現在、???
あの後洸夜は、エリザベスが作り出した入口に共に入り、謎の広い空間に来ていた。
その空間にはこう言った特徴も無いが、雰囲気はベルベットルームに似たモノを感じる。
洸夜がそう思いながら辺りに視線を送っていると、エリザベスは洸夜に特に説明はせずにペルソナ全書を何処からともなく出現させると手に取る。
「では、早速始めさせて頂きます。今回は単純にペルソナだけの勝負で構いませんね?」
「俺は別に構わない……だが、闘う理由は何だ? それぐらいは聞かせろ」
闘う事自体は嫌な訳では無い洸夜。
逆に、昔は自分と『彼』の二人掛かりでやっとだったエリザベスに今の自分はどれ程通用するかを知りたいぐらいだ。
そして、洸夜の言葉に無表情のままエリザベスは口を開く。
「……確認したい事がございます。それが理由では駄目ですか?」
「いや、別に良いさ……さて、長くなったがさっさと「ちなみに、洸夜様はオシリスしか使用を認めませんので」……なに?」
エリザベスの言葉に、信じられ無いモノを聞いたと言った感じの洸夜。
しかし、洸夜がそう思うのも無理は無く、女性とは言えエリザベスは最強クラスのペルソナ使いであり、“力を司る者”と言われる程の人物。
そんな彼女相手にいくら何でも、自分は一番長い付き合いであり、自分の最初のペルソナである『オシリス』で有っても一体だけで挑むのは流石の洸夜でもキツイ何処か最悪死ぬ。
しかも、エリザベス自身もワイルドの力を持つ者、フェアとは言えないこの条件に洸夜は口を開く。
「流石にそれは無いだろ。幾ら俺でも、お前相手にオシリスだけでは分が悪すぎる」
「その点に付きましてはご安心を……私も使用するペルソナは一体だけございます……ヨシツネ!」
そう言ってペルソナ全書を開き、ヨシツネを召喚するエリザベス
「(ヨシツネ……!)レパートリーが増えてるな」
「お互い様でございます」
エリザベスの言う通り、二年前にはいなかったペルソナを二人は誕生させている。
現に、洸夜がヨシツネを誕生させたのはつい最近でもある。
そして、洸夜はあえて召喚器を頭につける。
「それならば問題無いか……オシリス!」
エリザベスの言葉に、洸夜はオシリスを召喚して身構える。
だが、この時洸夜の頭の中である疑問が過ぎる。
「(エリザベスの奴、何故ヨシツネを選んだ? ヨシツネは物理に強く、ステータスも高い上級のペルソナ。だが、俺のオシリスには物理無効がある。基本的に物理技しか無いヨシツネでは俺のオシリスを倒せない……)」
基本的に物理技しかないヨシツネからすれば、物理無効を持つオシリスと相性が悪い。
しかし、ペルソナは心の力である為、使い手によっては習得する技も変わるので絶対にそうだと言えない。
「考え事ですか? 余裕なのですね……ヨシツネ!」
「ッ!? オシリス!」
洸夜が気付いた時には、ヨシツネは目の前までに接近していた。
しかし、エリザベスの突然の攻撃に驚きながらも、直ぐにオシリスで迎撃する洸夜。
ヨシツネの刀と、オシリスの大剣が互いにぶつかり合い、周囲に金属音が響き渡る。
しかも、互いに物理に耐性を持つペルソナ同士。
互いにぶつかり合った瞬間に発生した攻撃の余波もかなりのモノであり、余波が空気から伝わり、洸夜とエリザベスはそれを黙って感じ取る。
「最強クラスのペルソナ使いの名は、今だに伊達では無いか」
「逆に私は残念で溜まりません。まさか、今のが全力なのですか?」
「チッ! 言ってろ」
そう言ってまだまだ余裕なのをエリザベスにアピールする洸夜。
そう言い合いながらも互いに、相手から目を逸らさずにしている。
そして、互いに先程の余波を受けても眉一つ動かさない様子を見る限り、洸夜とエリザベスの実力の高さが分かる。
しかし、洸夜の言葉を聞いたエリザベスは小さくクスクスと笑い出す。
「フフフ、余裕が有るのは構いませんがこの戦い、負けるのは貴方様でございますよ……洸夜様」
