ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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ペルソナと言い、デビサバと言い、何故に魅力のあるキャラが多いのか!
一人に絞れない!


受け入れる時

 同日

 

 現在、秘密結社改造ラボ【手術室前フロア】

 

 完二と直斗の影の戦いが始まって数分後、洸夜達とシャドウ達の戦いは終わりへと近付いていた。

 

「アナンタ!」

 

 周りのシャドウを斬り捨てながら洸夜は新たなペルソナ、七つの頭を持つコブラの様な蛇『法王・アナンタ』を召喚する。

 召喚されたアナンタは、その長い尾を利用し鞭の様にシャドウ達を薙ぎ払い、シャドウ達はそのまま身体が割けて消滅した。

 その中には、再度出現した圧倒の巨兵、その内の一体も混ざっていた。

 

『!!?』

 

 放電しながら消滅する圧倒の巨兵、生半可な大型シャドウとて、迷いを乗り越えた洸夜の敵ではなかった。

 勿論、他のメンバーも同様だ。

 

「アテナ!」

 

 アイギスも負けてはおらず、己のペルソナであるオリュンポス十二神の一柱の女神の名を持つ『戦車・アテナ』を召喚し、残りの圧倒の巨兵の背中を槍で突き刺した。

 

『!?』

 

 アテナは圧倒の巨兵の背中を突き刺したまま天へ神々しく槍を上げ、圧倒の巨兵は海老ぞりになりながら爆散した。

 

「こっちも終わりだ」

 

 メンバー達の様子を確認しながら真次郎はそう呟くと、その後ろにいる四肢が外れて全壊している圧倒の巨兵は爆散した。

 純粋な戦闘能力ならばS.E.E.Sメンバーの中でも一、二を争う真次郎相手では、大型シャドウとはいえ力が足りなかった様だ。

 これで残りの圧倒の巨兵は2体だが、それも既に終わっている。

 

「……片付いたぞ」

 

 周りを冷気が包む中、そう言った美鶴とアルテミシアの目の前には二つの氷像が出来ていた。

 まるで、美鶴へ襲い掛かろうとしている様なポーズの氷像の正体、それは言うまでもなく残った圧倒の巨兵であった。

 そして、美鶴がその二つの氷像の間を通る際、サーベルで一閃すると氷像はそのまま砕け散り、処刑によって人工のダイヤモンドダストが生まれた。

 

「洸夜さん、これでシャドウは全滅です」

 

「ああ、すぐに完二を追うぞ!」

 

 洸夜達は完二が向かった手術室へと目をやり、駆け足で入って行った。

 

▼▼▼

 

 そして、洸夜達が後を追う事、数分前から完二の戦いは続いていた。

 

「タルカジャだ! ロクテンマオウ!」

 

 攻撃強化の補助技”タルカジャ”を使用し、完二はロクテンマオウへ強化を施して直斗の影へと挑む。

 しかし、元々が補助などに特化している訳はない完二とは違い、直斗の影のスキルは補助も高かった。

 

『なら、僕だって……”ヒートライザ”!』

 

 直斗の影が唱えると、謎の光が自身を包み込んだ。

 

『さあ、勝負だ!』

 

 そう言って攻撃態勢を取る直斗の影、それに対して完二も迎え討つ構えを取ったのだが……。

 

『そおら!!』

 

「うおッ!!?」

 

 背中の翼を利用したジェットの勢いの体当たり、技ですらない攻撃だが、完二はそれを躱す事が出来ず直撃を許してしまう。

 それによってロクテンマオウは尻餅をつき、衝撃も完二を襲うが、完二の中には疑問が生まれており、それどころではなかった。

 

「なんだ……! あいつの動きが全く変わりやがった!?」

 

 直斗の影の力は多少なりとも理解したつもりであった完二。

 しかし、先程の動きはそれ凌駕したものであった。

 攻撃力・速さ、全てが段違いなのだ。

 

『理解したかい? さっき、僕が使ったヒートライザは僕の力の全てを強化する技なんだよ。 君が使った付け焼き刃な補助技よりも強力だよ!!』

 

 直斗の影が光線銃の引き金を引くと、銃口から放たれたのはガルダインやブフダインの属性技。

 その全てが完二が無効にできる属性ではないが、棒立ちでやられる様な真似を完二はしなかった。

 

「負けるか! ロクテンマオウ!」

 

