同日
現在、テレビの世界
総司達との戦いまで、後30分ぐらいにまで成っていた。
洸夜は、一足先にテレビの世界に入り、戦いの為に集中力を高める。
そして、その弱体化しているとは言え、洸夜から感じる強い力に周囲のシャドウはその広場を避けるかの様に居なくなって行く。
「……もう少しだな(さて、一体何人がまともな状態で来るのか)」
自分の感覚で感じる、凡その時間感覚で総司達を待つ洸夜は、先程の言葉で何人が心折れずに来るか考えていた。
人と言うのは、どれだけ強がったとしても、自分の心を少しでも見抜かれたり、指摘されると意外にも簡単に脆くなり、最悪心が折れる。
心は自分だけの物。
故に、本来ならば他者から侵されない安全地帯にいる為、少しでも侵されると呆気ない物。
しかし、そう思いながらも洸夜は少し悩んでもいた。
それは、先程の総司達に対する自分の態度。
「(俺は、何故あんな言い方を……)」
自分が恨まれ役になって、総司達がちゃんとペルソナ使いに必要なモノを気付いてくれるなら、それで良い。
そう思っていた洸夜自身だったが最初、総司達に自分の知っている事件の内容を聞かれれば答えるつもりでもいた。
また、総司達に力の覚悟や自覚についても、全く厳しく無いとは言わないが、出来るだけ柔らかく伝えるつもりでもいた。
……しかし、総司達と話して行くにつれて、洸夜の中に黒い感情が出て来た。
洸夜は過去に、自分達が戦ったストレガや、共に戦った『彼』、真次郎、桐条武治。
そう言った、ペルソナやシャドウによって人生を狂わされ、命を落とした者達を知っている。
だからこそ、事件解決を目的にしているとは言え、軽い気持ちでペルソナを使っているのが許せなかった。
しかし、だからといって洸夜は、今思えば自分は大人気ない事をしたと思っていた。
「にしても、何故俺は……? まるで、俺の中から別の何かが……(いや、何を言っているんだ俺は……理由は無い。ただ、俺が感情に身を任せただけだ)」
洸夜は理由をつけて、総司達に言った事を軽いモノだと思わせる様な自分自身の発言に嫌悪した。
だが、そんな時、洸夜の目の前にカサカサと震えているなにかが目に入る
「あれは……? おい、君は一体何をしているんだ?」
「ヌオッ!!……ってなんだ、大センセイクマか……驚かさないで欲しいクマよ!」
そこには、自分のシャドウとの傷が完治し、ぺちゃんこだった身体がいつもの丸い身体に成っているクマがいた。
そしてクマは、洸夜の言葉に驚きながらもゆっくりと立ち上がり、洸夜を見上げた。
「すまんすまん……ところで、大センセイって……?」
「大センセイはセンセイのお兄さん。つまり、センセイより上だから大センセイクマ!」
「……あ、ああ、そうかい」
クマの単純な理由につい苦笑いする洸夜。
余りに単純な理由で危うく刀を落としそうになる。
「ところで、君は一体何に脅えていたんだ?」
洸夜の言葉にクマは、辺りをキョロキョロと見渡し、周りに誰もいない事を確認すると洸夜に近付いた。
「いやね、大センセイ。ついさっき、クマはとても強い力のシャドウの気配を感じたクマよ……」
「強いシャドウ……? だが、今日は霧があるからシャドウは凶暴では無い筈だろ?」
洸夜の言う通り、今日はテレビの世界に霧がある。
その為、シャドウは言う程凶暴では無い。
……天敵であるペルソナ使いには問答無用に襲い掛かってくるが、この辺りのシャドウは言う程強くは無い。
その為、今回は洸夜の力で周囲から撤退している。
そんな状況下で、クマが感じた強いシャドウの気配。
そんなシャドウが近くで身を潜めているならば、自分でも気付く筈。
「クマもそう思ったんだけども……そのシャドウの気配はさっき現れたと思ったら、また直ぐに消えたクマ」
「直ぐに消えた……?」
「うん! ついさっき現れて、クマの方に近付いて来たから、クマは直ぐに隠れたクマよ……だけど、気配が直ぐそこで消えたから、怖くて出れなかったクマ……」
「……まさか(……俺じゃないのか? いや、クマが察したのはシャドウの気配だ。俺では無い……)」
クマの言葉に洸夜は、入ってきたタイミング等を計算し、そのシャドウの気配は自分から来ているのでは無いのかと感じた。
しかし、いくらペルソナ使いとは言え自分は人間。
シャドウの気配が人間である自分から出る訳無いと思い、頭の中からその考えを消したその時……。
「アレ……? 大センセイが付けているそのメガネはもしかして……」
「ん? ああ、すまない。コレはこの世界に来た時に拾ったモノなんだが、君のだな」
クマが言っているのは、洸夜が付けている黒いインテリ風な眼鏡。
この眼鏡は洸夜がこの世界で拾った物の為、作った張本人であるクマの言葉に少し気まずく感じた。
だが、クマは洸夜を責める所か相変わらずの、のほほんとした表情で笑っていた
「あ~ 別に構わないクマよ。クマは、大センセイの事嫌いじゃないし、大事に使ってくれるなら別に構わないクマ」
「……そう言ってくれるのは嬉しいが、本当に良いのか?」
「うん! それ以外や、センセイ達にあげたモノ以外に沢山有るし、クマは大丈夫クマ!」
「……そうか、なら大事に使わせて貰うよ」
そう言ってクマに微笑む洸夜。
すると、クマは何を思ったのかもう一つ何かを取り出した。
「それと、これはクマから大センセイにプレゼント!」
「えっ!? いや、だがコレは……」
そう言って取り出した何かを洸夜へと渡すクマ。
