5月17日(火)雲
現在、豆腐屋
「ご苦労様、洸夜さん。お昼休みに入って構いませんよ」
「分かりました。それでは、先に休憩に入ります」
完二と接触してから翌日が経ち、洸夜は相変わらず豆腐屋でバイトに勤しんでいた。
そして現在は昼休みに入り、昼食の為に豆腐屋から外に出たがそこには・・
「お前は……」
「あっ、その……どもっス」
豆腐屋の前で、気まずそうな表情の完二が立っていたのだ。
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現在、神社
「……成る程な。昨日の事で少し気に成り、俺と少し話がしたかったって事で良いんだな?」
「まあ、大体はそんな感じッスね……」
現在、洸夜と完二は神社の階段で近くで購入した串焼きを食べながら会話をしている。
ちなみに、完二が洸夜の元に来たのは昨日の出来事で洸夜に興味を持ち、話をする為に来たらしい。
場所もどうやら母親に聞いたとの事。
確かに、豆腐屋と完二の家は距離が近く、完二の母が自分を知っていても不思議では無い。
そして、自己紹介を終えた二人はそんな感じで会話をしていると、洸夜はある事が気になり、持っている串焼きを噛みちぎりながら完二へと言葉を振る。
「……ところで、学校は良いのか?。本来なら、今は学校の時間だろ?」
「ああ、学校スか……今は昼休みッスから、時間内にちゃんと戻れば別に良いんスよ。まあ、自分が教室にいると、教室の中が葬式見たいに静かッスけど……」
そう言って、軽く笑いながら話す完二。
平然を装っているが、その表情には少し寂しさが写っている。
その表情を見た洸夜は少し考え、話を変える為に自分の学生時代について言う事にした。
「俺の中学時代の事何だが……」
「え? 何スか、いきなり……?」
洸夜の話の切り替わりが余りにも急な為、完二は少し動揺している。
「良いから、黙って聞いとけ……」
しかし、洸夜は完二の言葉を両断して話を続ける。
「……俺の中学時代に、ある友人がいた。その友人は体力とかは無いが、絵や字を書くのが上手で本人も好きでやっていた。そんな彼は、どんな部活に入ったと思う?」
「えっ? えっと……絵や字を書くのが好き何だから、美術部や書道部とかじゃないスか?」
洸夜の言葉に、完二は普通の人でも同じ事を言いそうな事を言う。
絵等を描くのが好きなのだから、美術部等に入部するのが普通だと思うだろう。しかし、洸夜は完二の言葉に首を振る。
「いや、そいつも本当は、美術部に入部したかったんだ。だけど、俺とそいつの当時の担任の野郎は“男子は絶対に運動部に入れ”って吐かしたんだよ」
「えっ!? いや、でも、そう言う奴、結構いるッスよね」
「確かに多い。それに体力を付けたり、成長期だからって考えならば良い。だが、あの教師は違う。あいつは女子生徒に色目を使い、男子には敵意を向けていやがった。その証拠に奴は女子の遅刻は笑って許したが、男子の遅刻には怒鳴り散らしていたよ」
洸夜の言葉に完二は驚きを隠せないでいた。
自分の学校にも、嫌な教師はいるがそこまで酷い教師はいない。
その為、完二は洸夜の言葉に動揺してしまったのだ。
「それで、そいつはどうしたんスか?」
「ん?。そいつは結局、運動部に入ってな……苦労してたよ。ただでさえ、体力が無いんだから当たり前だ。まあ、高校は別に成ったから分からないが、最後にそいつは高校では美術をやるって言ってたから絵でも描いてんじゃないか?」
「いや、その人の事じゃなくてその教師ッスよ! いくら何でも、そんな奴は最低じゃないッスか!」
少し感情的になる完二に、洸夜は軽く微笑む。
やはり、完二は心優しい少年だと分かったからだ。
ただ周りに構わず、暴力を振るう奴が先程の言葉を聞いてそんな言葉が出て来る訳が無い。
そして、完二の質問に洸夜は微笑んだまま返答する。
「ああ、あの教師ならこの間、ニュースで女子生徒を盗撮して逮捕されたって聞いたよ」
「……ヘッ?」
洸夜の言葉に、完二は可笑しな声を上げた。
そして、洸夜はその完二の様子に笑い声を上げた。
「クックッ……アハハハハハハハ! まあ、そう言う事だよ」