 完二の言葉にロクテンマオウは大剣を大きく振り、ガルダインとブフダインを薙ぎ払った。

 そして、直斗の影の攻撃は完二や直斗へ向かわず、周囲を削ったり凍らせる程度で済んだ。

 

『っ!? 強引に弾いたのか!』

 

「今度はこっちの番だ!」

 

 ロクテンマオウは大剣を天へ上げると、巨大な雷が大剣へと集まる。

 

「喰らえや! ジオダイン!!」

 

 轟音と共にロクテンマオウが溜めた雷を直斗の影へ放つと、雷はそのまま巨大な光を発生させながら直斗の影を呑み込んだ。

 

『うわぁぁぁぁっ!!』

 

 轟く轟音、巨大な放電と爆発が直斗の影を呑み込み、確かなダメージを与える事に成功した。

 少なくとも、完二にも手応えがあった。

 しかし、やがて煙が晴れた中に現れたのは、多少の焦げを纏いながら最初と変わらず平然と空に浮かぶ直斗の影だった。

 

『ちょっと驚いたよ。……けど、もう終わりみたいだね?』

 

「クソッ! 少しは効きやがれ……!」

 

 直斗の影の見た目にダメージはあるが、口調等からは一切のそれを感じさせず、完二の心に確かな疲労を植えつける。

 体力を奪うよりも心を折った方が簡単。それを直斗の影が行っているかは不明だが、少なくとも完二の心の疲労は蓄積していた。

 

『じゃあ、次は僕の番だ! 面白い物を見せてやるよ……”エレメンツ・ゼロ”』

 

 直斗の影はそう叫ぶと、空間を何かが包み込む様な感覚を完二と直斗は気付いた。

 

「今度は何をする気だ……!」

 

「巽君……やっぱり、君だけでも逃げるんだ……!」

 

 完二の劣勢は直斗から見ても明らか。

 ならば、完二をこれ以上の危険に巻き込む訳には行かない。

 しかし、直斗の言葉を完二は受け取らない。

 

「ふざけんな! ここまで来て見捨てれる訳ねえだろ! ここで俺が逃げたら、お前は本当に殺されんだぞ!」

 

「囮をしようと思った時から、その覚悟はありましたよ。……僕も、洸夜さんからの忠告を無視してまで来てるんだ。――でも、流石にこれは予想外過ぎますよ……」

 

 洸夜からペルソナを見せられて多少の想像はしていた直斗だったが、まさかここまでの”存在”が事件の裏に蔓延っていたのは予想外過ぎた。

 

「警察も、僕も……犯人の犯行を立証できない訳だ……」

 

「そんな事、生きて出た後に考えやがれ!」

 

『じゃあ、一生無理だね!』

 

 直斗の影の攻撃が再開した。

 光線銃を両手に、宿主を殺す為に再び完二達へ直斗の影は接近し、光線銃の引き金を引く。

 

『お返しだ! ジオダイン!』

 

「油断しやがったな! ――ロクテンマオウ!」

 

 電撃属性ならば、ロクテンマオウは無効化できる。

 完二は少しでも時間を稼ぐため、ロクテンマオウを前に出して攻撃を防御しに掛かった。

 しかし、完二は先程の直斗の影が放った謎の技の存在を忘れていた。

 

『っ!!?』

 

 本来ならば効かない筈の電撃属性を受けたロクテンマオウだが、ジオダインを浴びるとそこには確かなダメージが存在し、身体に煤を付けながら膝をついてしまう。

 

「なっ!? なんで、ロクテンマオウが!?」

 

『”エレメンツ・ゼロ”……さっき僕が放った技の名前だよ。この技は、君達の属性に対する耐性を全て通常にする事が出来る。――そのペルソナは、もう何も守れないただのデカい的になったんだよ』

 

「ち、畜生……!」

 

 万策、早くも尽きてしまった。

 物理技も当たらず、属性耐性までも消された。

 

『口だけの感情論ばっかの君にしては、よくやったと思うよ? だから……”死ね”』

 

 直斗の影は上空へと高く飛び、完二と直斗へトドメを刺す為に態勢を取った。

 それを見て完二もロクテンマオウで迎え撃とうとするも、ロクテンマオウのダメージも大きく、次の攻撃がモロに直撃すればペルソナブレイクを起こすだろう。

 そして、直斗の影が身構えたその時、微かな破裂音と共に大量の閃光が直斗の影へ飛んで行った。

 

『ぐあっ!? なんだコレ……!』

 

