ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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俺に構わず、先に行け……と言って、本当に行かれたら少し寂しい気がする。


語る者

同日

 

現在、商店街

 

総司達は現在、洸夜と戦う為にジュネスへと向かっていた。

しかし、その足取りは何処か重く、総司や、ペルソナに目覚めて間もないりせは、何とか平常を保っていたが、洸夜の言葉が未だに頭の中から離れない陽介達は表情が暗く、千鳥足とまでは酷くなって無いにしろ、何処か力が入っておらず、ぎこちない状態で歩いていた。

その様子に総司も何とかしようとは思うが、洸夜の言葉は自分達の心に重くのし掛かると同時に、何処か的を得た言葉でもある為、気が聞いた言葉が思いつかない。

しかし、陽介達自信も洸夜の言葉をしっかりと受け止めたからこそ、今も落ち込んでいると思える。

 

「(だからと言って、皆の気もちがこんなんじゃ……まともに兄さんと戦える訳がない)」

 

実の兄の実力がどれ程のものかは、総司は頭では理解しているつもりだ。

自分達が死にかけたクマのシャドウとの戦いで、自分でさえ命の危機を感じたにも関わらず、洸夜はクマのシャドウの力の前一切怯まなかった。

それどころか、ペルソナと共に生身でシャドウとやり合う等の自分達とは違う様な戦い方を見せた。

それだけでも、洸夜が自分達以上にシャドウと戦い慣れており、又、自分達以上のペルソナ使いと言うのが分かる。

 

「(……そう言えば、何だかんだであやふやに成ったけど……兄さんが体験した影時間の事件って何だったんだろう? 兄さんは今回の件と関係無いって言っていたが、やはり気になる)」

 

先程の会話であやふやに成ってしまった、過去に起きたもう一つのシャドウの事件。

関係無いと言い張る洸夜にも訳が有るとは思うが、不思議と総司はその事が気になってしまい、陽介達同様に黙りながら歩き出した。

 

そんな時……。

 

「牛串を2つ」

 

「はい、いつもありがとね」

 

明らかに場違いな会話に思わず顔を上げてみると、そこは商店街の神社の向かい側にある惣菜に関しては、ジュネスより美味しいと評判の惣菜屋。

串焼きやコロッケ等、歩きながら食べられる為に部活帰りの学生や近所の主婦がよく利用している場所でもあり、総司達もよく利用している。

そんな惣菜屋で、会話の聞こえる方に視線を向けた総司達が見たのは、お店のオバサンから牛串を受けとる明らかに此処等辺では浮いているで有ろう、青くまるでエレベーターガールを連想するような銀髪の女性の姿だった。

しかし、りせはともかくとして、総司達はその女性に見覚えがあり、それに気付いた女性も牛串を一本口に加えながら総司達の方を向いた。

 

「おや……これは総司様、この様な所でキクラゲでございますね」

 

「君は……エリザベス……だけど、何でキクラゲ?」

 

何故、キクラゲがこのタイミングで出るのか理解出来なかった総司達。

その様子にエリザベスは、自分が間違えたと思い訂正する。

 

「気球……?」

 

「え……?」

 

「土偶……?」

 

「もしかして、奇遇の事ですか?」

 

「まさに、それでございます」

 

りせの言葉に頷くエリザベス。

しかし、一見真面目そうな感じなのに何処か抜けているエリザベスの総司達からの評価は、見た目は良いのに何か残念という結果に成ってしまった。

そんな感じで、エリザベスのペースに呑まれてしまった総司達だが、総司はふと、ある事に気付く。

エリザベスは以前、洸夜と食事をしていた。

その時は道を聞いただけと言っていたが、洸夜がペルソナ使いと成れば話は変わる。

ベルベットルームの住人であるエリザベス、恐らくは兄である洸夜から口止めでもされいたとも考えられる。

そう思った総司は、陽介達がエリザベスのペースに未だに呑まれている中で一人エリザベスに近付いた。

 

「……エリザベス、今さっき兄さんと話して来たよ」

 

「そうですか……それで、何が言いたいのですか?」

 

総司のそれだけの言葉で、エリザベスは何かを察したらしく牛串を食べていた口を止めた。

 

「言いたいんじゃない、聞きたいんだ。兄さんが関わっていた五年前の事件について」

 

洸夜がペルソナに目覚めたのが五年前と聞いていた総司は、無意識の内に五年前と言っていた。

また、エリザベスも総司の言葉を聞き、洸夜が完全に自分の事を総司達に証したのだと理解した。

だが、総司の言葉を聞く限り、二年前に解決したあの事件の事は曖昧にしか教えていないとも分かった。

 

「(……そこまで教えたにも関わらず、あの事件の事は教えなかったのですね。まあ、そう言う私もあの事件が原因で旅をしていますし、そんなに文句は言えません)……少し、歩きましょう」

 

