ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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デビサバ3とかでないかな……(願望)


孤独の探偵~白鐘 直斗編~
直斗を助けろ、心の闇の秘密ラボ


 

 9月14日(水)曇り

 

 現在、八十神高校【総司のクラス】

 

 放課後までのカウントダウンは間もなくとなっていた。今日は日程的にも午前中で終わりのため早く帰れる。そして残りはHRのみ。

 クラスメイト達は先生が来るまでの間、それぞれの時間を過ごす中、総司の机の周りに陽介・千枝・雪子のいつものメンバーが集まっていた。

 

「何度も言うけど、これからどうする?」

 

「勿論、助けに行くに決まってんじゃん!」

 

 朝から何度も言っている陽介の言葉に千枝は迷いなく応えた。

 

「うん。美鶴さん達も動いてくれるって言ってくれてるし。それに……」

 

 何か言おうとして、雪子は少し表情を暗くしていた。

 それを見て総司は雪子が言いたい事を察し、首を横へと振る。

 

「気にするなとは言わない。……けど、直斗の行動の全てに責任を感じることはないと思う」

 

 自分達は何度も直斗と会い、そして少し揉めてしまっている。

 メンバー達の中には、今回の直斗の行動は自分達が追い詰めたからではないのかと思っている者もいる。

 総司はそう思い、雪子にフォローをいれたのだ。

 

「でも!……いくらなんでも、死ぬかもしれないのに」

 

 万が一が起これば間違いなく直斗の命はない。

 そう思うと、雪子は簡単には切り替える事が出来ない様だ。

 その様子に総司は、洸夜からその事も踏まえて何度も説得していた事を話すと、陽介が口を開いた。

 

「あいつ……なんでそこまでして。死んじまったらそこで終わりなんだぞ!」 

 

「警察はもう動かない。それなら自分でって……想いもあったのかな?」

 

「今は分からない……」

 

 今回の直斗の行動は、もしかすれば自分達が思っているよりも深いのかも知れないと総司達は薄々と感じ始めた。

 自分達はまだ知らない事。兄である洸夜は何か知っていたが、洸夜は教えてくれなかった。

 

『俺が勝手に言って良い事じゃない』

 

 何かあるのだろうか。余程の事なの、頑なに直斗について教えてくれなかった洸夜が言った言葉を総司は思いだしていた。

 そんな時であった。総司の携帯が振動し、メールを受信した。

 この時間帯には珍しい。総司は何かを察してメールを開くと、送り主は洸夜であった。

 洸夜のメールには短めに、こう書かれていた。

 

『先に行く。後で来い』

 

「ああ!」

 

 その意味が分かった総司が思わず声を上げた瞬間、今度は廊下から総司を呼ぶ声が届いた。

 

「総司センパーイ!」

 

 聞き覚えのある声の主は間違うはずもなく、りせの物だった。

 りせは手を振りながら総司達を呼んでおり、荷物を持っている事からHRも既に終わっている様だ。

 総司達はりせの下へ向かった。

 

「りせ、もう少し待っててくれ。もう少しでこっちも終わる」

 

「うん。それは良いんだけど……ねえ、先輩達、完二見なかった?」

 

「えっ? 完二君?」

 

 千枝が首を傾げた。

 何故ならば、りせと完二は同じクラスであり、りせの方が圧倒的に所在は詳しい筈だからだ。 

 

「完二くんがどうかしたの?」

 

「それがね雪子先輩。完二、今日は学校に来てないの。無断欠席だって!」

 

「マジか……こんな時になにやってんだ!」

 

 陽介は完二の行動に怒った。

 今こそ、自称捜査隊の力を一つにする時。皆の血と汗を一つにする時だ。

 それなのに完二は無断欠席。

 

「なにやってんだアイツは!!」

 

「なんで陽介、あんな熱いの?」

 

「昨日、少年少女の探偵物見て、今の自分達に重なってテンション高くなってるんだと思う」

 

 千枝は冷静に応えた。

 これで陽介の理由は分かったが、やはり分からないのは完二の事だ。

 不良ではあったが、根は良く、近頃はしっかりと学校に通っていた完二が無断欠席。

 総司はその原因を考えていた時だ。先程の洸夜からのメールを思い出す。

 

『先に行く。後で来い』

 

「アアッ!!?」

 

 総司は叫びながら、一つの可能性に辿り着いた。

 

▼▼▼

 

 現在、テレビの世界【いつもの広場】

 

 総司達がそんな事をしていた頃、洸夜達はテレビの世界へ入り、直斗救出の準備を行っていた。

 美鶴達が辺りを警戒し、洸夜はワイトの探知で直斗の居場所を探っていた。

 

「どうですか、洸夜さん?」

 

「もう少し待ってくれ。――随分と世界が増えたからな。今一、探知が面倒になってる」

 

 探知特化のワイトだが、色々と世界が増えた事で前よりも場所の特定に時間が掛かってしまっていた。

 しかし、それでも不可能な訳ではなく、やがて洸夜はその場所を特定する。

 

「……見つけた。どうやらこっちの方角だ」

 

 洸夜の指さす場所、そこは嘗て総司達が初めて訪れた世界。小西早紀によって生まれた稲羽、【異様な商店街】と言われている場所の奥からだった。

 場所は特定され、洸夜達はその場所へ行こうとすると、不意に美鶴が呟いた。 

 

「しかし、本当にテレビの向こう側の世界なんだな……」

 

 洸夜の時は左手の謎の力によって訪れたが、今回は実際に洸夜の部屋のテレビより入った事で、美鶴達はテレビの世界だと完全に自覚できた。

 聞いてはいたが、やはり最初は半信半疑。テレビの中に入ると言う現実は色々と困惑する物だった。

 

「まあ、最初は俺もそうだった。影時間とは違うからな。……けど、総司達はジュネスの家電コーナー、そこのテレビのから入ってるぞ?」

 

「バレんだろ。普通……」

 

 まるでチャレンジャーでも見るかの様な真次郎。そこは息子の陽介がいるから何とかなっているが、それでも危なっかしいのは美鶴達も同感の様だ。

 

