ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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自覚の無い中二病。
どんな感じなのだろう?


訪問者

同日

 

現在、ホテル(バー)

 

菜々子達との夕食を終えた美鶴と明彦は現在、ホテルに備わっているバーで軽くお酒を飲んでいた。

美鶴も明彦も既に二十歳、更に言えば美鶴は、色々な付き合いでお酒を交わす場面が有る為、今の内に慣れとかなければ成らない。

しかし、今日に限っては違う理由なのは、美鶴達の暗い表情を見れば直ぐに分かる事だった。

 

「……私は駄目だな」

 

「なんだいきなり、お前らしくも無い……」

 

それほどアルコールの入っていないお酒を口にしながら、美鶴は無意識にそう呟いていた。

そして、その隣でお酒の手を休める明彦が意外そうに言うが、らしく無いと思っているのは美鶴も承知の上だ。

 

「私は今日、洸夜に謝罪して自分の思いを伝え様としたが……それは、私のただの自己満足に過ぎなかった。……結局、私は洸夜の気持ちも苦しみも何も理解出来ていない……!」

 

「美鶴……余り自分だけを責めるな。本来ならお前だけじゃなく、俺も洸夜と向かい合わなければ成らなかったんだっ!」

 

「明彦……」

 

今にも割りそうな勢いでグラス握る明彦を見て、美鶴は苦しんでいるのが自分だけじゃないのを知る。

 

「俺は強く成る為に世界中を渡り、武者修業をして来た。……だが、結局強く成ったのは力だけだ……心はまだまだ弱い! 何より、俺は親友だったアイツを裏切ってしまった……!」

 

そう言って歯を食い縛りながらグラスを置く明彦。

その苦痛を浮かび上がらせる表情は同時に、後悔をも抱かせるかの様に見える。

 

「……本当だな、本来なら私達は、洸夜に会う事すら許されなかったのかも知れない。倒れる前、洸夜に言われた……お前等は俺に全ての罪と苦しみを押し付けたと……」

 

「……っ! その通りだな」

 

美鶴と明彦は、そんなお互いの言葉を聞くと同時に、二年前に起きた洸夜との決別する事に成ってしまった時の事を思い出した。

二年たとうが、あの時の自分達が洸夜にぶつけた言葉は一言一句覚えている。

忘れる筈もない。

今この瞬間も、あの時の言葉が頭の中で再生されている。

 

『どうして『彼』を守ってくれなかったんですか!』

 

『誰かを守れない様な綺麗事よりも、俺は誰かを守れるヒーローごっこの方がましっすよ!』

 

『……誰も守れない力。そんなモノに何の意味がある?』

 

『……お前を信じた私達がいけなかったんだ』

 

「「クッ!」」

 

美鶴と明彦は、洸夜との溝を作った原因である、二年前の出来事を思い出していた。

その二年前の出来事の後、美鶴達は自分達の過ちに気付き、 洸夜に謝罪する為に部屋を訪れたのだが、美鶴達が来た時には既に洸夜の部屋は空き部屋と成っていた。

それに驚愕する順平達と、急いで洸夜に電話する美鶴。

しかし、洸夜が電話に出る事はなかった。

そして、今日の日まで会う事も無かったのだ。

 

「……自業自得だが、あの時の事は思いだしたくないな」

 

「だが、それは私達には許されない事だ。……私達が生きてきたこの二年間は、洸夜にとっては地獄の二年間だったのだろう。料亭での洸夜の怒りに満ちた目が、今も頭に焼き付いている……」

 

「なら……せめて、一言謝罪ぐらいは……」

 

黙って何もしないよりは、何かしら行動をしたかったのだろう。

明彦はグラスから手を離し、美鶴へ視線を向け、今にも洸夜の部屋へ向かうと言わんばかりに椅子から立ち上がった。

だが……。

 

「止めとけ……」

 

美鶴は明彦の行動に対し、首を横へと降って返した。

その行動は間違いだと言うことが分かっているから……。

 

「何故だ……? 確かに、今さらムシがいいと思うが……」

 

「私達は誰一人、今の洸夜を知らない……この二年間、アイツがどれ程の苦しみを味わって来たのか私達には分からない。……それにも関わらず、只二年前の事を謝罪しても洸夜を苦しめるだけだ……」

 

