数分前 ……。
現在、特出し劇場丸久座(フロア)
洸夜は、エリザベスからの問いに悩みながらも静かに口を開いた。
「……俺は、総司達を助けに行く」
「分かりました」
「……それだけか?」
散々、シリアス混じりに聞いてきたにも関わらず、呆気なく頷くエリザベスに洸夜は拍子抜けしてしまう。
「私が何か言えば、迷う様な覚悟なので御座いますか?」
「いや……そう言う訳では無いが……」
エリザベスからの妥当な言葉に、洸夜は思わず目をそらしそうになった時だった。
「ッ! 総司達の気配に違和感が……!」
ワイトの力を使い、最上階の様子をずっと探っていた洸夜は、先程までとは違う総司達の気配に思わず上を向き、洸夜の言葉を聞いたエリザベスはまるで耳をすませる様に手を耳元へとおいた。
「この重苦しい感じは……恐らく"魔封"状態……」
"魔封"とは、簡単に言えば技が封じられた状態で、更に言えばペルソナ能力が一切使用出来ない状態の事を示す。
基本的にシャドウと戦う唯一の手段でもあるペルソナ能力を封じられるのは、ペルソナ使い達にとってはかなりの痛手とも言える。
また、物理だけで倒せる相手ならばなんとかなるが、物理に耐性を持ったシャドウ等を相手にするときはどうしても属性技が必要になり、そんな場面で魔封に掛かったらそれなりに厄介なモノと言える。
「だが、いくら魔封とは言え対処は幾らでもある」
珍しく、少しだけ大袈裟に話すエリザベスに洸夜はそう返答する。
「本当にそうでございましょうか?」
「どういう意味だ?」
「いえ……先程から総司様達の気配に全く変わりが無いもので、もしかしたらと思いまして」
洸夜に何かを伝えたいらしく、エリザベスは口元をペルソナ全書で隠しながらチラチラと洸夜に視線を送る。
「まさか……」
そして、洸夜自身もエリザベスの言わんとしている事が分かると、ダラダラと冷や汗をかきはじめて、その冷や汗が背中をつたう嫌な感覚に襲われる。
「まさか、あいつ等……魔封状態…………いや、状態異常の事を知らないのか?」
「今を尚、総司様達の様子に変化が無いことから見て、その推測に間違い無いでしょう」
目を閉じながら話すエリザベスの言葉に、洸夜は軽く舌打ちをするとフロアの入り口へと走り出した。
「何処へ行かれるのですか?」
「総司達のところに決まっているだろう! ペルソナが封じられた状態での大型シャドウ戦はマズイ……」
「今から向かっては間に合いません、ですので……」
「!」
エリザベスが手を翳すと、目の前の空間が裂けて入口が現れた。
そして、その様子に面喰らった様な表情の洸夜にエリザベスは、たった今出現させた入り口を指差す。
「このエリアの最上階へと繋ぎ致しました。お急ぎを……」
「すまない、エリザベス……恩にきる!」
洸夜は入り口へと走りながらエリザベスに礼を言うと、そのまま入り口へと入って行った。
そして、その様子をエリザベスは呆れた様に笑いながら見送った。
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エリザベスが作り出した入り口から出た洸夜は最上階についたのだが、扉から感じる久方ぶりの強い力を感じ、無意識に武者震いした。
だが、それ以外にもう一つだけ洸夜には心配事があった。
「(確かに強い……だが、弱体化しているとは言え、この程度なら何とかなる。しかし、問題は久しぶりの強者に“コイツ”が我慢出来るかって事だ……)」
そう思い、困った感じに溜め息を吐きながら洸夜はペルソナ白書に視線を送る。
するとその時。
『ーーーー!ーーー!』
「ーーー!」
扉の向こうから声と振動が伝わるのを感じ、洸夜は急いで扉に向かい中を伺う。
そこには、りせを守る様にボロボロに成りながら立っている総司が、今まさにシャドウにとどめを刺される直前の光景だった。