「その事を踏まえても、美鶴達に頼みたい。――明後日、俺は大学の入試の為に稲羽を離れる。だから、その間、総司達の事を頼みたいんだ」

 

 正確に言えば、試験そのものは三日後だが、前日には現地入りしていなければ翌日の試験には間に合わない。

 

「私は構わない。その日ならば特に本家にも本社にも戻る必要はない筈だ」

 

「私も美鶴さんがいるならば戻る必要もありません」

 

「……ったく、昔からお前は面倒な事ばかり押し付けやがる」

 

 最後に愚痴みたいに言う真次郎だが、断らない事からただ素直じゃないだけなのが分かる。

 

「……前よりは大丈夫だと思うが、あいつらは詰めが甘いからな。やっぱり、少し心配なんだ」

 

「なら、私達がしっかりと面倒を見ている。ちゃんと受かってこい」 

 

 そう言って美鶴は洸夜の背中を軽く叩き、洸夜も少し照れくさそうにしながらも頷き、直斗の下へ向かおうとした時だった。

 真次郎は背後から何かの気配を感じ取り、背後を振り向いた。

 

「……」

 

「どうした真次郎?」

 

「……いや、なんでもねえ」

 

 洸夜の言葉に真次郎はそう言って振り返り、メンバー達は静かにその場を後にするのだった。

 

▼▼▼

 

 現在、秘密結社改造ラボ

 

 古い特撮モノのアジト。その出入口のお手本の様な物がそこにはあった。

 一見、ただの倉庫にしか見えない外見。しかし、巨大な無駄に濃いアンテナや組織のマーク。明らかに普通ではなかった。

 そんな場所まで来た事で、ワイトは嬉しそうに骨を鳴らした。

 

『カシャシャ……!』

 

「到着だ。……結構、本格的な形だな」

 

 洸夜は目の前まで来ると一旦、ワイトを戻し、出入口でもある巨大なゲートの姿を眺めていた。

 

「……周りには特に何もないか」

 

「中も特に異常はありません」

 

 美鶴は周囲を、アイギスはゲートからラボの中をそれぞれ見たが、特にこれと言った変化や異常は見当たらなかった。

 洸夜のシャドウの事もあり、油断は絶対に出来ない。

 皆、それぞれの心構えで辺りを警戒していたそんな時だった。真次郎は何かを感じ取り、自分達が来た方向へ振り向いた。

 

「――出て来い」

 

「……!」

 

 ドスの効いた真二郎の声が辺りにいる者の耳に届く。同時に何者かの反応もあった。

 洸夜達もその声に反応する様に武器を構え、自分達が来た道の方を見ながら様子を見ていると、影から出て来たのは巨大なシルエットであった。

 そして、そのシルエットには洸夜は見覚えがあった。

 

「……完二か?」

 

「……ウッス」

 

 そこにいたのは、本当ならばここにいる筈のない完二であった。

 時間的に考えても、学校からここに来るまでの時間を入れてもまず間に合わない。

 そうなると、完二がここにいる答えは一つ。

 

「お前、ずっとテレビの中で俺達が来るのを待っていたな?」

 

「……」

 

 洸夜のその言葉に完二は、悪戯がバレた子供の様な顔をしながら頷いた。

 そんな様子を見る限り、図星だったのだと分かる。

 

「確か、君達は今日、学校の筈じゃなかったか?」

 

 元生徒会長なだけあり、美鶴はその疑問に真っ先に気付く。

 ここにいる以上、その答えは分かり切ってもいたが、本人から言わせようとする美鶴の厳しさの一つが出ていた。

 

「……その、サボったつうか……行かなかったつうか……」 

 

「行かなかったんだろ?」

 

「……はい」

 

 罪悪感はあるらしく、洸夜の言葉で完二は頷いた。

 総司達との事もあってから、完二はちゃんと真面目に学校へと通っている。

 進級の事や、自分の評判のせいで母親に迷惑が掛かっている事も完二なりに考えて最低限の事はし始めていた。

 そんな完二が今回に限ってこんな事をした理由は一つしかない。

 

「直斗が気になってたんだな?」

 

「……あの野郎、散々オレ等に言っといて自分が捕まったら意味もねえだろ!――そう思ったら、身体が動いてたんだ。洸夜さん達なら、翌日に行動に移すと思ってたから」

 

「成る程。しかし、気持ちも分かるが君達はまだ高校生だ。私達もいる以上、学業にも意識を向けた方が良い。――色々と、"面倒事"が起こらんとも限らんからな」

 

 美鶴は完二から視線を外さずに言った。

 能力・経験共に豊富な美鶴達も来た以上、完二達が色々と犠牲にする必要はない。

 学ぶ事もまだあり、場合によっては人生に左右する。

 洸夜達は桐条等のバックアップの下、色々と自由が効けたが完二達には地盤も後ろ盾もない。

 万が一、自分達の限界を超える責任が起きても誰も守ってはくれず、場合によっては家族に"影響"がでる可能性もある。

 善を成したからと言ってそれが帰ってくるかは分からない。

 非道・理不尽、己の目的を達成した時、何かを失ってしまう事だってある。

 ”信用”を使わなければならない時が必ず起きる以上、最低限の事はしていなければならない。

 美鶴達の総司達への潜在的不安は尽きそうにない。

 だが、完二は足を止めなかった。

 

「そんな事は分かってんだ! あんた達の時とは事情も立場も違うってのは分かってる! けどよ……あの馬鹿野郎を連れ戻して、一発殴ってやんなきゃ気が済まねぇんだ!」

 

 既に賽は投げた。

 自分達が追い詰めてかも知れない直斗を、自分の話を聞いてくれた直斗を、完二は助けて殴る為にここに来たのだ。

 そんな覚悟に反応したらしく、真次郎が前に出た。

 

「……別に良いだろ。どの道、他の連中も来る以上、俺達がとやかく言う理由はねえ」

 

「意外だな。……お前が一番、何か言うと思っていたんだが」

 

 美鶴からすれば、自分よりも濃い内容を真次郎が言うと思い、言葉を選んでいた。

 しかし、当の真次郎の反応が意外な為、美鶴は少し驚いてしまう。

 

