砂浜に佇む2人のヒト。
片方は何処かの制服を着た少年。
もう片方は赤いスーツに身につけた傷だらけの少女。
少女は少年の膝に頭を乗せ、安心した顔で眠りについている。
潮の香りではない、血の匂いを風が運んでいた。
紅く染まった海。
「……碇君」
少年の背後に、また別の少女が1人。
少年はそれに驚く素振りを見せず、何事も無いかのように海を眺め続けている。
「……なぜ…死んでしまった人を……そのままにしているの…?」
「………死んでなんか……ないよ…」
「…碇、君…」
「アスカは強いんだ…こんな…このくらいの怪我だったら…大丈夫だって……言ってたんだ………」
「………………」
「だから……ほっといてよ、綾波」
"綾波"と呼ばれた少女は、少年の言葉に従い、その場を立ち去った。
少女がいなくなった事を確認すると、少年は、膝の上の少女に話しかけ始めた。
「…………アスカ…いつまで寝てるんだよ…………」
「…………………」
「起きてよ…!…大丈夫だって…言ってたじゃないか…」
「…………………………………………」
「うっ……うわぁぁぁ……ぁぁぁぁあ……っ」
そのまま、少年は泣き崩れてしまった。
使徒。国連の直属組織が発見し、後に世界を混乱に陥れた存在。
神の使い。そう呼ばれた生物は、2000年に「セカンドインパクト」と呼ばれる災害を引き起こし、従来のインフラは破壊され、世界中で貧困問題が爆発。
飢えが争いをもたらし、世界は混沌と化した。結果的に人類は、人口が最盛期の2分の1にまで減少。
そして使徒という悪夢は、セカンドインパクトから15年が経った今、再び襲来しようとしていた。
2015年6月22日午後12時20分────。
『正体不明の物体、海面に姿を現しました!』
『物体を映像で確認、主モニターに回します‼︎』
巨大なモニターに、海が映し出される。
広大な海のまんなかに、ぽつんと黒い点がひとつ。点がキラリと光ると、映像は砂嵐に変わってしまった。
「…15年ぶりですね」
「…あぁ、間違いない。使徒だ」
…
轟音が聞こえる。
先程まで元気に鳴り響いていた蝉の鳴き声は、全て何処かに行ってしまった。
やって来る災難に怯えるかのように。
「………………」
ひとり、怯える様子もなくただ道路の真ん中に立っている少年。
鞄を捨て、一枚の写真を左手で握り、ただ一点を見据えている。
視線の先、山の切れ目から重戦闘機が次々と現れる。それを追うかのように、神の使いは姿を見せた。
「……使徒…」
…
焼けたアスファルトの上を、涼しげな青い車が猛スピードで走っている。
青色のルノーを暴走させる女性。サングラスの下で目があちこちに動いている。
「参ったわねェ…よりによってこんな時に見失うだなんて…と」
助手席に置いてあった携帯が鳴る。片手で携帯を開き、電話に出る女性。
『葛城さん!』
「待って日向くん!まだサードチルドレンを回収出来てないわっ!レイを出すのはそれからよ」
携帯を閉じ、乱雑に助手席に投げ捨てる。
「…いた!」
目標を眼に捉え、一気にアクセルを踏み込む。大破して墜落を始めている重戦闘機と目標の間に滑り込み、急ブレーキをかける。
目標──サードチルドレンを重戦闘機の爆炎から守った事を確認すると、女性は助手席の扉を開けた。
「お待たせ碇シンジ君!こっちよ早く乗って!」
「……!………はい。」
彼女の予想よりも、目標はかなり落ち着いており、冷静だった。目の前に巨大な化け物がいるというのに。
少年がシートベルトを閉めた事を確認すると、全速でその場を離れる。
「しっかり掴まってんのよッ」
化け物と重戦闘機群が戦闘を繰り広げている直下をくぐり抜け、なんとか瓦礫が落ちてこない場所まで来れたその瞬間。
軍のミサイルが車の至近に命中した。
「まっずぅーーっ!!!」
叫ぶミサト。上下反転する視界。
「…あたたたた…」
衝撃で開いた扉から脱出する女性と少年。
「もーっ!あいつらどこ見て撃ってんのよ…大丈夫?シンジ君」
「…………」
「…大丈夫、みたいね?」
ミサトは立ち上がるとひっくり返ったルノーに視線を向ける。
「あ〜〜〜っ!!」
そこにあったのはボロボロになった愛車。
