ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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今年最後の投稿!……かも!
ちなみに……小説登録数 700突破!
有り難うございます!
来年も宜しくお願いします!




7月7日 (木) 雲

 

現在、商店街(だいだら前)

 

「ここか……?」

 

「うん……ここがいつも俺や陽介達が装備を整えている店だよ」

 

現在、洸夜と総司は武具を取り扱っている店"だいだら"へと来ていた。

この店は、基本的には金属加工の近い商売で生計を立てているらしく、また、只の遊び半分や興味本位の客には売らないという拘りがあるらしい。

だがしかし、総司達は気に入られたらしく、武具の売り買いを認めてくれている。

 

「だけど、良いの兄さん? 本当に一本刀を買ってもらって?」

 

「別に良いさ……丸腰じゃあ、これから先辛いだろ?」

 

今回、洸夜と総司がここに来た理由は前回の戦いで折れた総司の武器の購入が目的だった。

また、洸夜は前々からここに興味が有ったが忙しく時間が取れなかった為、今回の事は丁度良かったとも言える。

何より、時前に総司から聞いていたある事が、この店に対する洸夜の好奇心を刺激した。

 

「……シャドウの一部で武具を造る職人か」

 

「……うん。 倒したシャドウの欠片と言うか部品と言うか……まあ、ここの店主さんはそんなのを買い取って色々と武具を作ってくれるんだ」

 

「なるほどな……。(もし、その話が本当なら、その店主さんは何処でそんな知識を……)」

 

シャドウの一部を加工し武具にする。

それだけでも驚きに値する。

やろうと思ってやれる事では無い事は、洸夜は嫌でも分かる。

そんな風に考え込み兄の姿に、総司は口を開いた。

 

「やっぱり心配?」

 

只でさえシャドウの一部を使うと言う、ある意味で危険と言える行動。

だが、洸夜は総司の言葉に首を横へと振った。

 

「いや、誰彼構わず売る様な奴ならともかく、その店主さんはちゃんと相手を見定めているんだろ? なら、それだけで信用に値するさ。(それに、シャドウの一部を所有すること事態は、俺もやっていたしな)」

 

そう思いながら洸夜は、昔を少し思い出す。

と言っても、エリザベスから頼まれた無茶ぶり近い品物の要求を思い出していた。

 

「……あれは辛かった。(たこ焼きなら楽だったが……まさか、あんな物まで……)」

 

「……兄さん。(兄さんの目が悲しそうだ。きっと、前の事件の事を思い出しているんだろうな)」

 

洸夜のせつない表情に、総司がある意味で惜しい答えを思いながらも、二人は店の中へと入って行った。

 

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現在、だいだら(店内)

 

「これは……! (色々と凄いな……)」

 

店に入った洸夜が見たのは、鎧や刀等を始めとしたあらゆる武具が飾られている店内だった。

その飾られている武具から感じる雰囲気から、ここにある武具が観賞用では無く、実戦でも大いに活躍出来る物だと言う事が分かる。

また、店の奥にも設置されている釜戸等を見る限り、店内に並べられている武具がここで作られていると認識した。

 

「……ふう。(夏の暑さとは違い、店内から感じる熱気もかなりのものだな)」

 

冷房もあるかどうか怪しいこの店内で、洸夜は店内から生まれている熱気にこの店の風格を魅せられているようだった。

そんな時……。

 

「よお、今日はどうした? また珍しい素材の換金か?」

 

レジの方から聞こえた何処か渋い感じの声に、洸夜は視線を声のする方に向けた。

そして、そこには総司と話している、鉢巻きを頭に身に付け、片目に傷がある貫禄に道溢れている風貌の歳がそれなりに年配な男性"だいだら店主"の姿が有った。

 

「いえ、実は使っていた刀が折れてしまって……」

 

店主の雰囲気に馴れているのか、総司は店主の言葉に折れた刀をレジ台の上へと置き、店主がその刀を持って、鋭い視線で折れた刀を見る。

 

「……見事に折ったな。まあ、何が遭ったかは聞かねえが、こいつは俺が打ち直してやる」

 

「え! 良いんですか?」

 

総司の言葉に店主は折れた刀を鞘に戻しながら頷く。

 

「ああ、折れたからって使えなくなる訳じゃねえ。丈夫に打ち直してやれば、また直ぐに使える様になる。お前も新しくするより、使いなれたこっちの方が良いだろ?」

 

「はい!」

 

