元アクアビット社の狂人社員のIS転生録   作:コジマはいいぞぉ

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 ––––男が平行宇宙に自分が存在している事に気が付いたのはつい最近の事だ。

 

 ORCA旅団が新入りによって本懐を遂げ、宇宙への道を切り拓くその瞬間をつまらない物を見る目で見ていた彼は直前に受けたレイテルパラッシュの襲撃で瀕死の重傷を負っていた。

 

 血溜まりの中、破壊された蘇生の為のクローン複製装置を一瞥しながらも施設のモニターに映る映像を眺めながら、強く彼は思った。––––なんとつまらない結末か、と。

 

 

 同じORCA旅団に所属していたオールドキングは自身と似た破滅主義者であり、単独で出撃してクレイドルを墜としに行こうとしていた。彼の行いが成就していれば、或いはあの首輪付きが彼の誘いに乗っていれば、世界の荒廃と破滅はより素晴らしい物になっただろう。

 

 そう考え、その光景を夢想しながら果てた筈が、何故かこの様な世界に五体満足で立っていた。

 

 ネクストも企業連も無く、それどころか国家が存続している世界。今際の際に見る走馬灯に類似した夢、或いは今までの世界がその夢であったのかは定かではない。

 

 しかし、優秀な頭脳を持つ彼は世界の歴史があまりにも乖離し過ぎている事から平行宇宙の様な物であると定義し、一旦の行動方針を定めるまでの間、この世界に於ける超兵器関連の企業に身を寄せていた。

 

 男は自身の優秀さと経験を武器にして瞬く間に地位を確立すると、ISについての情報と世界の歴史を表裏問わずに再精査して行く。理由として彼はまだ世界の破滅を夢想しており、手段たり得るかとISを調べて居たのである。ネクストを作る事自体は可能であり、それを使用することを真面目に検討して居たが、世界を破壊した先駆者をリスペクトするという事で彼は敢えてISを手段にすると決めて居た。尤も、制作予定のISにはネクストで培ったコジマ技術を搭載する予定つもりらしいが。

 

 兎も角その過程で亡国企業(ファントムタスク)と篠ノ之束と言う存在を知る。前者への接触は比較的容易であり、未知の技術––––企業連のAC技術をチラつかせれば簡単にコンタクトが取れた。

 

 そして男は自身の持つクローン複製技術と人格の電脳化技術を彼らへと売り渡すと同時に莫大な資金と複数の研究所、そして()()()()()()()()()の失敗作を幾らか譲り受ける。

 

 この時に彼はISコアの原材料である時結晶を研究し、そこからISコアを自力で作り出す事に成功。ただし、このコア自体も正攻法の生産では無い為か量産可能と呼ぶには余りにもリソースを消費してしまい、売り物としては使い物にならなかった。

 

 だが、この存在を何処か嗅ぎつけた篠ノ之束からの接触を受け前回に至る。その点では結果として有意義であったと言えるだろう。

 

 

 天災と災厄。片やこの世界にISという超兵器をばら撒いた災害。片やコジマ技術と呼ばれる狂気の産物に魅了された厄災。互いが互いにプレイヤーでありゲームマスター、他人などどうなっても構わない、ましてや世界すら破滅しても構わないとそう考える者同士の対決。

 

 ゲームの誘いに篠ノ之束は乗った。気に入らない不愉快な科学者。自身以上に破綻している男。だが、その内に孕んだ狂気の質は同等であり、対等である。そう、彼女は認めたのだ。

 

 

 篠ノ之束が去り、一人になった男はこれから始まるゲームに心を躍らせながら、自身の死体によって汚れた部屋を後にして別室へと移動する。

 

 広い研究所の一室。そこには彼の持つ()()の一人が居た。

 

 

 「やあ、漸く目が覚めたようだね。人類最強を目指したなり損ないとは言え、スペックは一般人を遥かに凌駕しているのだから、もう少し早く目覚めて欲しかったのだがね––––織斑君」

 

 

 『織斑』とそう呼ばれた少年はその問い掛けに対して無言で返す。

 

 ––––織斑計画(プロジェクト・モザイカ)。最強の人類を生み出すと言うなんとも狂気染みた与太話から生み出された『最強のなり損ないの一人』それが彼である。

 