「真次郎さんは何か考えがあるのですか?」

 

「そんなんじゃねぇ。――ただ」

 

 真次郎は静かに呟きながら身体を横のままにし、完二を目線だけで見た。

 完二もそれに気付き、只者ではない真次郎の気迫に息を呑む。

 それに気付いたかどうかは分からないが、真次郎は静かに呟いた。

 

「そいつ等が、自分の責任を自覚、そして取らなかった時は……そんな奴らが、この非現実(せかい)に入っちまった。――ただそれだけの事だ」

 

 この場にいない総司達へ対しても言っているのだろう。

 全ては自己責任。これから先、何が起ころうとも。

 真犯人に目を付けられようが、家族に何かが起ころうが、どんな結末になろうがそれは自分達の責任。

 

「……あ、当たり前だ! 自分のケツ位、自分で拭くぐらいはできらぁ!」

 

 真次郎の言葉を挑発とも取ったらしく、完二は拳を真次郎へ向けて言い放った。

 それに対して真次郎は沈黙で返したが、その表情は仄かに微笑んでいた。

 

「話が付いたなら、これ以上は私から言える事はないな」

 

 自分が深く考えすぎてしまったと判断し、美鶴は真次郎の短いながら的確な言葉に頷き、アイギスは完二へ近付いた。

 

「では、これから宜しくお願いします。巽さん」

 

「お、おう……!」

 

 まだ、アイギスへの慣れが出来ていないらしく、完二はリアクションに困っていた時だった。

 自分は前にも伝えている為、ずっとその状況を見ていた洸夜は考えていた。

 完二の気持ち、そして直斗の事を。

 

「似た者同士なんだよ、お前と直斗は」

 

 気付けば洸夜は完二へそう言っていた。

 男でありながら女性的な事が得意で、男っぽくないと言われて生きて来た完二。

 女でありながらカッコイイ良く、どちらかと言えば男の子が好みそうな物が好きだった直斗。

 二人は鏡に近い。互いに映る鏡の中の姿。

 直斗の事を知っている洸夜だからこそ分かった事。しかし、完二も総司もそれをまだ知らない。

 その為、そんな洸夜の言葉を感じは理解出来なかった。

 

「?……洸夜さん、それってどう言う意味ッスか?」

 

「……自分の目で確かめろって意味だ」

 

 そう言って洸夜は、完二を激励する様に背中を叩き、ラボの中へ足を”一歩”踏み入れた。

 その”一歩”、そう”一歩”踏み入れた時だった。 

 突如、洸夜が足を置いた床がビックリ箱宜しく、バネ仕掛けの様に飛びあがり、洸夜はそのまま吹き飛ばされ、三人の間を飛んだ。

 

「ゴハッ!!?」

 

「洸夜!!?」

 

 飛んだ洸夜は床へそのまま落下して大の字で倒れ、美鶴が慌てて洸夜の下へ駆け寄った。

 

「洸夜!? 大丈夫か?」

 

「あ、あぁ……オシリスが物理無効だからな。なんとか助かった……!」

 

 ダメージは0で済んだが、突然の事で身体が驚いているらしく、産まれたての仔牛の様にゆっくりと立ち上がる。

 そんな洸夜を感じは心配そうに見ており、そのまま視線をラボへと向けた。

 

「クソッ……罠を張ってやがったのか!」

 

 見た目的にも罠の一つや二つは確実にありそうではないか。

 何があるか想像もつかないラボ。そんなラボの、先程、洸夜がやられた床に真次郎は何回か足を置いて罠の状況を見た。

 結果、罠は起動しなかった。

 

「使い捨ての罠かも知れねえな」

 

「どちらにせよ、少し警戒を強くした方が宜しいですね」

 

 そう言ってアイギスは先行する様に進んで行き、洸夜達も後に続くようにしてラボの中へ侵入するのだった。

 

▼▼▼

 

 現在、秘密結社改造ラボ【フロア一階】

 

 露出した配線、巨大な錆びたパイプ、網状の壁や鉄板。

 中を照らしているのは回転しながら明かりを照らすランプ、そのランプによって周囲は点滅する赤の世界。そして、銀行の金庫の様に分厚い扉によって先を閉ざされている。

 ラボの中のBGMは壁の中から聞こえる謎の機械音のみ。

 あまり長居はしたくない環境だが、警戒しながら進む洸夜達を”シャドウ”達が出迎えた。

 

「オシリス!」

 

『―――!』

 

 主の命を受け、新たな姿となったオシリスが大剣を大きく薙ぎ払う様に振り回し、その衝撃にシャドウ達は原型をとどめる事叶わず、その存在を終わらせてゆく。

 

「チッ!」

 

「外しません!」

 

 真次郎とアイギスもそれぞれの武器でシャドウ達を倒して行き、シャドウ達は斬られたり、銃弾で穴を空けながら消滅して行った。

 すると突如、一体のシャドウ『地獄の騎士』が現れて真次郎へと突撃を行う。

 

「カストール!」

 

 だが、真次郎は冷静に判断を行い、カストールを召喚した。

 カストールと地獄の騎士は互いに馬型に乗ってはいるが、力の差は歴然であり、カストールの突撃に地獄の騎士はそのまま角に突き刺さって消滅した。

 

「洸夜!」

 

「おっと!?」

 

 隙を突かれ、背後を取られた洸夜に迫るシャドウへ、美鶴はサーベルを突き刺した。

 

「すまん、油断した! やっぱ、ワイトを召喚してないと辛い」

 

「多数の召喚はお前の負担になるだけだ。私達もサポートする!」

 

 そう言って背中合わせになる洸夜と美鶴は、次々とシャドウ達を薙ぎ倒して行く。

 アイギスや真次郎も同じ様に倒して行き、その慣れた動きを見て圧倒されていた完二にも火が入った。

 

「畜生! 俺だけが足を引っ張る訳にはいかねんだ! ――ロクテンマオウ!」

 

 完二の前に現れるはペルソナ・ロクテンマオウ。

 ロクテンマオウは巨大な大剣を振上げ、一気に振り下ろすと、衝撃波などによって散開していたシャドウ達を吹き飛ばした。

 