 直斗の影へ吸い込まれるように直撃する閃光の正体、それは無数の”弾丸”の雨と言うより”群れ”。

 かなりの数の弾丸を受け、直斗の影が後方へ回避すると、予測していたと言わんばかりに刃状の鞭が出現し、周囲を覆う様に次々と壁に突き刺さった。

 直斗の影は当然、それを回避しようとしたが、翼の片方が僅かにそれに接触した瞬間、その翼は氷に包まれる。

 

『しまっ――!』

 

 翼のバランスが取れず、バランスを崩しながら宙を舞う直斗の影。

 その目の前に現れたのは黒い馬に跨るペルソナ『カストール』であり、直斗の影はそのままカストールの体当たりをモロに受けて地面へと叩きつけられた。

 

『がはっ!! ――なに……が……!』

 

 ぎこちなく立ち上がり、その攻撃の場所を向くと四人の人影があった。

 

「間に合った……」

 

 そこに居たのは言うまでもなく、洸夜達の姿だった。

 洸夜達は直斗の影の視線に気付きながらも、完二と直斗の下へと駆け寄った。

 

「無事の様だな」

 

 美鶴は完二と直斗の様子に安心すると、二人へそれぞれディアラハンを掛けた。

 完二と直斗は、徐々に身体の痛みや疲れが引いて行くのが分かり、直斗は美鶴を見た。

 

「桐条……美鶴。やはり桐条も、この非現実の事態に関わっていたんですね」

 

「当たらずも遠からずだ。詳しい話が聞きたいならば、現実に戻ってからだ」

 

 今回の事件に限っては桐条は関わっていない。

 しかし、シャドウやペルソナ等について言えば関わっており、美鶴からすれば嘘を言っている訳ではない。

 そんな美鶴の態度に直斗は小さく笑い、完二は援軍の到着に一息つくと、そんな完二と直斗に、何故か”タライ”を持った洸夜が話し掛けた。

 

「無事だな二人共」

 

「うッス……なんとか、耐えきりましたよ」

 

 洸夜と完二は拳を合わせあった。

 そして、今度は視線を直斗へと移す。

 

「……全く、心配ばかり掛けてくれる。本当に危険だったろ?」

 

「ふふ、ええ……まさかここまでとは……」

 

 平常運転の口調の洸夜に、最早何も言わない直斗は小さく笑いながら応えた。

 ようやく、完二も直斗も安心した所で、二人は洸夜の持つタライに意識を向けた。

 

「洸夜さん、ところで……」

 

「なんでこんな所にタライがあるんですか?」

 

 少なくとも完二の記憶では別れた時にタライはなかった。

 この場でも明らかに浮いているアイテムだ、気にならないと言えば嘘にしかならない。

 

「……拾った」

 

 目を逸らしながら言う洸夜。

 明らかに嘘を付いている。仮に本当だとしても何故に拾った?

 また新たな疑問が生まれたのだが、その疑問を解消してくれたのはアイギスであった。

 

「このフロアに入った時に、このタライがピンポイントで洸夜さんの頭上に降って来たんです」

 

「……洸夜さん、また罠に掛かったんスか」

 

 アイギスの暴露によって、また洸夜が罠に掛かった事を理解した完二。

 散々、幼稚な罠を仕掛けてきて、その最後がタライとは笑い話にもならない。

 しかも、洸夜が全て引っ掛かっているからら尚更だ。

 だが、洸夜はアイギスの言葉に納得していなかった。

 

「違う。男らしく、堂々と正面から罠と向き合っただけだ」 

 

「男らしいなら避けて下さいよ……」

 

 気持ちは分かるが流石にそれは通らないだろう。

 共感できるからこそ、完二は複雑な気持ちで洸夜の話を聞いていた、そんな時だった。

 美鶴達の攻撃により倒れていた直斗の影が静かに立ち上がり、上昇しながら洸夜達の前へと再度現れた。

 

『目障りだ……目障りだ……君達、みんな改造してやる!』

 

「完二や美鶴達を甘く見た、お前の自業自得だ」

 

『ふんっ! 全部の罠に引っ掛かった奴に言われたくないね!』

 

「……ふふっ」

 

 誰が笑ったかは分からない。

 しかし、直斗の影の言葉に確かに笑った者がおり、洸夜も言い返せない恥ずかしさが若干の怒りへと変換されていた。

 そして、洸夜は刀を抜き、二、三歩前に出た時であった。

 洸夜が足を置いた床がスイッチの様に陥没し、その瞬間、洸夜の前方、左右、真上からプレス機の様に壁が飛び出し、洸夜を襲った。

 

