ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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天下分目の関ヶ原。


外伝 : 鳴らない鈴

同日

 

現在、???

 

青年は夢を見ていた。

楽しい夢か、悲しい夢なのか、本人すら分からない不思議な夢で有ったのは間違い無い。

だが、不思議と言うのも適切な表現では無いのかもしれない。

どちらかと言えば、懐かしいと言う感覚がした。

しかし、その感覚も所詮は夢に過ぎないのだから、自分は泡沫の夢幻の偽りの懐かしさに心が感動し揺らいでいる事も偽りなものと思い、青年は夢の中でも瞳を閉じる。

 

「……!」

 

しかし、青年が瞳を閉じても夢が消える事は無かった。

それどころか、閉じても閉じても同じ夢の繰り返しが続いていく。

夢の又夢。

その連鎖はまるで、青年に目を反らす事を許さないと言っている様に感じる。

そして、その夢で青年の前に立つ一人の青年は、ずっとその青年の事を見つめていた。

 

「…………ッ!」

 

青年は、自分の中から込み上げてくるモヤモヤした様な感覚に思わず、目を反らしてしまった。

だからと言って、青年にとって目の前の青年は初対面では無かった。

それどころか、親友と呼べる程の関係を築く程親しかった。

だが、そんな親友も今では夢でしか会えない。

自分の事を本当の家族の様に心配してきた親友。

邪魔だとか、鬱陶しい、関係無い、親友に対しそんな風に思った事も有った。

自分の命なのだから、自分でどういう風に扱うかは自分の勝手。

そう言って、本気でブチキレたその親友と殴り有った事もある。

何故、自分はあの時に彼に対しそんな事を言ったのか、その頃の自分には分からなかったが。

だが……今なら嫌でも分かる。

無くした後に気付いてしまった。

自分は只、薄汚れた自分とは違うキレイな親友が、自分の事を親友と呼ぶ事に申し訳ないと思っていた事に…….。

自分とそいつは生きる場所が違う。

そう思った時もあった。

そして、青年はもう1つだけ気付いた。

その親友達と馬鹿をやっていた時の自分は、確かに幸せだったんだと……。

 

「……。(今更に成って、なんでこんな夢を……)」

 

最初はなんとも感じ無かった夢。

だが、今更に成って段々と罪悪感や寂しさ等が溢れて来た。

自分は全てを捨てたつもりだった。

しかし、今の自分は確かに悲しんでいる。

無くしてから気付く。

後悔先に立たず。

その言葉が今はとてつもなく憎らしい。

そう思いながらも、青年が目の前の青年の事を見つめていると、その青年は無表情のままで此方に近付き微かに微笑むと、ゆっくりと口を開く。

 

『お客さん……もう終点ですよ?』

 

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現在、電車内

 

「ん……?」

 

場違いの様な発言に青年は、徐々に意識を覚醒させていくと目の前に駅員と思われる男が立っていた。

そして、自分以外誰も乗客のいない車内の状況を見ると同時に、自分が電車に乗っていた事を思い出す。

また、自分が寝過ごして終点まで眠っていた事が、今の状況で嫌でも分かってしまった。

 

「……?」

 

寝起きの為、未だに頭が目を覚まさない事も有るが、余り反応を示さない自分の態度に駅員が困惑している事に気付いた青年は、ポケットから切符を取り出して駅員に差し出す。

そして、切符を受け取った駅員は静かに除き混む。

 

「……あ~お客さんがお降りに成られる筈だった駅は三つ程前の駅ですね」

 

「(面倒な夢だった)……此処は、何て駅だ?」

 

先程の夢の事に内心で愚痴る青年

だが、どうしようも無い只の怒りよりも、青年は現在位置の詳細を調べる事にした。

なんだかんだ言いながらも、現在の居場所を把握しないとどうしようも無い。

 

「此処は"八十稲羽"駅です」

 

「……? 何処だ?」

 

青年の言葉に、駅員は思わず苦笑い漏らした。

 

「ハハ……まあ、此処は何も無い所ですからね。所で、お客さんがいく予定だった駅の方へ向かう電車は、向かい側から三十分後に成りますが……」

 

「三十分か……。(これも何かの縁か……)」

 

そう思った青年は、自分の荷物である小さなカバンと、釣竿の様に長い何かが入っている袋を背負い、ゆっくりと立ち上がった。

 

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現在、稲羽市(駅前)

 

三十分も駅で暇をもて余すのは流石に面倒。

そう思った青年は、ここまでのお金を駅員に支払い、駅から出た。

だが、三十分しか無いためそれほど遠くには行けない。

 

「……。(完全に田舎だ……)」

 

駅から出た青年を出迎えたのは、何も無いが景色や汚れていない気持ちいい風だった。

しかし、今は夏と言うこともあり、ジワジワと日光が容赦無く青年に熱を与える。

只でさえ青年は現在、駅の前で絶賛棒立ち中。

夏場でその行為は、動くよりも体力が奪われて行く。

 

