精霊幻想記 ~幼馴染みの春と冬~   作:月影海斗

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皆さんのおかげでUAが1000越えました。それくらいで?って思われるかもしれませんが、僕としてはこれだけ目を通してくれているんだと励みになるので嬉しい限りです。


第7話 冤罪

 ここに来てから随分と時間が経過したような気がしないでも無いが、時刻はまだ朝。

 城壁内であれば人通りも多くなり始める時間帯だろうが、今いるのはスラム街。注意は怠らずに周囲を窺いながら進んでいるけど、静まりかえっている。

 

 

「リオ」

 

「どうした?」

 

「リオはさ、これからどうするの?」

 

 

 振り返らずに訊いてくるリオに、僕は気になっていたことを尋ねてみた。

 

 あの大人たちが死んだ状況だと、リオは自由な身だ。

 とはいえ、孤児であることには変わりない。スラム街で一人で生きて行くには過酷すぎる。

 春人としての二十年の経験を積んだ記憶を持ったリオだったとしてもだ。

 

 

「まだ分からないかな。正直に言えば、あの男たちとこれからも一緒に暮らすこと気はさらさら無かったんだ。使い潰されるしかない未来なんて、絶対に嫌だからな」

 

「仮にあそこを抜け出してたら、何をして生きていくつもりだったんだい?」

 

「出来れば何らかの職に就きたいと考えているけど、俺の前世で得た技術を活かすのは厳しいかもな。犯罪行為の方は…俺の手はもう汚れてるが、したくない」

 

 

 そう思うのは、春人としての記憶が影響をしているのか。心の内までは容易に推察は難しいけど、言葉からは犯罪行為への忌避が感じられる。

 

 

「…………リオ、君さえ良かったらさ」

 

 ――僕の所に来ないかい?

 

 前世の親友の誼でもあり、お人好しな僕が、リオの助けになりたい気持ちは明白。彼の未来が少しでも明るい方向に進んで欲しい願いから勧誘したかった。きっと、彼の境遇を知ったら、ジノや義母も力になってくれる。

 

 

「あ、あんたたち! 待ちなさい!」

 

「クリスティーナ様! お待ちください! ロイ君も待って!」

 

「ユキヤ! 無事で良かった!」

 

 

 僕たちを呼び止めるように後ろから幼い少女の叫び声とよく聞いた少年の声が掛けられて、勧誘は遮られた。

 振り返ると、五人組の粗末なローブを着た集団がいる。クリスティーナ王女が駆け足でリオが背負っているフローラ王女の元まで、ロイがフードを外して銀髪を露わにしながら僕の元まで駆け寄ってきた。服を無事に替え終えてここまで来たんだろう。

 

 

「ヴァネッサ、早くフローラを!」

 

「は、はい! おい貴様、フローラ様を離せ」

 

「ユキヤ君、無事だったのね。一体何が……」

 

「説明は後にさせてください。ロイ、セリアさん、義姉さんをお願いします。生きてはいるけど衰弱しているみたいです」

 

「わかった! セリア先生、お嬢様の治療を!」

 

「任せて」

 

 

 詳しいことは後回しにさせてもらい、義姉さんをロイとセリアさんに託した。すぐに魔法で治療を開始してくれてホッと息をつく。リオの方もヴァネッサさんにフローラ王女を預けると彼女は腕に抱きかかえられ、クリスティーナ王女が必死に呼びかけている。

 

 そこからは一人の姉として妹を心配する姿が垣間見えた気がした。僕としては、彼女が苦手であることには変わりは無いけど。

 

 

「フローラ! フローラ!」

 

「落ち着いてください、クリスティーナ様」

 

「私は落ち着いているわ。でも、この子が……」

 

「ロアナ君、君はフローラ様を頼む。気を失っておられるが、ご無事のようだ」

 

「わかりましたわ!」

 

 

 ヴァネッサさんはロアナに看護を任せ、僕たちを見下ろすように向き合う。彼女は僕たちに事の顛末を訊こうとしているのだろう。緩みかけていた表情を引き締める。

 

 

「ユキヤ君、何があったのか話してもらえるか?」

 

「ええ、構いませ――」

 

 