『ハハハハッ!! 最後の最後まで引っ掛かってくれたね!』

 

 まんまと罠に引っ掛かった洸夜の姿に勝利を確信する直斗の影。

 そんな光景に洸夜の堪忍袋の緒が切れた。

 

「そう何度も引っ掛かって堪るか!――『アスラおう!』」

 

 召喚器を撃った洸夜の前に召喚されたのは、インド神話の神族”アスラ”の王、『太陽・アスラおう』だった。

 独特な装飾を身に付け、圧倒的存在感の容姿と神々しい雰囲気。

 そして、特徴である六本の腕の内の二本を祈る様に合わせ、残りの四本も掌を天へ向けていた。

 召喚されても微動だにせず、直立不動の姿はまさに王に相応しい姿であったが、そんなアスラおうへ直斗の影の罠が迫っていた。

 だが、アスラおうは無駄の無い動きで、六本の腕を迫りくる壁へそれぞれ向けると、罠である壁はそのままの勢いのまま粉々に砕けた。

 

『なんだとっ!?』

 

 何事も無い様な動作で攻撃を防いだアスラおうに、直斗の影も焦りを感じ始めた。

 天敵への危険を感じるシャドウの本能、それが直斗の影に働いていた。

 そんな直斗の影の考えを知ってか知らずか、アスラおうは攻撃を防ぐと再び祈りの形を取り、その異質な存在に直斗も呆気になっていた。

 

「最初に見せてもらった時とは違うやつ……?」

 

 オシリスとは違い、完二のロクテンマオウも見たが直斗は最上級クラスのペルソナの力をまだ知らず、色々とあり過ぎて頭がついていけない。

 

「洸夜さんと総司先輩は色んなペルソナが使えんだ。――悔しいけどよ、この人と総司先輩は別格だぜ」

 

 そう呟く完二だったが、その表情は笑っており、完二の二人に対する信頼が分かる。

 そして、直斗の影と洸夜達の間が終わりを告げた。

 

『喰らえッ!!』

 

 先に仕掛けたのは直斗の影だ。

 直斗の影は光線銃の引き金を連続で引き、属性攻撃をアスラおう目掛けて撃ち放つ。

 

「アスラおう!」

 

『……』

 

 洸夜の言葉に静かに動き始めたアスラおうは、前の両手合わせたまま、残りの四本の腕に力を込めて直斗が放つ属性攻撃を殴る様に弾く。

 炎は無効、氷結は耐性を持っている為、ダメージは殆どない。

 電撃は耐性が通常でありダメージはあるが、やはり決定打ではない。

 そうなると、アスラおうを止められるのは”弱点属性”だけだ。

 

『ならコイツでどうだ!』

 

 直斗の影が光線銃の引き金を再び引くと、疾風属性の攻撃が連続でアスラおうへ飛んで行く。

 範囲の広い”マハガルダイン”、しかも疾風属性はアスラおうの弱点属性であり、流石のアスラおうも弱点を直撃するのを回避する為、宙へ飛んだ。

 しかし、直斗の影はアスラおうから狙いを外してはいなかった。

 

『捉えたよ……!』

 

 光線銃二丁を向け、二丁の前に巨大なガルダインの種が集まり出す。

 特大の攻撃をアスラおうへぶつけようとしており、アスラおうは宙で動きを止まった所で洸夜が指示を出した。

 

「アスラおう! ――アギダイン!」

 

『……!』

 

 その指示に、アスラおうの目の前に巨大な炎が集まり出した。

 直斗の影と同じ位の大きさであり、その様子に直斗の影は引き金を引き、アスラおうも同時に放った。

 すると、双方の攻撃は見事にぶつかり、大きな爆発を生む。

 

「備えろ!」

 

 美鶴の声に咄嗟に動くアイギスと真次郎は、それぞれのペルソナを召喚して完二と直斗の盾となった。

 疲労しているロクテンマオウでは完全に防ぐことは出来ず、そのまま防げばペルソナブレイクを起こしてしまっただろう。

 美鶴も洸夜の前に立ち、アルテミシアで攻撃を防いだ。

 

「洸夜!」

 

「あぁ……無事だ」

 

 美鶴にそう返答する洸夜。

 その姿に完二は疑問を持った。

 

「なんで、洸夜さん……他のペルソナを召喚しねえんだ?」

 

