この世界の才能あふれるメイン人物に囲まれる僕は才能なんてない 作:七時の権兵衛
問. 朝起きると、別の部屋にいたはずの翔子さんが視界いっぱいに広がっている時の僕の行動を答えよ。なお、僕は成人男性の精神が入った男児とする。
解. 悲鳴が出そうになるのを必死に抑え込んだため、滅茶苦茶咳き込む。
めっちゃ苦しい。翔子さんは翔子さんで心配そうに僕の背中擦るし。いや、咳き込んだ原因貴女なんですよ?
「大丈夫? 昇君、風邪?」
「いえ、翔子さんがいたので、びっくりしただけですよ。心配してくれてありがとうございます」
「ご、ごめん……もしかしたら夢なんじゃないかって思ったら、気付いたらここにいて……」
翔子さんの顔を見ると、跡を隠す暇もなくここに来たのか、目尻から頬に涙の跡が残っていた。しょぼくれた顔で俯き、こちらを上目遣いしがちににチラチラ見てくる。
棚の中においてあるウェットティッシュを取り出し、翔子さんの顔を拭きながら話しかける。
「夢じゃないですよ。僕はあなたを放っておけなくて声をかけました。泣くななんて言えません。僕はあなたの過去を知らないですし聞きませんから」
「ワプッ、昇、君?」
「でもせめて、せっかくの美人さんなんですから、隠すようにしてください。その方が可愛いですよ?」
僕がどんな表情をしているのかはわからない。口角が上がっているのは判るがそれでどんな表情かはわからないけど、翔子さんの顔を見てそこまで変な表情じゃないってことが分かる。
翔子さんは拭き終わったのを確認するとあの日にそうしたみたいに僕の肩に顎を載せる。ただし今回は泣くためではないようで、呻き声が聞こえる。
あー、これは、やらかしたかもしれない。照れ隠し、かな……正直翔子さんだったら僕の異常性にも気付いているだろうから障害と言ったら見た目だけだもんな。気をつけなきゃいけないと頭ではわかっていてもついつい言葉に出してしまうのは、どうにかしないといけないぞこれ。
結局、週末に競機場に家族で乗り込み、五連単を当てて億馬券となった資金はその多くはアイゼン師匠の口座の中、残りは家族口座にぶち込まれた。
鍛錬場の前、翔子さんを案内する一環で寄ってみるとマクダネルちゃんとバッタリ会ってしまった。
マクダネルちゃんもまさか合うとは思っていなかったようで驚いた顔で固まる。翔子さんはそんなちょっと気まずい感じの空気を読めずお友達?と聞いてくる。
翔子さんの様子に毒気を抜かれ、軽く嘆息した後肯定するとマクダネルちゃんはようやく再起動したようで口を開く。
「のぼる、あなたとおはなしがしたいっていうひとがいるの。ちょうどよかったわ」
「…うん。マクダネルちゃんが望むならやるけどさ、そんな苦しそうな顔で丁度良かったは似合わないと思うよ…奥で良い?」
マクダネルちゃんが頷くのを確認してから、翔子さんに断りを入れる。本来の目的は案内する事だったわけだから寄り道みたいな感じで申し訳なかったんだけど、翔子さんは普通に受け入れてくれた。
奥に入ると見えてきた景色は一人の人物がコンソールの多重展開及び並行操作でいくつもの仕事を同時に行っている様子だった。
「ええ、ではそのような方向性で、はい。少々お待ちください……少年、すまないが関係者以外は日を改めてもらっているんだ」
「問題ありませんよ。少々の偶然で早く着いただけですので。ルーク・ノウスロップ氏、僕が小枝昇です」
僕が名乗り、目の前にいる人物の名前を当てたことに対してノウスロップ氏はしかし少し眉がわずかに傾いた程度で表情を変えず、少々押し黙り、仕事を全てひと段落着けさせたであろうコンソールをしまい込みこちらを見据える。
「少年、マクダネルと懇意にしているそうだな。その意味は、理解しているか?」
ゲーム上では明かされなかった設定資料上の設定、この世界における重要組織。六つの単独組織マクダネル・マーテイン・ノウスロップ・
これが会社や国家などの一定以上の大きさを持つ団体であれば守ってもらうこともあり得るが個人ではそうもいかず、だからこそマクダネルちゃんには主人公が現れるまで学校を経由しない純粋な友達が存在しなかった。
でも、そんなことは十何年も前から知っていたわけで。
「ええ、おおよそほとんどを」
「ならば、そうするだけの力を示して見せろ」
「具体的には?」
「……隣の市に指定暴力団城田会が存在する。麻薬を中心に売り込んでいる危険な存在だ。その勢力を削いだことが確認できれば、だ」
驚いた。わざわざ曖昧な言い方をしている。
ノウスロップはその設立の経緯から明確なものがある場合はふわふわした言動で契約は結ばないんだが何故……
まあ、それでも目標は定まったわけだ。
指定暴力団城田会は原作においても名前が出た。
プレイヤーの行動次第ではほとんど関わる事もなくいつの間にか潰れていることもあったためネットではクソ雑魚893と呼ばれていたが、本格的にかかわろうとすると結構な高難易度だったと記憶している。
だが、勢力を削げばいいだけだ。なら、いくらでもやりようはある。