お願いヒーロー。僕を救ってください   作:とぅいか

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プロローグ

 僕の名前は殺鬼 人(さつき じん)

 

 

 僕は平凡な子だと思う。くだらな事で笑い、転ければ泣いて、ちょっとした事で怒って、野良猫を見たら可愛がって、暇潰しに虫をひねり殺す。何処にでもいる、普通の子供だった。

 

 唯一人と違うのは個性を持っていなかったこと。周りの皆が個性を使えるようになっていくなか僕だけは個性に目覚めることはついぞなかった。でも、僕はヒーローを目指していたわけじゃないから不利ではあったけど悲観するほどではなかった。

 

 これからの人生、きっと大変なことはいっぱいあるけど無個性でも前を向いて進もうと思っていた。あの日あれに会うまでは。

 

 

 最初に見た時はナニかよく分からないものが道端に落ちていると思った。赤黒いボールぐらいのサイズのナニかがそこにはあった。もし過去に戻れるなら近づくな。今すぐ逃げろと叫んでいただろう。

 好奇心は猫をも殺すと言うけれど、現実はそんな程度ではなかった。近づいてそこら辺に落ちていた棒で突っついた瞬間それはグネグネと動き出し瞬く間に棒を絡め取り腕まで取り付いてきた。

 恐怖で声を出すことも出来ず、まだ取りつかれてない手や足をバタバタと振って引き剥がそうとしたけれど抵抗虚しくそれは顔を覆ってきた。

 気がついたら病院のベットの上だった。目を覚ました時はお母さんやお父さんが泣いていた。僕が道に倒れていたところを同級生が見つけてくれたらしい。

 

 なにがあったのか聞かれたけど、何も答えなかった。いや、答えることが出来なかった。何故あの時のことを言わなかったのか、敢えて言うならアレが不機嫌になると思ったからだ。アレとはなにか、無意識に思った自分の事を疑問に思いながらも出来るだけ忘れるように務めた。胸の奥に眠る、焦燥感や不安は重くのしかかったままだった。

 

 

 

 目を覚ましてから精密検査をされた。その後異常が無いことが分かったからあと数日入院したら退院できるぞとお父さんが言っていた。

 お母さんが帰ったらご馳走を作ってくれると約束してくれた。僕は帰った時の事を楽しみにしながら病院で一人眠りについた。

 

 

 

 夢を見た。霧が深い森?のような場所だった。自分が空から見下ろすようにその森を眺めていた。眼下を誰かが走っている。動かそうと思った訳では無いのに、その後を追うように空を滑る。

 少し遠かったから顔はよく見えないけど、歳は僕と同じ小学生ぐらいの人かなと思った。その子は必死に走って走って、ようやく止まった時にはおもいっきり吐いていた。気持ち悪くなるぐらい必死に走って、一体なんでそんなになってまで走っているんだろう。と何故か他人事のように感じていた。

 心配とか、そんな感情は一切湧かないでただただ、見下ろしていた。

 

 その子は近くにある木にもたれかかると身体を抑えて震えていた。どれだけそうしていたか、気がつくと霧がかなり深くなり一寸先すら見渡せ無くなってきた。

 そして、その霧の先から誰かが歩く音がした。この子を迎えに来たんだ、無意識にそう思った。

 でもその子は身体をもっともっと縮めてその足音に見つからないように呼吸すら忘れて固まっていた。

 

 霧を掻き分けるように大きな手がその子に向かって伸びる。その子は走り出そうとしたけれど、足が竦んでしまったのか最初の一歩を上手く踏み出せなかった。そしてその手に捕まって、霧の向こう側から大きなハンマーが振りかぶられて車に轢かれたように身体が吹っ飛んだ。

 

 もう、起き上がることが出来ないようでうめき声のようなものを発しながら地に伏しているその子を大きな人が肩に抱えていた。その時には霧が更に濃くなってシルエットしか見えなくなっていた。

 

 そのまま何処かに歩いて行くのをまた勝手に後ろを着いていく。そして、その大きな人が棒の前で止まる。棒にはものを吊るす用なのかフックがついていた。迷うことなく少年の肩をフックに串刺しにした。

 

「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」

 

 血が沢山零れている、歩く音しかしなかった空間に獣のような叫び声が響き渡る。それでも僕は何も感じはしなかった。

 

 

 気がついたら目の前に子供も大きな人もフックもなかった。霧が深い森で今度は地面に立っていた。目の前にはあの時の赤黒いナニか。

 頭では近づいてはいけないと分かっているのに、体が言うことを聞かずに近づいていく。そして、そのナニかを手ですくい上げて顔の前まで持ってくる。

 そこには顔が半分埋まっていた。それは多分さっきの子供だった。

 

「たすけ。て」

 

 見た事がある、確か同じクラスの男の子だ。いじめっ子気質でよく女の子にイタズラをしていた子だ。僕もからかわれたりする事がよくあったからあまり好きな子では無かった。だからだろうか僕はその子から顔を背けてしまった。

 もう一度見た時既に顔はそのナニかに完全に取り込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁあ」

 

 目が覚めた瞬間叫び声を上げてしまった。身体中が汗でべっとりしている、そして、胸の中には恐怖が溢れる。歯がぶつかりカタカタと音が鳴る。手足に力を入れようにも震えて上手く力が入らない。

 

 あの夢は現実だ。そんな訳が無いのに何故か確信をもってしまった。

 

 

 

 その後、体調も良くなり学校に通い始めたけど、いじめっ子は学校に来ていなかった。無個性の僕をからかい、倒れていた僕を見つけて大人を呼んで助けてくれた彼はもういない。

 

 僕のせいで彼は居なくなった。毎夜毎晩彼の叫び声が頭に響く。でも僕は助けようと動くことは一切しなかった。

 怖い、僕は逃げる側にはなりたくない。大丈夫、いつかヒーローが助けに来てくれる。そう願って彼が吊るされて捧げられてまた追いかけられて切られて殴られて死んで蘇って襲われて隠れて祈って叫んでそしてまた、殺されるのを見続けた。

 目をそらす事はしなかった。それが僕と、赤黒いあれ、エンティティの罪だから。

 

 いつか裁かれるその時に僕が覚えておかないといけない罪なのだから。

 

 

 だから、お願いヒーロー。僕を救ってください。

 

 

 

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