ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!
仕事やら引っ越しやらで色々と重なった結果、一ヶ月近くも投稿出来ませんでした!
ですが、何度も言う様に失踪はしませんので安心してください♪

P.S 去年のガキ使はオープニングと蝶野の所は面白かったけど、全体的になんか雑と言うか、おそまつに見えた。


洸夜と美鶴【稲羽】

 同日

 

 現在、堂島宅【居間】

 

「済まなったな迎えに行けなくて……まさか今日、帰ってくるとは思ってなかったんだ」

 

「いいよ別に。俺が勝手に帰って来ただけだから」

 

 仕事と受験、それぞれを終えて帰って来た堂島と洸夜。

 突然の帰宅だった事で駅に迎えに行けなかった事を堂島は謝り、自分が勝手にしただけだと洸夜は言って返しながら酒を飲み交わしていた。

 因みに総司も菜々子も既に眠っており、事情は寝る前の総司から聞いている。

 美鶴達が調べてくれる様だが、はっきり言って難しいかも知れないとも事前に洸夜へ連絡は来ていた。 

 例の手紙、あれから発見された手掛かりは特に見つからなかったらしい。

 指紋も菜々子、総司、直斗の三人だけが確認され、犯人の物は存在していなかった。

 

(……本当に問題ばかり増えるな、この町は)

 

 体験し過ぎた事で感覚が麻痺している洸夜。

 問題が起こってもこれと言って特に驚かなくなっており、これが異常とも思えなくなっていた。

 元凶が必ず稲羽の何処かにいる、そう思っているからか逆に問題が起きない方が違和感を覚えてしまうだろう。

 

「そういや、試験はどうだった? その顔を見る限りじゃ手応えはあったと俺は思っているが?」

 

 酒を口に運びながら他愛もない事を聞く堂島。

 そんな他愛もない会話も今となっては逆に新鮮に思えてしまう。

 

「問題ないよ。時間だけはかなりあったから」

 

 実際、洸夜は勉学を疎かにはしていなかった。

 洸夜自身、学力の成績は良かった方だが、学力で自分が天才とは思っていない。

 寧ろ、本当に普通の物だとすら思っている。

 学ばねば覚えない、使わなければ衰えるだけであり、洸夜はこまめに自主勉を行っていた事の積み重ねが今日の受験の手応えに繋がったとしか思っていなかった。

 

「ハハハ……随分な自信だな! 合格したら特上の寿司を買ってこよう」

 

 お祝い=寿司。

 そういう考えを持つ堂島は嬉しそうに笑い、洸夜も嬉しそうに微笑んだ。

 結果は来週だが、来週には特上の寿司を食べる事が出来そうだと思いながら、今は酒のつまみのチーズ鱈を食べる事にした。

 特に意味のない時間と休息、だが人間だから、限られた時間しか生きれない命だからこそ分かる必要な時間。

 それを人間らしく無意識に実感しながら洸夜と堂島は庭へ目をやると、少し肌寒い風が流れて来た。

 

「……もう秋か。ついこの間まで暑かったのにな……季節の変わりはあっという間だ」

 

「始まればいつか終わるだけ。夏が終わって、秋が始まっただけだよ」

 

「ハハ、そりゃそうだ……」

 

 そんな当たり前の事を忘れていた自分が楽しいのか、軽く笑う堂島。

 そんな堂島の一枚の葉っぱがヒラヒラと舞い落ちる。

 緑ではなく、既に赤く染まっている紅葉だ。

 

「早いな……」

 

「近頃は四季も不安定だから……紅葉の時期もズレがあるんだろうね」

 

 紅葉になっている事に堂島が呟いたと思い、洸夜も紅葉を見ながらそう呟いた。

 しかし、堂島は首を横へ振った。

 

「いや、そうじゃない……お前達が来てから、もう五ヶ月くらいかと思ってな。――来年の今頃、お前達はここにはいないと思うと複雑でな」

 

「……また来るよ。菜々子とも約束してるしさ」

 

 洸夜は器にある酒の鏡を見ながら呟いた。

 やっと五ヶ月、もう五ヶ月、どれが正しい表現かは分からない。

 この五ヶ月で色々な事があり過ぎて時間の感覚もよくは分からないのだ。

 

「お前達が帰るまで、何も問題が起きなきゃ良いが……」

 

 若干の不安を感じさせる堂島の言葉に、洸夜は何も返せなかった。

 己でもそれを望んでいるが、それは叶わないと確信しているから……。

 

▼▼▼

 

 洸夜が帰宅してから数日後……。

 

 9月27日(火)晴れ⇒曇り

 

 現在、久慈川豆腐店

 

「おばあちゃん! 洸夜さん! 行って来るね!」

 

「ああ、気を付けて行ってこい、りせ」

 

 朝、洸夜は早くに訪れて豆腐屋のバイトとして働いていた。

 丁度、りせが学校に行くのを見送り、後は豆腐や油揚げなどの品を店頭に配置する。

 手慣れたいつもの作業、そんな日常の中で洸夜は数日前に届いた手紙について考えていた。

 

(あれから数日、特に変わった事は起こっていない……様子見なのか、あの手紙は?)