店主の言葉に総司は頷く。

新しくするよりも、使いなれた今の刀でまた戦えるなら今の方がいい。

そう思う総司にとって、店主からの提案は嬉しいものだった。

また、今回の代金を払ってくれる洸夜の方に総司は振り向き、それに対し洸夜は静かに頷いた。

直るなら直して使いなれた武器のままの方が良い。

洸夜も店主の提案に賛成と言う意味での頷きだった。

 

「分かった。そうと決まれば、早速作業に取り掛かるとするか。出来るだけ早く打ち直しておくが、色々と忙しくて今日中には無理だ。また、明後日以降に来てくれ」

 

「分かりました……それじゃあ兄さん、行こう」

 

「そうだな……。(あれ程、芯のしっかりしている人だ……シャドウの一部に関する取り扱いも大丈夫だろ)」

 

店主の態度や口調、なによりも目等を見て、この人は信用出来ると判断出来た洸夜。

店主から感じる並々ならぬ雰囲気。

恐らく、この道を極めて来たからこそ、絶対的な自信が有るのだろう。

そんな事を思いながら、洸夜が総司と一緒に店を出ようとした時だった。

 

「ああ、そこの兄ちゃん……少し待ってくれねえか?」

 

「?……俺ですか?」

 

帰ろうとした洸夜を店主が呼び止め、洸夜は思わず総司の方を向いた。

それに対し、店主の性格を知っている総司は仕方ないと言った表情で洸夜に苦笑いをし、恐らく話が長く成ると思ったのか、洸夜に申し訳なさそうに両手を合わせて店を出ていく。

 

「見捨てたな……。(まあ、"明日の準備"も有るし仕方ないか)」

 

先に帰る弟の後ろ姿に、何処か心が虚しく感じた洸夜。

しかし、明日の準備もしなければいけないと思うと何処か納得してしまう自分がいた。

そんな事を思いながらも、レジの方で自分が来るのをまだかまだかと言った感じに待つ店主の下へ、洸夜は苦笑いを何とか堪えながら向かった。

 

「俺に何か?」

 

「いや、ただ少し気になってな……兄ちゃん、その背負ってる袋に入ってるのは刀だろ?」

 

「……その通りです」

 

別に隠す理由もない洸夜は、店主の言葉にそう答えた。

元々、この刀も場合によっては磨いでもらおうと思っていたもの。

今回は忙しいと店主が言っていた為、総司の刀の修復が少しでも速く出来る様に今回は止めた。

そんな事を洸夜が思っていると、店主が静かに口を開いた。

 

「いきなりで悪いんだが、その刀……見せてくんねえか? 安心しろ、悪いようにはしねえ」

 

店主の言葉に、洸夜は一瞬だけ戸惑いを見せたが直ぐに表情を戻す。

渡したくない訳ではない。

寧ろ、良く分からないが、洸夜はこの刀を店主に渡した方が良いと言う考えが脳裏を過った。

そして、そう思った洸夜は袋から使い込んできた刀を取り出すと店主に渡した。

また、刀を受け取った店主は、受け取ると同時に手慣れた感じで鞘から抜き、黙りながらその刀身を鋭い視線の隻眼で見回す。

 

「……。(この兄ちゃんが店に入って来た時から感じた、何処か懐かしい感じ。そう言う事だったか……しかし、この刀身を見る限り、この兄ちゃんは本当に刀を大事に使っているな)」

 

そう思う店主は、ゆっくりと洸夜の方を向いた。

また、見られた洸夜は何なのか分からないと言った表情をする。

そんな洸夜に、店主は刀を鞘に戻しながら口を開いた。

 

「……兄ちゃん、この刀……本当に大事に使っているな」

 

「分かるんですか?」

 

「ああ、刀身を見れば大体分かるが……こう言う仕事をしていると分かってくるんだ、刀の声ってのがな……」

 

そう言って刀を優しい目で眺める店主は、ゆっくりと話を続けた。

 

「……コイツは、兄ちゃんの刀である事を喜んでいる。だが、悲しんでもいるな……」

 

「悲しんでもいる?」

 

店主の言葉を、洸夜はおうむ返しに話す。

喜んでいると言ったと思いきや、今度は悲しんでもいる。

一体どういう事か、洸夜は分からなかった。

そんな洸夜に、店主は話を続ける。

 

「兄ちゃん……もしかして、一度コイツの事を手放した事はないか?」

 

「!」

 

店主の言葉に、驚愕した言わんばかりに目を開く洸夜。

 

「何故……分かったんですか?」

 

「言ったろ……刀の声が聞こえるってな。ところで、なんで手放した?」

 

責めた言い方では無いにしろ、店主は洸夜が刀を手放した理由が知りたいと言った感じで洸夜に問う。

それに対し洸夜は、何処か後ろめたそうに顔を下に向けながら口を開いた。

 

