稲羽市到着
現在、???
『嘘つき......嘘つき!守ってくれるって言ってたじゃないですか!』
“違う!違うんだ……!”
『あんたは一体、何がしたかったんすか!』
“すまない、許してくれ……!”
『洸夜……お前の力は一体なんの為に合ったんだ?』
“止めろ!そんな目で俺を見るなッ!”
『結局、お前は誰も守ってくれなかったな……何故助け無かった?』
“助け無かった訳じゃない! 俺だって……!”
『先輩……』
“ッ! 『■■■』!”
『どうして助けてくれなかったんですか? どうして先輩には力が無かったんですか?』
“あ、あぁ……!”
『先輩に力が有ったら、オレだってあんな事をせずに済んだのに……』
“すまない……! 本当にすまない……!”
『先輩、助けて下さい。痛いんです……身体も心も全てが……助けて……助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて』
“うっ、うわあああああああああああああああああああああッ!!!!!”
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4月11日(月)雨→曇
現在、電車
「ハッ! ハァ……ハァ……!」
洸夜は目を覚まし、周りを見ると今、自分は総司と共に稲羽市へ向かう為に電車に乗っていた事を思い出した。
そして、額に汗が付いている事に気付き、自分は先程の夢でうなされていたんだと理解する。
「また、あの夢か……! 夢はいつか覚める。なのに何故、悪夢はこんなにも続く……」
美鶴達と揉め、学園都市を去ってからずっと続き、自分を苦しめ続ける悪夢。
実際はこんなにも酷いものではなかったが日々日々、悪夢の規模が大きくなっている気がしてならない。
自分は何時になったら許される?
そう思いながら洸夜は、自分の頭を両手で抑えていたが……。
「……スー……スー」
自分の向かいの席で寝ている総司と、景色を見ている内に落ち着きを取り戻す。
そして、呑気に寝ている弟の姿に、洸夜はつい笑いそうになってしまう。
「全く……知らないとは言え、稲羽で何かが起こるかも知れないのに呑気なモノだな」
そう言って洸夜は視線を景色に移し、少しずつ見えて来た稲羽市を見ていた。
イゴール達との会話から既に一週間……。
稲羽の町で何が起ころうとしているのかは、洸夜にはまだ分からない。
また、イゴール達との会話から今日までの一週間。
人気の付かない所でペルソナを召喚してみたが、身体はともかくペルソナ自体にはブランクは存在していなかった。
流石に巨大すぎるペルソナの召喚は無理だが、その他の召喚は問題なかった。
なによりも、自分だけの召喚技の一つ、一度に多数のペルソナ召喚。
流石に体力は辛くなるが、ミックスレイドとは違い、合体技ではなく一体一体を独立的に召喚する為、乱戦等の時には重宝したものだ。
そして、欠かせない物はまだある。
洸夜は自分の腰に掛けている一冊の白い本を手に取った。
なにやら文字が描かれている辞書の様に分厚い本。
これは二年前の戦いの時、イゴールに手渡された本であり、その従者の彼女が持っていた本と類似した存在と言われている。
己が誕生させたペルソナをいつでも持ち運べる様にとイゴールがくれた物だが、何故か『彼』には渡していない。
イゴールの従者の女性である人物が持つのは『ペルソナ全書』だが、渡された時には白紙であった為に『ペルソナ白書』と洸夜が勝手に言っている。
最後に、洸夜が肩に掛けている竹刀等を入れる様な布袋の中身も欠かせない物だ。
洸夜はその中身である"刀"を優しく触れる。
「また、使う事になりそうだな。(既に三日前に助けられたしな……あの暴走気味の"仮面"の相手に)」
洸夜が、この一週間での出来事を思い出し、自分のペルソナ達の中の“問題児”について悩んでいた時だった。
「ハッ! 今のは……?」
総司が突然目を覚ました。
しかし、何処か困惑している様子に洸夜は心配して声を掛ける事にした。
ずっと転校続きの生活で疲れが貯まっている可能性もある。
何より、総司は自分の意志を殺す様なそぶりをする為洸夜は余計に心配してしまう。
「どうした総司。何かあったのか?」
「……いや、大丈夫。ただ、変な夢を見ただけだから」
「そうか……余り無理はするなよ(イゴールが接触でもして来たか?)」
「流石に心配し過ぎだよ兄さん。自分の体調ぐらいはちゃんと把握してる」
少し疲れた感じに話す総司の言葉に洸夜は、イゴールが夢の中で接触して来たのだと感じた。
ペルソナを誕生させる時等に纏めて話せば良いものを、イゴールは必ず何かがあると自分達が寝ている時に夢の中で呼ぶ為、結構疲れる。
『次は稲羽~稲羽~です。忘れ物等にご注意下さい』
「次か……下りる準備をしとけ総司」
「そう言う兄さんもね」
電車の放送を聞いて洸夜と総司は、下りる準備を始めながら稲羽市を見ていた。
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現在、稲羽市
『稲羽~稲羽~です。足元にご注意下さい』
「着いたな……」
肩にスポーツバックを掛けながら辺りを見回す洸夜。電車から見た感じではそれなりに環境が良く見え、思っていた通り空気を良い。
「これからどうすれば良いんだっけ?」
「確か……叔父さんが向かいに来てくれている筈何だが」
「……って言ったって」