 ――その先は話せなかった。周囲にパチンと乾いた音が響いたからだ。音を辿れば、クリスティーナ王女がリオの頬を叩いたのだと、右手を振りきった状態で理解した。

 

 なぜ彼女はリオをビンタしたんだ? 怒気が溢れているし、理由がわからない。彼はただ、二人を助け出しただけなのに。

 

 

「あんた嘘ついていたのね! 妹を誘拐して何をする気だったの!?」

 

「はぁ? ち、違う! 俺はその子に頼まれたからで……」

 

「嘘おっしゃい! フローラが誘拐してくれなんて頼む筈ないわ! ましてやエルがそんなことする筈もないのよ!」

 

 

 まるでリオが二人を誘拐したような口ぶりじゃないか。

 

 もしかして、クリスティーナ王女はリオが誘拐犯の一味だと勘違いして咎めようとしているのか? それは誤りだ。彼は僕と同じただの被害者――巻き込まれた側に過ぎないのに。

 

 

「クリスティーナ様、お待ちください! 彼はただフローラ様を助けようとしただけです! 罪はありません! 事実、僕も彼に助けられました!」

 

「彼の言うとおりだ。人の話は最後まで聞いてくれ」

 

 

 助けられたと言うよりは、共闘した方が正しいのかもしれないけど、事実を織り交ぜながら僕が弁解する。若干威圧が混じりながら…というより、顔には出さずとも内心怒っているだろうリオは掴み掛かっている彼女の両腕を掴んで自分から離させた。

 

 

「放しなさい! 汚らわしい!」

 

「貴様、その手を放せ」

 

 

 アーチを描くように、綺麗に流れるような動作で抜剣したヴァネッサさんがリオの首筋へと剣を突き付けた。殺気は感じられないからあくまで脅しだと理解できるが、何だか雲行きが怪しくなってきた。

 

 リオは少しばかり睨み付けてから両手を放せば、解放されたクリスティーナ王女が再び彼の頬を叩こうとする。だが、それは僕が片手を掴んで止めさせてもらった。

 

 

「何するのよ!」

 

「無礼を承知でさせていただきます。彼に手を上げるのはお止めください!」

 

「放しなさいよ! 不敬罪にするわよ!」

 

 

 王女といえども、僕の身体は理性よりも感情を優先させていた。仮に僕が不敬罪だと言われても、人助けをしようとした親友に対しての間違いは正させてもらいたかったんだ。そもそも人の話を少しは聞こうとして欲しい。

 

 手を放した僕は、リオの前に庇うように立つ。どうして僕が彼を庇うのか理解が出来ないとでも言いたげな顔をされたが気にしなかった。

 

 

「もう一度言わせていただきます。彼はフローラ様の誘拐には関わっていません。僕が彼の身の潔白を証明できます」

 

「そんなの信じられるわけないでしょ! ヴァネッサ、早くこいつを拘束しなさい!」

 

「クリスティーナ様!」

 

 

 尚も、リオを誘拐犯として誤認している彼女に頭が痛くなる。いくら言ってもこの調子だと全然聞いてくれそうにないじゃないか。それと、挑発するような行動も止めてくれ。

 

 

「悪いな、ユキヤ君。君が知らないだけで、その少年がフローラ様とエリンシア君の誘拐に関することを隠していないとは限らないのだ。事情を訊く必要がある。勿論、君にもだが」

 

「ッ――! どうしてでも、ですか?」

 

「そうだ。……というわけだ、少年……リオと言ったか。城まで同行してもらおうか」

 

「嫌です」

 

「悪いがこれは『お願い』じゃない。『命令』だ。君に拒否権はない」

 

 

 さっきまでの安心感が嘘のように僕たちがいるこの場はピリピリと険悪な雰囲気が漂っている。ヴァネッサさんが剣を少しでも動かせば首の薄皮を斬れる辺りまで近づけているけど、リオは動じていない。普通の子供なら取り乱してもおかしくはないが、リオは二十年の経験を積んだ春人としての落ち着きなのか、それともスラム街で暮らしていたおかげなのか、脅しに屈することは無さそうだった。

 

 

「俺はその子を助けただけです。目を覚ましたら訊けばいい」

 

「駄目だ。知っていることを君の口で話してもらおう」

 

 

