同日
現在、商店街の豆腐屋
店の奥で休憩していた洸夜だったが、店の方が騒がしく感じ、店へと戻った洸夜が見たのは自分の弟である総司、花村、完二がりせに対して何かを話している光景だった。
そして、洸夜が奥から出て来た事に総司達も気が付き、視線をこちらに向けた。
「兄さん……? どうして此処に?」
「あれ……お前に言って無かったか? 俺、此処でバイトをしているってさ。確か、完二はしっていた……よな?」
「うっす。結構近所のオバサン達が噂してるッスよ?。豆腐屋にイケメンのバイトが入ったって」
「バイトが入っただけで噂か……(田舎町だからなのか?)」
完二の言葉を聞き、自分のいる町が田舎町だと言う事を再度自覚した洸夜。
田舎町だけ有って、どうやら些細な事でも噂に成る様だ。
そんな中、総司達と話していたりせの様子が少しおかしい事に気付いた洸夜。
「どうしたりせ? 何か様子が変だが……?」
「えっ? いえ、大丈夫です。何でもありませんから……」
そう言って平常心をよそおっているりせだが、身体が無意識に震えているのを洸夜は見逃さなかった。
そしてまさかと思い、総司達に視線を送る。
「……総司、花村、完二。お前等、何かりせにいったか?」
「えっ!? いや、オレ達は……何も言って無いッスよ……」
「そうそう! 俺達は別に……」
「? ……さっき、私が誘拐されるかも知れないから気をつけてって……」
「「「ッ!?」」」
「なに……!」
りせの言葉にマズイと言った感じの総司達。
その様子を見た洸夜の表情にも微かに怒りが現れる。
「お前等……休養中の子にそんな事を言ったのか?」
「いや、兄さん……これには訳が……」
「そうそう、深~い訳が……」
「言い訳するなッ!」
洸夜の怒号に総司達は疎か、隣にいたりせまで思わず身体をビクッ!っとさせるが、隣で座っていたお婆さんは平気な顔をしていた。
また、洸夜が此処まで怒るのも無理は無い。
洸夜自身、りせが休養中だと言う事も有り、りせ自身に心配を掛けない様に誘拐に付いては直接伝え無い様に上手く、周りに気を付ける様にしていた洸夜。
ただでさえ、総司達の軽率な行動には手を焼いている為、雪子の時は学校の先生に謝罪し、また近頃は叔父である堂島が総司達の事を疑いの視線で見ている事も有り。
そのフォロー等の為、本人達の知らない所で洸夜は大変な目に有っていた。
そして、今回の本人達は良かれと思った行動だが、言い方が悪かった。
ハッキリ言って、精神的な部分で休養している人に向かって、誘拐されるかも知れないと言われていい気分に成る人等いる訳が無い。
「お前等……流石に今回は堪忍袋の尾が切れたぞ……!」
「マズイ……! 兄さんが本気で怒ってる!?」
「な、何で此処までキレんだよ!? 訳分かんねえよ!」
「いや、普通に考えて俺らの行動ってかなり酷かったんじゃ無いスか? アイドルとは言え、女子に向かってお前誘拐されるって結構失礼なんじゃあ……?」
そう言って冷や汗を全開でかきまくる総司達。
どこをどう見ても明らかに嘘を付いている顔。
そして、洸夜は怒りの表情で総司達に迫ろうとした時だった……。
流石に総司達が可哀相に思ったのか、りせが洸夜を止めに入った。
「こ、洸夜さん……その位で許して上げて下さい。伝え方は酷かったけど、一応私の事を心配してくれたからですし……」
「いや、りせ。これはコイツ等の為でも有る。このまま言ったら、本当の事だからとか誰かの為だからって理由を言い訳にすれば、何でも許されると勘違いする(それに、叔父さんの総司達への疑いの眼差しへのフォローもきつく成って来ているからな)」
そう言って洸夜は、りせの顔を見ながら話すが、りせはそんな洸夜に対して苦笑いしながら後ろを指刺す。
「でも、さっきの人達、もう居なくなってますよ……」
「なにッ!? だが、逃がさ……て、速ッ!?」
りせの言葉に洸夜は、急いで店から出るとそこには、必死で走って逃げる総司達の後ろ姿だった。
しかも、その逃げ足は驚異的なスピードで、既に神社のところまで走っていた。
そして、その様子を見た洸夜は頭を抑えた。
成長する場所が違うだろ……と。
