この世界の才能あふれるメイン人物に囲まれる僕は才能なんてない   作:七時の権兵衛

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プロローグ

 この世界には主人公が存在する。ああ、待ってくれ、別に生きている人物にとっては自分が主人公とか甘ったれたことを言うつもりはないさ。そしてその主人公が僕と言いたいわけでもない。

 ()()()()と比べて、科学技術自体は変わりないが魔法技術というものが発展しているこの世界において、あまりにも発展しすぎた魔法技術はもはやそれ単体では学問として学ぶには入門の入門にすぎないほどの複雑な技術となってしまった。それと同時に科学技術の発展に対して資源が枯渇しかねない地球の現実に対して魔法技術の中でも錬金術と呼ばれる鉱産資源精製技術はもはや国にとって囲い込まねばならぬほどの超必須技術となっている。

 そんな世界における主人公とは科学技術の申し子波多野萌恵(はたのもえ)が魔法技術の申し子波多野(かける)と一緒に手塩にかけて育てた子供だ。

 

 そもそもなぜ自分がこのような知識を持っているのか。単純に僕が娯楽小説でいうところの転生者、というものだからだ。そしてこの世界の下となったのは超人気同人サークル「ガケギワ」から発売された複合シミュレーションゲーム【鼓動のオト】

 このゲームは選択した性別によってシナリオが変わり、しかし中心部分である複合シミュレーションはどちらであろうと楽しめるという点でじわりじわりと人気が伸び、初回生産盤はプレミア価格で同人とは思えないほどの値段で取引されるほどになった。

 

 僕はその世界に生まれただけのモブだ。何かしらの小節で手助けをする役目も、攻略されるという役目も持たずに生まれてきた僕は隣に生まれてきた普通の天才の才能にぼこぼこにされているだけだ。

 

「昇ー? アリスちゃん来てるわよー?」

「わかったー」

「のぼる! はやくしなさい! たんれんじょうにいくわよ!」

「いつも言ってるけどドアバンはドア傷付くからやめてよマクダネルちゃん」

 

 勢いよく僕の部屋にやってきてドアを思いっきり開け放った先にいるのはきれいな蜂蜜色の髪をおさげに結って、翡翠色の瞳を勝気に釣り上げた美少女であり、この世界におけるメインキャラの一人のアリス・マクダネル。

 というか、いくら隣に来るだけとはいっても護身用のアクセサリである護神具もつけないなんて…

 

「な、なによのぼる」

「いつも言ってるよね? マクダネルちゃんは自分の価値を自覚してって、近くだからって護神具はちゃんと着けてって。ほら、予備だけど翡翠の首飾りあるから着けて」

「それこそいつもいってるじゃない! わたしほどになるとそんなのにたよるまえにのしちゃえるって!」

 

 随分と物騒なことを言っているなこの子は。でも不意打ちとかに対応できるほど経験を積んでいるわけでもないからつける本当の意味で最後の守りなんだけどなぁ…これ謎技術でほぼオートだし…

 そんなことを考えていると難しい顔になっていたのかマクダネルちゃんは右手で自分のおさげの先をいじりながら口をとがらせてこちらを見る。

 

「あなたがわたしのことがたいせつでどうしてもっていうならつけてもいいけど…」

「! うん、そうだね。どうしても着けて欲しいな。お願いしてもいいかな?」

 

 そういうとちょこちょこと近寄ってきて頭を少しこちらに突き出してくる。これは…着けろってことかな? まあ、どうあろうがこっちがお願いしている立場だからね。お嬢様のちょっとしたわがままくらい聞かなくちゃだ。

 ネックレスの金具を外し、マクダネルちゃんを抱きしめるように手を回しうなじのあたりでまた金具をつける。あとは位置の微調整、術式の調整を施して…うん。取り敢えず使えるようになったな。

 テレによるものか顔を桜色に染めたマクダネルちゃんから少し離れてアクセサリーとしての点数もつける。うーん…これから鍛錬に向かうっていう事もあってシンプルな服装で来たのに首飾りだけそこそこ豪奢な見た目なせいでアンバランスだな。減点。でも翡翠を使ったのは正解だ。マクダネルちゃんがつけると目の色と調和してすごく可愛い。加点。赤点だな。

 

「首とかきつくない? 大丈夫?」

「ぇ、ええ! それにしてものぼる! じゅつしきのちょうせいていどにかけるじかんじゃないわよ!」

「やだなー、これくらいが普通だよ。遅いって思うんならマクダネルちゃんが早すぎる天才ってだけだよ?」

 


 

 コロッセオのような闘技場の両端に僕たちがいる。マクダネルちゃんがキラキラした目をして自分の獲物である両刃のバスタードソード(片手/両手両用剣)を構える。もっとも、体の小さい今だからこそバスタードソードといえるだろうが正史通りに成長すれば少し長めの片手剣程度に収まるようになるだろう。

 対して僕が構えるのは組み立てると十字槍の先っぽのような畳むと短めの十手のような不思議な獲物。いわゆるまろほし十手。それを十手状態で構える。

 

「ほんきできなさいよね! てかげんなんてできないんだから!」

「お手柔らかにね。マクダネルちゃん相手に手加減なんてできないよ」

 

 マクダネルちゃんの体からあふれる魔力が陽炎のように揺らめき彼女を包む。観戦者兼お目付け役のジョンさんが頭を抱える。魔力が溢れるっていう事は完全に練り切れていないということだからなんだろうけど子どもなんだからもう少し甘めに採点してもいいと思うけど、まあ未来の主人には強くなってほしいか。

 