『――!』

 

 両断されるモノ、壁に激突するモノ等様々であったが消滅して行くシャドウの群れ。

 元々、隠密と言う訳ではなかったが、ここまで皆で暴れればシャドウ達も更に騒ぎ出すのは当然であった。

 それを証明するかのように、ラボ内に警報も鳴り響く。

 

『ヴィー! ヴィー! ――侵入者アリ! 侵入者アリ! 直チニ迎撃セヨ!』

 

 ラボ内に響き渡る警報。ほぼそれと同時に洸夜達の前に巨大な影が降り立った。

 

「流石にデケェな……」

 

 目の前に現れた新手を見上げ、真次郎はそう呟いた。

 赤く、左右の肩にそれぞれ正・義と刻まれているロボット風のシャドウ『正義・圧倒の巨兵』であった。

 圧倒の巨兵は洸夜達の姿を確認すると、眼光が光り、手に持つ巨大な剣を振上げる。

 

「ヘーメラー!」

 

 洸夜は先の己とのシャドウ戦で生まれた新たな仮面『太陽・ヘーメラー』を召喚する。

 ヘーメラーは低飛行で圧倒の巨兵へ接近して手に力を込め、万能属性攻撃『下天の光明』を放った。

 

『!!?』

 

 下天の光明の攻撃によって腹部に風穴があく圧倒の巨兵。

 そのまま身体が傾き、放電しながら崩れ落ちる姿にそのまま動きを止めると思われたが、圧倒の巨兵の瞳が点滅を始めた。

 それと同時、アイギスはその体内にエネルギーが集まっている事に気付く。

 

「自爆するつもりです!」

 

 アイギスは皆に大声で伝えたが、自爆への間はとても短かった。

 その声と同時に光が圧倒の巨兵を包み込んだ時であった。

 圧倒の巨兵は凍える青に包まれた。

 

「爆弾処理ならば終わったぞ?」

 

 美鶴がそう言うと、パァン! と刃の鞭を引っ張り破裂音を出すアルテミシア。

 それを合図に圧倒の巨兵を包んでいた氷は中の圧倒の巨兵事、砕け散った。

 

「すまん、美鶴。完全に油断した……」 

 

「気にするな。役に立てなければ、ここに来た意味がない」

 

 向かい合う洸夜と美鶴。ついこの間は負の繋がりしか残っていなかった二人だが、今は昔の様に共に戦えている。

 それはとても頼もしく、安心でき、そして温かい感覚であった。

 

「だが、入口での罠の件もある。やっぱし、探知は必要だ。……洸夜、可能ならあの骨を召喚しとけ」

 

 先程の件もある中、このラボごと自爆されては堪ったもんじゃない。

 真次郎は全てにおいて最悪の状況が起こった時の対処に必要と判断し、真次郎は洸夜に探知系ペルソナの召喚を要請した。

 

「一網打尽されたら笑えないしな。余裕がある内に探知しとくか……ワイト!」

 

 パリィィィィン――!

 

 召喚器によって眉間を打ち抜いた瞬間に響く、何かが砕け散る音。

 それと同時に錆びた鎌を持ちながらワイトが召喚された。

 洸夜は心でワイトに命令し、辺りへの警戒を強めながら先へ進んで行った。

 

▼▼▼

 

 あれから少し経ち、幾つかのフロアを通ってきた洸夜達。

 しかし、洸夜だけがどこか疲れた表情を浮かべていた。ペルソナによる疲労ではなく、別の事で。

 小部屋に入ると、何故か洸夜だけに蝿叩きサイズの小物顔面に放たれ、足元に出っ張りが飛び出してコケ、宝箱を開ければバネ仕掛けでパンチが飛んでくる。 

 その結果、シャドウ達と同じ回数戦っていても、洸夜だけの負担は大きかった。

 そんな事が続いている為、新しいフロアに入ると、とうとう真次郎が口を出した。

 

「流石に変だ。罠なら俺達にも被害が出る可能性がある中、なんで洸夜だけが引っ掛かる?」

 

「しかも、探知されねえ様に手作り感満載ッスよね……」

 

 ワイトが探知に特化しているとはいえ、それはあくまで対シャドウに関してに言える事。

 無論、ダンジョン等の変化やシャドウの力が働いた罠等は探知できるが、今までのまるで子供の悪戯の様な罠まで分かる訳ではない

 

「この世界は洸夜さんの世界とは違って戦い易いですから、その点も踏まえ、私達の中で一番の戦力である洸夜さんを狙っているのでしょうか?」

 

「それにしては決定打に欠けている。まるで洸夜に嫌がらせをしている様にしか見えないな」

 

 戦力を削るのが目的とも思えない罠(洸夜限定)の数々。

 目的が分からず、探知も出来ない小さな罠に洸夜達が頭を捻っていると、完二が何かに気付いた。

 

「……もしかしたら」

 

「どうしましたか、巽さん?」

 

「あ~だから……」

 

 アイギスの呼びかけに完二は頷くものの、言いずらそうに口を開け閉めしていた。

 

「完二、何か気付いたなら言ってみろ。お前にしか分からない事かも知れない」

 

「……その。この世界って入れられた人間が作ってる様なもんじゃないスか?」

 

「私達もそう聞いている」

 

 完二の言葉に自分達との認識の間違いもなく、美鶴達も頷いた。

 

「だから……この世界作ったのが白鐘の野郎だから、つまり……。――洸夜さん、あいつに何かしたんじゃないスか?」

 

 完二がそう言った瞬間、僅かに辺りの時間が止まった様な気がした。

 そして、その場の全員の視線が洸夜へと向けられる。若干、疑いの眼差しで……。

 

「いやいや待て待て待て!? それは、それはおかしい考えだ!」

 

 若干、早口になりながら必死で弁解する洸夜。

 被害者から一変し、まるで自業自得の様に思われ始めたのだから仕方ない。

 だが、それは論破するかの様に真次郎が呟いた。

 

「洸夜、お前……”前科”あんだろ?」

 