洸夜の言葉に総司は辺りを見回すが、何処にもそれらしい人物は見当たらなかった。
元々、総司が叔父に会ったのはまだ、赤ん坊の頃だからどっち道、顔が分からないう。
そう思いながらも、実は洸夜自身も叔父に会ったのはかなり昔の為、ちゃんと叔父の顔が分かるのか内心では心配している。
しかし、それでもそれらしい人が見当たらない為、駅の中にはいない様だ。
「いないのに此処にいても仕方ないし、まずは外に出て見ようよ?」
「それもそうだな。(一見何も起こってはいない様だな。暫くは様子見に成りそうだ)」
駅の雰囲気から、まだ事件は起きてないと判断した洸夜だが、油断しない様に最低限は警戒し、総司と共に駅から出る。
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「おーい! 二人共、こっちだ!」
駅から出た瞬間、洸夜と総司は誰かに呼ばれ、その方向を見てみる。
そこには、コートを肩に駆け、自分達に手を振っている渋い雰囲気の男性と、その男性の足を掴みながら後ろに隠れている小学生ぐらいの女の子がいた。
そして、その姿を見た瞬間に洸夜は昔の記憶が蘇り、あの男性が叔父である“堂島遼太郎“である事を思い出す。
また、堂島の隣にいる女の子も年賀状に付いてきた写真で見た堂島の一人娘“堂島菜々子“だと分かる。
「ご無沙汰してます叔父さん」
「お前、洸夜か?大きくなったな! それにしてもお前達二人共、写真で見るよりハンサムだな」
そう言って軽く笑いながら喋る堂島だが、少し無理をしている様にも感じた。
「(母さんの言う通りだな。叔父さんは無理をしている)」
実は洸夜は母親から聞いている事が有る。
事故で妻を無くした堂島は男手一つでこの子を此処まで育ててきたが。
妻の一件や、菜々子接し方が分からないから困惑している筈だ。
そして、そんな時に洸夜達の話が来た……。
総司は気付いてないが、堂島は少しでも自分達との距離を縮めようと、積極的に話て来ている。
母親に堂島のサポートも頼まれている洸夜は、馴れない事をして焦った感じになっている堂島を少し笑いながら見ていた。
「初めまして、総司です……」
「初めましてて……小さい頃にオムツを代えてやった事もあるんだかな」
総司の言葉に苦笑いしながら握手に応じる堂島。
「小さい頃だから仕方ないさ……それより、確か菜々子ちゃん……で良かったかな?」
そう言って洸夜と総司は視線を菜々子に移すが。
「!」
菜々子は顔を赤くしながら堂島の後ろに隠れてしまった。
流石に直ぐには心を開いてはくれないらしい。
そう思いながら洸夜が困った様に頭をかいていると……。
「ははは、おいおい何だ?照れてんのか?」
菜々子の様子を見た堂島が笑いながら菜々子の頭を撫でる。
そして、別に嫌われている訳では無いと分かった洸夜と総司は少し安心して溜息を吐くのだが。
「!!!」
堂島に言われた事が図星だったのか、菜々子は更に顔を赤くしながら堂島の足を殴る。
「(あれは痛い……だが、狙いは正確だな)」
そんな風に呑気に菜々子の攻撃を分析する洸夜。
足を殴られた堂島は「痛ッ!」とか言いながら笑っており、洸夜はそんな光景に笑いながら菜々子に近付くと、しゃがんで挨拶しようとした時だった。
チリーン...…!
洸夜がしゃがんだ事により腰に付けている鈴が鳴ったのだ。
「鈴……? きれいな音……」
洸夜の鈴の音が気に入ったのか、菜々子が反応した事に気付いた洸夜は、ポケットからピンク色の鈴を取り出し菜々子に差し出す。
「えっ……?」
差し出された菜々子は困惑するが、洸夜は優しく微笑みながら口を開く。
「あげるよ。俺の鈴とは少し違うけど、気に入ってくれると良いんだが」
「わあー!」
洸夜から鈴を受けとった菜々子は、目を輝かせながら鈴を見ている。
どうやら気に入ってくれたらしい。
自分のあげた鈴で、菜々子の子供特有の笑顔が見れて良かったと思う洸夜。
そして、再びポケットから今度は灰色の鈴を取り出すとそのまま堂島に渡した
「叔父さんにも渡しとくよ」
「ああ、すまんな……だが一体、この鈴は?」
「家族の証……あと、お守りってやつだな.」
洸夜の言葉に堂島は少し驚いた表情になるが、直ぐに表情は戻り顔には笑顔が生まれた。
「そうか、ありがとな。ほら、菜々子もちゃんとお礼を言いなさい」
「えっ? あ、うん。その、あ、ありが……とう!」
やはりまだ少し抵抗があるのか、オドオドしながらお礼を言う菜々子。
だけど洸夜は、菜々子のその精一杯の言葉を聞けて嬉しく思っていた。
「どう致しまして」
そう言って洸夜は菜々子の頭を撫でる。
そんな事をしなかまら菜々子で和んでいると、堂島が洸夜達に口を開く。
「何もなくて退屈かも知れんが……」
「いや、別に問題ないよ。逆に空気も良いし、都会よりも快適さ」
「確かにそうだね。それに風も気持ちが良い」
堂島の言葉に洸夜達は、稲羽の空気に心安らぐのを感じていた。
都会から少し離れただけで此処まで環境が良く。
このまま稲羽に住むのも悪く無い。
洸夜がそんな事を感じていた時だった。
「兄さん何してるの? 早く乗らないと置いてくよ」
気付くと既に総司や堂島達は車に乗っており、乗っていないのは自分一人に成っていた。
「すまない。今行くよ」
そう言って堂島の車に乗り込む洸夜。
だが、洸夜はまだ知らなかった。
この町で起きる事件が他の事件とは違い、異質なモノである事を……。
END