洸夜の気持ちも分かる為、エリザベスは洸夜が二年前の事件を教えなかった事には文句は無かった。

しかし、偶然とは言え、何故このような面倒な役目が自分に回って来たのかと溜め息を吐くエリザベスは、総司達にそう言って背を向けて歩き出した。

その様子に総司達は、一瞬頭がついて行かなかったが、直ぐに頭を切り替えてエリザベスの後をついて行く。

 

「それで、洸夜様からはどの辺りまでお聞きに成られたのでございますか?」

 

「兄さんからは、前にもシャドウの事件が有った事、そして今回の事件とその事件は関係無いって事ぐらいしか……」

 

「(本当に殆ど教えていないのですね……)ハア……」

 

全くと言って言い程、あの事件について洸夜が語っていなかった事に更に溜め息を吐くエリザベス。

エリザベス自身も、そんなに言う程あの事件に詳しい訳では無い。

だが、『彼』や、洸夜についてに関しては本人達に聞いて知っている為、その点に関しては問題無いとは言える。

 

「……一度しか言いませんので、自力で覚えるかメモを取るか、このどちらかの方法をオススメ致します」

 

「えッ!メモッ!?」

 

「っちょ! 誰かメモ無いッ!?」

 

「里中! お前覚えとけ!」

 

「ええッ!私ッ!? 無理無理ッ! そんなに記憶力良いなら赤何てとらないよ!」

 

「それでは、いきますよ」

 

「ええッ!」

 

「ちょっとタイムッ!」

 

いきなりの事に慌てふためく総司達

商店街の真ん中で、中々シュールな光景である。

その周りでは、近所の買い物中のオバサン達が

 

「なにしているのかしら……」

 

「テストが近いから、ストレス溜まっているのね……」

 

「この所、暑い日が続いたからね……」

 

等と、事情が分からないとは言え、最早同情に近い視線で見ていた。

それにも気付かずに、総司達や慌てている光景をみながらエリザベスは口を開く。

 

「その事件は、二年程前一人のペルソナ使いが、己の命と引き換えに終結させました」

 

「まだ……………えッ?」

 

エリザベスの言葉に、待ったを掛けようとした総司。

しかし、エリザベスの短く、そして、決して聞き捨てられない言葉に総司と陽介達は静かになり、訳が分からないと言った表情でエリザベスの方を向いた。

 

「言葉通りの意味で御座います」

 

エリザベスはまるで、総司達の心を読んだかの様にそう答えた。

その言葉に総司達は我に帰り、総司が口を開いた。

 

「命と引き換え……つまり、その人は亡くなったんですか?」

 

「亡くなった……そう、捉える事も出来ますね」

 

総司の問いに、何処か違和感のある釈然としない言葉で返すエリザベス。

『彼』の今の状況を見れば、本当にそう言うしかない。

だが、総司達がそんな事知る筈は無く、総司はその言葉に何かエリザベスが抱える悲しみの片鱗を感じた気がした。

そんな総司とエリザベスの様子を知ってか知らずか、陽介は慌てた様に前に出る。

 

「ちょッ!ちょっと待ってくれよ! 死んだって……その人はペルソナ使いだったんだよな!? なのに何で!」

 

今回の事件で亡くなって要るのは、ペルソナ能力等特別な力を持っていなかった山野アナと、小西早紀の二人。

他のメンバーもテレビの世界で死にかけたが、総司達ペルソナ使いがいたからこそ九死に一生を得ている。

そして、シャドウ関連の事件と言う言葉に、どうしても今回の事件と重ねてしまう陽介は、クマのシャドウの時は死にかけたが、今まではそれでもペルソナの力が有ったから誰かを助けられると同時に、何処かペルソナを持っている自分達は安全だとも思っていた。

そんな時に聞いたエリザベス言葉に、陽介は聞かずには入られなかった。

 

「ペルソナ使いだからこそ……いえ、ペルソナ能力が無くても『彼』は同じ選択をしたでしょう。それに、その事件で洸夜様が参加していた期間で亡くなった人は『彼』を除けば、更に御二人亡くなられております。更に言わせて頂きますと、その内の一人もペルソナ使いで御座いました」

 

「!……」

 

「ペルソナ使いが二人も……!」

 

「……三人も亡くなって、その内二人は私達と同じペルソナ使い……だから洸夜さんは、私達にあんなに厳しい事を言ってくれてたんだね」

 

雪子の言葉に、陽介達は先程まで洸夜に対して何も知らない癖にと、思っていた自分達が恥ずかしく感じた。

洸夜は知らないどころか、色んな意味で自分達より知っていたと言う事実に、陽介達は再び顔を下げた。

そんなメンバーの横で総司は、少しだけ気になった事が有り、再びエリザベスを見た。

 

「エリザベス……その亡くなった人達は、兄さんにとってどんな人達だった?」

 

「……先程話した御二人の内、一人は洸夜様のご友人のお父様。もう一人は、洸夜様の親友で御座います……そして、最後の『彼』は……」

 

