ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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プロローグ

とある日

 

現在、ベルベットルーム

 

薄暗く、シリアスな雰囲気を漂わせる車の内装をした場所で、一人の青年は座っていた。

その青年の髪は灰色に染めており、また顔も最低限は整えている。

だが、青年の目には生気が感じない……まるで抜け殻の様に。

そして、青年の正面ではまるで、青年を見据えている様に見詰める鼻の長い男。その隣では目を閉じ、この場の雰囲気を楽しんでいる様に黙っている銀髪の女性が座っていた。

 

「ヒッヒッヒッ……二年ぶりでございますな。“瀬多洸夜”様」

 

鼻の長い男“イゴール”の言葉に洸夜は一瞬、表情を歪めるが直ぐに戻した。

 

「(……別に俺から話す事は何もないが、昔世話になったし無下には出来ない)」

 

等と思いながらも本音を言えば、シャドウやペルソナと関係しているモノからは極力関わりたくない洸夜。なので早くこの場から去りたいのだ。

 

「久しぶりだなイゴール……だが、いまさら一体何の様だ? もう、お前との契約は終わり、俺に出来る事は何も無いんだぞ」

 

「ふふふ、それはどうかしらね?」

 

洸夜の言葉に返したのイゴールでは無く、隣で座っていただけの銀髪の女性だった。

しかし、洸夜の記憶の中にはこの人物はいない。

二年前にベルベットルームに招かれていた時は居なかった女性。

 

「(エリザベスじゃない、一体誰だ……? )」

 

本来ならば、イゴールの手伝いをしている筈のエリザベスが居ない事に困惑してしまう洸夜。

だが、考えるより聞いた方が早いと判断した為、目の前の人物と会話をする。

 

「あんたは誰だ? 二年前には居なかったろ?」

 

「自己紹介が遅れました、私の名前は“マーガレット”。ついでに言うと、エリザベスは私にとって妹に成ります」

 

「妹……!?」

 

マーガレットの言葉に洸夜は、少なからず驚きを隠せないでいた。

はっきり言ってイゴール達との付き合いは逸れなりに長いのだが。

 

「は、初めて知ったぞ……アイツ、姉妹が居るなんて一言も……」

 

「恐らく、聞かれなかったからですね。あの子は世間知らずで、主様の手伝いを除けば聞かれた事以外は余り喋りませんから。(本当は弟もいるけど、今は黙っておきましょう)」

 

「納得出来る答えだな……それで、当の本人は何処にいるんだ?」

 

エリザベスの事だから、相変わらずジャックフロストグッズ等の趣味にでも明け暮れている可能性がある。

エリザベスの性格や趣味を熟知している洸夜はそう考えていたが、マーガレットから放たれた言葉は全く別のモノだった。

 

「エリザベスは現在、現実の世界を旅していて留守にしております」

 

「旅……? 何故、そんな事を?」

 

洸夜は、あのエリザベスが一人で何処かを旅しているとは信じられなかった。

世間知らずで、『彼』や自分が一緒に行動しなければ危なくて見ていられ無かった彼女が何故旅を?

洸夜のそんな疑問に答えてくれたのはイゴールだ。

 

「ヒッヒッヒッ……彼女は『彼』を目覚めさせる方法を探す為に旅をしているのです」

 

「なッ……!」

 

イゴールの言葉に洸夜は目を開き、イゴールから視線を外さなかった。

そして、そんな洸夜を見てイゴールは再び笑いながら口を開く。

 

「ヒッヒッヒッ……! そうです。二年前に眠りに着いた『あの方』です」

 

「だが、あるのか……? “ユニバース”……“ワイルド”を超えるあの力の代償から『アイツ』を救う方法が……!」

 

顔を下に向け、拳を握り締めながら、絞り出す様に言う洸夜。

洸夜自身は本当は分かっていた、そんな方法は無いと言う事を……。

そんな簡単に解ける力ならば、最初から“ニュクス”を洸夜達全員で何とかしていた。

だが、出来なかったから『彼』が終わらせてくれたのだ。

あの戦いが終わった後、洸夜はイゴールを問いただし全てを聞いた。

“宇宙”のアルカナ、それについての話だけで洸夜は自分にはどうしようもない次元だと理解力した。

また、命が終わっているのにも関わらず何故、卒業式まで『彼』は生きている様に見えたのか?

