ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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笑うと癌細胞が減るらしい。


終わらぬ契約

同日

 

現在、ベルベットルーム

 

先程の遺体発見から少し経過し、堂島は直ぐ様第一発見者の話を聞く為に署へ行き、菜々子は家、総司は陽介達と合流する為に、だいだら屋によってからジュネスへと向かった。

そして、夜は現在ベルベットルームへ足を運んでいた。

 

「と言う訳では、少しペルソナ白書を見てくれないか?」

 

「……いきなりですね。ちゃんと説明して頂きたいのですが?」

 

エリザベスは洸夜の言葉が理解出来ず、溜め息を吐きながらもペルソナ白書を受け取る。

 

「お前も知っての通り、弱体化の影響なのか、ペルソナ白書からもペルソナが消え出している。だから、お前らなら分かるかなと思ってな……」

 

そう言うものの、この事態に気づいたのはりせが失踪した時。

今まで使っていたペルソナが消えるという事実からの不安に、洸夜はベルベットルームへ足を運ぶのが遅くなった。

そして、エリザベスは洸夜の言葉にただ頷くと、ペルソナ白書をパラパラとページを捲りだす。

また、イゴールとマーガレットも何も語らないが静かに洸夜を見ていた。

 

「確かに、あの時に消えたタムリンを始め、ベルゼブブやスカディ等の上級のペルソナ達も消えて下りますね……少し、このペルソナ白書をお預かりしても宜しいでしょうか?」

 

虫食いの様に空欄があるペルソナ白書を見て、エリザベスはこれだけでは分からないと言った表情で洸夜に提案する。

洸夜自身も断る理由はなく、エリザベスの提案に頷いた。

 

「別に構わない。必要なペルソナは持ち運んでいるからな」

 

そう言って洸夜は椅子から立ち上がり、扉に手を掛けようとした時。

先程まで黙っていたイゴールが口を開いた。

 

「ところで、事件の方はどう成されましたか?」

 

「……俺が言わなければ駄目なのか、契約しているのは総司だろ?」

 

遠回しに、詳しい事は総司に聞いてくれと伝える洸夜。

自分も頼まれているのには違いないが、今回の一件でイゴールと契約している総司だ。

だからこそ、イゴールに事件の事を伝えるのは総司がした方が良いと、洸夜 は思っていた。

しかし、洸夜の言葉にイゴールはヒッヒッヒッと、相変わらずの笑いかたで笑っている。

 

「確かに、今回の一件でご契約成されたのは総司様でございます。しかし、貴方様達が追っているものが、たった一つの偽り無き真実ならば総司様から聞こうが、貴方様から聞こうが変わりは有りません」

 

「それとも、自分達が追っているものが本当に真実なのか自信が無いのかしら?」

 

「それか……まさか、洸夜様は自分達のしていらっしゃる事に自信が無い様なへたれ様なのでしょうか?」

 

洸夜が買ってきたお土産の焼き菓子をつまみながら、言いたい放題のイゴール達。

そして、その言葉に一歩前に出る洸夜。

ここまで言われて黙っているからば、それは男では無い。

 

「誰がへたれだ……! 全く、それで事件の事だろう? その事については、今はまだ曖昧だが……確実に前に進んでいるのは確かだ」

 

その先に有るのが、偽りの無い真実かどうかは分からないが、少しずつ犯人の殺害方法や、テレビの中の世界の事を知った為、確実に前に進んでいるのは確かと言える。

そして、洸夜のその言葉にイゴールは口元をニヤリと歪ませると、再び笑いだした。

 

「ヒッヒッヒッ……それならば結構」

 

 

散々話を延ばしておいて、イゴールは洸夜の言葉にただただ笑っていた。

そして、洸夜もこれ以上は何のアクションも無いと判断し、今度こそベルベットルームから出て行こうとしたが……。

 

「……ところで洸夜様。過去との再会は如何でしたか?」

 

「……」

 

イゴールの言葉に動きが止まる洸夜。

イゴールの言う過去との再会とは、恐らく、美鶴達との再会を意味しているのだろう。

洸夜は静かに目を閉じた。

 

「特には何も……何も変わらなかった」

 

「……何か、変えたかったのですかな?」

 

イゴールの言葉に、自分を落ち着かせる為に息を吐く洸夜。

本当にこの男は何を考え、何処まで自分の事を知っているのか分からない。

何故、自分が美鶴達と再会した事を知っていたのか追及する気も失せた。

 

「……もう少し、あいつ等と話をしていれば変わったのかも知れない。不思議だ……あいつ等がいないければ、あいつ等の事を理解しようとしている。だが……あいつ等に会うと、何故か憎く成って仕方ない」

 

「……人とはそうものでしょう」

 

「ふっ……どういうもの何だろうな」

 

少し小馬鹿にした感じに言うマーガレットに対し、洸夜は軽く笑いながらそう言うと今度こそベルベットルームを後にした。

そして、その姿を見ていたマーガレットは静かに持っていた本を閉じた。

 

「……また、迷いが見え始めたわね」

 

マーガレットは、洸夜がベルベットルームから出たのを確認した後でそう呟いた。

 

「お姉様?」

 

姉であるマーガレットの言葉に、エリザベスは洸夜から預かったペルソナ白書を一旦閉じ、マーガレットの方へ耳を傾ける。

 

「私がベルベットルームで初めて洸夜と出会った時、彼は抜け殻の様な感じだったわ。あなたや主様から事前に話を聞いていたから、それほど驚きはしなかったけど……抜け殻の様な人が、自分の弟が事件に巻き込まれるって知った途端、まるで魂を入れられたかの様に瞳に覚悟が宿った」