「美鶴……お前……」

 

今にも壊れそうな程に悲しそうな表情をする美鶴を見て、明彦は黙って再び椅子に腰をかけた。

この中で一番洸夜へ対して謝罪したい気持ちが一番強いのは他の誰でも無い、美鶴自身だと言う事を明彦は思い出したのだ。

最初の頃は無理ばかりして、愛想笑いすらしなかった美鶴。

幼い時から彼女が背負っているものからすれば、それは当然の事と言える。

だが、そんな美鶴が良く笑っていたのは決まって洸夜の前だった。

勿論、洸夜が入部仕立ての頃は笑う事等無かった。

それどころか、偶然ペルソナが覚醒したとは言え、関係の無い者に一部秘密にしながら巻き込む事に申し訳無さそうな表情が多かった。

しかし、洸夜自身は元々笑わす気が有ったかどうかは分からないが、元々世話好きな性格の洸夜。

顔色の悪い美鶴や食生活が片寄っていた自分に、真次郎と料理対決と称した夕食を作ってくれたりしていた事を明彦は覚えている。

真次郎とは違い、何処か懐かしい様な家庭の味。

それが洸夜の料理の味だった。

そんな風に温かい食事を作ったりしている内に、美鶴の心も溶かしたのだろう。

巻き込んだに等しく、全てを知らないとは言え、事件の一部を秘密にして教えていない様な自分に温かい食事を作ってくれる、寮に帰ったら"おかえり"と言ってくれる。

両親が共働きの為、面倒見が良い洸夜からすれば当然の事なのだが、美鶴にしてはそれがとても嬉しく、心を温かくしてくれたのだ。

そんな日が続いた時だった。

気付けば、美鶴は洸夜と行動する事が増えていた。

明彦達を含め共に勉強したり、洸夜が話す弟の話だったり色々だ。

また、美鶴を気分転換と称して洸夜がゲームセンターに連れて行った時も有った。

美鶴の人柄を知っている明彦や真次郎なら未だしも、美鶴を只の"桐条グループ"の令嬢としてしか見ていない一部の生徒からは、美鶴を平然と誘う洸夜は怖いもの知らず等と思われていた時も有った。

洸夜と美鶴本人は全く気にしていなかったが、明彦からすれば何も知らない連中に友人を変に言って欲しくないのが心情でもあった。

しかし、明彦は今でも覚えている。

洸夜がゲームセンターに美鶴を連れていき、一度だけ二人で写真を撮った事が有ったのだ。

当初は落ち着いていた美鶴だが、翌々考えて見ると同性の友人と一緒は愚か、ゲームセンターすらまともに行った事無いのにも関わらず、異性である洸夜と二人っきりで写真を撮る。

当時の洸夜からすれば、只友人とゲームセンターに行き写真を撮っただけなのだが、美鶴からすれば色々と余計な事を考え、変に意識してしまい、段々と恥ずかしく成ってしまったのだろう。

その撮った写真を洸夜に渡さず、そのまま自分でしまってしまったのだ。

当時の洸夜は、そんな美鶴の行動に笑っていたが、美鶴は洸夜のそんな態度に更に顔を赤くし、そんな珍しい光景に微笑む明彦と真次郎。

何だかんだ言って、あの時等がそれなりに安定していた時期なのかも知れない。

だが……そんな親友を自分達は裏切った。

自分も勿論、後悔しているのだが、そんな事等が有ったからこそ、美鶴がメンバーの中でも一番後悔の念が強いのだ。

 

昔の想い出を思い出しながら、明彦がそう思っていた時だった。

美鶴は徐に懐から何かが包まれているハンカチを取りだし、テーブルへと置いた。

 

「なんだこれは?」

 

「そのハンカチを開いて見れば分かる……それは、私達が洸夜にしてしまった罪だ」

 

「……」

 

明彦はどういう事か良く分からなかったが、美鶴に言われるがままにハンカチを開いた。

すると、中から数粒の薬錠が入っていた。

その薬を見た瞬間、明彦は思わず目を開かせた。

 

「この独特な白色と模様……まさか……!」

 

この薬の正体が分かった明彦は、美鶴にこれがどういう意味なのか聞く為に彼女の方へ首を向けた。

そして、その明彦の視線を受けた美鶴は頷き、肩を僅かに落としながら口を開いた。

 

