ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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料理の基本は卵から


『死』が奏でる鎮魂歌

同日

 

現在、特出し劇場丸久座(最上階)

 

タナトスは召喚されたと同時に突然咆哮を上げ、半壊した部屋一面に振動が響き渡る。

 

『ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

タナトスの咆哮に、半壊したフロアは耐えきれずに更に壊れ、りせの影が乗っていたステージは既に見る影も無かった。

また、ペルソナとは思えない声に総司達は思わず表情を青ざめ、その様子を洸夜は不安とは違うが険しい表情でタナトスを見ていた。

 

「う、何あれ……」

 

「ペルソナ……なのか? いや、他のペルソナと何かが違う……!」

 

「怖いクマ……! 怖いクマよッ!! アレは何かが違うクマ!」

 

タナトスの姿を見て、総司達は反射的に後ずさりをする。

そして、クマもタナトスの存在に奮え上がっていた。

そんな中、陽介が前に出た。

 

「なにビビってんだよ? アレは相棒の兄貴のペルソナなんだろ? だったら大丈夫だろ」

 

皆が警戒している中、タナトスを只のペルソナとしか感じていない陽介が総司達より一歩前に出た瞬間。

洸夜の隣でクマの影の腕を掴んでいたタナトスが、陽介に顔を向け、陽介とタナトスが互いに目が合ったその時。

 

「ッ!? うっ! ガハッ! ゲホッ! う、オエぇぇ……ッ!!」

 

タナトスと陽介が目が合った瞬間、陽介はまるでタナトスに心臓を直接握られた様な感覚に襲われた。

そして、その感覚に耐え切れ無く成った陽介は嘔吐しかけながら、膝を着いてしまった。

 

「陽介ッ!?」

 

「花村君!? どうしたのッ!」

 

「花村先輩ッ!」

 

陽介が突如膝を着いた為、総司達は陽介の下に駆け寄った。

だが、その瞬間、陽介を見ていたタナトスが今度は総司達を捉えた。

そして、タナトスと目が合った総司達も陽介と同じ様な感覚に襲われる。

 

「うっ! ゲホッ!ゲホゲホッ!!」

 

「オエッ! き、気持ち悪い……」

 

「み、皆……! 一体何が……!?」

 

総司が陽介同様に膝を着いた光景を見て、そこまで喋った時だった。

総司はタナトスと目が合い、タナトスの顔である鉄仮面がまるで笑っている様に見えた。

そう思った瞬間。

 

「ウグッ! カハッ!ゲホッ!ゲホッ!ゴホッ!……うっ!」

 

総司は口を抑えながら膝を着いた。

そして、次々と頭に流れる絶望、孤独、悲しみ、怒り、憎しみ。

それ以外にも沢山の感情が総司達へ流れ、総司は思わず頭を抑えた。

 

「ゴホッ!(何だ、この感覚は……? 手足の先まで感じる気持ちの悪い寒気永遠に続く様な孤独と絶望感……これが……“死”なのか……?)」

 

総司がそう思いっていた時だった。

 

「ッ!? 止めろタナトスッ! アイツ等は敵じゃないッ!!」

 

洸夜が総司達の異変に気付き、タナトスを急いで静止させた。

その洸夜の言葉にタナトスは総司達から顔を逸らした。

またそれと同時に、総司達は先程の苦しみから解放され、まだ樽さが残る体をゆっくりと上げた。

 

「い、今のは……?」

 

「な、何だったんだよ……!? 今のはよ……!」

 

陽介達が先程の異常に混乱する中、洸夜は総司達目掛けて叫んだ。

 

「お前等ッ! 余りタナトスに近付くなッ! 生半可な気持ちで近付くと、最悪死ぬかもしれないぞッ!」

 

「し、死ぬ!?」

 

「何でそんな危険なペルソナをだすんだよ!?」

 

「(コイツは……タナトスは危険な訳ではない……! ただ、扱いが複雑なんだ……)」

 

そう思いながらも、洸夜が総司達に必死で言うのには訳が有る。

実は、タナトスは洸夜自身が誕生させたペルソナではない。

二年前の戦いの後、学園都市から去った洸夜は家に戻った後に何気なくそれなりに埋まったペルソナ白書を見てみると、誕生させた覚えがない名前がありそれがタナトスだった。

そして洸夜は、タナトスが気になり人気のない場所でタナトスを召喚した。

だが、タナトスは暴走し洸夜に牙を向いた。

 