 真次郎の言う”前科”、それはS.E.E.S時代に遡る。

 当時は後輩からはクールな先輩として人気があった洸夜だが、普通にノリも良く『彼』と共にメンバー達への悪戯をしていた事がある。

 メンバー色々と内容は異なるが、真次郎の場合はニット帽にヒヨコの遊具を仕込まれ、怖い表情の真次郎が通る度にピヨピヨと鳴ってシュールな光景が生まれている。

 美鶴の場合も一度、シャドウとの戦い方を巡って喧嘩になり、”その二つの自家製メロンでも作ってれば良いだろ”と彼女へ言い返した事がある。(その後、美鶴に処刑されている)

 

「洸夜、白鐘直斗とお前は関わりを持っている以上、何かしたんじゃないのか?」

 

「ショックだ……まさか、やっと絆を取り戻した大切な仲間に疑われるなんて……」

 

 美鶴のその言葉に洸夜はあまりのショックに膝を付いてしまう。 

 その様子に自分がまた洸夜を傷付けたと思い、美鶴は慌てて弁解をした。

 

「ち、違うんだ洸夜! わ、私はただ、お前が何かしたのならば、その原因を取り除くべきだと考えて……!」

 

「アホ、洸夜の掌で踊らされてんじゃねぇか。洸夜も心当たりがあんならとっとと言え」

 

 美鶴ならば何とか出来たであろうが、残念ながらこの場には真次郎がいた。

 真次郎は美鶴がまんまと洸夜に言い包められている事に溜息を吐きながら、洸夜へ心当たりを吐かせようとする。

 

「とは言うが、心当たりは……」

 

 初対面で事故とはいえ胸を触って揉んだ。

 時折、直斗の反応が面白く、おちょくったり子供扱いした事もしばしば。

 しかし、それらは直斗の怒りに触れる程の事ではない。

 本当に嫌がっていたならば本当にせず、ちゃんと判断する。

 そうなると、本当に洸夜には原因が分からず、洸夜が悩んでいた時だった。

 洸夜はある事を思い出した。

 

『俺を恨めよ、直斗……』

 

「……あっ」

 

 ペルソナを見せた時、少しでも直斗の不満を無くす為に言ったあの言葉。

 思い出した事で洸夜は呟き、それを聞いていた美鶴達も反応をする。

 

「洸夜、まさかお前……本当に何かしたのか?」

 

 一度、嵌められている事もあってか、美鶴の眼光は中々に鋭かった。

 更に言えば美鶴は直斗の性別の秘密を知っており、最早死角はない。

 流石の洸夜も何もなかったとは言えない。

 

「まあ、その……それっぽい事はあった。――けど、そんな暴言とか暴力を振った訳じゃないぞ!」

 

 誤解を与えない様に洸夜は慌てて弁解をした。

 別に嘘をついている訳でもなく、暴を振ってはいないが傷付けてしまった可能性は否定できない。

 勿論、美鶴達も完二も洸夜がそんな事をする人間ではない事は知っており、完二は少し悩んだ感じに口を開いた。

 

「まあ、洸夜さんと白鐘の間に何があったかは、この際、どうでも良いッスよ。――少なくとも、オレ等はアイツの事を殆ど知らねぇんだ……」

 

 完二の表情は暗かった。

 短いながらも全く接していなかった訳ではない直斗の事、それを冷静になってみれば全く知らない事がショックなのだ。

 

「……行きましょう」

 

 アイギスが皆に声を掛け、洸夜達は次のフロアへ向かうのだった。

 

▼▼▼

 

 それは更に二つフロアを通った時だった。

 フロアの各所に設置されているモニターから映像と共に音声が流れ、洸夜達は足を止めてモニターを眺めた。

 そこに映っていたのは、”二人”の直斗だった。

 

「直斗……? もう一人はシャドウか」

 

「やっぱり、もう出てやがった……!」

 

 いつもの青より服を着た直斗、白衣を着ている直斗のシャドウの存在に洸夜と完二が真っ先に反応した。

 既にシャドウが出現している以上、直斗が危険に晒されているの間違いない。

 血生臭いとまでは言わないが、恐ろしい状況になっている……と思っていたのだが。

 

『なぁんで! なぁんで僕だけを置いて行くの!? 一人は寂しいよ!』

 

『ハァ……いつまで泣いてるんだい? ずっと泣いてばかり、そろそろ僕も帰らないと』

 

 現実は血生臭い処か、何故か直斗のシャドウは幼い子供の様に泣き続けており、それを見ている直斗は困った様にしていた。

 まるで駄々を捏ねる子供を見ている親の様にも見える。

 現にモニター越しの直斗の声には、そんな感じの疲れが読み取れる。

 しかし、そんな事を言う直斗にシャドウは更に泣き叫んでしまう。

 

『だって! だって! 皆が僕に言うんだ! ”子供の癖に”とか”子供はもう帰れ”とか!? なんで事件を解決しても誰も認めてくれないの!』

 

「……君のは本当に駄々を捏ねているだけだからだ。事件を解決する以上、こんな姿の僕が心無い言葉を浴びせられる事、それも覚悟の上さ」

 

 シャドウに対して冷静に返答する直斗。

 シャドウの事を完全に他人と認識してしまっているからこその冷静さだが、直斗はまだ知らないだけ。

 目の前の存在の正体を。

 

『どうしてそんな”嘘”を付くの? 君の事を言ってるんだよ! 皆からそう言われて部屋の中で泣いてたじゃないか!』

 

「っ!? いい加減にしないと本当に怒りますよ。一体、誰が嘘を付いて泣いたって――」

 

『お前だよ――!』

 

 シャドウの雰囲気が周りの空気と共に一変する。

 ドスの効いた低い声、重苦しい空気。 

 それを直斗が気付かない筈がなく、事態の異変に気付き、洸夜達も走りながら各所にあるモニターで事態を見守りながら直斗の下へ向う。

 

「なっ……なにを……!」

 

『必要な時だけ”少年探偵”……終わったら”子供は帰れ”……何をしても子供としか見られない……大人になりたい、カッコいい男の探偵になりたい……』

 

 いつの間にか立場が逆転していた。

 直斗のシャドウは徐々に言葉だけで直斗を追い詰めて行き、シャドウが言っている事は真実であるのだろう。

 直斗は一歩、また一歩と後ろへ下がって行く。

 