 

 謎しかない犯人の真意。

 犯人の今の所の目的、それはテレビに入れる事だとは考えているが、手紙の内容から察するに助けている事が気に入らないとしか思えない。

 助ける事で犯人に何らかの問題が発生するのならば理解出来るが、それも分からない。

 

(結局、事態が動くのはマヨナカテレビに異変が起きる時か……)

 

 全ての始まり『マヨナカテレビ』

 次にこの不穏な沈黙が破られるとすればそれしかない。

 

(願わくは、この時間が続いてくれ)

 

 決して叶わない願いを胸に、洸夜は豆腐を並べて行くのだった。

 

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在、堂島宅【洸夜の部屋】

 

『なるほど、美鶴達の言った通り事態は動いてないのか』

 

「ああ、何事もなければ良いが……そうも言ってられない。――明彦、お前の言った通り、何か裏にあるんだろうな」

 

 その夜、日常の終わりの中、洸夜は自室で明彦と電話で話していた。

 あの一件からだが、こうやって美鶴達以外のメンバーとも連絡を取っているのだ。

 

『俺が行ければ良いんだが……!』

 

「真次郎に止められてるだろ? 最悪、休学届けでも出すしかないな」

 

『ああ、それも考えている。この時期だぞ!? 今更、単位なんか取れるか!』

 

 海外で武者修行していた明彦、彼の不満の声を洸夜はやれやれと聞いていた。

 余程、首を突っ込みたいのだろう、連絡を多さを数えれば明彦の数も中々に多い。

 殆どの内容は今と同じだが、友との会話を洸夜は拒絶することはもうない。

 

「しかし、美鶴達も来ているが事態は動かない。……前にシャドウワーカーは今回の事件に介入出来ないと言っていたのと関係あるのか?」

 

『確かに警察関係者の一部が事件の介入に猛反対している。だが、それは本当に一部の連中だ。他のメンバーや警察関係者は介入するべきだと言っているからな。――機密もあるからお前には内緒にしているかも知れないが、美鶴達は裏で動いているんだぞ。現に、俺もこの間”例の少年”に会って来た』

 

「例の少年?――久保か?」

 

 その問いに電話の向こうの明彦が頷く。

 洸夜が話した事と現状もあり、シャドウワーカーも独自の動きをしている様だ。

 

『お前から話を聞いていて覚悟をしていたが、確かにどこか変だったな。俺や警察関係者が事件の事を聞いてもだんまり、それか小さくぶつぶつと何かを呟くだけだった……』

 

「……彼が犯人じゃないの既に分かっている。現にその後、こちらで一人また誘拐されているからな。けど、全く無関係ではないのは確かだ。少しでも良いから話してくれると良いんだが」

 

 久保はテレビの世界へ逃げた、それは偶然の産物で見つけた可能性もあるが、久保はその事も話していないらしい。

 記憶障害か、それとも精神的な面で話したくないだけなのか、どちらにしろ久保の供述は一切ないのだ。

 洸夜はそれも気になっており、例の手紙の件もあって色々と苦労が溜まっている事から、明彦は洸夜の声からそれを察し、話の流れを変えた。

 

『そう言えば、大学の受験はどうだったんだ? 結果は既に出ているんだろ?』

 

「ああ大学か、あれは合格したぞ? 気分や精神が病んでいても、やる事はやっていたからな」

 

 ネットで見て既に確認済みだ。

 番号も何度も見ており、見間違いはなく、洸夜は何事も無かった様にそう明彦へ言った。

 

『……ま、まあ、まずはおめでとうと言わせてくれ。やったな洸夜!』

 

 洸夜の口調に毒気を抜かれた様な気分になる明彦だが、受かった事に変わりはない。

 明彦は親友の合格に祝いの言葉を送った。

 

「ああ、ありがとな明彦。どっちでも良かったが、やはり大学は行った方が可能性が広がるからな」

 

『俺も行かないよりはマシ程度だったからな。――ああ、済まない、そろそろ着るぞ?』

 

 大学の事で話す洸夜と明彦だが、突然、明彦が電話を着る様に言いだす。

 

「何かあるのか?」

 

『実は身体が訛ってきたから山に行こうと思ってな。そろそろ寝た方が良いんだ』

 

 そっちの方が洸夜的には驚きだ。

 大学やら言っていながらこの会話、確実に大学には行っていないだろう。

 半裸のイメージがある親友の姿、山で動物に育てられた人間発見、またはビッグフットが発見されたと言うニュースが流れない事を祈るばかりだ。

 

「熊とかに間違われて撃たれるなよ?」

 

『心配するな、撃たれてぐらいで俺は死なん』

 

 誰が撃たれてる事を前提な話をした?