しかし、受けとった洸夜はどうすれば良いか分からないと言った感じの表情をしている。
その理由は……。
「コレは……鼻メガネ?」
「その通りッ! 千枝ちゃんも雪子ちゃんそしてあ、の完二まで付けたクマの最高傑作クマッ!!」
「……マジか?(アイツ等、日頃何をやっているんだ?)」
無駄にテンションの高いクマを眺めながら、洸夜は日頃の総司達をイメージしながらクマと会話し、総司達が来るのを待つ事にした。
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その頃……
現在、ジュネス
先程エリザベスに話を聞いた総司達は、まだ時間が有るのを利用して、ジュネスの捜査本部で互いの思いや、心の整理をしていた。
「ねえ……瀬多君。今更だけど、本当にこれから、洸夜さんと闘うんだよね……?」
今から体験する、メンバーにとっての初めてのペルソナ使い同士の戦いに先程意思を固めていた千枝は、迫る時間に少し不安に成ったが、総司はそんな千枝の言葉に力強く頷いた。
「ああ! ここまで来たんだ、恐らくは、これが兄さんに認められる最後のチャンスだ!」
「いや、確かにそうスけど……里中先輩の言う通り大丈夫なんスか?」
「何だ? お前が弱気になるなんて珍しいじゃんかよ」
先程までの勢いが無く、珍しく完二が弱気になっている事に気付いた陽介が完二に言葉をかける。
その言葉に、完二は煮え切らない感じで頭をかいた。
「別に弱気になってる訳じゃあねえけど……洸夜さんは俺達が束になっても勝てなかったクマのシャドウを圧倒したんスよ? そこら辺の族と違って、力任せで勝てる相手じゃあないって言いたいんスよ」
「族を潰した事があるだけ合って、説得力があるな……」
「でも、確かに完二の言う通りだと思う。あの時ヒミコで見た洸夜さんの力は本物だよ」
完二の言葉に納得する陽介に、飲み物を飲みながら言う、メンバーで唯一の完全サポート係のりせの説得力のある言葉を聞き、雪子が口を開く。
「そう言えば……洸夜さんは私達の事を“見守って来た”って言ってたけど皆、何か心当たりある?」
「なあ相棒、もしかして里中のシャドウとやり合った時に、シャドウの耐性を無くしてくれたりしたのって……」
以前、戦った千枝のシャドウの時にシャドウが作った風耐性を作る『緑の壁』を破壊し、更にシャドウの動きを鈍くした謎の力の事を思い出した陽介は、隣に座っている総司に聞くと総司は静かに頷いた。
「ああ、恐らくは兄さんが手助けしてくれていたんだろう……」
その言葉に千枝が何かを思い出した様に口を開いた。
「もしかして、完二君の居場所を見付ける時にクマ君が感じた強い力も……もしかしてが洸夜さんがやってくれたのかな?」
「あの大浴場の時に何かあったんスか?」
「確かに……何かは有ったな」
あの時はテレビに入れられ、自分のシャドウに振り回されていた完二が自分を探す時の事等知る訳がなく、陽介は苦笑いし、千枝が説明に入る。
「あの時はクマくんの探知能力が弱まって、完二君の居場所が分からなかったの。それでどうしようも無かった時に、クマくんが突然に何か強い力を感じて走って行ったから追ってみたんだよ。そしたら、そこに大浴場が在ったって訳」
「俺の居場所を見付けるのって、そんなに大変だったんスか!?」
千枝の説明に納得した完二は自分の居場所を見付ける大変さに驚く。
誘拐された側は、案外その点には気付かないもの。
そして、その皆の言葉に雪子は洸夜から貰ったハンカチに入っていた紅い鈴を手に持った。
「何だかんだで私達、洸夜さんに助けてもらってたんだね……」
下を向きながら話す雪子の言葉に、皆が黙ってしまう中で千枝が口を開く。
自分達の事を、何処か否定的な感じの洸夜。
だが、実際は裏でこんなにも自分達を助けてくれていた。
そして、ずっと待っていたのだ。
自分達が、自分でペルソナやこの事件の危険性を……。
「私……お兄さんに口で直接言われるまで勘違いしてた……この騒動は殺人事件なのに、ペルソナやシャドウとかに浮かれてさ、まるでリアルなゲーム感覚だったかも知れない……ゴメン、雪子」
洸夜の言う通り、生半可な気持ちで雪子を学校を休む理由にした事に謝罪する千枝。
それに対し、雪子は首を横に振る。
「千枝だけじゃないよ……私だって……」
「それを言うなら俺だって……相棒の兄貴にヒーローごっこって言われた時は頭に血が上って、ふざけるな!って思ったけどさ……その通りだと思ったよ。今思い出してみれば自分のシャドウにも言われてたしな……」
そう言って下を見ながら呟く陽介だが、陽介の言葉はまだ終わって居なかった。
「それに、小西先輩の件だって……本当はあの人を責めるのはお門違いなのによ……それどころか逆に、相棒の兄貴は小西先輩を助けに行ったんだ。あの時、何も出来なかった俺には何も言える訳ねえのによ……」
そう陽介が話し終わり、皆の雰囲気が沈む中で総司が口を開く。
「確かに俺達は間違っていた……でも、事件を解決したい、これ以上悲しみを増やしたくない、そして犯人を絶対に許せない! その思いはウソじゃない……そうだろ?」
「……そうだよな」
「うん! 私達だってここで止まる気はないしね!」
「その気持ちは皆同じだよね!」
「ああ! そのいきだぜ!」
「このままの勢いで、洸夜さんに私達の気持ちを伝えよう!」
「よし!行くぞ!」
「「「「「「おお~!」」」」」」
洸夜の知らないところで、弟たちは確実に成長していた。
END