「俺には……もう、必要のない力と思ったんです。(何より、こんな無力な俺の刀って思うとコイツに申し訳ない。だから……俺はコイツを寮に置いてきたんだ)」

 

世界を救い、皆との約束を守り抜いた『彼』とは違い、自分は嘗ての仲間から……そして、あの町からも逃げ出した。

この刀の凄さは知っている。

だからこそ、洸夜はこの刀に戦いが終わった後も自分に付き合わすのは悪いと思い、この刀を寮に置いてきた。

 

「……。(だが、それから四日後……俺宛に中身が分からない様にこの刀が送られてきた。何故、アイツは……美鶴は俺にコイツを送って来たんだ……)」

 

何故、置いてきた刀を美鶴が再び自分の下へ届けたのか分からない洸夜。

彼女を始めとしたS.E.E.Sメンバーとは連絡等していなのだから、その真意は洸夜自身も分からないでいた。

「兄ちゃん……コイツは、あんたの事を気に入っている。だから、例えあんたがコイツを何度捨てようとしても、必ずあんたの下へ戻って来るぞ」

 

「……そうですか。(オマエは、こんな俺について来てくれるんだな)」

 

嘘か本当かも分からない言葉だが、少なくとも洸夜にとってはどっちでも良かった。

もう、この刀は洸夜にとってもかけがえのないものなのだから。

そんな時、店主が話を変えるかの様に咳をすると、静かに口を開いた。

 

「ところで兄ちゃん、話は変わるんだが……金とか良いから、コイツの事を磨がせてもらえねえか? 」

 

「?…… どうしたんですかいきなり?」

 

「いや……これと言った理由はねえんだが、無性にコイツを研ぎたくてな」

 

そう言って、先程と同じ様に何処か懐かしそうに刀を見る店主。

そんな店主に、洸夜は不思議な縁を感じ、静かに刀を渡した。

 

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数十分後……。

 

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「凄い……。(自分でも手入れをする時はあるが、ここまで綺麗に成るとは……)」

 

店主によって渡されて研ぎ終わった刀は、先程とは比べられない程に生き生きとして輝いていた。

そう思いながら洸夜は、丁寧に刀を袋へと入れると、それを担いで店主に頭を下げた。

 

「有り難うございます」

 

「いや、気にすんな……俺が好きでやった事だ。気を付けて帰れよ」

 

店主の言葉に洸夜は再び頭を下げ、店を後にした。

そして、洸夜が帰ったのを確認すると、店主は静かに語る様に口を開いた。

 

「……良い貰い手に引き取られたな。(中途半端な状態で"桐条"の連中に持ってかれた時はどうなるかと思ったが……良い奴に拾われたな。だが、今の兄ちゃんは迷いが見える……己の力で身を滅ぼさなければ良いが……)」

 

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現在、ガソリンスタンド

 

「ハア……。(明日か……)」

 

だいだら屋からでた洸夜は、バイクの燃料が減っている事に気付き、ガソリンスタンドへと足を運んでいた。

だが、先程とは打って変わって洸夜の表情は何処か面倒な事が有るような表情をしている。

 

「あれ? どうしたのお兄さん。なんか元気が無いって感じの表情しているね」

 

洸夜は、自分の後方から聞こえてきた声の主の方を向くと、そこには最初にこの町で出会ったやけに肌白いスタンドの店員が立っていた。

あれ以来、近くのスタンドがここにしかないと言った理由で洸夜は此処のスタンドを利用し、この店員とも顔見知りと成っていた。

しかし、余程明日の出来事が嫌なのか、何処か機嫌の悪い洸夜はあしらう感じで返答した。

 

「別に理由は無いさ。それよりも、早く仕事の方をしてくれ……」

 

そう言って洸夜は、まだホースにも手を着けてない店員に催促をした。

それに対し店員も、不味いと言った表情をした。

 

「うわっ! 確かにヤバい!?」

 

そう言って要約仕事に入る店員。

そんな店員の姿に、洸夜は溜め息を溢す。

只でさえ夏の暑さもあり、洸夜は先程よりも深い溜め息を漏らすと雲一つ無い青空を眺めた。

本当に雲一つ無いこの蒼窮。

しかし、それを台無しにするかの様に自己主張の激しい日光。

そんな空の下で、洸夜は静かに言葉を漏らした。

 

「……ハア。(何でこんなに面倒事が続くのだろうか。実際にするのは初めてだし、と言うより今の世の中で実際にしている奴いるのか? )……何でこうなったんだろうか……"お見合い"か」

 

そんな洸夜の呟きは、夏の風と共に消えていった。

 

End

 

 

 

 


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