 同時に多数のペルソナを洸夜が召喚できるのを完二は知っている。 

 今までもそれで助かっていたし、今こそその力を発揮する時。

 故に、洸夜が今はアスラおうしか召喚していない事に違和感があったのだ。

 

「……最上級クラスのペルソナは”怠い”んだとよ」

 

「……はっ?」

 

 完二の独り言を聞いていた真次郎の呟き、その意味が完二は分からないが、真次郎は続きを話してくれた。

 

「昔、洸夜がそう言っていた。――最上級クラスのペルソナは負担がでかく、無理して多数召喚すれば後々響く。だから洸夜は、余程の相手じゃねえ限りは最上級クラスを一体しか召喚しねんだ」

 

「多ければ良い訳じゃねんだ……」

 

 やっと完二は真次郎の言葉を理解出来た。

 冷静に考えれば当然とも言える。どれだけ凄くても、洸夜とて一人の人間。

 限界もちゃんとある。

 完二は理解出来たが、真次郎の話はまだ終わっていなかった。

 

「……で、テメェはいつまでそうしてんだ? まだ、目的達成してねえだろ」

 

「……へ?」

 

 真次郎の言葉に思わず頭を捻る完二。

 そんな事をしている間に、直斗の影とアスラおうの戦いに再び動きがあった。

 

『くっ……! 煙が邪魔だ!』

 

 目の前で爆発したが、大型シャドウなだけあって大した被害はない。

 だが、上級技の衝撃の爆発は大きく、煙が中々に晴れない。

 左右、背後、この煙を利用してどこから攻撃してくるか分からない。

 警戒する直斗の影、そしてアスラおうは動いた。

 爆煙をモノともせず、アスラおうは堂々と”正面”から直斗の影へ迫る。

 そして、三つの右腕、その拳に力を入れているアスラおうの姿に直斗の影の反応が遅れる。

 

『なっ!――この!!』

 

 反撃しようとするが反応が遅れている事で間に合わず、直斗の影にアスラおうの三つの拳が直撃した。

 

『ゴホッ!??』

 

 仏教でも有名な”阿修羅”

 その阿修羅が誕生も、”アスラ”を仏教に取り入れた事が始まりと言われている。

 そんなアスラおうの強大な質量の様な重き拳、それを三つもそれぞれ、顔面、左肩、左腕に直撃し、放電しながら直斗の影は地面へブッ飛ばされる。

 

『なっ……めるな……よ!』

 

 直斗の影は意地を見せ、地面ギリギリで再度上昇する。

 そして、そのままの勢いで反撃に出た。

 

『魔封光線!!』

 

 光線銃から放たれたのは、今までとは違う異質な光線であった。

 技の通り、相手を魔封状態にするペルソナ殺しの技。

 そんな気味の悪い光線は、そのままアスラおうへ直撃した。

 これでペルソナを通し、洸夜は魔封状態に掛かってアスラおうは消滅する。

 そう、直斗の影は思っていたのだが……。

 

『……』

 

 アスラおうは消滅せず、それどころか直斗の影へ接近し六本の腕を使い、首、両腕、胴を掴んで絞め始めた。

 

『な……ぜ……っ!』

 

「アスラおうのスキル『不動心』――生半可な状態異常は、アスラおうには効かないぞ」

 

 一部の状態異常を受けつけないアスラおうのスキル『不動心』が発動し、洸夜の言った通りに”魔封”にはならなかった。

 しかし、洸夜の説明を直斗の影は聞いてはなかった。

 アスラおうの絞めにより、身体のあちこちから亀裂音が生まれていた。

 そして、アスラおうはそのまま直斗の影を絞めたまま急降下し、地面にそのまま叩きつけた。

 

『ガハッ……!!?』

 

 衝撃により床は陥没し、直斗の影も全身を故障させながら動きを止めた。

 それを確認し、アスラおうも離れ、洸夜の下へと降り立った。

 

「終わった……んですか?」

 

 ようやく一段落したと直斗がそう思った時であった。

 

『この瞬間を待っていたよっ!!』

 

 半壊している直斗の影が再び起動し、アスラおうへと迫る。

 すると、アスラおうは宙へと飛び、直斗の影も後を追おうとした。

 

『逃がすと思っているのか――!』

 

 その瞬間、直斗の影は再び地面にめり込む程の力で叩きつけられた。

 直斗の影を襲ったのは巨大な”腕”だった。

 その正体は、勿論と言うべきかロクテンマオウであった。 

 