その様子を見た洸夜は急いでポケットから、店の前で拾った鈴を取り出す。
「ギリギリだが、間に合え……!」
洸夜はそう叫び、鈴を総司達の前に目掛けて投げた。
そして洸夜の願いが通じたのか、鈴は上手く発動してシャドウの攻撃を防いだ。
「上手くいってくれたか……」
鈴のお陰で総司達が無事なのが確認出来ると、安心した表情に成るが直ぐに表情を固くする。
そして、洸夜は装備を確認してから部屋へと入った。
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……そして現在、洸夜はクマのシャドウと対峙していた。
総司達も洸夜が此処にいる理由が分からずに混乱してしまっている。
また、そんな総司達の様子を見ても洸夜は、シャドウから目を離さず総司達に背を向けたまま口を開く。
「総司! りせ!」
「「は、はい!」」
いつもと違う洸夜の雰囲気に圧されたのか、総司とりせは思わず敬語に成ってしまった。
「何故ペルソナを使わない?」
「えっ! そ、それが……あのシャドウの攻撃を食らったらペルソナが召喚出来なく成ったんだ……」
「召喚出来なく成った……か(やはり魔封状態か……この戦いが終わったら少し、状態異常について教えてやるか)」
総司の言葉にそう呟いた洸夜は、次にバラバラの場所に倒れている陽介達に視線を移すと静かに召喚器を構えた。
「なっ!? 兄さん!何やってんだよ!」
「洸夜さん!?」
洸夜が銃型の召喚器を自分に当てている事に驚く総司とりせ。
知らない者から見たらその光景は自殺としか見えない。
しかし、洸夜はそんな反応を無視し、作戦を練っていた。
「(バラバラの場所でやられたのか。少し面倒だが、まずはアイツ等を一カ所に集める事から始めるか)ケルベロス! オルトロス! ヤツフサ!」
引き金を引くと同時に、何かが砕ける様な音が辺りに響き渡り、洸夜の目の前に現れる白い獣と、二つの首を持つ獣。
そして、周りに色の着いた玉を浮かんでいる獣型の三体のペルソナが召喚された事により、総司達は更に驚愕する。
「見た事の無いペルソナを三体同時に……! それに、兄さんも俺と同じワイルドの力……!」
「す、すげぇ……」
「何か強そう……」
洸夜は、召喚した三体のペルソナを見て驚愕する総司達を無視して、ケルベロス達に視線を陽介達に向けると一言だけ指示を出す。
「……行け」
洸夜のその言葉と同時に、ケルベロス達は風をきる様に陽介達目掛けて走り出す。
しかし、その様子にクマの影が黙っている訳もなく、視線をケルベロス達へと向けて腕を振り上げた。
『何をする気かワカラナイが、ケサセテもらう!』
クマのシャドウは、腕を振り下ろしてケルベロス達を薙ぎ払おうとする。
だが、ケルベロス達は脚に力を入れ、その場で高く飛んでそのままシャドウの腕に乗って走り続けた。
『ヌッ!?』
「凄い……!」
「オルトロス! ヤツフサ!」
りせがケルベロス達の動きに驚いている中、洸夜はオルトロスとヤツフサに指をクマの影の隙や出来た場所にさして指示を出す。
その指示に対し、二匹のペルソナはシャドウを踏み台にし、陽介達の近くに着地した。
それに驚いているのは、倒れている陽介達。
事態が分からずに、自分達の目の前にいるオルトロス達を口を開けたまま眺めている。
『『……』』
それに対し、オルトロス達はそんな陽介達を無視し、陽介達の服を口でくわえて背中に乗せるが何故かクマだけはくわえたまま。
「えっ!? ちょっ! なになに!?」
「乗せてくれるの……?」
「見たいっスね……」
「クマものせれ~~!」
突然の事で混乱する陽介だが、二体が全員を乗せたのを遠目から確認すると洸夜はオルトロス達にすぐ指示を出す。