……その後、洸夜はタナトスをボロボロになりながらも何とか屈服させたが、洸夜自身にはタナトスに付いて心当たりがあった。

それは、二年前にメンバーの中で自分と同じワイルドの能力を持ち、そしてタナトスを使っていたペルソナ使い……。

『彼』が何か関係していると思い、結果的に洸夜はこのタナトスを学園都市と仲間達から逃げた事への罪と判断し、洸夜はそれ以来タナトスを連れている。

しかし、それでもタナトスが洸夜の持つペルソナの中で一番の問題児には変わらない。

 

「……クッ!(だが、早速やんちゃしやがって……それに、見た所タナトスには弱体化の影響が見当たら無い……が、今の状態で何処までコイツを扱えるか)」

 

弱体化した自分で、タナトスを何処まで扱えるのか内心で不安に成る洸夜。

だが、迷い有る心ではタナトスじゃなくてもペルソナは答えてくれないと割り切り、今だけは迷いを振り払ってクマの影を睨む。

 

『強いチカラだ……だが、真実と定めは変わらない! 愚者のーー』

 

タナトスの力に警戒するシャドウは、タナトスが行動を起こす前に、先に攻撃を仕掛ける。

だが……。

 

『ーーー!』

 

ビシャッ!

 

何かが飛び散る音が何処からともなく聞こえたと、総司達とシャドウが認識した瞬間。

シャドウの“切り刻まれた”腕から血液の様に大量の闇が溢れ出した。

そして、その隣では自分の武器である刀をシャドウの腕に刺していたタナトス。

……そう、先に動いたのはシャドウでは無く、タナトスの方だった。

自分の腕が斬られた事を認識したシャドウは、痛みにより咆哮を上げた。

 

『グオォォォォッ! 有り得ん! 何故だ、キサマ等は真実を求めながらも何故真実を拒むッ!?』

 

「さっきも言ったろ? 真実は自分達で探すとな。それに、タナトスにとっての真実は“死”だぞ?」

 

『グッ……! ニンゲン……!』

 

洸夜の言葉が逆鱗に触れたらしく、シャドウはタナトスよりも先に洸夜を直接倒す為に爪を伸ばした。

だが、それに対して洸夜は身体を流れに任せる様に動き、攻撃を軽やかにかわすと同時に刀でクマの影の腕を斬る。

その結果、クマの影の腕には長い斬り傷が刻まれる事と成った。

 

「どっかのプロテイン馬鹿の拳に比べれば、何百倍も遅い……!」

 

『ククッ! 掛かったな! マハブフーーッ!?』

 

洸夜との距離が近い今の状態でマハブフーラを放とうとするクマの影。

だが、それよりも先にタナトスがクマの影の顔を掴むと、咆哮を上げながら頭突きを食らわす。

 

『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!!』

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

タナトスは辺りに何度も鈍い音を響かせながら、自分よりも遥かに巨大なクマの影に何度も何度も頭突きを繰り返す。

その容赦の無い姿はまさに『死』を司る者。

少なくとも総司は耐えているが、タナトスの戦いを見てる陽介達はその姿に少なからず恐怖している。

だが、タナトスに恐怖しているのは陽介達だけでは無い。

クマの影自身もタナトスに恐怖していた。

本当に顔なのかどうかも怪しいタナトスの鉄仮面。

それが攻撃している間、タナトスのその鉄仮面が笑っている様に見えて成らない……。

 

『調子に乗るな! キサマ等がどれだけ強いとは言え、真実は変えられんッ!』

 

洸夜とタナトスにそう叫んだクマの影は大きく口を開けた。

そして、その口からタナトスに飛び掛かる大量のシャドウ。

タナトスは、シャドウ達に攻撃されながら洸夜の隣へと戻る。

 

「タナトスッ!」

 

『ヴオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!』

 

洸夜の言葉に咆哮で答えるタナトス。

だが、クマの影から出現した大量のシャドウはそのまま洸夜とタナトスを取り囲んだ。

 

『ククク、我等シャドウを甘く見ない事だな』

 

その数に、総司達も思わず戦闘体勢にはいる。

 

「くっ! 皆構えるんだ!」

 

「ちっ! どんだけ吸収したんだ!」

 

しかし戦闘態勢に入った総司達だが、シャドウ達は洸夜とタナトスの方にしか威嚇せず総司達の方へは行かない。

シャドウ達にとっても瀬多洸夜と言うペルソナ使いは、それだけ危険な存在だと判断している様だ。

 

「馬鹿な奴だ……折角吸収したのに全てを吐き出すとは」

 