『瀬多洸夜……あの男に対してもそうだ。最初は疑っていた癖に、いつの間にか物語の探偵の相棒、それか協力者みたいに思って喜んでたよね?』 

 

「うるさい! あの人は関係ない! あの人と僕は違うんだ!」

 

『だろうね、あの男は自分の道を迷いを断ち切って進んでいる。……ショックだったよね、事件から手を引く様に言われたのが、しかも本当に自分が入り込めない領域だって知っちゃったから』

 

 シャドウの一言一言が直斗の勘に障る。

 当たり前だ、シャドウは直斗のなのだから。変えられない現実、しかし直斗は認める事が出来ない。

 

「だからこそ! 僕は自分の力で解決できる方法を考えたんだ! お祖父ちゃんの力じゃなく、洸夜さんに頼るんじゃなく僕自身の力で、あの人達の様な誇れる人間になるんだ!」

 

『無理だろ。だって祖父や洸夜とか、カッコいい男の大人になりたいとか言ってるけど、それ以前に君――”男ですらない”じゃん?』

 

「……はっ?」

 

 モニター越しで聞いていた完二は、そのシャドウの言葉を聞いて思わず足を止めてしまった。

 洸夜達も、完二に合わせる様に一旦、足を止めたままモニターの中の直斗の方をポカンとした表情で見つめ続ける完二を見た。

 

「あ、あいつ……”男”じゃねぇ……?」

 

「……ああ、知ってしまった時点で隠せないな。――白鐘直斗、あいつは正真正銘”女”だ」

 

 知っていた口調で言う洸夜、そんな洸夜を完二はポカンとしたまま向いた。

 

「洸夜さんが内緒にしていた白鐘の秘密って……”性別”の事だったのかよ。――けど、なんでアイツ、性別を隠してたんスか!?」 

 

「アイツの立場上、男の方が都合が良かった事もあるんだろうが……今の話を聞く限りでは完二、お前と似ているかもな」

 

「……ッ!?」

 

 その言葉に完二は気付く事が出来た。

 裁縫等が好きだったにも関わらず、周りからの言葉で苦しんでいた自分。

 どれだけ結果を出しても認めてもらえず、決してなれない皆から認められる”男らしい”探偵に憧れている直斗。

 似ていた。自分と直斗の苦しみは同じと言える程に似ていた。

 

「そりゃあ……苦しい筈だろうが。俺だって、認めてもらったのは最近なのに、アイツは俺以上に苛酷な状況で耐えて来てたんだからよ……!」

 

「……直斗は俺にバレてからも、女として扱われる事には過剰に嫌がっていた。――今思えば、自分の祖父や俺への憧れ、そして対等の存在になりたかったから……か」

 

「だからって! なんでアイツがここまでしなきゃならねんだ! 警察だって殆ど捜査を止めてんのに、なんでアイツがそこまでしなきゃならねんスか!」

 

 全てにおいて完二は納得もしなければ認める事もしなかった。

 いくら理由があろうとも、直斗がここまで無理をした無謀や追い詰めた周りの環境。

 こんな事、自分と同年代、しかも”女子”がやろうとする事ではない。

 だが、そんな完二の疑問に美鶴がすぐに答える事が出来た。

 

「”白鐘”は探偵の業界でも知らない者がいない程、力と影響力を持った一族だ。そして、信頼が命の業界で白鐘は警察組織の上層部からも信用も得ている」

 

「……そんなに凄い家なのかよ、アイツ」

 

 直斗の家の凄さを美鶴の口から聞かされた事で、冗談の類ではないと完二はすぐに判断できたが、美鶴の話はまだ終わっていない。

 

「だが、信頼は得るのは難いが、落とす事は易い世界でもある。更に言えば需要が減ったとはいえ、代変わりした白鐘に依頼人達が求めるのは今までか、それ以上の成果。――白鐘直斗、”彼”のさじ加減一つで業界と白鐘の家を潰す事になる」

 

「アイツ……そんなの背負ってんのか」

 

 完二は直斗の現状を聞き怒りを覚えた。

 周りではなく、本当に何も理解してないにも関わらず好き勝手言っていた自分達に対してだ。

 

「本当に……オレ等、お遊びじゃねえかよ……」

 

「……」

 

 俯きながら呟く完二、そんな彼を真次郎が見詰めていた時、遂にそれは起こってしまう。

 

「違う! 僕は……僕が思っているのは!」

 

『何も違わないだろ? 叶わない願いの為に駄々をこね、そして自分で周りの味方を遠ざける癖に何か言われたら部屋で一人で泣く。――全部、僕は知っているんだ。僕は”君”だからね』

 

「違う! お前は僕じゃない! 白鐘直斗は僕だけだ!」

 

 モニターから叫ばれる直斗拒絶、それがスタートの合図の様に洸夜達は一斉に走り出し、完二は慌てて後を追った。

 そして、モニターからは直斗のシャドウの笑い声が響く。

 

『アハハハハハッ!! それが答えか! ――なら、死んでもらうよ! さあ、始めるよ! 人体改造手術をさ!』

 

 その瞬間、モニターは砂嵐に呑まれた。

 映像はもう見えない。

 

『我は――影――真なる我――!』

 

 それを最後にモニターは死に、洸夜達と完二は急いで直斗の下へと急いだ。

 

「急げ! シャドウ化している! ここを抜ければすぐだ!」

 

 洸夜の言葉に頷きながら目の前の通路をメンバー達は走り抜け、少し広いフロアに出た時であった。

 そのフロアの奥には分厚い鉄板の扉があり、手術中のランプが点滅していた。

 しかし、同時に扉の前、その真下から次々と出現する巨大な姿が現れる。

 それは、ラボで最初に戦った大型シャドウ・圧倒の巨兵であった。しかも、その数は5体。

 

「おっ……主人公機の量産タイプか? 好きな展開だ」

 

「言ってる場合か……」

 

「他のシャドウも出現しています!」

 

 関心した様に言う洸夜へ、真次郎が呆れた様に呟くが目の前では、更にシャドウが増えている事をアイギスが周りへ知らせる。

 