「アイツ等……足の速さは成長しているのに、何故もう少し考えて行動が出来ない?」
「あははは……ハァ……」
洸夜の様子に苦笑いするりせだったが、突然ため息を吐き、肩を落とす。
「どうした?」
「いえ、ただ……少し、心を落ち着かせたかったからこの町に来たのに私、もう問題に巻き込まれてるのかな……って」
「……りせ。こんな事しか言えないが、気にするな。そんな事に一々気にしていたらキリが無くなるぞ」
「はは、大丈夫だよ洸夜さん。さっきの人達の言ってた事だって、そんなに気にして無いし……」
そう言うりせだが、相変わらず無理をしている様だ。そんなりせを見て、洸夜はポケットから紫色の鈴を取り出してりせに手渡し、それを見たりせは首を傾げてしまった。
「洸夜さん……? コレって?」
「お守りだ……出来れば肌身離さず持っていて欲しい」
実は洸夜が今渡した鈴は昨夜、洸夜がムラサキシキブの力を使い、鈴にメディアラハンやテトラカーン・マカラカーン等を鈴に宿したもの。
こうすれば、もしりせが万が一誘拐されても、テレビの世界での異常な体力消費やシャドウから身を守ってくれる。
SEES時代に出来るだけ皆を守れる様にとペルソナ能力を応用し、回数は限られるが物に補助技を宿す芸当が出来るのは自分ぐらいで有る。
しかし、その言葉を聞いた当の本人のりせは、洸夜の言葉に顔を赤くする。
良く考えれば異性に対して物を渡し、そして肌身離さず持っていて欲しいと言う言葉は結構誤解を招く言葉でもある。
「……? どうしたんだ?」
だが、そんな事に洸夜が気付く筈が無く、首を傾げながらりせに尋ねる。
そして、洸夜のそんな様子を見たりせはため息を吐いた。
その様子から、洸夜が恋愛面では鈍い事を理解した様な表情をしている。
「もう、洸夜さん! そう言う言葉をもしかして、会う女の子全員に言ってるんじゃ無いですよね!」
「えっ……? いや、そう言う……あっ(そう言えば、菜々子にも同じ事を言った様な気がする……)言っていると思う……」
そう言うものの、どんな意味でりせが機嫌を悪くしているのかは分からっていない洸夜だが、前に菜々子にも同じ事を言っていた気がしたのを思いだし、りせの言葉に頷く。
そして、その言葉を聞いたりせは頬を膨らませ、洸夜にしゃがむ様に合図する。
「洸夜さん。ちょっとしゃがんで下さい!」
「?……なん「良いから!」は、はい……」
りせの迫力に圧された洸夜は、言われるがままにしゃがみ、洸夜が少ししゃがんだ事によって洸夜の顔が届き、そのままりせは洸夜の頬を引っ張る。
「イタタタタッ!? な、なにするんだッ!?」
何故自分が年下の女の子に頬を引っ張られているのか理解出来ない洸夜。
しかし、そんな洸夜にりせは更に力を強くする。
「洸夜さんが悪いんです! 洸夜さんは少し女心を学ぶべきです!」
「な、何故!?」
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現在、商店街
「あ~、痛ぇ……俺は何かしたのか……?(女心を学べ……か。女心はワイトでも分からないしな……どうしたものか)」
先程、りせに引っ張られて赤く成った頬を抑えながら洸夜は、帰宅の為に商店街を歩いていた。
りせが怒った理由は、さっき上げた鈴が気に入ら無かったと思ったのだが……。
「気に入ら無かったなら、別のにするか?」
と言ったのだが……。
「えっ? あ、あの……その……こ、これは別です!」
と言われて、別に鈴は気に入っている様子。
「ハァ……(いつか女性で苦労するな)」
何で苦労するのかは分からないが、何となくそう思ってしまった。
そんな感じで歩いていた洸夜だったが、すると……。
「何をしているんですか貴方は?」
「ん? 直斗か……ハァ、やっぱり女難が出てるのか」
りせに負けず劣らずのキャラの濃さを備えている直斗の登場に、洸夜は何故か無意識に溜め息を吐く。
また、出会って直ぐに溜め息を吐かれた直斗はムッとした表情をする。
「なんですかいきなり? それに、僕の性別の事をそう軽々しく口にしないで下さい。僕はその事に対して嫌悪をしていると言っても足りないぐらい何ですから……!」
