つまり、すぐに過去。
洸夜と総司、オシリスとイザナギ。
ぶつかり合う両者の戦いに、陽介達は余りの事に、動かない身体を横にしたままの状態で見ていた。
洸夜も総司も、お互いに既に鞘は抜かれている。
かすっただけでも、切り傷が生まれる状態だ。
現に、洸夜と総司の頬や手は、互いの刀で傷付いた切り傷が多数生まれていた。
しかし、お互いに刀を動かす手を止めない。
総司は兄に、覚悟と気持ちを伝える為。
洸夜は、その弟の覚悟と気持ちを受け止める為。
互いの、現在の全力と全力。
お互いに疲労や弱体化の影響等で、既に体力は限界間近。
時折見せる、足が笑っているかの様に揺れ、膝がガクッと地面に付き添うに成るのも、二人は気合いで無理矢理動かす。
身体は既に警告を出しているが、そんなモノに止められる程度の事なら、既に洸夜に全滅させられている。
そんな今までに無い総司の目を見て、洸夜は再び笑みを溢す。
「(順平や、ゆかり達と同じだ……前まで無かった覚悟が目に写っている。その覚悟と仲間達との絆が総司達を此処まで……それに、ワイルドを持つ者の源は他者との繋がり。それが……ここまで総司に力を与えるとは……)」
今回の戦いを経て、総司達自身とワイルドの力の成長を目の当たりにした洸夜。
自分のワイルドとは何処か違う道を歩んでいる様な感じがする総司のワイルド。
この町に来て、まだ半年も経っていない。
そんな中で、これ程の絆を築いた総司に洸夜は、嬉しいと言う気持ちが溢れてくる。
意識していたのなら、素晴らしい。
無意識ならば、先程の評価を含めて上、良い意味で末恐ろしいとしか言えない。
こんな短期間で、これ程の絆を築き上げれる人間等、この世でどれくらいいるだろう。
少なくとも、洸夜の記憶では総司を除き、一人しかいない。
「(『■■■』……まるで、昔のお前を見ている様だ。自分の弟ながら、こんな嬉しい事は無い。もう、俺が手助けしなくても大丈夫そうだ)」
洸夜はもう自分が裏で手助けしなくても良いと感じ、そう思うと笑顔が零れる。
なんだかんだ言っても弟である総司と、その友人である陽介達の成長が嬉しい。
また、最初の時に比べて強い目に成った総司を見た瞬間、洸夜の中にある感情が芽生えた。
「越えてみろッ! 」
「えっ……?」
洸夜の言葉にキョトンとした表情をする総司。
日頃から無表情が多いため良く分からないが、長い付き合いである洸夜だから分かるのだ。
「今だけでも良い……俺を越えたと言う事実を創って見せろ総司ッ! 」
洸夜が感じた感情。
それは兄として、一人のペルソナ使いとして、本気で戦い、そして、自分を越えて貰いたいと言う感情。
弱体化しているため本気で戦うのは無理なのだが、それでも構わないと洸夜は思った。
力の差がどうであれ、越えると言う事実を生めばそれはもう事実なのだから。
そして、洸夜の言葉に総司は静かに頷く。
「「オシリスッ!/イザナギッ!」」
互いの声に応えるかの様にオシリスとイザナギは互いに大剣を振るう。
そして互いの武器がぶつかり合い、二体は再び距離をとると身体から雷が溢れ出した。
『『ジオダイン/ジオンガ』』
「「グッ!/ッ!?」」
互いの雷はぶつかると同時に爆発を起こし、側の柱を壊し、近くにいた洸夜と総司は腕で顔を隠しながら、爆発で生まれた煙りを防ぐ。
……だが、それでもお互いの目からは一切逸らしていない二人。
また、雷が光り輝きながら戦う二人の光景を見て陽介達は絶句していた。
「すげぇ……」
「先輩も洸夜さんも、どっちも凄い……」
「……(返事が無い、ただのクマの様だ)」
「いや、お前はそろそろ目を覚ませよ!?」
今だに気絶しているクマにツッコミを入れる完二。
そんな中、洸夜と総司は互いに更に距離をとり、刀を構えた。
また、それを真似るかの様に二体のペルソナも同じ様に構える。