「そのまさかだ……ペルソナ能力の抑制剤だ。洸夜が持っていて……そして、使用しようとしていた……」

 

「洸夜が……だが、何故洸夜がこの薬を持っているんだ」

 

「恐れくは真次郎からだろう……洸夜は、よく真次郎と接触していたからな」

 

まるで本人に聞いたかの様に語る美鶴。

だが、明彦の疑問が全部消えた訳では無かった。

 

「だが、何故だ……何故、洸夜がこの薬をッ!」

 

「一つしか無いだろう……洸夜は、ペルソナを制御出来なく成っているんだ……」

 

「!………まさか……。(俺達のせいなのか……? 俺は……また親友を……)」

 

美鶴の言葉を全てを鵜呑みにしたくない。

だが、これ以上にシンプルで……そして、筋が通っている理由は無い。

そして、それと同時に頭に過る、自分が救えなかった友の姿。

明彦は、肩を落とす様に目を閉じて歯を食い縛った。

 

「結局……あの事件が終わったと感じていたのは私達だけ……いや、私達がそうあって欲しかっただけだったんだ……」

 

美鶴はそう言って、コップに入っている残り少ないお酒を飲み干すと、明彦も同様に飲み干した。

そんな時だった……。

 

「おいおい……若えのがなに間違った酒の飲み方してんだ?」

 

「あなたは……」

 

「確か、洸夜の叔父の……」

 

「堂島遼太郎だ……まあ、好きに呼んでくれ。……さて、すまないがビールとつまみを適当に頼む」

 

「かしこまりました」

 

堂島はそう言うと、明彦の隣に腰をかけて酒を注文をする。

そして、暫くするとビールとつまみが置かれ、堂島は静かに口を着けるた。

 

「ぷはー……やっと一息着けたってとこだな」

 

朝早くから家を出て、この場所へと向かい、一息つく暇もないままお見合いへと参加した為に疲れていた堂島は、ビールを飲んでようやく体を休ませる事が出来たのだ。

すると、そんな堂島に美鶴は声を掛ける。

 

「あの……あの女の子と洸夜はどうしましたか?」

 

「ああ、心配を掛けてしまったか……菜々子は泣きつかれて部屋で寝ていて、今は総司が見ていてくれている。……そして、洸夜は先程目を覚ましたらしい」

 

先程とは違い、少しラフな感じに返答する堂島は、内ポケットから煙草を取り出して手に取る。

そして、美鶴達に吸っても構わないかと視線を送り、美鶴と明彦は、どうぞと意味を込めて手を堂島の前に出した。

二人の許可が出た事で堂島は煙草を口に加えて火を着け、一息吸うと風向きに気を着けながら美鶴達に煙が行かない様に吐いた。

また、堂島の言葉を聞き、美鶴は洸夜が目を覚ました事で胸を撫で下ろす。

 

「……そうですか。(良かった……)」

 

「……本当に良かった」

 

そんな感じに安心する美鶴達を見て、今度は堂島が口を開いた。

 

「……すまんが、今度はこちらから話を聞いて良いか?」

 

「?……構いません」

突然の堂島からの問。

それに対して別に断る理由もない為、美鶴は堂島の言葉に頷き、明彦は隣で静かに耳を傾けた。

 

「いや、ただな……洸夜との間に何が有ったのか気に成ってな」

 

「「っ!?」」

 

何気無く聞いて来た堂島の言葉に、美鶴達は思わず目を大きく開いた。

本来ならば、あまり他者が気付かない程にリアクションが小さかったが、刑事である堂島からすれば二人の反応は十分過ぎた様だ。

堂島は、そんな二人のリアクションに思わず笑ってしまう。

 

「はは……そんな驚く事でも無いだろう。一応、俺は刑事だからな、君らと洸夜が会った時の顔を見れば何か有ったのか位は分かる」

 

堂島はそう言ってつまみを口にしながらも、美鶴達に顔を向ける。

そして、別に責める様な目で見ている訳でもない堂島からの質問に、明彦が顔を上げた。

 

「俺達は……本来なら、俺達全員が背をわなければ成らなかった罪を……洸夜一人に押し付けてしまったんです」

 

「おいおい……罪って、犯罪じゃねえだろうな?」

 