「一発殴る。――そう決めてたんでな」

 

 そう言って肩で息をする完二の姿を見て、真次郎は小さく笑っていた。

 流石にもう動かない、誰もがそう思ったのだが……。

 

『ま―――だ―――!』

 

 大破しても光線銃だけを直斗へ向けようとしていた直斗の影。

 最早、執念としか言えなかった。

 

「こいつ……!」

 

 完二は再びトドメを刺そうとした時であった。

 直斗の影の真上から、『イザナギ』が飛来し、そのまま大剣で直斗の影を突き刺した。

 その光景に洸夜達が後ろを向くと、そこには肩で息をしている総司達の姿があった。

 

「……間に合った?」

 

 ここまで走って来たらしく、総司は額の汗を拭きながらそう言った。

 そんな総司達の姿に、洸夜は笑みを浮かべていた。

 

「結果出ている。――間に合ったさ」

 

「流石、俺」

 

 洸夜の言葉に総司は無駄にどや顔をする。

 

『……ここ……まで……か』

 

 その言葉を最後に、直斗の影も消滅し、後に残ったのは最初に現れていた白衣を着た直斗のシャドウであった。

 そして、戦いが終わりを告げると、洸夜は直斗を見て言った。

 

「後は、お前次第だ。……お前の思った通りの事をすれば良い」 

 

「思った通りって言われても、どうすれば良いんですか……」

 

 冷静になってみれば、シャドウと言う未知の生命体に自分に何が出来るのか分からない。

 洸夜は慣れているかもしれないが、直斗には全く理解できない世界であり、直斗は不安で下を向いてしまった。

 そんな直斗の姿を見て、洸夜は溜息を吐きながらも直斗へ近付き、口を開いた。

 

「なに、簡単な事だ。あのシャドウの前に行って向き合えば良い。そうすれば、自ずと答えがでる。――本当に、あのシャドウは自分じゃないのか、本当になんでもない存在なのか、その答えを持っているのはお前だけだ」

 

 洸夜は直斗の手を持って立ち上がらせ、そう言いながら直斗の影へ視線を向ける。

 まるで何かを待っている様な直斗のシャドウ、それに直斗が気付いていない筈がなかった。

 

「でも、僕だって怖いんです。散々、あなたに忠告されてたのに、実際に巻き込まれたらこの様で……本当に、僕が僕自身と向き合えるのか分からない」

 

 直斗自身、本当は既に答えは出ていた。

 しかし、口で言っても心が認めていないかも知れない。

 また何か起こってしまうかも知れない。

 未知なる結果が直斗に不安を生んでおり、後一歩が出せなかった。

 すると、洸夜が直斗の背中をポンッと押した。

 

「安心しろ、少なくとも……この場には、お前を”子供の癖に”とか言う奴は一人もいないさ」

 

 満面の笑み、本当に信じ切った者の笑顔。

 この表情、この雰囲気、初めてあった時から感じていた安心感。

 そうだ、これがこの人の魅力だった。

 食えない性格なのに、何故か安心出来てしまう。

 

「……本当に、あなたは不思議な人だ」

 

 そう言って帽子を直斗は深く被り直し、表情が見えなくなったが、口元には確かな笑みがあった。

 

▼▼▼

 

 直斗は言う、両親から自分が受け継いだのは探偵と言う職への”誇り”だったと。

 残された直斗を引き取った祖父も、そんな直斗の探偵への夢を叶えようとしてくれて、助手の様に手伝っていた直斗に付いた通り名が”少年探偵”だった。

 時には祖父が見落とした証拠を見つけ、また時にはずっと捜査が進まなかった事件を直斗が参加した事で解決した事件も数多くあった。

 その事に祖父や付き人の人達も喜び、捜査協力した警察の人間も直斗へ感謝した。

 しかし、世の中はそんな”綺麗な人間”だけではない。

 

『子供の癖に……!』

 

『チッ……子供が手柄だけ持っていきやがって』

 

『俺達には俺達のやり方があんのによ……あのクソガキ!』

 

 警察は基本的に男社会、そう思っている人間は未だに寄生虫の様に数多く存在する。

 女・子供は必要なし、それが普通となっている人間を直斗は多く見てきた。

 故に、直斗の外見だけで気に食わず、捜査にも協力せず、寧ろ直斗の足を引っ張って直斗の立場を危うくしようとする者すらいた。

 その結果、妨害にも屈せずに事件を解決した結果、足を引っ張った警察の人間達は、それが漏えいしてしまい処分された。

 そして、その処分された者達、全員が決まって恨みの矛先を直斗へ向ける。

 