 このまま会話が続いたとしても、無駄に時間が経過するだけだ。リオに手を貸したいけど、相手は王族。権力を行使されたら従わざるをえない。仮にリオが逃げの一手を選んだとしたら、逆効果になって犯罪者扱いされかねない。

 

 とはいえ、王城に連れて行かれたとして、リオがどんな扱いをされるか……最悪、実力行使に及んで無理矢理に聞き出す恐れもある。そうなったら、僕は自分を許せない。

 

 そんな僕の考えを読み取ったのか、それとも同じ結論に至ったのか、リオが僕の肩を掴んだ。

 

 

「……リオ」

 

「(ありがとう、ユキヤ)……話をするだけですね?」

 

「ああ、君の身が潔白であるのなら解放されるはずだ。悪いようにはしない。ユキヤ君も安心するといい」

 

「……わかりました。ですが、こちらからお頼みしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「叶えられる範囲であれば聞こう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 渋々了承した僕は二つほど頼みごとをした。

 一つは、未だ行方が不明のジノの捜索。

 二つ目は、小屋で意識を失っているはずの暗殺者の男たちの身柄の確保。

 これらを聞き届けてくれた上で、僕たちは王都の中心である王城に移動することになった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 ユキヤとリオたちがスラム街を離れてから、十数分後。

 王城より王国騎士団の騎士服に身を包んだ者たちがフローラ並びにエリンシアが捕らわれていた小屋に派遣されていた。周囲には、スラム街の住人らしき人々が見られる。

 

 

「アルフレッド様! 息をしている者たちを発見しました!」

 

「拘束して運び出せ。誘拐犯の一味かもしれん」

 

「承知しました」

 

 

 騎士服の上に豪華なマントを着た、アルフレッドと呼ばれた風格のある騎士が指示を出せば、小屋の中から二人の男が拘束されながら運び出された。先程ユキヤとリオを襲った暗殺者だ。仮面は外され、素顔を露わにしている。

 

 

(これは……少し不味い事態になっていますねぇ)

 

 

 その様子を野次馬たちに紛れながら見ている男がいた。黒いローブで全身を覆い、容姿は見えないようにしている。言葉とは裏腹に、焦りや動揺しているようには感じられない。

 

 

(やれやれ……仕方ありませんね)

 

 

 ため息を大きく吐きながら内心で呟くと、懐から取り出した宝石のような二つの小さな赤い石を見つめる。それらを迷いなく握りつぶした。

 

 

「「っ……!……あぁ!」」

 

 

 その直後、拘束されていた男たちが苦しみだした。苦悶に満ちた顔を浮かべながら地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。

 

 

「お、おい! どうした?」

 

「何事だ?」

 

「し、死にました」

 

「なに? 何があった!?」

 

「分かりません。どうして、こんな……」

 

 

 運んでいた騎士が男たちに起こった異変を伝えると、尋ねたアルフレッドが驚きの声を上げる。何故死んだのかと尋ねるが、騎士たちは分からずに困惑していた。その一部始終を見届けた男は野次馬たちの中から踵を返し、

 

 

(侯爵の跡取りを狙ったつもりが、別の子供を殺しかけた者は彼女が証拠を残さず消してくれたようですし、遭遇した騎士は上手く退けた。……潮時ですね。目的は大方達成しましたし、帰還するとしますか)

 

 

 粉々になった石を捨て、満足そうに口元を歪めながらその場を離れた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「どういうことだ、これは!! 話をするだけじゃなかったのか!?」

 

 

 ベルトラムの王城の地下室にて、リオは両手に金属製の手錠をはめられ、手錠につけられた鎖を天井に備え付けられた滑車に引っかけられ、吊り上げられた状態だった。地面に足がつかないまま両手吊りにされているがために、手首にはかなりの負担が掛かっている。その痛みに耐えながら、目の前に立つ王国近衛騎士団の豪華な意匠がされた騎士服を着ている、キザったらしく、棍棒を持ち、こちらを見下している男に抗議した。

 

 

「私は貴様が第二王女誘拐に深く関与しているのではないかと判断したまでだ。ゆえに、この近衛騎士団副団長シャルル=アルボーが直々に尋問を行う」

 

「ふざけるな!」

 