そう言って、その場からゆっくりと立ち上がる洸夜。そして、洸夜の話を聞いた完二は最初は驚いた表情をしていたが、その表情からは徐々に笑みがこぼれ始め、遂には・・・。
「……ぷっ! ククク・・・アハハハハハハハッ! 何なんスか、そのオチは!アハハハハハハハッ!。」
洸夜の雰囲気と、シリアスな感じの会話とは裏腹な話なオチに完二はツボッたらしく、腹を抱えて笑っている。
洸夜自身は別に完二を笑わせる為に、この事を言った訳では無いがこの事がニュースに出た時には、洸夜自身もテレビの前で腹を抱えて笑っていたりした。
そして、洸夜は頭を切り替え、今だに腹を抱えて笑っている完二に視線を向けると口を開いた。
「まあ結局、俺が言いたいのはだな完二。お前は周りのせいで自分の才能とかを無駄にするなって事だ」
「……洸夜さん」
洸夜の言葉に、少し俯く完二。
その様子を見た洸夜は、きっと何か思う事が有るのだろう、と思っていたのだが・・・。
「例えが長いし、分かりにくいっス……」
「なにッ……!?」
気まずそうに言う完二の言葉に、洸夜はつい声を上げてしまう。
基本的には何でも出来る洸夜なのだが、自分の行動に対してたまに自覚が無いのが弾に傷。
「ちょっと待て!。どこら辺が分かり難いんだ! 全部が実話で構成されて、分かり易かっただろ!」
「イヤイヤ!。そう言う問題とかじゃなく、なんつうか……ハッキリ言った方が早い気が……」
「いや、逆に待て!。こう言う時は、和えて間を空けた方が分かり……」
……数分後。
「ったく。お前が時間を確認して無いからこうなったんだ……!」
「えぇッ! オレのせいっスか!?」
現在、洸夜は完二をバイクの後ろに乗せて学校まで送っている。
主な原因は、二人の話が長く成ってしまったのが原因だ。
今回は、少なくとも自分にも被が有ると感じた為、洸夜は完二を送っている。
そして、洸夜は赤信号で止まっていると、ヘルメット越しから完二が話掛けて来た。
「あの……洸夜さん」
「ん? どうした? 黙って無いと舌噛むぞ」
「……何で、オレ何かに此処までしてくれんスか?」
「……どう意味だ?」
洸夜は完二の言葉の意味が分からず、完二に聞き返した。
「いや、だってオレは、なんつうか、こんなんスから……それに昨日の会ったばかりなのに、普通はここまでしねえっスよ……」
「……」
完二の言葉を洸夜は黙って聞き、そして信号が青に成った事により再び走り出しすと、ゆっくりと語り始めた。
「……なんつうか、お前みたいに不器用な生き方をしている奴が、ほっとけないんだ」
「不器用……っスか?」
洸夜の言葉に良く分かって無い様な声で返事を返して来た。
顔は見えないが、恐らくは意味が分からず困惑した様な顔なのだろう。
「フッ。まあ、そんなに深く考えるな。所詮はただのお節介と偽善さ……ほら着いたぞ」
「えっ? あっ……本当だ」
学校に着いた為、洸夜は話を簡単に終わらせると完二を降ろす。
そして、降ろした完二からヘルメットを受け取ると、完二は洸夜に頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました」
「礼は良い。早く行きな、煩い先生がいるんじゃないのか?」
「ああ、確かにいるっスね………オレの担任じゃないっスけど、確か二年の担任の“モロキン”って奴が……って時間がヤベッ! それじゃあオレ、もう行きます!」
「頑張れよ! ……って行ったか。何と無くだが、明彦に似ている所が有ったな……って!。俺もバイトの時間が!?」
そう言って完二を送り届けた洸夜は、自分のバイトの昼休みが終わりそうな事に気付き、急いでバイクを走らせた。
この時、こっそりと完二のポケットに鈴を入れといた洸夜。
……しかし、その日の夜にマヨナカテレビに映った人物を見て、洸夜は驚愕した。
ピーー!。ザ、ザザーー!
『皆様、こんばんは。僕は巽完二どえすッ!!』
「やられた……! また、犯人の思い通りか……! しかし、これは一体?流石に色々と見ててキツイものが有るな……」
犯行が繰り返された事で、洸夜は、犯人への怒りを表にする。
だが、マヨナカテレビに映っている“フンドシ”一着しか着ていない完二の姿に絶句してしまっていたのであった……。
END