 相変わらずの明彦、そんな友との会話も終え、互いに電話を着る。

 

「……相変わらずだ」

 

 そう言いながら洸夜が見ているのは携帯のメール画面。

 沢山届いているメール、それは宣伝ではなく順平達からのものだ。

 当初は落ち着くと思っていたメールだが、全員が暇なのではないかと疑う程に頻繁に送られてくる。

 風花や乾は基本的に学校での出来事などの日常的な内容、チドリも大差ない。

 ゆかりの場合では仕事の愚痴が多くなっている、関係者にセクハラされた、ファンの子供層の伸びが悪い等、大学とモデルを両立しているゆかりらしい内容だ。

 順平の場合もそれに近いが、基本的に下らない内容も多くて困る。

 食玩のシークレットが出た、昼のラーメンは美味かった、こんな内容が頻繁に送られてきては洸夜も怠くなるが、不思議と順平からだと思うと納得出来てしまう自分がいる事に気付く。

 良くも悪くも理解しているのだと自覚できるからだ。

 その結果なんだかんだで無下にはせず、メールを返信しようと洸夜が操作を始めると、携帯に着信が届く。

 

「……ん? アイギスか」

 

 画面に表示されるアイギスの名、アイギスが携帯を持っているのは中々に不思議な感覚になるが、以外にも操作が上手なのは驚きと言える。

 洸夜は思い出し笑いをしながら電話に出る事にした。

 

「もしもし?」

 

 洸夜はアイギスの電話に出た。

 その行動が自分の明日の予定を決める事になるとは思いもしないまま……。

 

 

▼▼▼

 

 9月28日(水)晴れ

 

 現在、稲羽市の隣町。

 

 そこは、洸夜達が暮らす稲羽の町の隣町。

 多少とはいえ、都会の面影がある場所であり、服、雑貨を始め娯楽施設も充実しており、週末には総司達を始めとした稲羽の住民も多く訪れている。

 そんな隣町、そこで洸夜は己の大型バイクを走らせていた、サイドカーに美鶴を乗せながら。

 やがて、洸夜はゲームセンターの駐車場に入ってバイクを止め、思いっきり伸びをしながら降りた。

 

「あぁ~! やっぱこの距離を走るのは良いな」

 

「同感だ。……しかし、いきなり誘われるから驚いた。何かあったのか?」

 

 ヘルメットを脱ぎ、首を振って髪を整えながら美鶴は洸夜へ聞いた。

 本来ならば旅館で何かしらの作業をするつもりだった美鶴だったが、そんな彼女の下を洸夜が訪れて一言……。

 

『遊びに行くぞ!』

 

 突然の事で何がなんだか分からなかった美鶴、しかし洸夜が乗って来たバイクを見て意識は完全に洸夜へ向けてしまう。

 元を辿れば美鶴に影響されてバイクに乗り始めた洸夜、それから数年、少なくとも美鶴にとっては初見の洸夜のバイク、それを見て美鶴の目は輝いていた。

 

『乗りたい』

 

 誰がどう見てもそうとしか見えない美鶴の子供っぽい表情。

 グループを継ぎ、シャドウワーカーを設立してからそんな暇などなかったのだろう。

 普段はクールな彼女からは想像できない程に好奇心が溢れていた。

 

『帰りに運転させても良いぞ』

 

 そんな美鶴にそんな事を言えばどうなるかは想像する必要もなく、そのまま洸夜の強引さも手伝い、洸夜は美鶴を遊びに連れ出し現在に至る。

 

「まあ、たまにはお前も息抜きが必要だと思ってな……」

 

 そう言って洸夜はヘルメットを受け取るが、洸夜が美鶴を誘ったのは昨夜のアイギスからの電話にあった。

 昨夜、アイギスから掛かって来た内容、それは今の状況から察せる様に美鶴の事だった。

 

『美鶴さんは洸夜さんが思っている以上にあの時の事を悩んでいたんです。稲羽に来てからは洸夜さんに心配されない様にと、裏で動いていて……このままでは美鶴さんが倒れてしまいます』

 

「……」

 