「……その割に俺にはすぐにバラしたろ?」
「あ、あの時は……! あの時は……仕方ないと思ったんです。既にバレている事を隠すのは嫌なんですよ……」
初めてあった時の事を思い出したのか、直斗は恥ずかしさで顔を赤くしたり、怒りで顔を赤くしたりしている。
やはりバレているとは言え、余り性別の事には触れて欲しく無いのだろう。
そんな直斗に洸夜は「悪かった悪かった……」と言いながら謝罪した。
そんな洸夜の様子に全ては納得してはいない感じの直斗だが、仕方ないと言った感じで同じようにため息を吐き、歩いている洸夜の隣に並んで歩きだした。
「……」
「……」
基本的には、余り必要最低限の事や意味の有る言葉しか話したがらない洸夜と直斗。
こう言う場面では何だかんだで波長が合う二人。
そして暫く歩き、先に沈黙を破ったのは直斗だった。
「……次に狙われるのは、久慈川りせで間違いなさそうですね」
「……やはり気付いていたか。と言うか、俺に言って良いのか? 一応、俺は一般人だろ」
「確かにそうですが一応、僕は貴方に期待しています……その勘の鋭さや僕とは違う推理力や想像力にね」
そう言って軽く微笑む直斗。
一応、直斗は自分の事を一般からの協力者として見ていること理解した洸夜。
年下とはいえ、プロの探偵からそこまで評価して貰えると嬉しいもの……態度がでかいのがたまに傷だが。
「そりゃどうも……それと豆腐屋に叔父さんと足立さんが来たのはお前の差し金だな?」
「えぇ、その通りですよ。犯人がファンや野次馬の中に紛れている可能性も無くは無いので、刑事である堂島刑事達が豆腐屋に出入りをしていれば、多少は犯人も何かリアクションをすると思ったのですが。今日来ていたファン達の中には怪しい動作をする人は居ませんでした……」
そう言って帽子を被り直す直斗だが、その表情には悔しさ等の感情は無く。
この程度の事で犯人が尻尾を掴ませるとは、直斗も最初から思って居なかった様だ。
「だが、今回は久慈川りせの近くには俺もお婆さんもいる。それに、いくら田舎町の商店街とは言え、人通りも少なくは無い。この状況下で犯人がどう動くか……」
洸夜は総司達の事も有り、テレビの世界の事の方に偏った調査をしてしまっている様に見えるが、ちゃんと現在世界の何処かにいる犯人に付いても調査をしている。
しかし、コレと言った手掛かりはまだ見付かっていないのが現状。
直斗に協力をして貰えば、もっと成果が上げられるのだが、テレビの世界やペルソナとシャドウ等の非現実的な物に直斗を巻き込みたくは無い。
何より、ペルソナやシャドウ等と言った物を話しても誰も信用しないだろう。
「どうかしましたか? いきなり上の空に成っていましたが……」
「あ、いや……大丈夫だ。少し疲れただけだ」
「そう言えば、ファンや野次馬の対応に追われてましたね」
「見てたのか……良い趣味してるな。こっちは大変だったんだがな」
「まあ、貴方も久慈川りせが来た事でこうなる事は分かっていたんでは有りませんか?」
帽子を触りながらクスクスと笑う直斗を見て、洸夜はため息を吐いた。
「全く、人事だと思いって言いたい放題だな……でこをグリグリした後にデコピンするぞ」
「……何ですかそのレベルの低い嫌がらせは……それなら、僕は貴方に膝かっくんした後に叫びますよ」
「……お前も低いだろ、つーか叫んだら女の子だってバレるぞ?」
「……」
「……」
互いの言葉に黙り込む洸夜と直斗。
なんだかんだでお互いにレベルの低い争いに一歩も引かないが、やはり互いに息が合う二人。
「引き分けだな……」
「その様ですね」
だが結局、互いに冗談だと分かっている為、洸夜と直斗は互いに微笑む。
そして暫く直斗と会話した後、互いに帰宅した。
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現在、堂島宅
本来、家族での夕食と言うのは空気が明るくなる場面が多いだろう。
しかし、今日の堂島宅の夕食は空気がピリピリとしていた。
「わー! おとうふがいっぱいだね!」
空気がピリピリとしている中で、それに気付いて無い菜々子は今晩の夕食の献立に目を輝かせている。
