ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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アイドルと仮面使い

現在、稲羽駅

 

「見れば分かると言われてもな……」

 

そう呟きながら洸夜はバイクを駅前で止め、それらしい人物が来るのを待っていた。

あの後、お婆さんから言われた言葉は……。

 

『見たら直ぐに分かるわよ。連絡もしているから、あっちも分かるから安心して』

 

と、ニコニコ笑いながらそう言ったお婆さんの言葉により、洸夜は駅前で待っているのだ。

しかし、それらしい人物は今だに姿を表さない。

基本的に此処は田舎町、いくら駅とは言っても人の出入りは少なく、出て来る人は数える程度しかいない。現に、今も駅から出て来たのはスーツ姿の男性が三人と、サングラスっぽい眼鏡をかけ、帽子を深く被った女の子。

その他にも数人いたが、それらしい人物は居ない。

 

「……(それらしい人物はいないか。仕方ない、もう少しだけ待っても来なかったら一旦帰るか)」

 

そう思いながら、洸夜が自分のバイクを弄っていた時だった。

 

「……あの~」

 

「ん?……何か?」

 

誰かに声をかけられた洸夜が後ろを振り向くと、そこには先程駅から出て来た帽子を深く被り、サングラスらしき物を付けていた少女がいた。

そして、その少女は最初は戸惑った感じだったが、意を決した様なそぶりをし、静かに口を開いた。

 

「あ、あの……瀬多洸夜さん……ですか? 店街の豆腐屋さんでバイトをしてい……?」

 

「確かに俺がその洸夜だが、君は……?」

 

何故、見ず知らずの少女が自分の名前を知っているのか疑問に思った洸夜だが、その少女は、自分が話し掛けた相手が洸夜だと分かると安心した様な感じで口を開く。

 

「おばあちゃんから話を聞いてませんか? 駅に迎えに行って欲しい人が要るとかって?」

 

「おばあちゃん……? それじゃあ、迎えに行って欲しいってのはお孫さんだったのか……(だが、孫ということはこの子久慈川りせ? いや、会見の翌日でこんな駅から堂々と来る訳無いか。恐らく、姉妹か従姉妹だな)」

 

少女のその言葉を聞いた洸夜は、少し疑問に感じたがこの少女がその目的の人物だと言う事が分かり、その少女を乗せて豆腐屋へと向かう事にした。

 

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現在、道路

 

現在、洸夜は先程の少女をバイクに乗せて豆腐屋へと向かっていた。

そして、暫く走っているとその少女が口を開く。

 

「あ、あの……瀬多さん」

 

「洸夜で構わない。瀬多だと言いにくいだろ?」

 

「えっ? じ、じゃあ洸夜さんで……」

 

「ああ、それで構わない……何か有ったかい?」

 

安全運転の為に後ろを見る事が出来ない洸夜だが、その少女が困惑した様子な感じなのは分かる。

 

「その……私がこう言うのも難ですけど……何とも思わないんですか?」

 

「?……何をだ?」

 

今一意味が分からない洸夜は、周りと後ろに注意しながら少女の言葉に集中するのだが……。

 

「いや、だって……私“久慈川りせ”ですよ?」

 

「へえ~そうなのか。久慈川りせ、か……って、えっ!!!???」

 

その少女“久慈川りせ”の言葉に驚いた洸夜は、一旦バイクを道路のハジに止めた。

 

「久慈川りせ? 本当に……? いや、そういや孫だって……あれ?」

 

今一信じられ無い洸夜は混乱してしまい、驚いた表情のままりせの事を見るがりせも洸夜と同じ様な表情で洸夜の事を見ていた。

 

「気付いて無かったんですか!? 私、てっきりおばあちゃんから聞いていたのだとばかり……」

 

「た、確かに君がお孫さんなのは聞いていたが、誰をとは言われていない。簡単に見れば分かるとしか……それに記者会見は昨日だろ?」

 

「そんなの、後始末は基本的にマネージャーとかがやってくれるもん。だから、別に可笑しい事じゃないですよ。逆に洸夜さんが私に気付いて無かった事に驚きです」

 

「いや、その、俺は余り芸能人やアイドルには興味が無くてな……」

 

アイドルのりせに対して、自分は失礼な事をしたんじゃないのかと思い、洸夜は少し冷や汗をかきながら困ったそぶりする。

それを見たりせは、少しイタズラを思い付いた子供の様な表情をすると……。

 