 洸夜は昨夜のアイギスの言葉を思い出し、少しバツが悪そうな表情をしていた。

 口調は普通だったが、微かになんで自分が気付かないのだと若干の責めの様にも洸夜は感じた。

 気付けないとは言え、美鶴達は裏で動いている。

 そう思うと、他意はないとはいえ、状況が変わらないと言ったのは薄情だと反省する。

 

「さて、まあ……行くか。俺もゲーセンは久しぶりだから、新しい機種が楽しみだ」

 

 ヘルメットをしまって洸夜は美鶴と共にゲームセンターへ入ろうとするが、美鶴は少し困惑していた。

 

「し、しかし洸夜……こんな時間から遊ぶのは……」

 

 別に休日なのだから問題ないのだが、美鶴からすれば午前中からゲームセンターへ入る事など初体験。

 高校時代に洸夜とは何回か行った事はあるが、流石にこの時間からは抵抗がある様だ。

 

「気にするな。昔も言ったがお前は少し硬いんだ……あんまり無理し過ぎると本当に倒れるぞ?――今日はガス抜きだと思って、まずは楽しもう」

 

「う、うむ……だ、だが……」

 

「強制」

 

 まだ何か言おうとする美鶴、そんな彼女に有無を言わさず洸夜は美鶴の手を取った。

 

「ッ!」

 

 突然の事に驚く美鶴。

 しかし、洸夜は特に気にする事なくゲームセンターへ向かって行く。

 二人が手を繋いだのは高校時代ぶりの事であり、久しく感じていなかった洸夜の手の暖かさを受け、美鶴の表情はどこか嬉しそうだった。

 

 

▼▼▼

 

 現在、ゲームセンター

 

 ゲームセンターへ入った洸夜と美鶴。

 店内は開店してからそれ程の時間は経っていない筈にも関わらず、店内は既に賑わっており、その光景に美鶴は意外そうに見ていた。

 

「既にこんなに賑わっているのか……」

 

「お前からすれば意外だろうが、開店から閉店まで一日ずっと遊ぶ人もいるし、なんだかんだでそんなもんだ」

 

 洸夜はそう返答しながら両替機にお札を入れ、細かくなった小銭を片手で掴み取って財布に入れて美鶴の傍に向かう。

 

「それで、お前は何かやりたいゲームがあるのか?」

 

 基本的に洸夜に任せる様子で美鶴は洸夜へそう聞くと、洸夜はあるゲーム機を指差した。

 

「じゃああれだな。ネットで見てから一度プレイしてみたかったんだ」

 

 そのゲーム機は個室の様になっており、中に入って座ってプレイするシューティングゲームだ。

 外側にプリントされている大量のゾンビ、定番と言えば定番なゲームに洸夜と美鶴は入り、長い二人用の椅子に腰を掛ける。

 

「二人用なのか……?」

 

「一人でも出来るが、流石にそれは寂しいだろ」

 

 目の前にある巨大なディスプレイに流れる映像を見ながら美鶴は、自分の目の前にある固定された銃を両手で掴み、洸夜は二人の間に先程両替した小銭のタワーを積み上げる。

 

「良し! 目標は二人で二千円以内のクリアだ。甘く見てると、あっという間に死ぬからな?」

 

「自分の分は私が出すが……」

 

「誘ったのは俺。――じゃあやるか」

 

 問答無用で洸夜は百円玉を投入しゲームを始めた。

 左右のスピーカーより流れるBGMが不安を煽り、暗い世界が恐怖を見せようとしてゆく。

 ゾンビの大群、生物兵器やスプラッター系のトラップの数々。

 驚かせるような仕掛けが多い中、最初は困惑していた美鶴にも熱が入り、洸夜と美鶴は時折コンテニューしながらステージを順調に攻略していった。

 

「ふっ、中々にはまってしまうな……」

 

 平常心を装って楽しんでいる様に見える美鶴だが、洸夜は気付いていた。

 ゾンビの奇襲や大きな音が流れる演出の時、美鶴がビクリッと何回も動いていた事に。

 明らかに怖がっており、同時にかなり驚いているのも分かる。

 

「おっ……次の展開だな」

 

 ゲームの場面が変わり、新たな場所へ移動している様子を洸夜は楽しみながら見ていた。

 大量のゾンビが倒れており、主人公達がアドバイスで銃を撃つなとも言っている。

 起こしたら一斉に襲ってくると誰が見ても分かる罠だ。

 

「洸夜……絶対に撃つな」

 

 美鶴は洸夜へそう言うが、美鶴の銃を持っている手は微かに震えており、それに気付いた洸夜は頷いた。

 

「ああ、分かった。――バァンッ!!」

 