「うっそひっどぉぉい!!破片直撃のベッコベコーーッ!まだローンが33回もあるのにっ!むっかあ!!!」
少年の事をすっかり忘れ、愛車の惨状に嘆く変人。少年の冷ややかな目で、ようやく冷静を取り戻す。
「…あ、エー、こほん。」
「…………」
「そんな目で見ないでよシンジ君…」
瞬間、影が差す。少年も、ミサトも、ルノーも大きな影に覆われる。
────真上。
真っ黒い化け物、使徒が襲いかかってきた。
「シンジ君伏せてっ!!」
踏み潰される!ミサトはそれを覚悟した。
「エヴァ…初号機っ!!」
押し倒した少年が叫ぶ。
紫の巨人が、空中に跳んでいた使徒にタックルを喰らわした。
「レイ!ナイスタイミング!!…って……え?」
少年が口走った言葉。少年が知るはずの無い言葉。
「シンジ君…今、なんて?」
「……………」
再び口を閉ざす少年。
(…司令から聞いてたのかしら?あの碇司令が息子とちゃんと話してるとは思えないけど…)
…
『パイロット脈拍・血圧共に低下!』
『A¹⁰神経シンクロ値5%!!』
『胸の縫合部より出血!』
『N²作戦まであと180秒!』
紫の巨人──エヴァ初号機は、奇襲から立ち直った使徒に一方的にやられていた。
攻撃を受ける度に初号機の動きは鈍くなり、不利な状況に拍車をかける。
「…仕方が無い。ルート192で高速回収だ。」
サングラスで目を隠した司令官が、淡々と命令する。
命令に従い、初号機は使徒と即座に距離を取り、地面から現れた巨大昇降機で地中に格納された。
『初号機、収容成功!』
『N²地雷、起爆します。』
使徒の直下が光る。光は一瞬にして雲の高さまで膨張した後、破裂した。
…
葛城ミサトの愛車は、またもひっくり返っていた。
N²爆弾の爆風で飛ばされ、美しかった青い車体は土埃に汚されていた。
窓ガラスは割れ、傷からガソリンが漏れていた。
しかし中身の人間2人はまったくの無事。もはや奇跡であった。
「シンジ君〜車体起こすの手伝ってくれないの〜?」
「…………」
「…なにへそ曲げてんのよ〜。女手一つだけじゃ…っ…大変っ…なのよっ…?」
ミサトは横転した車を必死で元に押し戻そうとしている。
「…手伝ってよシンジ君〜。」
「…………」
「………まったく…」
…
恐るべしN²爆弾。
一撃で鉄筋コンクリートの町がクレーターと化してしまった。
爆炎の中。殆どの者が勝利を確信していたが、奴は死んではいなかった。
使徒は生きていたのだ。
傷を負ってはいるが、軽い火傷程度であった。
「やはりA.T.フィールドか…」
司令の横に立つ老人が口を開く。
「使徒に対し通常兵器では歯が立たんよ…」
司令は老人に言葉を返すと、モニターに映る使徒を睨む。
「通常兵器、ではな…」
…
ドゴン、と音を立てて車が体勢を立て直す。
「ふぅー、案外一人でも出来るもんねぇ。」
「…………」
「さ、シンジくんも乗って!」
「…………」
応急修理でなんとか動くようになったルノーが地下に入っていく。
「お父さんの仕事、知ってるー?」
「……………」
(また無言か…相当厄介な子ね…親も親なら子供も子供か……)
「シンジ君、これ、ウチのパンフレットだから目通しておいてね。」
【ようこそNERV江】と書かれたパンフレットを少年の手に持たせる。
しかし少年がパンフレットを読む様子は無く、ただひび割れて外が殆ど見えない車窓を眺めていた。
(こんな子がサードチルドレンか…レイが2人になった気分だわ…)
無言の時間が5分ほど続いた後、突然車に光が差し込んだ。
「シンジ君、見えたわよ。ここが世界再建の要、人類の砦となる所。ジオフロントよ!」
…
『ファーストチルドレン、エントリープラグより救出成功!しかしパイロットは重症、脾臓破裂の可能性があります』
「……碇司令」
司令の後ろの扉から金髪の女性。
「どうなさるおつもりです?重症のレイをもう一度使うのですか?」
「……いや、レイは使わずに初号機を発進させる。たった今予備が届いた所だ。」
「予備……!…サードチルドレンですね?」
…
「おっかしぃわねェ…確かにコッチでいいと思うんだけどナ…」
