7月6日(水)晴れ
現在、河原
七夕から翌日。
洸夜は現在、近くの川で釣りを楽しんでいた。
流れる川に浮かぶ浮を見ながら、静かに魚が掛かるのを待つのだが、魚は一行に掛からない。
「やれやれ……こうも掛からないと色々自身が無くなるな。俺が此処の魚達の事を知らな過ぎるからか……?」
そう言って竿を上げて見ると既に餌は無く、その光景に苦笑いする洸夜。
「やっぱり何か目的がある時はまず、何かしら知る事から始めるべきだな…………“お前等”もそうは思わないか……総司?」
そう言って洸夜が振り向いた先には、総司を始めとするメンバー+りせの姿があった。
「……兄さん。りせも退院したし、話を聞かせてくれるよね?」
「……ああ、約束だしな。さて、何から聞きたい?」
洸夜の言葉に雪子と千枝が動こうとするが、総司が前に出て二人を止めた。
その姿は、まるで此処は代表して自分が行くと言う現れにも見える。
「兄さんの正体」
「直球だな……だが、遠回しにするよりは良い」
総司の言葉に洸夜は、敢えて振り向かず釣りの方に視界を写していた。
だが、その表情は普通に話す口調とは裏腹に、何処か寂しそうな表情で空を眺めていた。
「俺はお前等よりも、昔に覚醒したペルソナ使いだ……」
「私達よりって……で、でも、洸夜さんがマヨナカテレビに写していた映った時何て一度も……!」
「そんなニュースも番組も無かった筈だ……!」
ペルソナ能力の覚醒方法が、テレビに入れられ自分のシャドウと向かい合う事しか知らない総司達は、洸夜の言葉にマヨナカテレビ等、この町で起きた出来事を中心に考えてしまう。
そんな総司達に視線を向けず、声だけで総司達の様子を把握する洸夜は川に浮かせている浮きを見ながら口を開いた。
「別にそこまで驚く事も無いだろう……それとも、自分達だけが特別とでも思っていたのか?」
「そ、それは……」
洸夜の"自分達だけが特別"という言葉に、陽介を始めとしたメンバーは思わず顔を下げ、総司は兄から目を逸らさない様に洸夜の方を見ていた。
「……あと、俺がペルソナ能力に目覚めたのは昨日今日の話じゃない……もう、五年ぐらいになるな」
洸夜が何気無く言った言葉に、総司達は驚いて目は開いた。
「ご、五年も前に……」
「洸夜さん……いくら何でもそれはねえッスよ。マヨナカテレビの噂なんかもつい最近の事なんスよ」
「つーか、本当は俺たちに本当の事を教えたくないだけなんじゃねの?」
それぞれが、洸夜が覚醒した五年前と言う言葉が信じられず、冗談だと自らに言い聞かせる様に苦笑しながら語る。
自分たちがシャドウやテレビの世界を知ったのはつい最近なのだから、つい最近に成ってこの町に来た洸夜が自分たちの目を欺いて、この町で五年前からシャドウと戦っていたなんて信じられない。
一部のメンバーはそう思っていた……しかし。
「影時間って知ってるかい?」
「えっ……影……時間?」
「また新しい都市伝説?」
洸夜が一切此方の方を向かない為、背中越しに言われた聞き慣れない"影時間"という単語。
その言葉に、何故か聞いた事のない筈なのに総司達は謎の寒気を感じた。
「時計の針が深夜十二時を指すと共に姿を表す世界……そこは、影時間に適性の持つ人間しか認識も出来なければ、行動も出来ない世界。その世界では車は勿論、機械の類いのものは使えない……そして何より、その世界には"あるモノ"と"人間の負の感情"が混ざりあって生まれたモノ達が潜んでいた……」
「あるモノ……? 負の感情……? まさか……その生まれたモノ達って」
洸夜の言葉に真っ先に勘づいたのは総司だった。
聞いた事も無い筈なのに、洸夜の話を聞けば聞く程感じてくる謎のプレッシャー。
まるで、無知な自分に知識を与えるかの様に侵食してくる言葉や寒気。
そして、総司の言葉に洸夜は釣糸を手繰り寄せながら口を開いた。
「お前の思っている通りだ……"俺達"はその存在の事をシャドウと呼んでいた」
「「「「「シャドウッ!?」」」」」
洸夜の言葉に陽介達は驚き、洸夜はそんな様子を黙って聞いていた。
「シャドウって……あのシャドウですか?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」
「こ、洸夜さん! こんな時にふざけないで下さい!」
「りせ……別に俺はふざけてない。ホントにそうとしか言えないんだよ……俺が戦った奴等と、今回の事件のシャドウは習性と言えば良いのか ……」
珍しくどう説明すれば良いか悩む洸夜に総司達も気になり、洸夜が話すのを待つ。