 美鶴が油断した瞬間、大きく破裂音が叫び銃を乱射する洸夜。 

 同時に奇声を上げながら襲いだすゾンビ。

 その全てが重なった瞬間、美鶴の緊張の糸が切れた。

 

「キャアッ!!」

 

 今まで聞いた事も無いような女の子らしい叫び声を上げる美鶴。

 その様子に悪戯が成功した洸夜は笑うしかなかった。

 

「アッハッハッ!」

 

「こ、洸夜~!」

 

 美鶴は非難めいた瞳で洸夜を睨む。

 良く見れば若干だが涙ぐんでいる様にも見え、余程驚いてしまった様だ。

 

「悪い悪い! ほら、撃たないと進めないぞ?」

 

「クッ! 後で見てろ……!」

 

 納得した訳ではないが、美鶴はそう言いながらトリガーを引き続け、二人は何だかんだでゲームを続けて行くのだった。

 

 

▼▼▼

 

 現在、とある飲食店。

 

 その後、ゲームを終えた洸夜と美鶴はUFOキャッチャー等でも遊び終えると、ゲームセンターを出て少し遅い昼食を取っていた。

 コーヒーと紅茶、それにサンドイッチとドーナツだけの簡単な物であり、二人は先程の会話などをしながら食事をする。

 

「本当に驚いたんだぞ、さっきのは……!」

 

「だから悪かったって……だが、楽しめたろ?」

 

 どうやら美鶴は先程のゾンビゲームでの一件を根に持っているらしく、食事の雑談でもそれを出し、洸夜は勘弁してくれと言った様子でコーヒーを飲んで誤魔化していた。

 

「ま、まぁ……確かに楽しめはした……」

 

 美鶴はそう言ってサンドイッチを口にするが、やはり驚きの規模は大きかったらしく複雑な様子だ。

 やはり、ぬいぐるみやキーホルダー程度では簡単に機嫌を直してくれないらしい。

 だからと言って後悔していないのが洸夜らしく、なんだかんだで本人が一番楽しんでいる。

 すると、冷静になって洸夜は美鶴を見ていると、不思議な感覚を覚えた。

 

「む?……どうした?」

 

 洸夜がずっと自分を見詰めている事に美鶴自身も気付いて聞き返す。

 すると、洸夜は『いや……』と言いながら話し始めた。

 

「俺達……”お見合い”したんだよな? それについ最近まで溝もあった。そう思うと、なんか今が不思議な感じがする」 

 

「ああ、確かにな……私もそれは感じていた。――本当に不思議だ、つい最近までこうなるとは思ってもみなかった」

 

 僅かな時間だったが、それによって世界が180度変わった。

 偶然では片付けられない出来事、あれは運命だったと言われても信じられる。

 

「けど、未だに自覚がない。俺みたいなフリーターがお前とお見合いしたなんてな」

 

 コーヒーを口にしながらまるで他人事の様に洸夜は言った。

 恐らく、それだけでも宝くじが当選するぐらいの確率ともいえ、それを聞いた美鶴は少し考え込んでから口を開いた。

 

「こんな事を言えばお前は傷付くかも知れんが、あのお見合いの一番の目的はお前の両親との繋がりが生まれる事だ。グループの雰囲気の改善等はついででしかなく、お前の意志も関係はなかったのだろう……」

 

 そう言った美鶴の表情は少し暗かった。

 暗に、桐条が洸夜を利用していると言っている様なものだからだ。

 だが、洸夜はその言葉を聞いても特に気にした様子はなく、寧ろ微かに笑っていた。

 

「ハハ、そんな事は気にするなって……寧ろ、そうじゃなきゃ逆に怪し過ぎる。フリーターと大企業のトップだぞ? 釣り合ってないのは明らかだ」

 

 元々、お見合い事態に乗り気ではなかった事も作用し、全く気にしていない様子の洸夜。

 それどころか、こう堂々と言ってもらった方が安心できるというものだ。

 上手い話には裏がある、タダより怖い物はないと昔の人はよく言ったものだとすら思っている。

 話の内容も中々に被虐的だが、それが洸夜の本心なのだから仕方ない。

 すると、その言葉を聞いた美鶴は小さく笑った。

 

「いや洸夜、お前は自分自身とも向き合い、大学にも合格している。……勿論それだけでなく、お前は自分が思っている以上に凄い人間なんだ。だから、私はお前が周りから見ても私と釣り合う男になれると信じている。――なってくれるのだろ、洸夜?」

 