「ッ!?……理由を聞いても良いか?」
エリザベスが喋り終わったと同時に放たれた威圧感に、危うく呑まれそうになる洸夜。
しかし、何とか踏ん張るとエリザベスに自分が負ける理由を問い掛ける。
「直ぐに御理解頂ける事でしょう……それと、大事な事なのでもう一度言いますが、“今の”貴方様では私に勝てません」
エリザベスがそう告げた瞬間に、ヨシツネは一瞬で洸夜に刀を向きながら再度接近する。
「また奇襲か……お前こそ、そんな攻撃ばかりでどうやって勝つつもりだ? いくら互いに物理に強いとは言え、物理技しか無いヨシツネではオシリスには勝てない。それは、お前ならば分かる筈だ、なのに何故ヨシツネを選んだ?」
先程と同じ様に、話が終わるか終わらないかと言った瞬間にエリザベスは洸夜に攻撃を仕掛けて来る。
それに対して洸夜も素早く対応し、再びオシリスで迎え撃ち、エリザベスに向かってそう言い放つ。
そして、洸夜の言葉にエリザベスは先程とは違い、一切笑わずに真剣な表情で口を開いた。
「確かに気付いて下りました……ですが、だからこそ“今の”貴方には十分な相手だと思いますが?」
先程から“今の”と言う言葉を強調するエリザベスに、洸夜は一瞬違和感を感じる。
しかし、だからと言って此処まで見下されれば、いくら洸夜と言えども結構頭に来る。
そしてエリザベスの言葉を聞き、洸夜は行動に出た。
「オシリスッ!」
洸夜の掛け声にオシリスは、大剣を大きく振り上げながらヨシツネの目の前まで接近すると大剣をヨシツネ目掛けて降り下ろす。
「ヨシツネ」
エリザベスの言葉に、ヨシツネは刀でオシリスの大剣を受け止めた。
そして、受け止めたと同時にヨシツネは大剣を弾き、オシリスの顔面目掛けて突きを放つ。
「ッ! オシリスッ!」
ヨシツネの攻撃に洸夜は肝を冷やすが、紙一重の所でオシリスは顔を反らし、ヨシツネの攻撃はオシリスの仮面をかすった。
そして、今度はオシリスが大剣を横に一閃しヨシツネを捕らえたと思われたが……。
「!」
オシリスの攻撃は空気を斬り、捕らえたと思われていたヨシツネはオシリスの一閃した大剣の上に佇んでいた。
しかし、その直後にオシリスの大剣から雷が放電される。
「ヨシツネ!」
『ジオダイン』
エリザベスの言葉と同時に、大剣から雷が放たれる。
だが、ヨシツネに直撃するまでには至らなかったが、片足が焼き焦げている事から無傷ではすまなかったようだ。
そして、ヨシツネは大きく飛んでオシリスから距離をとった。
「まだだ……!」
だが洸夜は攻撃を休めず、大剣を振り上げながら再度接近してヨシツネ目掛けて大きく降り下ろした。
しかし、ヨシツネはバックステップしてかわし、オシリスの大剣は地面深く突き刺さる。
だが、突き刺さった大剣から先程よりも大量の雷が流れだした。
そして、大剣がフラッシュの様に輝いた。
『マハジオダイン』
オシリスを中心に辺り一面を雷がヨシツネごと包み込んだ。
だが、雷の壁と化した雷の中からヨシツネは出てきた。
しかし、ヨシツネが纏っていた鎧は全身焦げていた。
「ハア……ハア……しぶとい!」
「……もう終わりで宜しいですか?」
エリザベスという強敵との戦いだからか、洸夜は息が切れ頭痛も起こってきた。
しかし、まだまだ余裕と言わんばかりのエリザベスに洸夜は睨み付ける。
「オシリスッ!」
洸夜の掛け声に答え、オシリスは今度は身体から電気を放電させる。
「オシリスの雷を嘗めるなよ」
「……存じて下ります」
洸夜の言葉にエリザベスは、だから何だと言わんばかりの反応を示す。
その反応を見た洸夜だが、これ以上エリザベスの挑発に乗る気は無くそのままの状態でオシリスに指示を出す。
「オシリスの電撃を甘く見るな……オシリスッ!」
『電撃ブースタ+真理の雷』
「ッ!?」
轟音と共にオシリスのブースタで強化した雷は、的確にヨシツネとエリザベスを捉えてそのままエリザベス達に直撃する。