葛城ミサトは、ネルフの広大さに参ってしまっていた。
「たしかここら辺に…えと…」
タブレットのマップをもとに道を探すが、これがまったく分からない。
「…………」
足並みが遅くなったミサトを早足で追い越す少年。
「ち、ちょっとォどこ行くのよシンジ君!」
追い抜かされたことに気づくとミサトも少年を追いかける。
「ちょ、待ちなさいよ!」
その言葉の直後、少年の足が急に止まる。
「わ、とっ、とっ、とぉぉお⁉︎」
急ブレーキをかけ損ねたミサトは勢い余って転んでしまう。
そして、少年の前のエレベーターが開いた。
「……遅かったわね葛城一尉…何ずっこけてるのよ……」
「あ…リツコ……」
現れたのは白衣に身を包んだ金髪の美女。
「あんまり遅いから迎えに来たわ。人手も時間もないんだから…グズグズしてるヒマないのよ」
…
『使徒前進!強羅最終防衛線を突破‼︎』
『進行ベクトル5度修正、なおも進行中』
『予測目的地、我が第三新東京市!』
「…総員第一種戦闘配置。冬月、後を頼む。」
そう老人に指令すると、司令は1人乗りの 昇降機で下階に降りて行った。
(3年ぶりの息子との対面、か…)
…
リツコ、ミサトにボートに乗せられ、三人を乗せたタグボートは、水面を走り出す。
「それで…N²地雷は使徒には効かなかったの?」
「ええ、表層部にダメージを与えただけ。依然進行中よ。やはりA.T.フィールドを持ってるみたいね。」
「………」
ボートが第七ケイジの入り口に辿り着く。
壁に巨大な紫の左腕がはめ込まれている。
「…着いたわ。ここよ。」
湿っぽいケイジの中に入ると、暗闇で何も見えない。
リツコがスイッチを入れると、照明が付き、先程目の前で戦っていた紫の巨人の頭が姿を見せた。
「…人の創り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。これはその初号機よ」
「……………」
「そして…これから貴方が乗る機体でもあるわ。」
「⁉︎…ちょっと待ってよリツコ!レイでさえエヴァとシンクロするのに7ヶ月掛かったのよ⁉︎」
「……………」
「今日来たばかりのシンジ君には無理よ!!」
「…葛城一尉、今は使徒撃退が最優先!その為には誰であれエヴァと僅かでもシンクロ可能な人間を乗せるしか無いのよ!」
「でもっ」
『そうだ。』
「!」
声の場所は初号機の頭上の小部屋。碇司令、少年の父親が3人を見下ろしていた。
『シンジ、このエヴァに乗れ。』
「ちょ、そんな風な言い方…」
司令の言動に異を唱えるミサト。
「分かりました。」
「碇司令!シンジ君もこう言っていますしエヴァに乗せるのは…え?」
だが、少年はミサトの予想に反し、乗る事を選択した。
「乗りますよ。これに。」
「…シンジ君、ホントに良いの…?」
「……………」
『では、赤木博士。初号機の発進準備を頼む。』
「分かりました。よく言ったわシンジ君、簡単に操縦方法をレクチャーするわね。」
少年は、リツコに奥に連れて行かれた。ミサトはケイジに1人残されて、ただ呆然とするしか無かった。
つづく
がんばります。
彼女にするなら?
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碇シンジ
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惣流アスカラングレー
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式波アスカラングレー
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綾波レイ
-
黒波レイ
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長波レイ
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真希波マリイラストリアス
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宮野真守