今日の献立は、総司と堂島が豆腐を大量に持っていた為、冷や奴、麻婆豆腐、肉豆腐、ねぎと豆腐の味噌汁等と言った豆腐尽くし。
中々ヘルシーな夕食だが、部屋を包むピリピリとした空気がそれをぶち壊す。
「しっかり食べなさい菜々子。豆腐と言うより、大豆は肌を綺麗にしてくれるからな……」
「はーい!」
そう言って明るく話す菜々子だが、洸夜は視線を堂島と総司に向けると……。
「……上手いな」
「うん……」
「……(気まずい)」
モクモクと食事を続ける堂島と総司だが、空気がピリピリとしている理由はこの二人に有る。
その様子を見る限り、堂島と総司の間に何か有ったのかが分かる。
するとそんな時、堂島の視線が総司を捉えた。
「……総司、久慈川りせと何を話した?」
「……!」
堂島の言葉は何気ないモノだが、総司は堂島の言葉に目を少し大きく開き、軽く冷や汗をかいている。
その表情にはマズイと言った感情が読み取れる。
そして、流石にマズイと判断した洸夜だが、此処で下手に口を出せば自分も何か関係が有ると思われ、後々の行動にかなり支障きたす為口が出せないでいた。
前々から何処か事件の裏には必ず総司達がいる事に疑問を感じていた堂島。
恐らくは、洸夜がバイトを終えた後にもう一度豆腐屋に行き、りせに何かを聞いた可能性がある。
洸夜が状況を見守る中、その時……。
「お父さんたち、りせちゃんに会ったの!?」
堂島の言葉に、りせのファンである菜々子はパアッと明るい笑顔を見せる。
「あ、ああ。まあな……」
「一応……会ったかな」
菜々子の笑顔に調子が狂ってしまった堂島と総司。
しかし、その二人の様子に気付いた菜々子は表情を暗くする。
「ケンカ……?」
表情を暗くしながら不安そうに二人を見る菜々子。
そんな菜々子の顔を見たら堂島と総司も話しを止めるしか無い。
「はぁ~違う。大丈夫だから食べなさい」
そう言って再び食事を始める堂島と総司。
堂島家で菜々子の悲しむ顔を見たい思うのは誰もいないのだから。
「どういう意味……?」
菜々子はどう言う事なのか良く分からない様な表情をする。
そんな菜々子に洸夜は、頭を撫でてあげる。
「菜々子は良い子って事だ」
「???」
そんな感じで菜々子によって、堂島家の一触即発の危機は回避された。
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6月28日(火)曇
現在、豆腐屋
あれから数日、マヨナカテレビに映っているのがりせだと言う事が分かったのだが、りせに変わった様子は無い。
やはり、一目が多い事も合ってか、犯人も動きづらいのかも知れない。
そして、洸夜は今日のバイトは夕方だった為バイクを豆腐屋に走らせ、店に着いたのだが、店の前で高校生ぐらいの少年がりせに話し掛けていた。
しかし、りせはその少年の話しを上手く流している様だが、余りに少年がしつこい為表情が雲っている。
その様子に気付いた洸夜は、急いでバイクを止めて、りせと少年の下へと向かった。
「お客さん、何かお探しかな?」
「な、何だよお前!」
「洸夜さん……!」
洸夜が来た事で、りせは少年の隙を付いて洸夜の下へ移動し、話しを邪魔された少年は洸夜を睨む。
だが、所詮は感情に任せて相手をビビらせる為だけのもの。
その程度の事で洸夜は怯む気すら無かった。
「此処で働いてる只のバイトだ。それで、何をお探しでしょうか? 木綿、絹、焼き、オカラ、ガンモ……他にも有りますが?」
「うぅ……チッ!」
全く怯まない洸夜の雰囲気に圧されたのか、少年はそのまま走って行く。
そして、その様子を確認したりせも大きく息を吐いて自分を落ち着かせる。
「さっきの子は何だったんだ?」
「多分、ファンの子だとは思うんですけど……いきなり、りせ!って呼び捨てにされたり、暴走族って迷惑だよね。とか、誰かの悪口ばかり言ってましたし、何処か気味が悪かった……」
「確かに…!明るい子とは言えないな。(虚な目をしていたし、何処か雰囲気も気味が悪かった。ああ言う子は何か問題を起こしがちだが……俺の考え過ぎで済めば良いんだけどな)」
End