「……。(自販機を探すか……田舎とは言え、駅の周辺に一つぐらい有るだろう)」

 

寝起き+夏の日差し。

この結果から、青年は水分を補充する為に自販機を探す為に辺りを見回す。

すると、青年の思った通り、駅の入り口辺りに自販機は設置されていた。

そして、青年は自販機に近付くとお金を入れ、スポーツドリンクを購入して口に流し込んだ。

寝起きと言うこともあり、冷たいドリンクが頭の目を覚まさせてくれる。

それと同時に、喉をつたり身体に行き渡る水分に、青年はようやく一息つけた。

 

「……ふぅ。(……やっと一息つけたな。にしても、あの夢は……) ……チッ!」

 

先程の夢がまとわりく様に頭から離れず、青年は先程よりも強い感じで舌打ちをした。

何故、今更に成ってこんな夢を見てしまうのか。

只の偶然。

そんな言葉で片付けられたらどんなに気が楽な事か。

虫の知らせと言うものかどうかは分からないが、胸がざわつき、まるで不安を煽る様な感覚が青年を襲う。

何かの予兆か、少なくとも楽しい事では無いとだけ青年は分かった。

また、青年がイラついているのは夢だけが原因ではなかった。

もう一つの原因、それはこの町に有った。

 

「……なんだ? (さっきは気付かなかったが……この不快にさせ、イラつかせる様な雰囲気は?) 」

 

野生の勘に近いものなのか、青年はこの"稲羽の町"から自分をイラつかせる何かを感じ取った。

不快、不安等を掻き立てる様な雰囲気。

まるで、駅から出た瞬間から誰かに見られているように感じる。

 

「嫌な予感がしやがる……。(下手に面倒事に巻き込まれると、"あいつ"がうるせぇからな……とっとと電車に行くか)」

 

下手に事件に巻き込まれたら堪ったものではない。

何より、この町は何処かおかしい。

そう判断した青年は、少しはや歩きで駅へ向かう。

そんな時だった。

 

チリーン……!

 

「?」

 

青年、早歩きで歩いていたら足に何かがぶつかった。

思わずそれを拾い上げると、それはピンク色の独特な模様が入った鈴だった。

だが、青年はその鈴を見た瞬間、目が大きく開いた。

 

「この鈴は……。(まさか……)」

 

青年が鈴に驚いた時だった。

 

「あ……あの……」

 

「?」

 

自分の後方、しかも腰より低い所から声が聞こえた青年は振り返った。

そこには、髪をツインテールにしている少女が青年を見上げていた。

しかし、青年が怖いのか、少女は何処か怯えた様にオドオドしている。

そんな女の子に、青年はまず姿勢を低くして少女と同じ目線に立った。

これは、同じ視線に成れば、多少は少女が怖くなくなると思った青年の優しさでも有った。

また、青年の行動に少女は多少成りとも、先程よりは怯えた表情をしなくなった。

 

「どうした?」

 

青年の言葉に、少女は恐る恐る青年の持つ鈴に指を差した。

 

「それ……奈々子の……さっき、お友達と遊んでた時に落として……お兄ちゃんから……グス……もらったから…………奈々子……探してて……」

 

余程大事な物なのだろう。

奈々子と言う少女は、目に涙を溜めながら話してくれた。

そして、これ以上は余計に不安がらせない為に青年は鈴を掴んだ手を奈々子へと伸ばした。

 

「……分かったから泣くな。ほら、もう無くすんじゃねえぞ」

 

「……うん……ありがとう……!」

 

青年から鈴を受け取り、奈々子の顔に笑みが戻る。

そんな時、奈々子は青年の腰に銅色の鈴がついている事に気付た。

 

「それ……」

 

「ん?……ああ、この鈴か。こいつはもう、音を鳴らさねんだ……その鈴は、大事にしてやれよ」

 

そう言うと青年は、奈々子に背を向けて駅へと歩みだした。

時間も時間で丁度良くも有ったからだ。

 

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現在、電車内

 

青年は椅子に座り、電車が動くのを待っていた。

冷房が効いている電車内は心地良いものでも有ったが、くどいものでも有った

しかし、先程まで真夏の日光を諸に浴びていたのもあり、なんだかんだで丁度良かった。

そして、そう思っていた青年はおもむろに、腰に着けていた鈴を外して自分の視線に入れた。

 

「……鳴らない鈴か」

 

青年はそう呟き、鈴に付いている紐を上下に揺らして音を出そうとするが……。

 

カラン……カコン……。

 

形が悪く成っているからか、それとも鈴の中が壊れているからか、鈴はその綺麗な見た目に似合わない音を出す。

また、そんな様子に青年は、そんな事は最初から分かっていたと言わんばかりに鼻で笑うと眠りに付いた。

そして、青年は再び夢を見る。

今度はどんな夢か、それは青年しか分からない。

そんな青年の手の中で、鈴は静かに握られていた。

 

End


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