最初、りせは自分の祖母から掛かって来た電話の内容が理解出来なかった。
それは、稲羽駅に着いたら祖母が迎えに来る予定だったのだが、自分の代わりにバイトの人に頼むと言う事だった。
『そう言う訳だから、気をつけてねりせ』
「そう言う訳って! だっておばあちゃん、私……」
『大丈夫……その人はね、貴方がアイドルだからとか関係なく接してくれる人だから』
「そ、そんな事言ったって……もう、分かった。駅に着いたらその人に会えば良いんだよね?」
いくら祖母の言葉だからと言って、会った事の無い人との事を言われても不安に成らない訳が無い。
しかし、りせは此処で無理を言っても仕方ないと思い、仕方なくそれを受け入れた。
もしも、その人物が他の人達と同じ様ならば今まで通りに話を流せば良いだけなのだから。
そう思いながらもりせは、祖母からその人物の特徴を聞き、少しの不安を胸に抱きながら電車に揺られ始めた。
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現在、稲羽駅
「う~~~~んっ!」
稲羽駅に着いたりせは、ずっと電車に乗っていた事も有り、思いっ切り伸びをする。
元々、一人に成りたくて電車を使うと言ったのは自分なのだから、文句を言うつもり無い。
そんな事を思いながら、りせは駅から出る。
「(確か、灰色の長髪に黒い服だった筈……)」
駅から出たりせは、祖母から聞いた特徴に合う人物を探す為に周りを見てみる。
すると、駅から少し離れた場所に黒い大型バイクを止めている灰色の長髪をした人物が目に入った。
「……あの人かな?」
その人物を見てみると、その人物も誰かを探している様なそぶりをしているがりせには気付いていないらしく、ため息を吐きながらバイクを弄っていた。
そんな様子を見たりせは、少し可笑しく思いながらも少し安心しその人物に声を掛けた。
「……あの~」
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現在、道路
あの後、りせは洸夜と自己紹介をしてバイクに後ろに乗り、洸夜の背中に掴まりながら祖母のお店である豆腐屋に向かっていた。
そして、りせは一つだけ分かった事が有った。
この洸夜と言う人物は、何処か今まで自分が会って来た人物とは少し違う感じだと言う事に。
まず、洸夜は自分がアイドルの久慈川りせとは気付かず、冗談をしたら自分のオデコをグリグリされたり明らかに普通の人とは違ってアイドルとしてでは無く、普通の人として接してくれた。
そして、りせが悩んでいる本当の自分に付いても洸夜は真剣に答えてくれた。
「……君は一色じゃない」
その言葉の意味は今一良く分からなかったが、りせは不思議と気持ちが楽に成った。
そして話が終わり、再び洸夜がバイクを走らせた後、りせは先程グリグリされた仕返しをする為に有る質問をした。
「……洸夜さんって彼女いるんですか?」
「いきなりだな……」
「どーなんですか?」
りせは洸夜から見えない様にニヤニヤしながら、洸夜の言葉を待つ。
「いや、いない……」
「ふ~ん。だったら私が洸夜さんの彼女に立候補して上げようかな?」
その言葉に、恐らく洸夜は先程より面白いリアクションをすると思ったりせだが……。
「はいはい……そう言う事は、後もう二年ぐらい人生を歩んでから決めろ。そうやって一時の感情で結論を急ぐな」
案外、普通な回答に膨れるりせ。
「何か洸夜さん、年寄り見たい……」
「なっ! と、年寄り……!? り、りせ……俺はまだ二十歳だ……!」
「え~~~嘘だ~~~」
「嘘じゃない!」
そんな風に話しているりせの顔は、テレビでも見せないぐらいに満面の笑みだった事に洸夜は気付く訳が無かった。