 己の本心を偽りなく美鶴は語った。

 自分がここまで来られたのは間違いなく『彼』や仲間達、そして洸夜の存在が大きい。

 本当ならば人として自分よりも大きい洸夜が周りを認めさせられない訳がない、そう美鶴は思っていた。

 しかし、その言葉を聞いた洸夜はカップを置いたまま、黙って美鶴を見詰め続けていた。

 

「……」

 

「?……どうした?」

 

 美鶴が問いかけると、洸夜は言い出しずらいのか少し悩みながらも口を開いた。

 

「いや、その言葉だけなら美鶴……まるで、お前が俺とのお見合いの件、承諾している様にしか聞こえないと思って」

 

「……なッ!?」

 

 美鶴の顔に一気に熱が溜まる。

 言われて気付いた発言であり『私はお前が周りから見ても私と釣り合う男になれると信じている』ここまでならば洸夜も自分の自惚れで済んだ。

 しかし、その後の『なってくれるのだろ、洸夜?』まで言われてたらそうとしか言えなくなる。

 美鶴自身も気付いたからこそ顔を真っ赤にしており、言葉を発しようとしても頭が働かない。

 

「えっ……いや! その! だから……今のは私が……!」

 

 なんとか言葉を形成して口にしようとする美鶴だったが、否定はしたくなかった。

 それは、自分が一生抱く事はないと思っていた感情によってであり、美鶴は日頃の凛々しい姿が嘘の様に小さくなっていた。

 

「こ、こんな時……なんて言えば良いんだ……」

 

 本当に分からないのだろう、美鶴の口数は減っていた。

 正解やハズレなんてないが、そんな事に美鶴は頭が働かない。

 すると、それを見た洸夜は小さく笑みを浮かべた。 

 

「……いつも通りで良いんだ。どんな関係になろうとも、俺達は変わらない……だろ?」

 

 洸夜は静かにそう言った。

 今の自分達の関係は今の自分があっての事、どちらの中身が今と違えば必ず関係は多少なりとも今と変わっていただろう。

 そう、いつも通りでいいのだ。

 そして、その事に気付いた美鶴は小さな溜息を吐くと、肩の力を抜いた。

 

「そうだな……全く、相手がお前だと色々と悩みが多くなってしまうよ」

 

 少し考え過ぎた、美鶴は小さく笑いながらそう答えを出した。

 自分は桐条美鶴であり、相手は洸夜ならば今までと何が違うと言うのだろうか。

 何も変わらない、最初から何も変わっていないのだ。

 

「褒め言葉と思わせてもらう」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

 洸夜と美鶴は互いにカップを相手に向け、そのまま飲み干すと、暫く過ごして喫茶店を後にするのだった。

 

 

▼▼▼

 

 現在、稲羽市【とある丘の上】

 

 あれから時間は経ち既に夕日が昇っている中、洸夜と美鶴は稲羽の町へと戻っており、町全体が見下ろせる場所へ来ていた。

 ここまでの運転は美鶴が行い、久しぶりの運転にスッキリした表情をする。

 洸夜も洸夜で美鶴がヘルメットを外して髪をなびかせる姿を見て満足し、二人は夕日に包まれる街を手すりに触れながら見下ろした。

 

「こんな場所があったなんて知らなかったろ?」

 

「ああ、知らなかった。あまり、旅館だけに閉じこもっているのは良くないな」

 

 美鶴はそう言うが、洸夜はアイギスから聞いているから知っている。

 閉じこもっているのではなく、外出の時間が取れない事を。

 

「美鶴、その、アイギスから聞いたんだが……頑張ってくれているんだな。色々と……」

 

「……やれやれ、アイギスには口止めをしていたんだがな」 

 

 洸夜の言葉を聞き、美鶴は一息つきながら言った。

 どうやら、本当に洸夜には内緒にしとくつもりだったのだろう、その表情は残念そうだ。

 応援で来ているのだから、それで洸夜に心配は掛けたくなかったと言う複雑な想いなのだろう。

 

「……あまり無理はするなよ。お前の立場を考えれば無責任な発言だが、それでお前に倒れて欲しくない」

 

 今回の稲羽の事件は自分が美鶴に持ってきた様な物、そう洸夜は思っていた。

 ただでさえ多忙な美鶴にとんでもない物件を持ってきてしまい、美鶴の性格も考えると心配でならない。

 しかし、美鶴はそんな洸夜の言葉を聞いて小さく笑う。

 

「ふふ、そんなに気にしないでくれ。私とて昔の様に無茶は出来ない立場だと言うのは分かっている。――だが、それでも私も人だからな……今回は誘ってくれて嬉しかったよ、洸夜」

 

 振り向きながらそう言った美鶴の表情は笑顔、それも憑き物が取れた様に爽やかで優しい笑顔だ。

 アイギスから言われて気付いたのは情けなかったが、その笑顔を見れた事で洸夜も満足だった。

 