 

そこまで話終えるとマーガレットは、紅茶を口にして一息つかせると再び口を開いた。

 

「だからでしょうね……事件当初は洸夜にはそれほどの覚悟が合ったから、今まで弱体化の影響が出なかった。……けれど、事件に関われば関わる程洸夜は過去の事件を思い出してしまい、全てから目を逸らし始めてしまったのね……」

 

マーガレットの言葉に、エリザベスは少し表情を曇らせ、顔を俯かせる。

その事はエリザベスも気付いていたが、心身共に傷付いた洸夜を見たら言い出せなかった。

そんな時、今度は焼き菓子を食べながら二人の会話を聞いていたイゴールが口を開いた。

 

「それに、弱体化しているのはペルソナ能力だけ無く……このまま時が過ぎればいずれ、ワイルドの力をも失う事になる事でしょう」

 

「ッ!」

 

イゴールの言葉に、エリザベスは思わず目を開いた。

その様子にイゴールとマーガレットも気が付いていたが、イゴールはそのまま話を続けた。

「……ワイルドの力の源は、絆と言うなの他者との繋がり。絆と言うものはそう簡単に消えるものでも無く、憎しみや悲しみも又、他者との繋がりなのです……絆が消える時、それは、その者と今まで築き上げてきたものを壊す……つまりは、自ら絆を断ち切る事しか無いのです」

 

「じゃあ、洸夜様は……」

 

「無意識かどうかは分からないけど、築き上げてきた絆を少しずつ断ち切って言っているのは間違い無い様ね」

 

「洸夜様が誕生させたペルソナ達も元は他者との絆の力によって誕生したモノ達。絆が消えれば、そのペルソナ達も消えるのが道理……今思えば、二年前の出来事で彼の心は傷付き、疲れきっていました……」

 

「ですが、洸夜様のペルソナは全てが消えている訳では……」

 

無意味なのは自分でもわかってはいたが、エリザベスは少しでもその真実に反発したかった。

五年前から見てきた洸夜の姿。

どんな事が有ろうと、何だかんだ言って最後まで諦め無く、そして『彼』と同じくらいに他者との絆を大切にしていた洸夜が、今では他者との絆を自ら断ち切ろうとしている事が信じたくなかった。

しかし、エリザベスの思いを知ってか知らずか、イゴールはエリザベスの言葉に静かに首を横に振った。

 

「エリザベス……貴女も気が付いている筈です。真実から目を逸らしても意味が無い事に」

 

「……ですが」

 

イゴールの言葉の意味を知っている故にエリザベスは辛く成った。

今の自分がやっている事は絶対に洸夜の為に成らない事に、だが、それでも否定したかった。

 

「……エリザベス、あなたの気持ちも分かるけど、それならば結論を出すのはまだ早いわよ。あなたの知っている洸夜は、一度落ちれば這い上がる事も出来ない男なの?」

 

「違います!」

 

エリザベスのはっきりとした言葉に、イゴールとマーガレットはクスクスと笑いだし、二人の様子にエリザベスは自分が二人の手のひらで踊らされていた事に気付き、頬を赤く成るのを感じた。

そして、その様子にイゴールは笑いだした。

 

「ヒッヒッヒッ……それならば結構。それに、あの方の力が他の方々と違うのも確かなのですから」

 

「……主様、洸夜の力とは一体?」

 

洸夜との付き合いが長いイゴール達とは裏腹に、付き合いの短いマーガレットは完全に洸夜の力を把握してはいない。

そんなマーガレットの言葉に、笑みを浮かべるイゴール。

 

「多色の色を持つ黒は、他者に色を与える。……それ故に、あの方が訪れた時のベルベットルームの姿がこれなのです」

 

「……他者に色を与え、あらゆる仮面を持つ黒のワイルド。今は、これくらいしか言えません」

 

「……そう、ならもう少し私も洸夜の歩む道を見守るわ。勿論、瀬多総司様の事も」

 

二人の言葉に優しく微笑みながら頷くマーガレット。

そんな姉の姿を見て、同様に微笑むエリザベス。

そして、イゴールは飲み干したカップをテーブルに置き、瞳を閉じながら笑みを浮かべた。

 

「それと、もう一つ。彼は勘違いをしておりました」

 

「勘違い……でございますか?」

 

「ええ……彼は終わったと思っておられるようですが。まだ、続いているのですよ……あの方のとの"契約"は」

 

そう言ってヒッヒッヒッと笑うイゴール。

そんな主の笑みを見ていたマーガレットだったが、何かを考える様に腕を顎に当てる。

 

「主様……洸夜の契約内容とはどんなものなのですか? 訪れる者によって姿が変わるこのベルベットルームで何故、洸夜が訪れた際の部屋が総司様と同じ姿なのとなにか関係が?」

 

「ふふ……お姉様。総司様だけではございません。二年前のベルベットルームでも『彼』と同じ部屋でございました」

 

「どういう事……?」

 

妹の言葉で更に混乱した様に眼を開くマーガレット。

冷静な彼女にしては中々に珍しい姿だ。

主であるイゴールもそんなマーガレットの姿に楽しそうに笑っている。

 

「ヒッヒッヒッ……! 最初にあの方が訪れた時は、ちゃんとあの方のベルベットルームの姿でございました。ですが、あの方の根の部分と黒きワイルド……この二つがあの方を他者のベルベットルームに招いたのですよ」

 

契約とはまた違いますがね、と言ってイゴールは再び笑らい出しエリザベスも小さく、ふふ……と笑い、そんな二人の姿に自分だけが仲間外れにされている様で少し複雑な表情をするマーガレットであった。

 

 

End

 


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