そして、オシリスの電撃により辺りには煙りが立ち込め、周囲の地面にも電気が多少流れていた。
しかし、洸夜はそれよりも気になる事が有った。
「何故だ……(何故、オシリスはハイブースタを使わなかった? 俺は確かに指示を出した……なのに何故……?)」
本来、ブースタ系等の固有スキルは自動的に発動する様な能力。
しかし、洸夜は二年前の戦いの時に『彼』と共にペルソナで修業をし、固有スキルを上手く調整する事が出来る。
そう言う風に力を調整しなければ、必要以上の力で関係ないモノも傷付けてしまう事になるからだ。
だが、今回は相手がエリザベスだからと言う理由で洸夜はハイブースタ系を使う様に、心の中から指示を出していたのだが……。
「……偶然なのか?」
「何がですか?」
声が聞こえた方を洸夜が視線を送ると、そこには煙りの中から出て来るエリザベスの姿が有った。
その様子を見る限り、エリザベスにダメージは殆ど無い様だ。
「殆どダメージ無しか……相変わらずにも程が有るだろ」
最強の電撃技である『真理の雷』とハイブースタでは無かったが、ブースタ系で強化した攻撃を食らってもニコニコしているエリザベスに、洸夜は驚きを通り越て呆れていた。
だが、そんな様子の洸夜にエリザベスは自分の姿を見ながら、洸夜へと口を開いた。
「……何故ハイブースタでは無く、ブースタ系を使ったのですか?」
「偶然だ……別に大した意味は無い! オシリス!」
洸夜自身は偶然だと思っているのだが、エリザベスの真剣な目を見た瞬間、まるで自分の全てを見据えられている様な感覚が洸夜を襲う。
洸夜はその感覚から生まれる恐怖に呑まれそうに成ったが、洸夜は顔を振って恐怖を払い退ける。
そして、洸夜はエリザベスの目から放たれる感覚を止める為にオシリスをけしかけた。
「まだ、お気づきに成らないのですね。それならば致し方ありません……ヨシツネ!」
『『空間殺法!』』
一瞬、何かを呟いたエリザベスだが、その言葉は小さかった為洸夜には届かなく、オシリスを迎撃させる為にヨシツネを前に出し、オシリスとヨシツネは互いに技を出してぶつかり合う。互いの大剣と刀が空間全体を襲う程の斬撃をぶつけ合い、その衝撃に洸夜とエリザベスも思わず手で顔を隠す。
「グッ! 流石にやる……!」
二年と言う年月も有れば、誰でも力は上がる。
それはエリザベスも例外では無く、エリザベスの攻撃は二年前よりも威力が上がっていた。
しかし、それに気付かない洸夜では無い。
オシリスは物理無効を持つペルソナだ。
本来ならば、刀が有ればエリザベスに接近戦を挑むのだが、この戦いは武器無しの純粋なペルソナ使いとしての闘い。
ペルソナの力と能力、そして、それを扱うペルソナ使いの力や器、それと技量や経験等が闘いの鍵と成る。そして、今回の闘いでは物理無効を持ち、尚且つ最も洸夜自身に近いペルソナであり、長い期間を共に闘い抜いたオシリスを扱う洸夜の方が歩が有る。
……と、洸夜自身もそう思っていたのだが。
「……」
「クッ!(まさか、此処で押し返して来るのか……!?)」
先程まで良い勝負をしていたのだが、段々とヨシツネの攻撃がオシリスを押して来て、そのまま洸夜に迫って来ていた。
その様子に対してエリザベスは、相も変わらずの冷静な表情で様子を見ている。そして、ヨシツネの攻撃がオシリスの大剣を弾いた。
「ッ!? オシリス!(だが、オシリスは物理無効持ち。ダメージは防げる)」
物理無効が有るなら、ダメージは無い。
その考えが、洸夜が生きて来た中で最大の油断で有った。
そんな洸夜の様子に気付いたのか、エリザベスはこの闘いの中で殆ど変えなかった表情を少し、悲しむ様な表情をして、ヨシツネに指示を出した。
「……ヨシツネ」
『八艘跳び!』
ヨシツネが高速で飛び回り、洸夜を襲うがオシリスが前に出て、そのまま物理技を全て防ぐ・・・筈だった。
スパパパパパパパパッ!