「……アイギスにも礼を言わないとな」

 

「ッ!?」

 

 何気ない様に、しかし確実に含みのある感じに言った美鶴の言葉に洸夜はギョッとしてしまう。

 

「い、いや……美鶴、その今回のはな……!」 

 

 アイギスから言われて今回は誘った、そんな誤解が生まれない様に洸夜はなんとか言おうとするが、それも事実でもある為に言葉が上手く出ない。

 完全にあたふたする洸夜、そんな姿を見てた当の美鶴は特に怒った様子はなく、寧ろ可笑しそうにに笑っている。

 

「ふふ、そんな慌てなくても良い。最初から全部知っていたさ」

 

「えっ? いや、そう言えば……」

 

 美鶴の言葉に洸夜は呆気になりながらも冷静になった。

 今回の事はアイギスと自分しか知らない筈、しかし美鶴は最初から知っていたと言う。

 それはつまり……。

 

「秘密だと言われて先入観に囚われたな洸夜。秘密と言っ他とは言え、アイギスが一人で電話していたと言う確証はない」

 

「おいおい、それって……」

 

 洸夜はようやく真相に気付き、思わず手で顔を覆い隠してしまった。

 そして洸夜が気付いた事で美鶴も静かに頷く。

 

「ああ、あんな堂々と目の前で掛けられてしまえば私も黙るしかないさ……」

 

 美鶴は昨夜の事を今でもちゃんと覚えている。

 旅館の夕食を済ませた後、やるべきことを行い、疲れによって出た溜息をした時だった。

 何を思ったか自分を見ながら突然、電話を掛け始めたアイギス。

 内容から洸夜だと分かり、何か言う前に翌日に自分と洸夜が出掛ける事が決まった様なものだ。

 

「……恥ずかしいんだが?」

 

 真相を知ってしまうと色々と認識が違ってくる。

 朝、突然に訪問して美鶴を驚かせたと思ったが、実際は美鶴が驚いたふりをしていたと言う事だ。

 すると、洸夜が顔を隠しながら唸っていた時、夕日が町を照らし始めた。

 

「綺麗な町並みだな……」

 

 夕日に染まる稲羽の町並みに

 高所から見ている事もあって、光景としては素晴らしいとしか言えない。

 美鶴の言葉に洸夜も手をどけて景色を見ると、思わず見とれてしまう。

 

「……本当に綺麗だ。そして懐かしい」

 

 そう言って二人は柵の上に両手を置いて景色と風に身を任せた。

 

(二年ぶりかもな……景色をこんな気持ちで眺めたのは)

 

 いつ以来だろうか、こんなふうに景色を楽しんだのは。

 いつ以来だろうか、こんなふうに新鮮に感じるのは。

 いつ以来だろうか、家族以外の”誰か”の隣で楽しく過ごせたのは……。

 

(……美鶴)

 

 洸夜が隣を見ると、美鶴は風によってなびく特徴的な紅い髪を片手で抑えながら感じていた。

 夕日によってその紅い髪は更に美しく染まっており、思わず目を奪われていると、美鶴はそれに気付いた。

 

「ん?……どうした?」

 

 流石に気になったのだろう、美鶴は洸夜へ聞いた。

 別に不快に思っている訳ではなく、寧ろ美鶴の表情は満更でもなく嬉しそうであった。 

 そして、そんな真正面から言われてしまうと洸夜は洸夜で思わず顔を逸らしそうになる。

 

「あっ……いや……なんでもない」

 

 情けない事にこんな時にヘタれる仮面使い。

 総司達には大人の余裕を見せるが、美鶴達となると流石に正面から言うのは照れくさいらしい。

 

「そうか、だがお前も無理はしないでくれ。最近は大人しくなった様に見えるが、お前は昔から無茶ばかりするからな」

 

 逆に美鶴から心配されてしまう始末、洸夜自身も流石においおいと自分にツッコミを心の中で入れたくなるほど。

 そんな時だ、洸夜は目線を夕日に染まる町に戻すと今度は落ち着いて見た事で心の中の何かが溶け、静かに自分の想いを口にした。

 

「……美鶴、俺はこの町が好きだ。静かで優しくて……住んでいる人達も暖かい。勿論、中には酷い人間もいるさ。けど、今はこの町を守りたいと思っている」

 

「最初は違ったのか?」

 

 美鶴は意外そうな表情で聞いた。

 昔の洸夜ならばそんな事を言わないからだ。

 

「俺がこの町に来たのも最初は休養が目的だった。――そんな時、総司がこの町で何かに巻き込まれると知った。総司を守る事、それが一番の目的になっていたんだ」

 