これが最後の一撃、口には出さないが互いに理解している事。
「……凄いな、まさか此処まで力を持っていたなんて思わなかった(それに、やっぱり似ている! 如何なる時も決して諦めなかった『あいつ』の目に!)」
刀を構える総司と、その隣で大剣を構えるイザナギの雰囲気と目を見て、かつての友を思い出す。
そしてそう思った瞬間、何を合図にしたのかは分からないが洸夜は、オシリスと共に総司から更に距離を取る。
それと同時に、大剣を翳す様に前に出すオシリス。
すると、その大剣は見る見る黒く染め上がり、やがて、大剣全てを黒で染め上げた。
その様子に驚愕する総司。
「何だ……あれは……?」
まるで、全てを飲み込むかの様な黒色の大剣。
そして、大剣が染め上がると同時に、洸夜の額から汗が流れ出る。
それに、洸夜の顔色も何処か青白く、血が通っていないのではと無いかと疑ってしまう。
そんな兄の姿に、総司は驚かない訳が無い。
「兄さん……!? 顔色が……」
「……『アアルへの導き』」
「えッ……?」
洸夜を心配する総司だが、洸夜本人は総司の質問を遮るかの様に、そして、軽く微笑みながら呟いた。
その表情は、何処か満足げにも見える。
「オシリス専用の……もう一つの技。冥界アアルの王である……オシリスならではの技だ(アヌビスも覚えても不思議じゃないが……)敵単体に、万能属性の攻撃を与える……」
「……」
洸夜の切れ切れの言葉に、総司は黙って聞いていた。
そして、兄に感謝した。
恐らく洸夜は、何か理由は分からないが、何か無理をしている様に見える。
現に、洸夜の疲労は総司から見ても異常に見える。
だが、総司はその考えを頭から払った。
「(兄さんは無理をしている……俺達の為に……! なら、俺が出来る事は只一つ……兄さんの想いに答えるッ!)……イザナギ!」
総司の言葉に、イザナギは大剣にジオンガを纏わせる。
「(俺みたいに器用な事を……)」
そのまま技を放つのでは無く、その技をペルソナの持つ武器に留める。
やろうと思って、やれる事では無い。
しかし、洸夜も総司の様に頭からその考えを消した。
弱体化のせいで、もう心身共に限界間近。
只でさえ『アアルへの導き』は、精神力、体力共に使う為、負担が多い技とも言える。
しかし、それ故に威力はお墨付き。
メギドラオンを、一点に集中した様な技。
かつて、この技を受けたのは今までで一人と一体。
今はもういない『彼』と、夜の名を持つ者のみ。
…………そして、何を合図にしたのか、総司と洸夜。
オシリスとイザナギは互いに駆け出し……
「オシリスッ!!」
「イザナギッ!!」
『『アアルへの導き/ジオンガ+スラッシュ』』
互いのペルソナは大剣を振り下ろし、周囲に爆音と光が二人を包む。
そして、気付いた時には互いに正反対の位置に立っていた。
互いの攻撃の時に何が有ったか分からない。
たった一瞬の様な出来事。
そして、互いにそう思った時に降ってくる一本の刀。
それに気付いた総司は、自分の手に刀が無い事に気付く。
隣を見れば、溶けた様に刀身の半分が無くなり、仮面にヒビが入っていたイザナギの姿だった。
崩れ落ちるかの様に消えるイザナギ。
それは、洸夜と総司の戦いの終わりを告げるものだった。
「(負け……た……)」
気が抜けてしまったのか、それとも、自分のペルソナが消えたと同時に敗北したと思ったのか、総司はそのまま倒れて気を失う。
周りを確認すると、先程の衝撃が原因なのか、陽介達も気を失って……いや、眠っていた。
疲れていたのだろう。
しかし、総司が戦って要るのにも関わらず、自分たちは寝ている訳に行かない。
そんな思いの中、陽介達は総司と洸夜の決着が着くまで耐えていたが、総司が倒れると同時に陽介達は眠ってしまった。
だが、その表情は満足げに満ちていた。
