糞狸転生〜過去に戻って本気出す〜   作:ライム酒

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後編

 

 水神!?水神ナンデ!?

 

 殺気は鋭く、周りの貴族は誰も反応していない。

 水神も剣を触れずにこちらを見ていただけだ。

 

 完全に炙り出された。

 ヒトガミの仕業か?

 

 とんでもなくまずい。

 勝てるわけがない。

 水神相手に動くのは禁忌。

 構えた動作はなぜか見逃されたが、間違いなく気づかれた。

 

 まさかこんなパーティ会場で堂々と仕掛けてくるとは思わないだろう。

 なぜこんな大物に気づかれたのか。

 

 意外と見ている者は見ているということか。

 もしくはヒトガミの仕業か。

 

 瞬き一つの時間が流れる。

 未だ俺は死んでいない。

 

 ふと殺気が消えて、水神は離れていった。

 しかし明らかに付いて来いと言っている。

 背中がそう語っている。

 

 すごく行きたくない。

 誰か話しかけてくれないだろうか。

 さっきまであんなにモテモテだったのに。

 

 断頭台に登る気持ちで付いていった。

 

「あんた、ダリウスじゃないね」

 

 周りには誰もいない。

 静かな庭園の影で尋問される。

 

 適当に誤魔化すのは悪手だろう。

 バッサリされかねない。

 元の身体であったならお互い動かなければそのまま耐えられたかもしれないが、この身体では普通に斬られる。

 

「なぜわかった」

 

「歩き方に隙がなさすぎる。それは武人の歩き方だよ。あの古狸がするような歩き方じゃないね」

 

 やはり立ち振る舞いか。

 しかしいつヒトガミが襲ってくるかわからないのだ。

 隙は見せられない。

 

 いや、水神がヒトガミの使徒か?

 それなら問答無用で斬ってきそうだが。

 

「そうか。しかしなぜそれを気にする。ダリウスが誰に変わっても水神には何も変わらないだろう」

 

「それを言う必要があるのかい。聞いてるのはこっちさね。ダリウスはどこにやったんだい」

 

 あ、やばい。

 これは何か個人的な関係があったか。

 ヒトガミ関係なく命の危機だ。

 

「ダリウスは、もういない。俺が身体を乗っ取ったからな」

 

 一瞬水神の剣がカタリと揺れる。

 終わりかと思ったがまだ大丈夫だった。

 

「……身体を乗っ取った?適当言ってんじゃないよ。マジックアイテムでも使ってなり変わったんだろう」

 

「この身体は間違いなくダリウスだ。しかし魂が違う。俺は転移魔法でダリウスの身体に乗り移った」

 

「魂の転移魔法?聞いたことがないね」

 

 初めの頃と比べて水神の声が少し落ち着いた気がする。

 話し合いはできそうだ。

 油断せずにいこう。

 

「龍族の秘術だ。俺はそれを参考にして未来から来た」

 

「ふざけているのかい。真面目に答えな」

 

「至って真面目だ。命の危機だからな。正直に答えている」

 

 水神は悩む顔をした。

 どちらとも判断がついていないのだろう。

 理性では否定し、直感では肯定している。

 そんな感じだ。

 

「そうかい。未来から来たって言うなら何か証拠を見せてみな」

 

 まあそうだろうな。

 水神がわかる証拠か。

 いや無理だろう。

 

 いや、できる。

 

「俺は一度水神と戦ったことがある」

 

「これまでにたくさんの奴と戦ってきたねえ」

 

「ヒトガミという名を知っているかと聞いた」

 

「……」

 

「水神は知っていると言った。俺はカッとなり攻撃して敗れて逃げた。再度聞く前に水神は死んでいた」

 

「ヒトガミという名を聞かれたのは一回だけさね。どこで知ったんだい」

 

「未来だ。俺はヒトガミについて調べるため、強くて長生きしている奴に聞いて回った。そのうちの何人かは知っていた。しかし知っているだけだった」

 

「そうだろうね。若い頃は鼻っ柱が強くて挑みたくなるのさ。それがあっけなく折れた後に聞かれた。ヒトガミを知っているか、とね」

 

「ヒトガミが誰かは知らないんだな」

 

「ああ、知らないね。一体どんなやつなんだい」

 

「邪神だ。俺を執念で未来から過去に戻らせるほどのな」

 

 水神は使徒ではない。

 使徒であるならすぐに殺してくるだろう。

 その力がある。

 

「そうかい。それでなぜダリウスなんかの身体に移ったんだい?元の身体とか強い身体に移ればいいものを」

 

「魂が似ていた。この魔法はラプラスの転生魔法を参考にしたものだ。おれは拒絶反応の少ない魂の似ている者に転生した。そいつがたまたまダリウスだっただけだ」

 

「元の魂よりダリウスの魂に似ているねえ。随分とイイ性格になったんだね」

 

「こんな魔法を使うやつだ。当たり前だろう」

 

 死の緊張から吹っ切れている。

 もうなんでも話せちゃいそうだ。

 水神もだんだんとにやけ始めている。

 こわい。

 

「あたしは知ってると思うがレイダ・リィアだ。あんたの名は」

 

「……ルード・ロヌマーだ」

 

「嘘だね」

 

「その名も本名じゃないだろう。お互い様だ」

 

 この名乗りが正解な気がした。

 レイダは乾いた笑いで返した。

 

「それで。元高妙な魔術師だった奴がそんな古狸の身体になって何をしよおってんだい。ヒトガミってやつに復讐でもするのかね?」

 

「最終的にはそうだな。一泡吹かせることができたら儲け物だ。だがその前に転移事件を収束させる。悲劇を最小限に抑えることがヒトガミへの唯一の対抗策だ」

 

「へぇ……。転移事件もヒトガミの仕業ってことかい?」

 

「それは違う。確証はないが偶然が重なった結果だと考えている」

 

 随分と熱心に聞いてくるな。

 ボロを探そうとしてるのか?

 

 水神はそのまま目をつぶって考え込む。

 不用心だな。

 全く隙がないが。

 

「引き止めて悪かったね。でも、面白い話が聞けたよ」

 

 どうやら無事解放されるらしい。

 助かった。

 

「俺も参考になった。これからは歩き方を気をつけよう」

 

「ああ、そのことなんだけどね」

 

「なんだ」

 なんだ。

 

「これからはあたしがあんたの護衛をしてやるよ」

 

「え」

 え。

 

「なんだい。いやなのかい?」

 

 そんな滅相もない。

「いやだこわい」

 

 あ。

 

 レイダは大笑いをしている。

 俺は冷や汗を流している。

 

「常に後ろにいるってわけじゃないから安心しな。少しは隙を見せた歩き方をしてもいいように見張ってやるってことさね」

 

「そうか。……水神の護衛なら安心だな。これからは堂々と隙を見せて歩こう」

 

 感謝の言葉をしっかりと述べる。

 その後はお互いに笑って別れた。

 

 世界一安全な護衛を手に入れた筈だが、世界一頑丈な檻に閉じ込められた気分だ。

 一体檻の外と中のどちらが安全なのか。

 

 一度深呼吸してから会場に戻った。

 

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