「クソッ! 時間がねえのに、こいつ等の相手なんか……!」

 

 既に直斗ぼシャドウは暴走している。

 下手なタイムロスは直斗の死を意味しており、無駄な戦いは避けるべきだった。

 しかし、目の前のシャドウ達は徐々に距離を詰めており、戦いを避ける事は不可能。

 それを察してか、美鶴が完二へ言った。

 

「巽完二! このシャドウは我々が相手をする。君は白鐘直斗の下へ行け!」

 

「なっ! けどよ、この数は――!」

 

「セト!」

 

 洸夜は完二の言葉を遮り、黒龍の様な姿をしたオシリスの弟、ペルソナ『月・セト』を召喚する。

 セトは完二の目の前に降りると、呆気になっている完二の後ろからアイギスが接近し、そのまま完二を持ちあげた。

 

「お、おい!?」

 

「大人しくしてください。危険です」

 

 アイギスは上で暴れる完二を気にせず、セトの背中へ放り投げると、セトは飛翔し、そのまま直斗のいるであろう部屋の扉の方へ向かって行く。

 

「こ、洸夜さん!」

 

「後で追う! お前は直斗を守れ!」

 

 セトの背中から洸夜へ抗議しようにも、さきに洸夜から断れない事を言われてしまい、黙ってしまう。

 そして、そのまま完二は扉の奥へと進んで行き、シャドウ達は完二を追おうとした時だった。

 アイギスの火器が火を吹き、次々とシャドウを撃ちぬいて行く。

 

「先へは行かせません!」

 

「やるぞ!」

 

「任せろ!」

 

「……おう!」

 

 アイギスの先制攻撃を合図に、洸夜達へ狙いを定め、洸夜達も武器を構えて迎え撃つ様に飛び出して行き、戦闘の幕が上がった。

 

▼▼▼

 

 現在、秘密結社改造ラボ【手術室】

 

「くそ……アイツ、どこにいやがんだ?」

 

 セトの背中に乗り、空から直斗を探す完二。

 しかし、手術室とは名ばかりで中はとても広く、廊下の様に長い通路を数分近く飛んでも直斗は見つからない。

 完二は段々と焦りを感じ始めるが、その時、完二は倒れている身に覚えのある姿を見つけた。

 

「いた! おい、降りてくれ!」

 

 直斗の姿を確認でき、完二は慌ててセトの頭を叩いて降りる様に言った。

 セトは若干、不満そうな表情をしていたが素直に降下し、直斗の横と降り立つ。

 

「おい! ――おいッ! 白鐘! お前、大丈夫か!?」

 

「……うっ、君は……巽君? なんで君が……?」

 

 声にモニターでの元気はないが、声の割に見た目には害はそれ程はない。

 だが、良く見れば周りモニターの時と変わり、ベッドや機材は見る影もなく、床にもダメージは出ている。

 何かしら起こったのは誰が見ても明らかだが、”直斗の影”の姿はない。

 とりあえず、完二は安心し、直斗の問いに答えた。

 

「てめぇを助けに来たに決まってんだろ! 学校で散々、言っといて逆に捕まってたら世話ねえよ……」

 

「……」

 

 その言葉に直斗は沈黙で返す。

 しかし、安心も出来たのか呼吸は落ち着き出しており、その直斗の様子に完二も一息入れる。

 

「ふう。けど、良かったぜ。取りあえずこっから――」

 

 直斗を両手で抱えて立ち上がり、完二がそこまで言った時であった。

 

 ――ブオォン!

 

 何か、ジェット機の様な何か飛行音が薄らと二人の耳に届いた。

 

「ッ!?」

 

 音の正体を知っているのか、それを聞いた直斗の表情が変わる。

 明らかに恐怖を抱いた表情だが、完二はそれに気付いておらず、その場で周囲を見渡し始めた。

 

「なんだ、今の音……?」

 

 ジェット機か何かの音に聞こえたが、その割には音の規模が小さい。

 まるで、ミニチュアサイズで飛び回っている様に音はリアルだが、規模の小ささに完二は困惑してしまったその時、二人の隣で待機していたセトを、七色の光線が貫いた。

 

『ギャア――!』

 

「なっ!?」

 

 完二も驚いて声を出すが、セトは奇声を上げながら消滅してしまう。

 すると、それと同時に上空から声が届いた。

 

『見~つけた!』

 

 人の声と機械音が混ざった様な声。

 完二はその声のした上空を咄嗟に見上げると、そこにいたのは暴走した大型シャドウ『直斗の影』が浮いていた。

 その姿は左右が綺麗に生身と機械の身体に分かれており、背中には飛行機の様な鉄の翼、両手にはSF的な光線銃を持っている。

 

『逃げるだけの元気はある様で驚きだよ……』

 

 光線銃を完二達へ向ける直斗の影。

 その行動に完二も直斗を持ったまま身構えた。

 

「やっぱりいやがったか……大型シャドウ」

 

「シャドウ……?」

 

 シャドウと言う言葉は初耳らしく、完二の言葉に直斗は首を傾げた。

 

「詳しい話は後だが、アイツはお前の抑圧された内面が具現化した奴なんだ」

 

「あれが……僕の……?」

 

 やはりすぐには納得できないのだろう。

 直斗の表情はまさにそうなっていた。

 

『別に納得はしなくても良いよ。だって、君はここで死ぬんだからね!!』

 

 直斗の影はそう叫びながら完二達目掛けて突っ込んでくる。

 風を斬る音が耳にハッキリと届き、このままぶつかれば車と衝突するに等しいダメージを追ってしまう。

 万事休す、そう直斗が思った時、完二から蒼白い光が漏れ出し、直斗の影へ真っ向から向かい合った。

 

『邪魔するなら君から改造だ!!』

 

 直斗は光線銃を完二へ向けた。

 しかし、それは叶わなかった。何故なら、直斗の影の真上に佇む巨大な影に、直斗の影が気付かなかったから。

 そして、その巨大な影から直斗の影へ、真上から巨大な剣が振り下ろされた。

 

『グバァッ!!?』

 