「それもお前の良ささ洸夜。私には姉妹がいないから気持ちを完全に理解は出来ないが、それが普通の感情だろ?」

 

 美鶴は特にこれと言って気にしない様子で言ってくれていた。

 何故、洸夜が事件の事を最初から知っているのか疑問になる筈だが、そこは二人の信頼ゆえに敢えては触れない。

 だから洸夜も安心して話が出来る。

 

「けれど、俺の心の心理は事件解決、そして二年前の事もあって他人の事もどうでも良かったんだと今なら分かる。――総司を守るために援護だけなら良かったが、俺は自分がいない時の不安を取り払う為、総司の成長の為に助けられた雪子ちゃんを放置した。同時にこの非現実から関わらないで貰いたいとも思って色々としてしまったんだ……」

 

「前にも言っていたな。……お前は迷っていたんだな」

 

 美鶴は特に追求せずに聞いてくれており、洸夜の事を心配する素振りを見せる。

 そして洸夜もそんな美鶴の言葉に静かに頷いた。

 

「……何が正しかったのか分からない。ただ総司が『あいつ』と同じ様になってしまうかもしれない、そう思うとどうしても気が気じゃなかった。ようやく落ち着いて滞在できて、本当に楽しそうに友達を作れている総司が見れたんだ。短い期間、普通に生活して欲しかったんだ」

 

 その結果、それは総司に対しては正しくもあり間違いであったと気付く事は出来たが、納得までは出来ていない。

 当時は美鶴達への恨みも持っており、冷静に考えていたかどうかも怪しいのも原因だ。

 

「その想いは悪いものではない……だが洸夜、お前は一人で悩んでしまったから迷ってしまったんだな」

 

「……ああ、もう一人の自分と向かいあった時、それを思いさせてくれたよ。――それと、こんな事を言うと虫が良いとかお前を怒らせるかも知れないが、黒きワイルドが築いてくれたあの絆も今は良かったと思えてるんだ」

 

 築いた絆によって双方共に苦しんだ、それは絶対に変わらない事実。

 だがその結果、自分達はそれを乗り越え、そして受け止めた。

 負の絆が良いものかどうかは個人によって変わる、しかし互いを絶対に傷付けないだけの優し過ぎる絆だけと言うのも何かが違う気がする。

 少なくとも、その絆があったからこそ自分達の絆は更に強くなる事が出来た。

 洸夜はその事を美鶴へしっかりと伝え、美鶴も静かにそれを聞いてくれている。

 

「だから結局、何が正しいのかは本当に分からない。けど、俺はもう迷わないと決めた。悩む時はあると思うが……それでも前に進んで行くつもりだ」

 

 そう言って洸夜は手すりに置いている右手に力を入れると、話を聞いてくれていた美鶴はその右手の上に自分の左手を優しく乗せた。

 

「悩んだら一人で考えなければ良いだけだ。今、この町には私やアイギス……真次郎だっている。――仲間を頼って良い、嘗て私にそう教えてくれたのはお前だ、洸夜」

 

 美鶴はそう言って嘗ての自分を思い出す。

 桐条の事、父との事、それらについて勝手に悩み、そして背負い込んでしまっていた嘗ての自分。

 父が亡くなった時はいよいよ苦しんだが、その時に助けてくれたのが洸夜だった。

 迷いの中にいた自分に光を指し、洸夜は『道標』となってくれた。

 その後は『彼』やゆかりも助けてくれて、その結果、今の自分がここにいる。

 そんな恩が美鶴にあり、それを今ようやく返す事ができる。

 

「……やっと今度は私がお前を助ける事が出来るな」

 

「……美鶴、すまない」

 

 何を想っての謝罪なのか、それは洸夜にしか分からない。

 だが、それを聞いた美鶴は小さく笑いながらこう言った。

 

「こう言う時は”ありがとう”だと……お前が私に教えてくれたんだぞ?」

 

 そう言って美鶴は静かに洸夜の肩へ頭を寄せ、洸夜へ己の身を任せた。

 その表情は赤く、身体もどこか固い。

 良い意味で無理をしている美鶴、そんな彼女を見て洸夜も小さく笑みを浮かべた。

 

「ああ、ありがとう……美鶴」

 

 そう言って洸夜は、今度は自分の右手を動かし、美鶴の左手の上へ置いた。

 美鶴の手は冷たかったが、洸夜の手でその暖かさを感じ取り、二人はもう少しだけ稲羽の夕日を眺めていた。

 

 そして、洸夜は美鶴を旅館まで送り、その日を終わらせたのだった。

 

 

END

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