『あの子供がいなかったら、こんな事はしなかった』

 

『あの子供のせいで……』

 

『子供の癖に……!』

 

 子供の癖に……子供の癖に……子供の癖に……。

 

 その言葉が直斗の闇を生む事となった。

 只でさえ、女である事は変えられないのだ。

 それならば、少しでも大人の男らしく、大人っぽく、子供らしさを消すしかなかった。

 女性である事は、直斗の夢にとっては不都合でしかない。

 全てを耐え、全てを我慢し、己の中の”子供である自身”を全て押し殺した。

 その結果が、今、直斗の目の前にいる。

 

「僕は……君と言う僕自身の”子供部分”を封印して忘れ去ろうとしていた。少しでも、男らしい探偵になりたかったから……」 

 

 今でもその夢は変わらない。

 ずっと、信じて願っていた夢だからだ。

 

「けど……女性であること、僕がまだ子供であること……いくら否定しても、それは変わらない。僕がどんな夢を想おうと、それは僕の自由だけど、その前にやらなきゃいけない事がある」

 

 直斗は静かに足を前へ出し、己のシャドウのすぐ目の前まで来くると、両手を広げた。

 

「僕が”今の僕を受け入れる”事、僕は君で、君は僕だ……」

 

 直斗は己のシャドウをそう言って抱きしめると、シャドウは蒼白い光を発し始めた。

 その表情、本当に嬉しそうであり、小さな子供の笑顔。

 そして、やがてシャドウの姿は完全に光の中に消えると、その姿をペルソナとして現した。

 他のメンバーのよりは一回り小さいペルソナだは、確かに感じる強い力。

 

「スクナ……ヒコナ……!」

 

 国造りの神の名を持つ仮面『運命・スクナヒコナ』

 直斗は頭に出て来た己のペルソナの名を呟くと、スクナヒコナは”運命”のアルカナカードとなって、直斗の下へと舞い降りた。

 

「シャドウがペルソナに転生したのか……」

 

「洸夜さんが言った通りですね」

 

 己と向き合った結果、シャドウがペルソナへと転生すると事前に聞いていた真次郎とアイギスは目の前の光景を焼きつけた。

 

「記録はしてかねばならまい」

 

 美鶴もそう言って目に焼き付ける。

 自分達は『シャドウワーカー』少しでも、シャドウに関するデータは記録しなければならない。

 そして、直斗はアルカナカードを手に取り、洸夜達へ振り向いた。

 

「終わりました」

 

「お疲れ、少しは素直になった方が良いだろ?――なあ、完二?」

 

「えっ!? こ、ここで俺に振るんスか!」

 

 先程まで格好良かった完二だが、事が終わった途端にいつもの完二に戻ってしまい、洸夜の突然の言葉に反応できなかった。

 しかし、直斗からすれば完二は命の恩人でもあるのは変わりない。

 

「巽君、今回は君にも助けられましたね」

 

「っ! い、いや……その……ハッ! 囮になって逆にやられたんじゃ世話ねえぜ!!」

 

 そう言って後ろを完二は向いてしまった。

 明らかに照れている。

 

「お前、どこまで素直じゃねんだ……」

 

 陽介が流石に呆れて口を出すが完二は、うっせぇ! と言って一蹴してしまう。

 

「僕、何かしましたか……?」

 

 直斗も完二の突然の変わり様に困惑し、首を傾げてしまう。

 

「気にしなくても良いよ、完二はいつもああだから」

 

「いつもなんですか?」

 

 りせの言葉に直斗は驚いた。

 最初に会った時も変な反応をする為、変わった人だとは思っていたが、いつもああなのだと思うとやはり変わった人と思ってしまう。

 

「それじゃあ、とりえあず現実に戻るクマ!」

 

 クマの言葉に全員が頷き、入口に出ようとした時であった。

 完二が一歩踏み出した瞬間、膝がガクリとなり、地面に膝がついてしまった。

 

(やべ……少し、無茶しちまった)

 

 美鶴から回復して貰ったが、戦いの疲労も合わさって最後の一撃が無茶になってしまった。

 今、思えば先程の戦いの時は頭に血が昇っていたが、防御に徹底していれば良かった思った完二。

 その様子にメンバー達が集まった。

 

「大丈夫か、完二?」

 

「大型シャドウとタイマン張ってたんだ、無理もない」

 