「……?」

 

そこまで言ってエリザベスは、ゆっくりと空を見上げた。

 

「私や洸夜様……そして、色々な方々にとって、かけがえの無い方で御座いました」

 

「……」

 

エリザベスの何処か切なげな表情を見て、総司はその人物がエリザベスと洸夜にとって本当に大切な人なのだと分かった。

そして、それと同時に、会った事の無いその人物の人柄が分かった様な気もした。

また、総司はエリザベスの話を聞き、何かが分かった様に顔を上げた。

 

「(二年前……兄さんが卒業して、家に帰って来た時と重なる。友達のお父さん、そして、二人の親友の死……それだけの事が有ったのに、兄さんは再びペルソナの力を手にとった。そして、見守っててくれたんだ……誰かを守る為、俺達の為に……)」

 

自分でも何処か自惚れていると思い、自分で思った事とは言え、確かに感じる兄の優しさに軽く微笑む総司。

それと同時に、それだけの事が有りながら、再びペルソナ使いとして戦う決意をした兄の強さを総司は確かに感じた。

総司がそんな風に感じていると、りせがエリザベスの前に出た。

 

「でも、解決したのは二年前でも、洸夜さんは五年前から参加してたんですよね? さっき聞いた影時間の話が本当だったとしても、一体どうやって事件を追ってたんですか? そんな大事そうな事件は、ニュースでもやって無かったし」

 

りせの言葉に、うんうんと頷く総司達。

しかし、エリザベスはそれに対して、すぐに返答する。

 

「強力な後ろ楯がいた……それだけで御座います」

 

「う、後ろ楯……」

 

「(何か、カッコいい……)」

 

「それだけ大事な事件に挑むのです。万が一の時や、世間的に危ういものが有っても大丈夫な様に……それもあって、洸夜様は貴方様方にそこまで言うのです。何の後ろ楯もない貴方様方に、万が一の事が起こらない様に」

 

「兄さん……」

 

「洸夜さん……」

 

本人からではないが、洸夜が自分達の事を本当に心配してくれていた事に嬉しく感じた総司達。

どんな人間も、本当にどうでも良い相手に助言をする、ましてや、叱ったりなどしない。

そう思い、総司達が顔を上げた。

すると……。

 

「あれ……エリザベス?」

 

「さっきの人、何処言ったんだ?」

 

総司が顔を上げた先には、先程までいたエリザベスの姿が無かった。

その様子に困惑する陽介達だが、総司はそんなメンバーの方を向いた。

 

「行こう皆、ここまでしてくれていた兄さんに認めて貰う。それが俺達の今やる事だ!」

 

「……そうだな」

 

「だよね」

 

「落ち込んでる暇何てないよ」

 

「そうッスね」

 

互いに頷きあい、その表情にはすでに先程の様な暗い表情は無かった。

それどころか、逆に洸夜との戦いが楽しみと思うかの様に、皆目が燃えていた。

そんな時、りせが恐る恐る前に出る。

 

「あの……一つ聞きたいんですけど?」

 

「あん? なんかあったか?」

 

「いや……先輩達も普通にしてたし、余り気にしなかったんですけど……さっきの女の人、一体誰なんですか? ペルソナやシャドウについても詳しかったし……」

 

りせの最もな発言に、陽介達は我に還った様に考え込み、事情を知っている総司は冷や汗をかきはじめる。

はっきり言って、ベルベットルームについては総司にも説明は難しく、何て言ったら良い分からない。

そんな総司の気持ちを知ってか知らずか、陽介達は口を開く。

 

「確かに……今思えば、さっきの人って誰なんだ?」

 

「洸夜さんと食事してたから、何かの関係者?」

 

「つーか、先輩に聞けば良いんじゃないんスか? 名前知ってたし」

 

完二の言葉に一斉に総司の方を向く陽介達。

その事態に、総司は思わず後退りしてしまう。

 

「瀬多くん、さっきの人って誰?」

 

「先輩、名前知ってたし、知らない人は通りませんよ」

 

「……」

 

徐々に逃げ道を防がれる、総司包囲網。

そして、観念したかの様に総司は口を開いた。

 

「実は……」

 

「「「「「実は?」」」」」

 

「む、昔……家の隣に住んでいたお姉さん……?」

 

「「「「「……」」」」」

 

後に、総司はこう語る。

あの時ほど、皆の表情が冷めたのはあれっきりだったと……。

 

そして、そこから少し離れた木の上で、残りの牛串を食べながら総司を見ていた。

その表情は、何処か懐かしい者を見る様にも見える。

 

「ふふふ……短い期間で、もうあんなにも絆を築き上げて……雰囲気は『彼』に、他者への影響は洸夜様に似ていらっしゃいます。言い訳のセンスは、独特でございますが……』

 

そんな感じで、ジュネスへ向かう総司の事を苦笑いしながらも、エリザベスは優しい表情で見ていた。

 

End


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