 最強の理想個体は弟を連れて行方知れずとなり、同じく成功個体は亡国企業の手元に。

 

 だが、その過程で生み出された千体近い産業廃棄物もまた、非凡な性能を持っており、男はその廃棄物達を技術提供と引き換えに手に入れて居たのだ。

 

 彼らに目を付けた理由の一つは量産不可能とは言え数える程度ならば用意可能なISコアの使用者を手に入れる事、そしてさらにもう一つ、ISの持つ欠陥が果たして事実なのかを確かめる事。

 

 超兵器IS。その致命的欠点は『女性にしか扱えない事』パワードスーツの一種でありながら、性別に左右される欠点を有しており、それが今の女尊男卑社会を形成しているのだが。––––果たして本当に男には扱えないのだろうか?

 

 確かに試しに作成したISは自身では起動出来ず、廃棄物の少女達には起動が可能だった。しかし、男は企業連の人間であり、強化人間『リンクス』達を作り上げる事も可能な科学者。

 

 コアが人を選ぶのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()。その発想はレイヴンと呼ばれる者達の時代から存在した強化人間技術による発想であり、その点に於いて彼はこの世界の誰よりも精通している。それも、篠ノ之束以上にだ。

 

 

 「気分はどうかな? 久々の強化手術だったからねぇ。手慣れてるとは言え僕も人間だ。不都合があれば今のうちに言ってくれたまえ」

 

 

 そう言って男は少年の顔を見る。その顔には生気は無く、瞳に映る色は完全に無色透明。引き取った際の凶暴性や精神の不安定さも感じられない。それ程までに少年は()()()()()()()

 

 正攻法では無い手段で作成されたISコア。材料による問題か、あるは作成工程で必然的に発生する物なのかは定かでは無いものの、男が作ったISコア自体にもある種の人格・意識の様な物が備わって居たらしい。

 

 その為、強制的にISコアと接続を行われた彼と彼のISはお互いの意識同士が相互干渉を引き起こし、互いの人格と意識がロストしてしまっている。

 

 だが––––それ故にこの少年はISを起動する事が可能となった。

 

 

 非人道的な実験、意識のコピー&ペーストを繰り返してコアとの同調を矯正させる。誰もが考えても行わない外道をこの男は単純な実験として実行していたのだ。

 

 他人の痛みなど知った事では無い。世界の汚染や破滅なども知った事では無い。彼の目的はただ一つ。自身が圧倒的に魅せられてしまったコジマ技術の発展と、超兵器ネクストによる全ての蹂躙。

 

 ––––男にとってコジマ粒子の輝きは正にこの世の全てよりも美しい物と言えた。

 

 軍事転用を行い、コジマ技術の結晶と化したネクスト(最凶兵器)。リンクス戦争による世界中のコジマ汚染とそれによる世界の荒廃。

 

 綺麗なのだ。人間の生み出した技術が、世界を終わらせて行く様が。コジマの輝きが一つ弾ける度に世界の寿命が、その星の生命の寿命が失われて行く事が。

 

 コジマ技術は世界を大きく変えた。致命的な汚染と引き換えに人類は大空すら生活圏とする事が可能となった。

 

 例えその過程で世界が、人類が、それ以外の全ても、共に滅びの道を辿る事となったとしても、男にとって人類が踏み入れるべきではなかった禁忌の領域が放つ強烈な魅力は振り切り難い物であったのだ。

 

 

 「いいかい少年。科学者は神なんだ。つまり僕はキミ達の神であり、キミ達は僕の使徒だ。世界の荒廃にコジマの緑はとてもとても映えるんだよ。––––僕はそれが見たくて見たくて仕方ないんだ」

 

 

 防護服を着る事なく外を出歩く事が可能な世界。深呼吸一つで肺機能が損なわれない世界。海が山が大地が、コジマによる汚染と無縁なこの世界。

 

 それはとても素晴らしい物であり––––男にとってこの上なく滅ぼし甲斐のある世界であった。

 

 そう語る男の狂気。それを語られる少年は人格や意識の喪失から発生する虚無感に身を委ねながら、しかしその言葉に続く命令を聞く。

 

 

 ––––さぁ少年。この世界での記念すべきリンクス1号。

 

 ––––ミッションの時間だよ。

 

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