「い、いえ……法に触れた様な事はしていませんので、ご安心して下さい」

 

法に触れているかどうかは怪しいのだが、美鶴はしっかりと否定した。

刑事である堂島には余計な心配をかけたくは無かった。

洸夜の事ならば尚更だ。

そして、美鶴の言葉に渋々だが納得したのか、堂島はビールを口にし、何かを思い出した様に話始めた。

 

「その事と関係あるかどうかは分からんが……あいつの母親からある事を言われていた」

 

「ある事……?」

 

「何の話ですか?」

 

基本的に洸夜の家族の話は殆どが、弟である総司の話だった。

それ故に、洸夜の母親の話と言われても今一ピンと来なければ、何故、堂島がそんな話を自分達に聞かせようとするのかが分からなかった。

だがしかし、そんな美鶴達の想いとは裏腹に、意外にも真剣な話なのか、堂島はまだ微妙に長い煙草を灰皿にグリグリと潰しながら話し出した。

 

「いやな……あいつ等の両親は今海外に居てな……。それで今、家であいつ等を預かっているんだが、総司はともかくとして、洸夜を預かる理由が少し特殊だったんだ」

 

「と言うと?」

 

「……話によると約二年前、正確に言えば高校卒業をして帰宅した時、洸夜はまるで脱け殻の様だったらしく、何やら不眠症や精神的な面でも苦労していたらしい」

 

「……」

 

堂島の言葉を聞いた美鶴は言葉が出なかった。

明らかにあの出来事が原因なのは美鶴と明彦には直ぐに分かった。

まさか洸夜が、自分達が想像していたよりも酷い状態で生きていたのを知り、明彦は思わず拳をにぎり締めた。

また、今日のお見合いで洸夜が言っていた事を聞いていた美鶴は、明彦程にはショックを顔に出していなかったが、ある意味でその言葉の裏付けとも取れる話を聞いてしまい、その原因が自分達に有ると自覚しているからか、やはりショックは大きかった。

それに、堂島もその話は洸夜の母親から聞いたと言っていた。

つまり、実際はもっと酷かったのかも知れない。

そう思うと、美鶴達は余計に洸夜に対して申し訳無いと言う気持ちが強く成ると同時に、洸夜に会いづらいと言う気持ちが強まった。

そして、堂島は美鶴達の方を敢えて見ずに話を続ける。

 

「そう言う事も有って、洸夜の母親からは休養も兼ねて洸夜も預けたんだ……だがな」

 

「……何か問題でも有ったんですか?」

 

どこか不思議そうな事を思い出した感じに頭を弄る堂島。

その様子に明彦が堂島に何が有ったのかを聞いた。

 

「いや、実はな……精神的に参っていると聞いていたんだが、あいつが家に来た時は全くそんな様子が無かった……それどころか、まるで何かを覚悟している様な目をしていた。あれは、脱け殻の奴の目じゃない」

 

「覚悟の目……? 失礼ですが、お住まいはどちらでしょうか?」

 

堂島から聞いた言葉で、洸夜から感じた覚悟の目と言うのが気になった美鶴。

お見合いの時に洸夜が口走ったペルソナの弱体化。

この二年間、洸夜が本当にペルソナやシャドウと関わっていないならば、ペルソナの弱体化事態気付く訳がない。

しかし、先程の堂島の言葉から、洸夜が今住んでいる場所に何らかが有ると美鶴は判断した。

 

「今住んでいるは"稲羽市"と言うところだ。ニュースでやっているから直ぐに分かると思うが?」

 

「ニュースでやっている……と言うと、あの稲羽市ですか?"連続殺人"の?」

 

「ああ、その稲羽市だ」

 

「連続殺人? 何の事だ?」

「後で話してやる。(……にしても、洸夜が隠している事。そして現在、稲羽の町で起きている殺人事件……偶然にしては重なり過ぎる)」

 

大学に在学してるにも関わらず、海外を渡り歩いて武者修行をしていた為、日本での事件に疎い明彦には後で説明すると言い。

美鶴は稲羽の町に何か有ると踏んだ。

すると、そうな時堂島が顔を上げた。

 

「……前置きが長く成っちまったが、結局洸夜と何が有ったんだ? さっきの話からじゃあ、只喧嘩をした訳じゃあないんだろう?」

 