大量のシャドウに囲まれているのにも拘わらず、至って冷静な洸夜。

何しろ洸夜は、二年前にもっと強力なシャドウと戦っている為、弱体化しているとは言えそう簡単に怖じけづきはしない。

そして、洸夜は暫くシャドウ達の様子を眺め。

かなりの数のシャドウが周りに集まった瞬間、洸夜はタナトスに指示を出す。

 

「(これ以上は時間は掛けられないな……)タナトス!」

 

『デビルスマイル!』

 

洸夜が指示を聞き、タナトスはまるで顔を歪ませる様に顔を変化させると黒い影の様なモノが放たれた。

そして、放たれた黒い影を浴びた周りのシャドウ達の動きが突然止まり、そしてシャドウ達は一斉に震え出した。

まるで、恐怖に支配されたかの様に……。

 

『な、何だコレは!?』

 

シャドウ達の様子を見て、クマの影はシャドウ達に指示を出すが、シャドウ達は動かない。

いや、動けない……。

 

『カ……カカカ……』

 

『シャ……シャシャ』

 

「おい、シャドウ達が動かないぜ!」

 

「何だろう? まるで何かに怯えてるみたい」

 

シャドウ達の様子の急変に総司でさえ理解に苦しむが、それを見た洸夜が技の説明をする。

 

「“デビルスマイル”は広範囲に影響する技だ。敵を恐怖状態にする事が出来、シャドウ達全員が恐怖で動けないんだよ」

 

『ッ!? あり得ん……!』

 

クマの影が声を上げ、辺りに怒号が響く。

すると、シャドウの怒号が気に食わなかったのか、タナトスが洸夜の指示なく動き始める。

 

「……全く、このじゃじゃ馬め。まだ、暴れ足りない様だな」

 

タナトスの行動に対し、それ程驚いた様子を見せない洸夜はただ静かにタナトスを見守る。

 

『ヴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

『『『!?』』』

 

突如、タナトスが咆哮した矢先に、周りにいた大量のシャドウ達が一斉に震え上がり消滅した。

その光景に驚いたの総司達だ。

 

「なっ!? あれだけの数のシャドウが一瞬で……!」

 

「あの黒いの何しやがったんだ……!」

 

「……」

 

タナトスが何をしたか知っている洸夜は黙ってその様子を見ていた。

 

「(恐怖状態のモノを一瞬で死へと誘う特殊技。間違いない……『亡者の嘆き』だ)」

 

タナトスの好きにさせていた洸夜だが、そろそろこの戦いを終わらせようとクマの影を睨む。

そして、もう何度目か分からないぐらい睨まれたクマの影は腕を上げ、そして腕に力が集中する。

 

『ウルトラチャージ!!……コレでキサマは死ぬ!この真実だけは変わらんのだ!』

 

その言葉に洸夜は、刀をゆっくりとそして静かに構え直しクマの影を睨みつける。

 

「真実……真実……もう聞き飽きた! 終わりにするぞ、俺達が勝って終わりだッ! タナトスッ!!」

 

『ヴオオオォォォッ!!』

 

洸夜の呼び声に答える様にタナトスは、自身の刀を洸夜と同じ姿で構えた。

そして、タナトスの刀が青白い光に包まれ、互いの力の凄さが肌に直接知らされた。

 

「す、凄い……!」

 

「これが……本当に兄さんの力なのか……!?」

 

この戦いの光景に驚く者、己の無力に嘆く者がいるが、ただ言える事は誰もこの戦いから目を離さないという事だけ。

 

……そして、攻撃は放たれた。

 

『魔手ニヒル!!!』

 

『五月雨斬り!!!』

 

ドォォォォォォン!!!

 

「「「「「「うわっ!/きゃあっ!」」」」」」

 

轟音が部屋を包み、今居る部屋は既に最初の原形を留めておらず。

タナトスとクマの影の互いの攻撃の余波に、総司達はその場で吹き飛ばされない様に踏ん張った。

 

「どうなったんだ……!」

 

「センセイのお兄さんは大丈夫クマ!?」

 

「洸夜さん……」

 

「兄さん……!」

 

互いの技が激しく、辺りを包み込んでいた煙りが欝すらと晴れて来た。

そして、煙りが晴れたそこには……。

 

 

 

チンッ!

 

 

『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

刀を収めてタナトスを見守る洸夜。

そして、ボロボロになり平伏している様に倒れているクマの影を踏み、高らかに吠えているタナトスの姿だった。

そして、この咆哮は勝利の咆哮なのか、又はクマの影へ捧げる『死』を奏でる鎮魂歌なのか……。

ただ、部屋にはタナトスの咆哮だけが響き渡っていた……。

End


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