「グスン……いくら、アイドルに興味が無いからって、女の子に向かってそんな風に言います……グスングスン」

 

「えっ!? いやっ!? そのっ! (泣いた!? て言うか、俺が泣かしたのか?)……き、君が望むなら俺は出来るだけアイドルとかの勉強をしようと思うが……」

 

昨日の記者会見で洸夜は、理由は知らないがりせが休業する事を知った。

その為、休業目的で来たアイドルを傷付ける様な真似はしたくない洸夜。

だからこそ、洸夜は目の前で泣きそうなりせを泣かせない様にする為に本気で焦りながらどうにかしようとする洸夜だが……。

 

「ふふ、アハハハハ! もう、洸夜さん焦り過ぎだよ。大丈夫、私悲しんで無いよ」

 

「……謀ったな」

 

りせの態度が嘘泣きと言う事が分かり、洸夜は安心と同時に本気で悩んだ自分が恥ずかしく為った。

りせはドラマもやっている為演技が上手く、ハッキリ言って洒落に成らない。

そう思った洸夜は、前にエリザベスにやった時見たいにりせのオデコに指を押し付け、手加減しながらグリグリする。

 

「洒落に成らん! こっちは真面目に焦ったぞ! そんな事を考えるのは、この頭か? この頭なのか?」

 

「うわわわ~~! ご、ごめんなさ~い!」

 

りせがそう言うのを確認すると、洸夜は指を放す。

そして、やられたりせは頬を膨らませて洸夜に抗議する。

 

「洸夜さん大人げないですよ~軽い冗談じゃないですか。もう、オデコに指をグリグリされたのは初めてですよ」

 

「君の場合は演技が冗談の領域を超えているんだ。それに、今此処にはカメラは無い。君は……“りせちー”だっけ? まあ、それは良いとして、今の君は久慈川りせだ。だから、何も問題は無い(……多分)」

 

等と言いながらも、内心では少しビク付いていた洸夜だが、りせはそんな洸夜の言葉に驚いた表情をしている。

 

「りせちーじゃなく、久慈川りせ……?」

 

「……? 少なくとも今は休業でも有るし、だからそう何なんじゃないのか……?」

 

「……普通の人は、そんな風に割り切れないですよ。プライベートの時だって、皆が見ているのはりせちーとしての私。誰も本当の私を見てくれない……」

 

そう呟くりせの姿は、先程洸夜にイタズラを仕掛けた様な姿では無く、何処か悲しく、そして弱々しく見えた。

そんな様子を見た洸夜は雪子や完二の時の様に何処かほっとけなく成り、和えてそんなりせに背中を向けたまま口を開いた。

 

「……俺はアイドルじゃないし、君自身でも無いから君の苦しみを全て理解して上げる事は出来ない」

 

「……」

 

洸夜の言葉にりせは、少し表情を暗くしながらも、黙って聞いている。

 

「だが、これだけは言える……君は君だろ?」

 

「……!」

 

「確かにアイドルと言う職柄上、皆はテレビ等に映るりせちーとしての君を本当の君としてみるだろう。だが、君の家族等と言った人は親しい人達は恐らく、りせちーとしての君を本当の君としては見ないだろう」

 

「でも、それじゃあ本当の私って一体……」

 

洸夜の言葉に先程よりは楽に成った感じのりせだが、全てを受け入れる事は出来ない様だ。

りせは、再び顔を下に向けてしまう。

それに対し洸夜は……。

 

「君の言う、本当の自分と言うのは俺には分からないが……それでも、君が本当の自分を求めるなら俺から言える事はこれぐらいかな」

 

「……何ですか?」

 

「君は一色じゃない……」

 

「一色じゃない……?」

 

洸夜の言葉にりせは、今一良く分からなかったらしいが、その顔には笑顔が生まれ始めた。

 

「……洸夜さん。洸夜さんの今の言葉の意味はまだ私には分からないけど、気持ちが少し楽に慣れた気がするの……不思議、意味は分かってないのに、こんなにも気持ちが落ち着くなんて」

 

「俺何かの言葉でそこまで落ち着いて貰えたなら光栄だ……さて、そろそろ行くか。随分遅く成ったからな……」

 

そう言って洸夜は再びバイクを走らせると、そのまま豆腐屋へと向かう。

 


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