「駆けろオルトロス! ヤツフサ! ソイツ等をこっちに連れてこい!」
『『ーーー!』』
洸夜の言葉にオルトロス達は陽介達に有無を言わさずに走り出す。
「「「「「きゃあああッ!!/おわぁぁぁッ!!」」」」」
余りの事に叫び散らす陽介達。
しかし、オルトロスの片方の首に千枝が思いっ切り掴んでいる為苦しそうだ。
『そう言う事か……!』
オルトロス達の動きを見たシャドウは、洸夜の狙いを理解し、爪に力を入れてオルトロス達に攻撃を仕掛ける。
しかし、シャドウの動きを読んでいた洸夜は、シャドウの近くに待機させていたケルベロスに指示を出した。
「あまいな…… ケルベロスッ!」
洸夜の指示にケルベロスは、オルトロスを狙っているクマの影の目の前へと飛び上がった。
その行動にシャドウも、オルトロス達に注意が向いていた為ケルベロスの動きに対応出来ない。
しかし、ケルベロスは容赦無く牙を向ける。
『ヌッ!』
『ギガンフィスト!』
ケルベロスの爪がシャドウに振り下ろされ、シャドウの顔に巨大な爪痕が刻まれた。
『グアアアアアアアッ!!』
シャドウが痛みで咆哮を上げている隙に、洸夜はケルベロス達を戻す。
そして、総司とりせは陽介達に駆け寄った。
「皆! 大丈夫なのか?」
「そう言う瀬多君はどうなの?」
「俺等よりも先輩ッスよ……」
互いの無事が確認出来た事で、総司達に笑みがこぼれる。
しかし、総司達がボロボロなのは変わり無く、洸夜は総司達に近付いた。
「俺から見たら、どっちも危険だ。ムラサキシキブ!」
「また、見た事も無いペルソナ……」
『メディラマ、アムリタ』
総司達はムラサキシキブの姿に驚くが、洸夜はムラサキシキブに指示を出し、総司達を回復させた。
そして、ムラサキシキブから放たれた光を浴びると総司達から傷や魔封が消えた。
「身体が……!」
「身体だけじゃない、ペルソナも使える!」
自分達の身体とペルソナが回復した事により、総司達は立ち上がり元気な様子を見せる。
だが、洸夜の視線に気付くと、総司達は少し警戒する様に構える。
「兄さん……」
「何で貴方がここにいるんですか? しかも、ペルソナまで使って……」
陽介が洸夜を除く全員の思っている疑問に聞くが、洸夜は陽介達に視線を向けずにクマの影から視線を固定しているかの様に目線を外さなかった。
大型シャドウへ見せる隙がどれ程危険なのかを知っているからこその行動。
だがしかし、陽介は洸夜に無視されたと思い食って掛かった。
「おい、聞いてんのかよ! 何であんたが此処に「喚くな……」なッ!」
陽介は洸夜の様子に怒り、声を上げたが逆に洸夜の言葉に遮られてしまう。
だが、陽介も何か言い返そうとするが、まるで喋る事は許さないと言わんばかりな洸夜の目に黙るしか無かった。
「お前等……相手は大型シャドウだぞ。こんな呑気に話している場合か?」
「の、呑気って……私達だって真面目に……」
「本当にそう言い切れるのか? 百歩譲って俺の乱入に意識を持って行かれていたとしても、俺を除けば、シャドウから視線を外してないのは総司と完二だけだぞ」
その言葉に千枝達は慌てるのと驚いたの2つの感じで総司と完二を見る。
洸夜に言われた通り、回復を受けたとは言え未だにグロッキーなクマは仕方ないとは言え、皆と同じ条件の総司と完二は洸夜の話を聞きながらもクマの影から目を話していなかった。
それどころか、もう遅れはとらないといった雰囲気でクマの影へ構えてすらいた。
「お、おいおい……すげぇマジじゃんかよ」
「二人とも、まさに本気って感じ……」
二人の雰囲気に陽介と千枝は思わずそう呟いてしまう。
だが、二人の呟きが聞こえた完二はクマの影を睨んいた視線を陽介達に移し、今度は陽介を睨みつけた。
「マジだ? 本気だ? んなの当たり前だろうがぁッ! 花村先輩、里中先輩、あんた等は何か? 遊び気分でやってのかッ! 」
