大学は自由と言うが、言う程自由では無い
7月3日 (日) 晴れ
現在、特出し劇場丸久座
「ここか……」
洸夜は今、自分の目の前に広がる光景に少しだけ目を逸らしていた。
このフロア全体を照らす七色のライト、フロアの至るところにあるポールと謎の影が写っているカーテンで覆われている場所こそ、りせが作り出した世界『特だし劇場丸久座』である。
また、洸夜はライト等で目がチカチカして落ち着かないでいた。
しかし、だからといって洸夜は帰る訳には行かなかった。
今回の一件に関しては、不覚にも店を離れた自分が招いた事とも言える。
それに、総司達も随分とシャドウとの戦いにも慣れ、もう自分が見守らなくても大丈夫と判断した。
ならば、今の洸夜がやるのはりせの救出だ。
「(やれやれ……それにしても、えらく派手な世界だな)」
洸夜は、未だに慣れない世界を見ながらそう言った。
そんな時、突如、洸夜の目の前のステージからスモークが吹き出し、ポールを使って踊ってスポットライトに照らされながらりせの影が姿を現した。
『キャハッ! まさかの特別ゲストにしてお客様第1号! 本当の私をじっくりと見せてあ・げ・る! キャハハハハハハッ!』
りせの影は、ステージの下から自分の事を複雑な表情で見ている洸夜に踊りながらそう言った。
また、りせの影の姿は本物以上にスタイルが良く、着ているものも露出の多い水着。
そして、マヨナカテレビでこのシャドウはりせの姿でストリップをするとまで言っていた。
いくら実行するのがりせの影とは言え、その姿は久慈川りせの姿。
マヨナカテレビは、今では一般の人間も見ている。
例え、りせを助けたとしても、その時に既にりせの影がストリップなどしたらりせの傷付き様は計り知れないだろう。
「りせはどこだ、あの子は無事なのか」
洸夜は、りせの影を睨みながらそう言った。
『無事よ……でも、そんな事よりもっと本当の私を見てよ。キャハハッ!』
洸夜の言葉に、そんな事には興味無いと言った感じのりせの影。
そして、りせの影は洸夜を惑わす様な目で見つめ、再び踊ろうとした時。
洸夜はりせの影の言葉に首を横に振った。
「いや、そんな事はりせは望んでいない」
『……なんですって』
洸夜の言葉に、りせの影は表情を僅かに歪ませた。
「君がそうしているのは、りせが自分を“りせちー”としてでは無く、久慈川りせとして見てもらいたいからだろ?」
『そうよ、これがあの娘が望んでいる事なのよ! だから私が本当の自分ってやつを見せてんのよ! なのに、それをあんたが否定してどうすんのよ!』
「なに……? どういう意味だ」
りせの影の言葉にどこか含んだ感じに思い、洸夜は聞き返した。
そして、洸夜が聞き返したのに対し、りせの影は歪んだ笑みを見せる。
『あんただって少しは気付いてるでしょ? あの子は少なからずあんたに好意を持っている事に。それで本当の久慈川りせの姿を見せて上げようとしているのに、あんたがそれを否定してどうすんのよッ!』
最初は歪んだ笑顔だったりせの影だが、洸夜の言葉に声を上げた。
また、洸夜自身もりせが自分に対して多少成りとも好意を持っているのは話し方で気付いていた。
だが、しかし……。
「いい加減にしろ……! いくらお前がりせのシャドウでも、これ以上あの子の心を傷付ける様なら容赦はしない……」
これ以上、りせの心を傷付けさせない為に、 そう言って洸夜は、りせの影から目を背けず、ゆっくりと刀を抜刀した。
その言葉に、りせの影も静かに雰囲気を戦闘のものえと変えた。
『変なの……私もりせなのに』
「別にお前を否定したい訳じゃない……りせはどこだ」
『……言う訳無いでしょ! マハアナライズ』
そう叫びながらシャドウ特有の金色の目に成り、洸夜に向かって対象の事を分析し、相手の情報を解析する怪しげな光『マハアナライズ』を放つりせの影。
これで解析された相手は、りせの影に動きを全てを見抜かれてしまい、りせの影への攻撃の手立ては事実上無くなってしまう筈……だった。
『(ッ!? どうして! どうしてアイツの事が解析出来ないのッ!?)』
本来ならば、『マハアナライズ』を使用した時点で相手の情報を得る事が出来る。
しかし、今回は違った。
洸夜の周りには、まるで洸夜の全身を包み込むかのように黒い靄がりせの影の邪魔をして情報を見れなくしていた。
己の能力が効かない事に少なからず動揺するりせの影。
そんな様子に、洸夜は口を開いた。