話を本題に戻した堂島の言葉に、美鶴と明彦は無意識に顔を下げてしまった。

なんだかんだで心身共に成長した二人だが、洸夜の事と成ると話しは別。

やはり、美鶴達も未だに二年前に縛られているのだ。

そして、美鶴達は堂島の言葉に首を横に振る。

 

「……もう、良いんです。我々が関わると、洸夜が苦しむ事に成ります……今日の様に」

 

「……洸夜に今後一切関わらない事が、俺達が出来る唯一の事なんだろう……」

 

美鶴達にとって今日の出来事がきっかけとなり、自分達が近付くと洸夜が傷付くと思ってしまっている。

すると……。

 

「洸夜がそう望んだのか?」

 

「「っ!?」」

 

堂島の言葉に、先程以上の衝撃を感じたと同時に、その衝撃を隠せない美鶴と明彦。

思わず、持っていたグラスをテーブルに落としてしまった。

そして、思わず二人は堂島の方を向くと、堂島は静かに笑っていた。

 

「……この言葉は、総司と洸夜に教えられたものだ」

 

「洸夜と……あの少年が?」

 

「……一時期、俺はある事を理由に娘から目を背けていた時が有った。言わなくても分かってくれる。そう思っていたが……総司と洸夜にそう言われて気付いちまったんだ……それは只、俺が望んだだけの事だってな」

 

「「……」」

 

「……今思えば、それが正しかったんだ。いつまでも現在から怖がっていたが、アイツ等のお陰で俺は菜々子と向き合えた……だからな、洸夜にも、そして洸夜の友人であるお前等にも、俺と同じ思いをして欲しくねえんだ」

 

まるで、何年も前の事を話す様に語る堂島の話。

その言葉に、美鶴と明彦は正に今の自分達そのものでは無いかと思ってしまった。

 

「……お話は気持ちは分かりました。ですが、私達には……」

 

「流石に直ぐにとは言わんさ。……そうだな、何なら洸夜のガキの頃の話でも聞くか?」

 

「洸夜の子供の頃……?」

 

「そう言えば、そんな話は洸夜から聞かなかったな……アイツ、自分の昔の話はしなかったから」

 

堂島の言葉に美鶴と明彦は頷き合った。

美鶴も明彦も、洸夜の昔の事は知らなかった。

洸夜は何故か、自分の昔の事は話さなかった為、美鶴達にとっては有難いものだった。

 

「お願いしても宜しいですか?」

 

「別に構わんさ、只、俺も長くは語れねえがな…………ええと、確かあれは……洸夜が四、五歳の時だったか……総司がまだ、よちよちと危なっかしかった時だな」

 

そう言って、美鶴達と堂島は暫くの間、会話を楽しんだ。

 

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現在、ホテル自室

 

「……胃薬欲しいな」

 

嫌がらせに近い程にチーズが入っていたハンバーグを完食した洸夜だったが、やはり寝起きだったからか胃に響いていた。

胃の中が油の海。

一瞬、そんな事を思う自分に思わず苦笑する洸夜。

そんな時だった。

 

ピンポーン……!。

 

部屋についているチャイムが鳴り響き、洸夜はゆっくりと扉に向かった。

 

「食器の回収か?」

 

ホテルの係員が食器でも下げに来たのかと思った洸夜。

 

ピンポーン……!。

 

そんな事を考えている内にもチャイムは鳴らされ続ける。

 

「はいはい……今開けます 」

 

そう言ってとっとと扉を開ける洸夜。

とっとと食器を渡して、さっさと横に成りたい。

今日は色々と有りすぎた。

それ故に、早く心と体を休ませたいのだ。

そんな事を思いながらも、洸夜が扉を開けたそこには。

 

「はいはい、ご苦労様……って、お前は……!」

 

洸夜の予想とは外れ、そこに居たのはホテルの係員ではなく……。

 

「……何か様か、アイギス」

 

扉の前に居たのは、相変わらず機械的な部分が見えない様に全身を隠している、白い服に身を包んだアイギスの姿だった。

そして、アイギスは洸夜の姿を確認すると軽く頭を下げた。

 

「……お久しぶりです洸夜さん。病み上がりで申し訳ないのですが……少しだけ、お話がしたかったので……お時間有りますか?」

 

END


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