理由は簡単だった……皆との約束が『彼』をその日まで生かしたのだ。

約束の為、それを聞いた時、洸夜はベルベットルームで泣き叫んだ。

皆を守り通すと言った『彼』や仲間達との約束。

自分はそれを守れなかったのだから。

 

「無理な可能性の方が高い……その事はあの子自身が一番良く分かっております。ですが、それでもエリザベスは前に進む事を選んだのです」

 

マーガレットの言葉に洸夜はゆっくりと顔を上げ、軽く微笑むと口を開く。

 

「そうか、アイツはもう選んだのか……情けない話だ。結局、二年経った今でも前に進めないのは俺だけか……ハハッ!」

 

まるで自分自身を小ばかにする様に笑う洸夜だが、無理をしているのは誰が見ても明白だった。

自分は『彼』と同じ“ワイルド”の力を持っていたのにも関わらず、結局は何も出来ずに仲間や美鶴の父を目の前で死なせた。

そんな自分に比べ『彼』は命を失っても尚、自分達との約束を果たす為に無理をしていた。

それ故に洸夜は許せなかった……力があったのにも関わらず、何も出来ずに見ていただけの自分が。

洸夜がそう思いながら自分を責めていた時。

 

「……なら、前に進んでみますか?」

 

「ッ!……また俺に何かさせたいのか? だが、今さら俺に何が出来る?」

 

マーガレットの言葉に一瞬だけ、過敏に反応してしまった洸夜。

だが、直ぐに表情を戻すとマーガレットの言葉を一蹴する。

今更、自分には何も出来る訳がない。

そんない思いが洸夜を支配しようとした時だ。

 

「実は今回、貴方様をお呼びした理由はそこに有るのです」

 

「何……?」

 

イゴールの言葉に多少驚きながらも、洸夜はイゴールからの視線を外さず、次の言葉を待つ。

謎は多いが、何だかんだで不思議な助言をして手助けしてくれるイゴール。

その彼が、わざわざ自分を呼んでまで伝えたい事はとんでもない内容だろ。

洸夜は、直感的にイゴールが自分に伝えるで有ろう内容を予測し、息を呑む。

 

「貴方様が弟様と近々行く事になる町で、ある事件が起こります。貴方様に、その事件の解決をお願いしたいのです」

 

「この際だから、あんたが何で俺が弟と一緒に叔父さんのいる町に行くのを知っているかは聞かないでおいてやる」

 

「ヒッヒッヒッ……ありがとうございます。説明するのも面倒ですからな」

 

洸夜の言葉に、イゴールはいつもの怪しい笑顔一つ崩さずに笑っている。

初めて会った時もそうだったが、この男が何者で何を考えているのかは今だに分からない。

別に悪い人物では無いのは確かなのだが、笑い方等が怪しい為無意識に警戒してしまう。

 

「だが、一体事件って何の事だ? 俺に頼むと言う事はシャドウ関係か?」

 

『彼』のお陰で“影時間”や“タルタロス”は消滅した為シャドウ達も居なく成ったとも言える。

しかし、現にイゴールから頼まれると言う事は、その事件に少なからずシャドウやペルソナが関係する可能性が高い。

 

「それは行って見たら分かります。それに今回の件は弟様にもお願いする予定です」

 

「なッ! 何故、総司もなんだ! アイツはシャドウもペルソナも関係ない!」

 

イゴールの言葉に感情的に成ってしまい、つい怒鳴ってしまう洸夜。

弟である総司には出来るだけ、こっちの非現実的な世界は知って欲しく無かったのが心情だった。

 