また、洸夜自身もどう説明したものかと悩んではいるが、その目は別の事を考えている様にも見える。
「……簡単にすると、テレビの世界のシャドウは霧が晴れると見境なく襲うと言う特徴がある。だが、俺が戦っていたシャドウにはそんな特徴はなく、問答無用で襲ってくる」
「……なんか、シャドウにも色々いる……って、あれ? よくよく聞いてみるとそれって、昔にもシャドウ関連の事件が有ったってことですか?」
「ッ!? そうか……洸夜さんのペルソナ能力についての話で気付かなかったけど、シャドウと戦ってたって事はそう言う事よね!」
千枝の何気無く気付いた事に、雪子を始めとしたメンバーが何故、早くそれに気付かなかったのかと互いに顔を見合わせる。
洸夜もまた、今更気付いたのかと言わんばかりに溜め息を吐くが、その表情は別に気付いても気付かなくてもどっちでも構わないと言った様にも見える。
「兄さん……聞かせてくれ。五年前にも、ここ以外でもシャドウ関連の事件が有ったの?」
総司の問いに洸夜は、一瞬だけ総司の顔を見ると直ぐに顔を川に戻した。
「……確かにあったよ」
「「「「「ッ!?」」」」」
洸夜の言葉に、総司達は顔を見合わせる。
この様な非現実的な事が他にも有った事が、信じられ無いと言った表情だ。
「な、なあ! その昔に起きた事件の事を聞かせてくれよッ! 今回と同じ、シャドウが関係してんだろ? だから、今回の事件もーー」
「関係ない」
「えっ……?」
陽介が少し興奮気味に洸夜に過去の事を聞こうとしたが、陽介が全てを話す前に洸夜は否定する。
その否定の言葉に思わずりせからも言葉が漏れてしまった。
「過去に起きた事件と、今回の事件は全く持って関係無い」
「えっ!? ちょっとっ!? いきなり全否定!? いくらなんでも、聞いてみないと分から無いんじゃあ……?」
日頃よりもクールな洸夜の言葉に、総司達は少し怖じけづくが千枝が恐る恐る洸夜に再び聞いた。
それに対し洸夜は、釣竿を持って突然立ち上がる。
その突然の事に、洸夜を怒らせたと思った千枝はビクッとするが。
洸夜は釣竿を高らかに振り上げ、一匹の魚が千枝の前に落ちる。
「わ、わわっ!?」
「あれは……“稲羽マス”!? 雨でも無いこの時期には余り釣れない、稲羽特有のマス」
「えっ!? 突然、なんで解説入っちゃったの!?」
釣った魚を解説する総司と、突っ込みを入れる雪子を無視し洸夜は総司達の方を振り向いた。
それに対し、総司達も恐る恐る洸夜の顔を見た瞬間、総司達は驚いた。
洸夜の顔は、先ほどと打って変わり、とても悲しそうな顔をしていたのだ。
そして洸夜は、まるで呟く様に口を開いた。
「関係無い、関係有ってたまるか……! あの事件はもう終わったんだ……!(終わっていなかったら、『アイツ』は一体何の為に命を懸けたか分からなくなる……!)」
そう思いながら、洸夜は腰を下ろした。
そして、まだ困惑している感じの総司達を見る。
「なあ、俺からも二つ程聞いて構わないか?」
「えっ……?」
まさか、洸夜から質問されるとは思っていなかったのか。
総司達は少し、呆気に成った顔をしている。
しかし、洸夜は総司達の言葉を待たずに口を開く。
「お前達にとってペルソナとは何だ?」
「ペルソナとは何だと言われても……もう一人の俺?で、シャドウと戦う為に必要なモノ?」
「ペルソナがいないとシャドウと戦えないし……」
「そうか……」
陽介と千枝の答えを聞き、静かに頷く洸夜。
そして、総司のその様子を見て少し考えるそぶりをしている中、もう一つの質問を問う。
「もう一つ……お前達にとって、この事件とは何だ?」
「この事件……少なくとも私は、放っては置けない事だと思います。もし、犯人が捕まらなかったら亡くなった人達が可哀相だもの……」
「ああ、俺も天城先輩と同じッス。何より犯人の奴を許せね!」
「私はまだ、先輩達に少し聞いただけだから、あんまり分からないけど……コレ以上、私達の様な思いを増やしたく無い」
「そうだぜ! シャドウだろうが、犯人だろうが俺達が責任持って解決する!」
「(成る程な、やっぱりコイツ等は……)」
雪子、完二、りせ、陽介の言葉を聞き、黙る洸夜。
そして、洸夜はもう一度だけ顔を上げた。
「すまない……もう一つだけ良いか?」
少し、暗い感じでそう話す洸夜。
それに対し、先程まで黙っていた総司が前に出る。
「なに、兄さん?」
「いや、対した事じゃないがただ……」
総司のただ短い言葉に、つい口元辺りがわらう洸夜。
そして……。
「お前等は、いつまで“ヒーローごっこ”をするつもりだ?」
総司達全員を睨み、鋭い視線でそう告げた。
END