「「ッ!?」」
このところ丸く成ったと言える完二だが、彼が中学で近所の暴走族を壊滅させた事もあるのを忘れていた陽介と千枝は思わず震え上がってしまった。
「い、いや……俺はそう言う意味でいったんじゃあ……」
「ご、ごめんなさい……」
完二の言葉に顔を下に向ける陽介達。
その様子に完二はばつが悪そうな表情をすると、舌打ちをして再びクマの影へ睨みつけた。
「いつまで雑談しているんだ? そろそろあのシャドウが動き出すぞ」
洸夜の言葉に千枝達はクマの影を見ると、先程洸夜に傷つけられた傷に馴れたのか、先程より騒がなくなったクマの影の姿だった。
そして、その様子にようやく構え出した千枝達を洸夜は見ると、その場から一歩前に出た。
「……お前らは下がっていろ。アイツは俺が倒す」
「なっ!ふざけるなよ! あのシャドウってのは、あんた一人で倒せる様な奴じゃねえんだ!シャドウについて詳しくもないあんたが言ったところで無駄死にするだけだ!」
「俺もそう思う、さっきのは凄かったけど……兄さんが言っている事は無謀だ!」
洸夜の言葉にキレた陽介と総司が抗議するが、洸夜は至って冷静だった。
当たり前だ、洸夜はこのレベルのシャドウとは、それなりにやり合っているのだから。
また、洸夜の言葉に完二も一歩前に出た。
「洸夜さん! 俺達にも戦わせてくれ! 足手まといにはならねぇ筈だ!」
「私達だってここまで戦ってきたし、それにあのシャドウはクマさんのシャドウだから……」
完二と雪子の気持ちも分からなくは無い。
しかし、洸夜はあえて何も言わずに二人に近付くとポーンと風船を弾くかの様に押した。
そして、本来ならば押された完二と雪子はその程度の事等何ともないのだが……二人はそのまま地面に崩れる様に地面に座り込んでしまった。
「はっ? いや……おいおいマジかよ……くそ……」
「えっ! 何で私……足に……いや体に力が入らない……」
自分の状態に完二はどういうことか察したようだが、雪子は今一自分に起きている状態がわからないでいた。
周りでその様子を見ていた総司達も驚き、洸夜に一体何をしたのかと言わんばかりの視線で見つめた。
「俺は軽く押しただけだ。先程回復したと言っても、それだけで全てが回復する訳じゃない……今のお前らは戦える状態じゃない」
洸夜の言葉に総司達は何か言い返そうとしたが、洸夜に言われてから感じる体の負担に気付き、何も言い返えせなかった。
「……言いたい事はそれだけか? なら俺は行くぞ」
もう誰も何も言わないと判断した洸夜はクマの影へと歩きだす。
しかし、洸夜の言葉に陽介は更に声をあげた。
「いい加減にしろよ!シャドウについて何も「喚くなと言ったろ」・・ッ!」
洸夜から放たれた一言に陽介は恐怖して黙ってしまう
「知ってるよ、シャドウについてもペルソナについても今回の事件も少なくともお前等よりもずっとな……言いから黙って見てろ」
洸夜の言葉に総司達は困惑するが、不思議と不安等は一切感じ無かった。
そんな洸夜に、総司が言葉をかける。
「ちょっと待ってくれ、兄さん!」
総司の言葉に洸夜は振り返らずに立ち止まる。
「なんだ?」
「兄さん……兄さんが此処に来た理由はなに?」
総司の言葉に、洸夜は天井の方を向くと静かに溜め息を吐き、口を開いた。
「弟たちを助けに来るのに理由はいるか?」
「兄さん……」
総司が洸夜の言葉に黙った時だった。
『キサマァァァァァッ!!』
「ッ!?」
先程、洸夜の攻撃に苦しんでいたクマの影が腕を振り上げていた。
また、総司達が気付いた時には間に合わず、クマのシャドウが洸夜に目掛けて、鋭い爪を振り下ろした。
そして、その衝撃により辺りには砂埃が舞い上がる。
その様子にシャドウは歪んだ笑みを見せ、総司達は表情を青くして最悪のパターンを想像する。