「私も手荒な真似はあまりしたくないのだ。貴様が正直に取調べに応じてくれれば、こうも手間取る必要は無かったのだがな」

 

「俺は全部正直に話しただろ! 嘘は言ってない!!」

 

 

 リオはあの後、ユキヤたちから別れて低階層の取調室に軟禁された。立場を考えれば当然の扱いだろうし、理解はできた。だが、どうにも苛立ちは隠せなかった。

 

 自分はあの時、悪いことなんてしていない。暗殺者の男たちを撃退し、恐らく狙われていたフローラとエリンシアを助け、気絶したまま捨て置くことが出来なかったから外へ運んだのにこのザマだ。これなら、助けない方が良かったのではないか。

 

 いや、結果として前世の親友に会えたのだ。悪いことばかりじゃ無い。彼も今頃、取調べを受けているだろうし、下手に嘘をついて客観的な事実関係と齟齬が生じると不味いから素直に答えるべきだと、決めたのだ。

 

 そして、リオの取調べに来たのが、近衛騎士団副団長のシャルル=アルボーと、その部下と思われる二人の騎士だった。

 

 淡々と取調べが進行していくも、シャルルはリオを誘拐犯の一味と疑っている様子だった。暗殺者の男を倒したのは誰かと聞かれ、自分とユキヤの二人で倒したと伝えるも、嘘をつくなで済ませられた。

 

『裏切りの騎士の血を引く女の養子が倒したというのも信じがたいがな。ましてや、あのような何の取り柄もなさそうな平民が』

 

 親友が侮辱された時は、リオは不満を抱いたが何とか堪えようとした。裏切りの騎士と気になる単語も聞こえたが、今は頭から切り離すべきだと思ったのだ。

 

 

 そんな中、状況が悪化したのは、シャルルの元に一人の騎士が捜査経過の報告に来たときだ。耳打ちでシャルルが聞いていると、顔を顰めた。どうやら、悪い報告だったとリオは表情から察することはできた。

 

 報告を聞き終え、焦った様子で場所を取調室から移されたのが、出入り口が金属製の丈夫なドアで、床も壁も天井も石で覆われた地下室。室内に拘束具が置かれ、床が血で変色しているところもあり、嫌でもこの後、自分の身に起きることを想像させられた。

 

 明らかに容疑を掛けられたことに対して抗議を入れても聞き入れてもらえず、拘束されて吊り上げられた状態に至る。

 

 

「被疑者は皆そう言うのだよ。正直に話すというのなら、今すぐにこの状態から解放してやってもいい。まずは貴様が第二王女誘拐に加担していたことを認めろ」

 

「そんなことはやっていない!」

 

「フッ……」

 

 

 リオが自分は無実だと言うと、シャルルは目を細め、持っていた棍棒でリオの腹を強く打ち付けた。

 

 

「がっ……」

 

 

 腹部に強い衝撃が襲いかかってきた。口から呻き声が出され、痛みで顔を歪める。

 こんなの拷問だ。スラムで暮らしていたときに味わった痛みと同じ……。

 

 

「貴様はフローラ様とエリンシア嬢の誘拐に加担していた。そうなのだろう?」

 

「……くっ! 俺は、何も、していない」

 

「……はぁ、愚かな」

 

 

 無言を貫いたとしても、痛めつけられるだけだ。でも、頷くわけにはいかない。

 仮に自分も加担していたと偽りの発言をすれば、犯罪者として扱われる。この先、自分の意志で自由に生きていくことは出来ないだろう。

 

 なら、耐えるしかないだろう。

 エリンシアとは一度も会話をしていないし、ユキヤの供述も信じては貰えなかったからには、フローラという少女が目を覚まして事実の確認が取れるまで、この地獄のような時間を耐え抜くしかない。

 

 復讐も、恩返しも、何も成し遂げてはいないのだから。

 

 

 

 

 




初見の時はめっちゃ胡散臭いなと思ってたけど、中の人が遊佐浩二さんだからもっと胡散臭くなったな。僕的に遊佐さん=敵キャラじゃね?という疑惑が根付いてきているような気がする。

うん?松岡さんはどんなイメージだって?そりゃあ、○ーレム主人公かな?(誰も聞いてねぇよ)

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