「ぐわぁッ!(そんな、馬鹿な……!)」
ヨシツネの攻撃をオシリスは確かに防いだが全てでは無く、残りの攻撃を洸夜はくらいその場から少し飛ばされる。
そして、洸夜は床に身体が接触する前に受け身を取ると視線をオシリスに向け、信じられ無いモノを見る様な感じでオシリスを見る。
「一体……何が……」
自分とオシリスに何が起こったのか、分からない様子の洸夜。
そして、その洸夜の疑問に答えを示す為にエリザベスが口を開く。
「本来ならば、自動的に発動する固有スキルを指示を出した筈なのに発動しなかった。そして、物理無効にも関わらず物理技でダメージを受けた……この二点の事から、貴方様の身に何が起こっているのか、お分かりに成られる筈でございます」
「ッ! まさか……!」
エリザベスの言葉に洸夜の頭に有る言葉が過ぎる。
しかし、洸夜にとってその言葉は認めたくない。
認める訳には行かないモノだった。
その事は、エリザベス自身も分かっている事。
だが、だからと言って此処で目を逸らせばいつか必ず絶対に洸夜を危険に曝す時が来る。
それを理解しているエリザベスは、その場で膝を着いている洸夜へと語り掛けた
「もう、此処まで話せば御自分でも理解している筈です。今の貴方様に起きているのはペルソナ能力の……“弱体化”です」
「ッ!……“弱体化”?」
「はい。今思えば出会った時に気付くべきでした。貴方様は二年前の闘いで深く傷着いて下ります。貴方様自身が、それ程まで傷付いているのです。ペルソナに影響が出ない訳がございません……何か、影響が出ていたんでは有りませんか?」
「影響……ッ!?」
エリザベスの言葉に洸夜は、過去の戦いから記憶を思いだした。
完二の救出の時に戦った大型シャドウ戦。
今思いだして見たら、いくらミックスレイドの準備をしていたとは言え、ベンケイが物理技を防げない訳が無かった。
しかし、だからと言って洸夜はそれを認められ無かった。
「だが、ペルソナ達には何も起きてはいない! 良く見ろ!、オシリスには何処も変化は無い!」
そう言って洸夜は、自らのペルソナのオシリスを見ながらエリザベスに反論するのだが、エリザベスは昔の洸夜ならば絶対に見せない姿で叫んでいる洸夜を見て、悲しそうな表情をし、オシリスに視線を移す。
「本当にそうでしょうか?」
「な、何がだ……!」
「良くオシリスを御覧に成って下さい。一切、何者にも目を逸らさずに」
エリザベスの言葉に洸夜は良く分からなかったが、言う通りにオシリスに視線を移した……その瞬間。
ピキバキ……!
「ッ!?」
オシリスの身体に亀裂が入り、オシリスの身体全体に亀裂が入った瞬間。
パリィィィィンッ!
「「ッ!?」」
オシリスの服装等が変わってしまい、服装の羽織りはボロボロのモノに、翼は六枚から二枚に変わってしまった。
大剣は稲妻の模様が消えてただの紅い大剣に成り果てていた。
その姿を見た洸夜は両手すらも床に付き、最早認めるしか無かった。
己自身とペルソナの弱体化を……。
「……やはり、無理をしていたのですね。恐らく、貴方様の頭痛も弱体化しているに気付かずに力を使っていた為でしょう」
「何故何だ。何故、俺は此処に来ても失って行くんだ……?」
既にエリザベスの言葉は洸夜に届いておらず。
そう言って洸夜はその場から立ち上がり、フラフラしながら歩き始める。
今の洸夜にはショックが強すぎて、今までの疲労等も一気に出て来た。
洸夜自身も、自分が今何を考えているのか良く分かっていない。
「……洸夜様」
エリザベスが今まで見た事の無い様な姿の洸夜に心配し声をかけるが……。
「……今日はもう帰らせて貰う」
「しかし……!」
「エリザベスッ!」
「ッ!」
心配し、洸夜に声を掛けたエリザベスだが洸夜の声に驚いてしまい、言葉が出なかった。
その様子に洸夜は顔を下に向けた。
「……すまない。だが、考える時間を俺にくれ。悩む時間を……! 悲しむ時間を……!」
「ですが……」
「大丈夫だ……俺は前に進まなければいけないんだ……過去には戻れないのだから……」
それだけ言うと洸夜は、その空間から去って行った。
そして、その場に一人残されたエリザベスは静かに独り言の様に呟く。
「……過去や未来にも目を背け、他者との繋がりは疎か自分自身まで拒絶する者にペルソナは力は貸しませんよ……洸夜」
エリザベスの言葉を聞く者は誰も居なかった。