そこだけは、幼い子供のものと変わらない。
「倒れたか……」
総司の倒れた音を聞いていた為、洸夜はそう呟いた。
しかし、まだ爆発の煙のせいで、未だに洸夜とオシリスの姿は見えない。
洸夜自身も見えていない。
だが、自分とオシリスの状態は分かる。
そして、最後の攻撃で総司のイザナギの姿を洸夜は見た。
「(最後の……攻撃の時に見たイザナギの姿……あれは……)」
オシリスの黒き大剣は、イザナギの大剣を確実に破壊していた。
溶かす様に、もしかしたら冥界に呑み込むかにも見えたが、確実にイザナギを追い詰めていた。
洸夜も勝利を確信したと同時に、まだ、総司は自分を越えられないとも判断した。
しかし……洸夜は見た。
「(これは……ッ!)」
洸夜が見たのは、白銀に輝くイザナギの姿。
総司は気付いていない。
転生したのかと焦る洸夜だったが、気付いたら現在に至っていた。
さっきのは幻……いや、洸夜はその考えを否定した。
何故なら、洸夜が振り返った目の前には、大剣ごと斬られ、身体が"半分"失ったオシリスの姿だった。
オシリスは、そのまま消え、洸夜の下へ戻る。
そして、洸夜は膝をついた。
「……あれは……総司のワイルドの……可能性か……(イゴール、お前が総司を選んだ理由が……分かった…………俺の……負けだ……な)」
洸夜は、己の敗北を確信した。
総司のワイルドの持つ可能性。
それは、過去に苦しむ洸夜のワイルドを凌駕した。
そして、意識が朦朧する中で洸夜は、自分の召喚したペルソナの確認をする。
意識がある内に、忘れたペルソナがいないか調べなければ成らない。
そんな洸夜は、自分の所持しているモノで一体いない事に気づき、後ろを振り向いた。
「タムリン……(回収……してなかった……か……いや!? まて、確かに俺は戻した!)じゃあ、何で……?」
回収した筈のタムリン。
そんなタムリンを、洸夜は見上げる。
本来なら、優しい表情をしている筈のタムリン。
だが、今は……無表情。
そんなタムリンに、洸夜は近付く。
「タムリン……? 弱体化の影ーーーぐあぁッ!?」
タムリンは突如、気が狂った様に洸夜の首を締め、上へと上げる。
基本的にペルソナは人よりも大きいし、力も強い。
「ア……ガァ……ッ!?」
洸夜は、只でさえボロボロの身体で有りながらも、タムリンを蹴り突ける。
しかし、弱体化の影響が全く無いようにタムリンにはまるで効果が無かった。
それどころか、タムリンの力は益々強くなり、洸夜の首は更に締められる。
「グッ!?(この……状……況……俺は知って…い……る。これは……チドリの時のッ!)」
洸夜がそう思い、首が限界に迫った。
その時。
「ルシファーッ!!」
「グッ!……ゲホッ! エホッ!……オエッ!……ハァ…ハァ……エリ……ザ…ベス」
洸夜の窮地を救ったのは、ペルソナ全書を片手に、ペルソナの中で最強を誇るペルソナ『ルシファー』を従えたエリザベスだった。
ルシファーは、タムリンに手のひらからエネルギー波の様な放ち、洸夜を救う。
「ご無事ですか!?」
いつものクールな様子では無く、珍しく冷静ではないエリザベス。
そして、それと同時だった。
『◆◆◆◆◆◆◆◆ッ!!?
「「ッ!?」」
突如、声なのかどうかも怪しい謎の咆哮を上げるタムリン。
そして、そのまま消えてしまった。
「今のは、まさか……」
「弱体化じゃない……これじゃあ、まるで……ワイルド……いや……ペル……ソ……ナ能力の……」
「洸夜様ッ!?」
そのまま倒れてしまった洸夜に、エリザベスは駆け寄った。
そして、急いでこの世界から総司達と一緒に運ぼうとエリザベスは行動する。
しかし、洸夜もエリザベスも気付いてはいなかった。
洸夜の中から、タムリンの名が消えた事に……。
そして、洸夜の力の異変に……。
End