「兄さん……? 兄さん!」
「洸夜さんッ!」
総司達が姿の見えない洸夜に声を掛けた瞬間。
「おいおい……! いきなりは無いだろ?」
『グワアアアアアアァァァァァッ!!!』
突然、何処からともなく洸夜の声が聞こえたと思った矢先に、シャドウが叫び声を上げた。
突然の出来事に事態が理解出来ない総司達。
シャドウの方に視線を送ると、そこにはクー・フーリン、タムリン、そしてオシリスと洸夜がそれぞれの武器をシャドウの巨大な腕をめった刺しにしている光景だった。
『な、ナゼだ……!』
「……いくら不意打ちとは言え、巨大な攻撃程何処かに隙が有るものだ。それにこの程度の攻撃なら、ペルソナ達に防いで貰う必要も無い。逆に攻撃のチャンスだ」
洸夜の言葉に顔を歪ませるシャドウ。
そして、シャドウ特有の怪しく光る金色の瞳で睨み殺すかの如く、洸夜を睨みつけた。
『ニンゲン……! キサマにも与えてやろう。あそこにいるニンゲン共よりも、キサマが先に死ぬと言う真実をッ!』
「良く喋るシャドウだ……弱く見えるぞ?」
『ホザケッ! ヒートウェイブッ!』
「クー・フーリンッ!」
『デスバウンドッ!』
シャドウとクー・フーリンの技が互いにぶつかり合い、その余波で部屋全体に亀裂が入る。
『マハブフーラッ!』
しかし、シャドウは直ぐに技を放ち、洸夜目掛けて一気に仕掛けた。
そして、巨大な氷が洸夜を囲む様に迫る。
「ムラサキシキブッ!」
洸夜はムラサキシキブを召喚し、自分に向かって来ていた広範囲の氷を羽衣を上手く使って防ぐ。
そして、マハブフーラが消えた瞬間、洸夜はシャドウに一気に接近した。
「オシリスッ!」
『小剣の心得』
オシリスが洸夜の刀に力を与え、洸夜はシャドウの真下から一気に斬り上げた。
そして、斬られたクマの影の体には右斜めの巨大な斬り傷が刻まれた。
また、洸夜へ攻撃が当たらない事にクマの影は信じられないと言った様に表情を歪ませた。
『グッ! ナンダこの動きは、何故攻撃がッ!』
「下手なんだよ……オシリスッ!」
『ジオダインッ!』
オシリスが大剣を掲げた瞬間、シャドウの真上から巨大な雷が降り注ぎ、シャドウを飲み込んだ。
ペルソナだけに戦わせるのではなく、時には自分自身で隙を作り、ペルソナ頼りではなく共に戦うやり方
「これがペルソナ使いの戦いだ」
『グワアアアアアアァァァァァッ!? なぜだ、何故キサマは抗う! 真実がほしくはナイのか!?』
洸夜はオシリスの攻撃が直撃しても尚、暴れまくるシャドウを見て、ペルソナ白書を開く。
「真実は欲しいが、お前からの真実はいらない(弱体化したオシリスでは止めをさせないか……なら、コウリュウとベルゼブブで……)」
シャドウに止めを刺す為、新たなにペルソナを召喚しようとする洸夜。
しかし、ペルソナ白書を開いた洸夜はある異変に気付いた。
「ッ!?(いない……! コウリュウ達だけじゃない、他のペルソナ達も見当たらない! 何故だ……まさか弱体化の影響か!?)」
自分の下からペルソナが居なく成っている事に驚愕する洸夜。
しかし、シャドウにはそんな事関係無い。
『シャドウ達よッ! 私に力を……!』
「何だ……?」
突如、クマの影の周りにシャドウ達が集まり出し、クマの影はそのシャドウ達を吸収し始めた。
その様子に、遠くから戦いを見ていた総司達も驚きを隠せない。
「アイツ!何やってやがるんだ!?」
「シ、シャドウを吸収してるの……!?」
「ん……りせちゃん?」
皆がクマの影の行動に驚いていると千枝がりせの様子に気付いた。
「あ……あぁ……」
りせはクマの影の方を見ながら、床に足を付けて震えていた。
まるで、化け物がそこに要るかの様に。
「どうしたんだ!?」
様子のおかしいりせに総司が声を掛ける。