 まるで叩き落とされた虫の様に地面にめり込む直斗の影。

 その光景に完二も笑みを浮かべていた。

 

「ロクテンマオウ……!」

 

 直斗の影を叩き落としたのは、完二のペルソナ、ロクテンマオウだった。

 その巨大な初めて見る存在、しかし、見覚えのある感じがある存在に直斗は困惑しながら完二へ言った。

 

「巽君……きみも、やっぱり洸夜さんと同じ力を……」

 

「ペルソナっつうんだ。詳しく教えろって言われたら無理だけどよ……まずはコイツを黙らせてからだ!」

 

 説明が苦手な感じらしいが、まずは直斗の安全を確保する為、ロクテンマオウの剣の先を向いた時だった。

 

『黙らせたいの? ――じゃあ、口を改造しようか?』

 

 叩き落とした直斗の影が、ロクテンマオウの大剣を持ちあげながら立ち上がりながら言った。しかも、片手で。

 

『勿論、改造するのは君の口だけどね……』

 

「……やっぱ、そう簡単には行かねえか」

 

 分かりきっていた事だが、やはり現実は見たくはない。

 完二は苦しい笑みを浮かべながら直斗を下ろし、直斗を背にする様に直斗の影と対峙する。

 その光景に直斗は完二へ叫んだ。

 

「止めるんだ巽くん! 逃げろ! これは僕だけの責任だ! 君がここまでしてくれる理由は――!」

 

「俺も同じだった!!」

 

 直斗の声を遮り、怒号の様な声で完二は叫んだ。

 

「俺も同じだった……ガキの頃から絵や裁縫が好きで得意だった。けど、周りの連中に女みたい、気持ち悪い、男らしくない、そう言われ続けてよ。……言った奴、全員をブッ飛ばして生きて来た」

 

 幼稚園の頃から始まった事、最初は褒めて庇ってくれた先生も次第に自分から距離を置いた事で、完二の理解者は本当にいなくなった。

 母親や幼馴染は認めてくれたが、それは身内の欲目、ただの優しさとしか思えず嬉しくはなく、寧ろ苦しかった。

 

「俺の場合……結果的には自業自得だ。けどよ、そんな時に会えたのあの人達だ」

 

「瀬多総司達……ですか?」

 

「ああ……花村先輩は馬鹿だし、里中先輩は肉しか言わねえ、天城先輩は少しネジ外れてる、りせは生意気、クマも同様。――そして、総司先輩と洸夜さんは日頃、何を考えてるのか分かんねぇ。全員が変人だ」

 

 自分の監視をしていた時も、最初は変なカップルがいたと思いきや、それは総司達の作戦である事を知り、総司達は明らかに馬鹿だと思っていた完二。

 しかし、今となっては自分もその一部。ずっと欲しかった居場所。

 

「だからだろうな……俺が今も笑っていられるのは。あんな人達だから、俺は変われた。――こんな俺が変われたんだ、お前も変われねえ訳がねぇ!」

 

「……」

 

 完二の言葉に直斗は黙った。

 そして同時に知った。少なくとも、完二が自分が女である事を知ったのだと。

 だが、不思議と今はそんな事はどうでも良く思え、直斗は完二の言った買われると言う言葉に意識を向けていた時だ。

 完二の言葉を聞いていた直斗の影は、呆れた様に溜息を吐く。

 

『話は終わったかい? いや~胸糞が悪くなる様な言葉だったよ。――もしかしなくても、君は馬鹿なのかな?』

 

「ハッ! だから俺がいて丁度いいんだよ、あの人等には!」

 

『……ふ~ん、じゃあ馬鹿な君に教えてあげるよ。――君じゃ、僕には勝てないよ?』

 

 挑発の様に聞こえる直斗の影の言葉。

 しかし、完二はそれが挑発だけじゃない事を分かっている。

 何のスキルでもなかったとは言え、ロクテンマオウの一撃をモロに受けてあの程度のダメージ。

 恐らく、気を抜けば本当にその通りになってしまだろう。

 だが、完二の表情に恐怖はなく、寧ろ上等だと言わんばかりに堂々としていた。

 

「生憎だったな。俺は馬鹿だからよ……言われても聞かねんだよ!」 

 

『じゃあ――死ねよ』

 

 それと同時に直斗の影は完二に目掛けて飛び出した。

 

「こいやぁぁぁぁぁっ!!」

 

 直斗の影へ対し、巽完二、ロクテンマオウ、仁王立ち。

 

(倒せなくても……皆が来る時間は稼いでやるぜ……!)

 

 完二の戦いが始まった。

 

▼▼▼

 

 その頃、総司達は……。

 

▼▼▼

 

 現在、秘密結社改造ラボ【一階フロア】

 

 洸夜達の後を追い、ラボへと訪れていた総司達は、一階フロアに設置されていたモニターを息を呑んで見ていた。

 モニターに映されていた映像が総司達の足を止めている。まるで、金縛りの様に。

 そう、モニターの中では一人の男の苦しむ姿が映し出されていた。

 何度も傷付けられる一人の男。その映像とは……。

 

 パァン――!

 

『ブフォッ!?』

 

 シュキン!

 

『いてっ!?』

 

 ボヨヨ~ン!

 

『ぐおぉ!!?』

 

 洸夜が罠に掛かる映像が映画のスタッフロールのNG集の様に、ずっとループして流されていたのだ。

 アニメや漫画の様に罠に掛かる洸夜、そのシュールの光景に雪子の我慢袋が崩壊する。

 

「アハハハハハハハッ! こ、こ、洸夜さん……ぷ、ぷぷ……アハハハハハッ!!」

 

「大センセイ、見事なまでに引っ掛かってるクマ」

 

「洸夜さん、可哀想……」

 

「でも、見事に罠に掛かってるから笑える」

 

 総司ですら兄の失態に楽しそうにしている。

 中々、お目に掛かれない光景なのは間違いない。

 そして、それぞれの思いを胸に、総司達はもう暫く映像を見続けるのだった。

 

「……早く行こうって言いたいけど」

 

「……なんか、言いずらいよな」

 

 意外にも、まともなメンバーは千枝と陽介の二人だったりもする……。

 

 

End

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