 十手の切っ先を彼女に向ける。もちろんリーチでいえばこっちが短刀程度の長さだからあちらが圧倒的に長いわけで工夫しなければなんだけど。

 マクダネルちゃんは気炎万丈とばかりに移動に一気に魔力をジェットのように使い一気に距離を詰めてくる。

 切っ先はしっかりと僕の正中線をとらえており何もしなければ刺し貫かれるだろうがすかさず錬金術を使用し彼女の前に湾曲した盾のような金属板を現出させる。何の触媒も使ってないから強度からしたら無いよりはマシ程度だろうけど目的としては逸らすことだから強度は最低限で十分。

 狙い通り剣先はあらぬ方向へ逸れるけどこの程度で動揺するほどじゃないのか突撃の勢いを円運動に変換し回転切りをしようとしてくる。

 突きでは何の意味もない十手の使い方として、剣を止める。もちろん止まるのは一瞬だけでそのままでいたらすぐに力を込められてて圧しきられるだろうけど一瞬で十分。手首を捻り持ち手を上げるような動きをさせる。

 マクダネルちゃんは無理に留まっていては剣を痛めると察し力を逃すように飛び十手の鉤から剣を外すよう動く。

 

 

「……いつもとうごきがちがうじゃない」

「……そう思うならマクダネルちゃんに育てられたんじゃない?」

「いままで、てぬいてたんだ」

「違うさ」

「……」

 

 僕は一連の動きで若干息が荒くなっているっていうのに天才少女様は息の一つも乱れてない。

 切っ先は彼女に向けて警戒を続けつつ素早く組み立て、十字にする。同時に懐のパチンコ玉を触媒として小太刀を錬成する。

 はっきり言って錬成速度も遅く精度もそこまで良くないし頑丈さも一流に劣るものではあるけど模擬戦に使う程度であれば耐えきることもできる。

 左手にまろほし十手を右手に小太刀を構え、相手の出方を窺う。

 

 マクダネルちゃんは思い切り踏み込み、踏み込みの勢いのまま当て身で僕の体勢を崩す。クッソ一瞬の思考の隙突かれた…!

 このままだと切り上げ食らう…! 切り上げは今の僕の技量だと絡め取れない!

 だったら、あえて前へ!

 

「なっ!」

 

 まろほし十手の側の出っ張りで突き抉るように! これは避けられるから小太刀で追撃を加える!

 案の定両方避けられてまた距離が開く。わかってたことだけどこれでも精神年齢の影響で僕の方が先に鍛え始めたはずなのに彼女のほうがずっと上にいるのはやっぱり悲しくなるなぁ…

 小太刀を構成していた鉄材を分解し再構成、今度は単なる只の鉄の棒。ただし…

 まろほし十手を持ち手の紐を使ってぶん回し、遠心力を利用して彼女の足に刺さるよう投げる。

 バックステップで避けられるけどその高速移動によってできる死角を縫って彼女からは見えない位置に移動。

 まろほし十手の持ち手部分と鉄の棒を勢いに乗せて連結させる。これで即席十文字槍の完成ってわけだ。

 もうすでにゼヒューという音がしそうなほど激しい息遣いになってる僕はまともな超至近距離の接近戦はできないからね。

 

「ま、まだ続ける?」

「いっぱつもあたってないじゃない!」

「そりゃ、僕の魔力量じゃ、当たったらケガするよ」

「じゃああててきなさい!」

「無茶言うなぁ」

 

 ジョンさんも無茶言うなって顔してるよ? サングラスにマスクで顔まともに見えないけど。いや、普通にスマホ取り出してるな。時間の確認であってほしいけど。

 突き進んでくるマクダネルちゃんに槍を合わせて大げさにはじく。

 いくら魔力で身体能力を強化していようが大きくはじかれた武器を戻すのは簡単ではなく、本来の勢いを失い、コンパクトな連撃を不可能にする。

 勿論狙っていることがわかっているのかすぐに連撃向きの最低限のインパクトと振りの速さから一発のインパクトの重さに切り替えてくる。

 ほんと、天才相手ってのは嫌になるなぁ…今やったのだって普通だったらこのまま手玉に取ることだってできたのにあっさり最適解出されちゃうんだもん。

 

 打ち合いも佳境を迎え、僕の獲物である十文字槍はボロボロであるのに対してマクダネルちゃんのバスタードソードはほとんど傷が付いていない。そりゃあこっちはただの鉄製であっちはミスリル製だから差が付くのは仕方ないけどそれでも言い訳が聞かない程の傷の差はやっぱ技量の差なんだろうなあ…

 マクダネルちゃんも若干息が上がり始めたくらいにようやくジョンさんが止めの合図を送る。

 

「ジョン! どうしてとめるのよ!」

「いやお嬢、そろそろ準備しないとつとめに遅れますぜ」

「それに加えてこの状況だと百人見たら百人マクダネルちゃんの勝ちって言うよ」

 

 ジョンさんと二人がかりでマクダネルちゃんを宥めにかかる。それでも不満であると眼に見えて分かるくらいには不機嫌だけど、優先順位は分かってるのか着替えのために更衣室に向かう。

 一方僕は疲労が溜まりすぎてうつ伏せで闘技場に倒れ込む。一応ジョンさんには平気である旨を手をヒラヒラさせて伝えるがそれ以降はもう全身がピクリとも動かない。闘技場の床冷たくて気持ちいいなぁ。

 はぁ~…そもそもの話原作においてマクダネルちゃんに幼馴染がいたという描写はない。だからたぶん僕という異物を入れるために色々な所が狂っているはず。今の段階でマクダネルちゃんの戦闘能力があそこまで高くなっているのもその一部と考えていいだろう。原作のことは基礎知識程度にしておいた方がいいだろう。

 なーんで神様にも合ってないのにこんな目に合わなきゃいけないんだせめて魔力をくれ魔力を。無いせいでこんなに苦労してるぞコラ。

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