元アクアビット社の狂人社員のIS転生録 作:コジマはいいぞぉ
––––初出撃を終えた少年は研究所の屋上で空を眺めていた。
ISとのAMSを利用した強制接続による人格と自意識の喪失を引き起こしている彼は雲一つ無い晴天を無感情に見上げ、呆然と立ち尽くす。
崩壊した精神の再構築を行おうとしているのか、一時間以上その場に居座り空を眺めている。
これから自分達が破壊する世界。汚染するまっさらな空。綺麗な青をこれからあの毒々しい緑色に染め上げる、そう考えると壊れたはずの心が僅かに動く様な気がして、命令の無い時はこうして無感情に空を眺めているのだった。
そんな時、後方から声が掛かる。
「相変わらず空眺めてんのか?『きょうだい』」
声の主は同じ境遇の少女。歳の頃は少年と同年代程度だが、男装の麗人といった印象を抱かせるややボーイッシュな見た目をしており、本人もまた男性的な性格をしている。
彼女は1.5Lのコーラをラッパ飲みしながら少年の隣に立ち、同じ様に空を見上げて口を開く。
「毎日毎日飽きもしねぇで空見上げて楽しいのか?」
「…………」
「おっと悪りぃ悪りぃ。話せねぇんだったな。忘れてたわ」
リンクス化の弊害として少年はコミニュケーション能力に著しい障害を引き起こしており、会話は愚か筆談ですら行う事が出来ない有様だったのだが、彼女はそんな事お構い無しに口を開く。どうやら他の個体と比べて会話好きらしい。
「そーいやリンクスナンバーは幾つよ? オレはNo.10なんだけどさぁ、ぶっちゃけ
ペラペラと回るNo.10の口に少年は鬱陶しそうな表情を浮かべながらも、同じ『きょうだい』の言葉である為、機械的に自分の後ろ髪を掻き上げる。
そこにはAMSのコネクターに接続されたISがチョーカー状の待機形態となって収まっている。これは他のリンクス達も同じであり、一様にこのチョーカーを確認すればその序列が判明し、そこから実力が推察出来る様になっていた。
「どれどれ? ってなんだよNo.9じゃねぇか。オレと一個しか変わんねーなら喧嘩ふっかけんのは無しだな!!」
バンバンと豪快に笑いながらNo.10は少年の背中を叩く。力加減が絶妙に男性よりの為か、No.9は更に露骨に嫌そうな雰囲気を纏う。感情が消えても人間性の不一致による不快感は健在らしい。
尤も、少年はそれ以上にアクションを起こす事は無く、今度は見上げた視線を下へと向ける。
眼下に広がるのは拠点としている研究所と、灰色の床が広がる自然の感じられない巨大なメガフロートが浮かぶ海原。
波の音と潮の香りだけを感じるのなら風情も存在するだろうが、このメガフロート自体が『博士』の世界の技術を使って作成されたオリジナルのアームズフォートと言う側面を有している為にそんな風靡な感覚は瞬間的に消え去るだろう。
対空コジマミサイルとコジマキャノンが各所に大量配置され、広範囲且つ高出力のプライマルアーマーが展開可能であり、前方にはプライマルアーマーの技術を発展させたアサルトキャノンも搭載。水面下には大量のコジマタンクとプライマルアーマーの出力を上昇させるオプションパーツが設置されている為、その気になればアサルトキャノンを連射して世界の海をそっくり毒沼へと置換する事も容易である。
またそれだけでは無く、レイレナード社の次世代ネクスト『002-B』を源流とした自立型ISも多数配備されている。
この機体は設計当時よりもAI技術が発展した事によって機動性そのものは改善されているものの、ISコアを使用していない為にシールドバリアや絶対防御等のIS特有の強みを有していない。
ただし、動力源にはコジマ技術を使用している為、下手に近接戦で撃破しようものならコジマ爆発に巻き込まれる可能性が存在すると言う傍迷惑極まりない代物になっている。
この辺りはその世界の人間が見れば間違いなく変態呼ばわりをされる物なのだが、その事を知る者は誰もいない。
「つーかよー。博士やらNo.1やらも、なーんで世界だのなんだのっての一々考えてんのかねぇ? 別にオレらは最強を目指してりゃいいわけじゃん。んな事考えなくたって生きていけんだろ」
そう言ってNo.10はゴクゴクと喉を鳴らしながら手にしていたコーラを一気飲みにし、空になったペットボトルを投げ捨てる。
彼女からすれば難しい事を考えるからあれこれ捏ねくり回すような面倒を背負わなきゃいけない。この施設にしろ、ネクストにしろ、揃える為には他人を騙したり関係者達を抱き込んだりと行わなければならない面倒が多すぎる様に思えた。
「オレは面倒が嫌いなんだわ。データー改竄だの、プログラムだの、機械弄りだの、どーも苦手でよぉ。そんなもんだから多分
そう言って、大きく背伸びをするNo.10。彼女は世界がどうのと言う問答に一切の興味は無く、それどころか行方知れずとなった合格者達に対しても何の感情も抱いて居なかった。
しかし、それ故に彼女は博士のリンクス達の中でもトップクラスの戦闘狂であり、待機中の現状でも隙あれば序列上位のメンバーと模擬戦を繰り返している程、戦いに飢えている。
だからこそ実戦経験を積んだNo.9とも戦おうと思っていたのだが、一連の会話への反応を見て、ISの為のパーツと化している彼とは戦っても楽しくないと判断したのか、手をひらひらと振ってその場を後にし、去り際にふと思い出したかのように少年へ振り返った。
「そーいやNo.9。オメェだけ自由に外出出来るんだってな? 博士が妙に特別扱いしてたからンな事を聞いた様な気がするからコレやるわ。外出した時にでも使えや」
そう言ってポケットからくしゃくしゃになったメモ帳を取り出した彼女は、そのよれたページの上にサラサラと何かを一筆したためる。
そしてそれを丸めて投げ渡すと、今度こそ踵を返して所内へと帰って行った。
うるさい女が居なくなった事で再び空を見上げるNo.9。その空には青さの他に渡鴉達が飛んでおり、大空を黒の群体がなぞっている。
彼はその渡鴉達の羽ばたきを水平線の彼方へ彼らの姿が消えるまで見続け、その途中で投げ渡されたメモへと目を通す。
そこには『名前を聞かれたらコレを見せろ』と言うガサツさが目立つ文字と共に外出時の名前らしき物が記されていた。
彼女からすればその名前に意味は無い。博士の昔話から出てきた古い単語、たったそれだけなのだが、しかしその名前はある意味では特別な物とも言えた。
––––レイヴン。短くそう、そのメモには書かれていた。