だが、りせの震えは修まらない。
「別……今までとは違う……強い力が……!」
「えっ? あのシャドウを吸収したアイツってそんなにヤバいのかよ!?」
「確かにさっきよりもヤバい感じがするぜ……」
完二の台詞に皆がクマの影を見るとそこには……。
「おいおい……まだやる気か」
『ククク……キサマは全く愚かだな。あのまま楽に死んでればよかったものを』
そこには見た目は変わっていないが、全身から生きている様にウネウネと動く闇をを纏っているクマの影がいた。
先程よりも強い威圧感に、シャドウを吸収した事によってかなり強化された事が分かる。
「確かにヤバいな……」
「アイツがそんなに強いなら早くお兄さんに教えないと!」
だが皆の言葉にりせは首を振った。
「ち、違う……アイツじゃない」
りせの言葉に総司達は顔を見合わせる。
「えっ!? じゃあ一体……」
総司達はりせの視線の方向を見ると……。
「兄さん……?」
「違う……違う……!」
りせが見ていたのはシャドウではなく洸夜だった。
だが、再度りせは首を振っている事に総司達は気付かない。
「確かに力はかなり上昇した様だが、それで負ける程俺も弱くは……ッ!?(マズイッ!)」
洸夜がクマの影を睨みながら喋っていると、突然洸夜の表情が変わり、ペルソナが消えた。
「ッ!……(力の強い敵との戦いに“アイツ”が出てきたがっている!)」
洸夜の様子がおかしい事に気付いた総司達は、口を開く。
「ちょ、ちょっと!瀬多君お兄さんペルソナを戻しちゃったけど!?」
「どうしたんだ、何故兄さんはペルソナを……?」
「そんな事を言ってる場合かよ! 洸夜さんを援護しねえと!」
そう言って完二が洸夜を援護しようとしたが、りせが止めにはいる。
「駄目っ!今行ったら危険だよ! それに洸夜さんの邪魔になる!!」
「なっ! だったら見捨てろって言うのかよ!」
「違う! 言いからそこで見てて……洸夜さんの中から異質な力を感じるの」
りせの言葉に皆が黙り洸夜を見ると、何やら洸夜はブツブツと呟いている。
『どうしたニンゲン、いまさら怖じけづいた訳でもアルマイ』
「分かった分かった……だが、暴れ過ぎるなよ……!」
洸夜のおかしな行動に総司達もシャドウも、困惑した様子だが、シャドウは強化された爪を洸夜に向けた。
『まあ良い……少なくとも、キサマは死ぬ。この真実は変わらんのだッ!』
「……」
シャドウの言葉に、洸夜は何の反応も示さない。
そして、シャドウの巨大な爪が洸夜に向かって振り落とされた……その時。
ガシッ!
振り落とさたシャドウの腕が洸夜の目の前で止まった……いや、“止められた”のだ。
一つの黒い腕に。
まるで、洸夜から生えている様に見える黒い腕。
『こ、これは……!』
「来る!!!」
「「「「「え!」」」」」
シャドウとりせの声に総司達が声を上げた時だった。
ビキバキビキグチャ!
突然、洸夜の中から黒いなにかが出現し、段々と人の様な形になっていく。
「な、何だあれ?」
「ペルソナなのかな?」
「異質な力……そして絶対的な力だよ」
りせの言葉の意味が分からない総司達は、場の状況を見守るしか無かった。
だが、アレがとてつもない力を持っている事は確か。
『な、何だソレハ……キサマ一体何を……!』
黒いなにかに動揺したクマの影が声を上げるが洸夜は……。
「スマナイなシャドウ……コイツは俺にもよく分からないし、何より俺より優しくない……コイツは『死』そのものだから」
洸夜がそう言った時。
グチャビチャバキグチョガキバリグニャバキグチャボリビチャゴキ!!!
黒いなにかが人型の形になり、そして体の周りに鎖に付いている棺桶の形をしたモノが出現し、顔には獣の様な鉄の仮面に刀を持ち、『死』を司るモノの名を持つペルソナ……。
『タナトス』が召喚された
END