「分析タイプのシャドウだったか……悪いな、俺にその類いのものは通用しない。ワイトッ!」
『な、何よそいつ……!』
洸夜の周りを飛び回るかの様にワイトが姿を現し、カシャシャと骸である己の骨を器用に使い笑っているかの様にりせの影に鎌を向けた。
そして、りせの影は突如現れたワイトを苦虫を潰した表情で睨み付ける。
「コイツの名はワイト。戦闘能力は低いが、探索や分析の能力に特化されているペルソナだ。ちなみに、ワイトはジャミング能力も持っている」
『ジャミング……そう言う事』
洸夜の事を解析出来ない理由が分かり、りせの影は一旦体勢を整える為に静かに後退りをする。
「おっと、ここまでやっといて逃がすと思って要るのか?」
『だったら、捕まえて見れば良いじゃない。じゃあね~』
「本当に逃げやがった……(だが、逃がす気は更々無い!)ワイトッ!」
馬鹿にしたような言葉を残し、ダンジョンの奥へと逃げるりせの影。
それに対し、洸夜も逃して成るものかとワイトにりせの影の力を捉えさせ、ワイトの案内の下でりせの影を追い掛ける。
『キャハハハハハハッ! ホントに追い掛けてきた!』
「クソッ! なんて脚の速さだ……だが……ワイトッ!」
尋常では無いスピードの速さでダンジョンを走り回り、洸夜を撒こうとするりせの影。
しかし、洸夜も既にワイトの力でダンジョンの把握と、りせの影を捉えているため通路の曲がり角で曲がり視界から消えても何処に要るかは分かる。
そして、りせの影が通路の十字路を右に曲がり、その通路の先にあるフロアに入るのをワイトの力で確認した。
「……地の利が有ると思ったが、そうでもなかったな」
ワイトの力でこの先は、行き止まりのフロアで有ることを知っていた洸夜は、りせの影を追い詰めたと思い、同じくフロアの中へと入って行く。
そして、フロアの真ん中にはりせの影が佇んでいた。
「ここまでだな、完全にシャドウ化する前に終わらせたい。これが最後だ、りせは何処にいる……」
『……』
「……(今度はやけに静かだな)おい……どうした?」
先程までうるさい程テンション高く喋っていたりせの影が、突然静かに成った事に疑問を持った洸夜は警戒しながらも話し掛けながら近付き、洸夜の言葉にりせの影はこちらを振り返った。
すると……。
「なっ!?」
りせの影が振り向くと、それはりせの影では無く、顔が只のシャドウであった。
そして、そのシャドウはりせの身体からゼリーの様な姿に成ると尋常では無い速度でフロアを出ていった。
そして、フロアには何が起こったか良く分からずに佇んでいる洸夜だけが残った。
そんな時。
『アハハハハハハッ! スゴい! ここまで見事に引っ掛かるなんて!』
後ろから笑い声が聞こえ、洸夜は振り向くとそこにはフロアの入口に立っているりせの影の姿だった。
「お前……一体どうやって?」
『簡単な事よ、そのあんたの隣のドクロはもの凄く探索や分析に優れているんでしょ? だったらそのドクロが感じていた私の力の気配だけを、他のシャドウに被せて、私は気配を消して隠れていただけ』
「……つまり、ワイトの能力の高さが逆に仇になったのか」
『簡単に言えばそういう事 。キャハハハハハハッ!』
小馬鹿にした様な笑い形をして自分を見るりせの影に、洸夜は逆に冷静に成り、少しずつ距離を縮めようとする。
だが……。
『残念でした! 今は上手くいったけど、あんたには二度も同じ手が効きそうに無さそうだし、だから……ここに閉じ込めま~す!』
そう言ってりせの影が手を翳した瞬間、フロアの入口が動き出して入口を塞ぎ始めた。
「嘗めた事ばっかりしやがって……!」
洸夜も閉じ込められて堪るかと、ダッシュで入口へ走るが壁の速度は思いの外速く、もう間に合わないのは目に見えていた。
『それじゃあ、バイバ~イ!』
りせの影がそれだけ言って入口は閉じ、洸夜は閉ざされた壁の前で一発壁を蹴ることしか出来なかった。
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そして、閉ざされたフロアの外側でりせの影は笑っていた。
『ふふふ……ジャミングには焦ったけど、案外何とか……ッ!(誰? 六人程最上階に近付いている。ふふふ、今度の連中はちゃんと私の事を見てくれるかな?)』
最上階に近付く数人の気配を感じると、りせの影はシャドウ特有の金色の目で笑いだし、直ぐ様最上階へと急いだ。
End