのですが、よろしいでしょうか」

 

「ああ、『黒狼の牙』のリーダーをやっていた男だ。上手いこと回してくれるだろう」

 

「承知しました。では彼が早く到達するように手配いたします。次の報告は……」

 

 ダリウスはすごいな。

 国の情報が全て入ってくるんじゃないかと思えてくる。

 この執事がとりわけ優秀なのかもしれないが。

 

 その後の情報は落ち着いて対応をした。

 人攫いから報酬の吊り上げが来ている。

 どうせ後で潰すから交渉を引き伸ばしながら加算しろ。

 魔法三国から色良い返事がもらえそう。

 依頼料は住宅費と歓待費で粉飾しろ。

 紛争地帯の国が支援を要請している。

 物資と一緒にダリウスの私兵を極秘に送り込め。

 

 清々しい。

 これだけ言っても怪しまれない。

 元々こういうやつなのだろう。

 

 魂は瓜二つだ。

 もしかしたらダリウスは過去にいじめを受けて引きこもりになったのかもしれない。

 それで性格が捻くれたのか。

 俺のように。

 

 関係ないか。

 

 そうして、執事の笑いあり涙ありのモーニングコールが終わった。

 

 これからパーティの準備。

 今日も大忙しだ。

 

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