 総司と洸夜が完二へ近付いてそう言い、回復の為に新たなペルソナを召喚しようとしたが、完二がそれを止めた。

 

「良いっス、これぐらい。現実に戻れば治るッスよ」

 

 そう言って立ち上がろうとするが、完二はまた膝をついてしまう。

 しかし、その瞬間、完二の巨体が宙へとあがった。

 まるで空を飛ぶように軽々と、そして不意に背中と腰に感じる固い何かが答えを示していた。

 

「巽さんは私が運びます!」

 

 洸夜達と総司達、双方が見たのは完二の巨体を軽々と持つアイギスの姿だった。

 

「またアンタかよッ!!?」

 

 なんと言う運命の悪戯。

 完二、王様ゲームの悪夢が再び起こってしまった。

 

「放してくれ! 俺は大丈夫だ!?」

 

「御無理をなさらず、では参りましょう!」

 

 そう言って上昇し、完二を抱えたままアイギスは入口の方へ飛んで行ってしまった。

 

「誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇッ!!!?」

 

 完二の言葉が虚しくメンバー達の耳に届くが、残念ながら今はどうしようもない。

 

「完二、哀れ……」

 

「って言うか、アイギスさんって凄い高性能なんだね」

 

 総司と雪子が好き勝手に言う様に、メンバー達は先程の現状に対しても平常運転。

 

「良いな……あたしもいつか飛べるようになりたいなぁ……」

 

「里中、お前がそれ出来たら人間を止めてるんだからな?」

 

 千枝のアホな言葉に陽介が、呆れ半分で呟く。

 

「なによ、花村! あんただって飛べない癖に偉そうに!」

 

「人間は普通、飛べねぇんだよッ!!?」

 

 関係ない所で無関係な言い争いが始まった光景に、真次郎は欠伸をして我関せず、美鶴は昔の雰囲気を思い出して笑みを浮かべていた。

 

「じゃあ、アイギスと完二を追うか……」

 

 洸夜がそう言い、皆も今度こそ歩み始めた。

 本当ならば洸夜の左手で帰れたが、アイギスと完二を放置すると可哀想だ。

 ところが、洸夜が歩いていた時であった。

 とある床を洸夜が踏んだ瞬間、小さくピーとなったのに総司が気付いた。

 そして、頭上から洸夜へ迫るタライ再び。

 

「兄さん危ない!」

 

 咄嗟に総司は洸夜の背中を押した。

 

「ハァッ!?」

 

 突然の事で、洸夜は何が何だから分からないままバランスを崩すが、タライはそのまま地面にぶつかって難を逃れた様に見えたのだが……。

 

「えっ……?」

 

 バランスを崩して倒れる洸夜の前にいたのは、まさかの直斗。

 そして、洸夜はそのまま直斗へ倒れ込んでしまった。

 

「二人共、大丈夫か!」

 

 美鶴も驚きながらも、二人の下へ向かい、他のメンバーも集まった。

 しかし、それと同時に全員の動きが止まった。

 

(な、なにが起こった……? 倒れたと思った矢先、何か”柔らかい”何かにぶつかったな)

 

 現状を整理しながら立ち上がろうとする洸夜だが、それと同時に仄かな甘い匂いを感じた。

 そして、その光景を見ていたメンバー達も全員が絶句している。

 美鶴は口を開けながら、真次郎ですら目を開けて絶句している。

 りせは羨ましい表情をしており、元凶である総司はスゥーと目を逸らした。

 

「あ、あぁ……!」

 

 次に洸夜が聞いたのは直斗の声。

 しかし、何処か弱弱しく、不思議と聞き覚えがある。

 洸夜はゆっくりと顔を上げると、そこに写ったのは……。

 

「う、うぅ……!」

 

 羞恥心から来て半泣きになっている直斗の顔。

 そして、気付いた現実。 

 洸夜が顔を埋めていたのは直斗の”胸”であり、体勢は押し倒している状態だ。

 サラシを巻いてはいるが、確かに感じるものがある。

 どうりで柔らかい筈であり、洸夜も事の重大性に気付いた。

 

「待て直斗! 違う! これは断じて違う! まずは落ちつけ、こうなったのは――」

 

「わあぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 パァン! パァン!

 

 清々しい程の乾いた音が周囲に響いた。

 出会った時の様な状況であったが、違うのは音が二発である事。

 

 こうして、直斗救出は締まらない最後で幕を閉じたのであった。

 

 

End

 


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