「運命としか言えませぬな……」

 

「ッ……!」

 

イゴールの言葉に、洸夜はもう何も言え無かった。

イゴールから運命と言われた瞬間、何故か不思議と本当にそうだと思ってしまったのだ。

 

「一つだけ聞きたい」

 

「いかが成されました?」

 

「大した事じゃないさ……ただ、もし総司が『アイツ』と同じユニバースまで力を得たら、『アイツ』見たいに成ってしまうのか?」

 

もし、総司も『彼』と同じ様に成ってしまうならば、力付くでもイゴールを止めようとまで洸夜は思っている。

美鶴の父や真次郎、それに弟の様に思っていた『彼』まで失った今、弟である総司すら失う訳には行かないそして、洸夜の言葉にイゴールはゆっくりと首を横に振る。

 

「ヒッヒッヒッ……それはあり得ません。アレは、あくまで『彼』の力であって同じ力になる事は有りません」

 

「そうか、ならば良い……俺のやる事は決まった」

 

そう言ってイゴールを見る洸夜の目には、覚悟が写っていた。

 

「うふふ、さっきより良い目になったわね洸夜」

 

「ヒッヒッヒッ。覚悟で満ちていますな」

 

「そんなんじゃ無いんだがな……だが、ありがとうイゴール、マーガレット。お陰で俺は前に進める」

 

「選んだのは貴方よ。洸夜……」

 

「それでは、お願い致します」

 

「……一応聞くが、これは契約か?」

 

「ヒッヒッヒ……そう難しく考えなくともよろしいかと……」

 

イゴールがそう言った瞬間洸夜の意識は途切れた。

 

END




瀬多洸夜
≪せた≫≪こうや≫
年齢:二十歳
髪色:灰色
能力:ワイルド・召喚(ペルソナを複数同時に召喚可能)

趣味:剣術・料理(両親共働きの為)
武器:刀(片手剣)
(美鶴から貰った刀。ペルソナ使いに反応して抜く事が出来る為、ペルソナ使い以外は使えない。また、多少なりともシャドウの力を低下させる事が出来る)

持ち物:召喚器・ペルソナ白書(全てのペルソナが埋まってない本。洸夜が勝手にこう言っている)
洸夜の鈴
(小さい頃によく、自分の後を付いて来ていた総司がいつでも自分の居場所が分かる様に付けていた鈴。
今では洸夜のお守り代わりと成っている。また、同じ様な鈴を沢山所持している為、気に入った人物等を見付けると鈴を上げる様にしている。だが、洸夜の鈴とは造りが違う為、洸夜の鈴とは少し音が違う)

黒寄りの服装を好み、灰色の長髪が目立つ青年でありペルソナ4の主人公の実兄にし、今作の主人公。
二年前まで単身で辰巳ポートアイランドで高校生活を送っていた過去を持ち、そこで起きたシャドウ事件を生き抜いているが『彼』の眠りが原因で仲間と揉めた結果、メンバーの中で一番早く寮を出ると同時に辰巳ポートアイランドから去っている。
その為、後日談である"フェス"には参加はおろか、起きた事すら知らない。
また、辰巳ポートアイランドでの事が今でも洸夜の心の大きな傷となっており、現実を受け止めようとする反面、受け止めたくない感情に葛藤し精神も病みかけたりもした。
また卒業から二年間、親の要望等もあり、進学も就職もしておらず現在はフリーターとして生計を経てている。
プロローグでは、過去に縛られながらも生活していた洸夜を、二年前の戦いの時に世話になったイゴールが再びベルベットルームに招き、洸夜と総司が向かう事となっている叔父のいる町で事件が起きる事と弟である総司が巻き込まれる事を知り、多少の迷いを抱きながらもまだ見ぬ事件解決と弟である総司を守る為、再びペルソナと共に稲羽市へと向かう。


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