ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

64 / 110
不安は誰だってある。自分だけじゃない。




今回は少し中途半端


暑さの下での話し合い?

同日

 

現在、商店街

 

「さて……行くか」

 

ベルベットルームからでた洸夜は、総司達と合流する為にジュネスへと歩き出した。

 

「……。(暑い)」

 

段々と暑くなって来た事もあってジリジリと太陽の日差しが、自分の水分を奪って行く。

しかも何だかんだ言って今日は、すぐにこの町に戻って来た為、朝食も何も食べておらず今の洸夜はカロリーと水分が不足している状態と成っていた。

そんな中での朝一で死体を目撃。

只でさえ美鶴達と色々あったのだから、少しは落ち着かせて欲しいのが洸夜の願いだったが、犯人は待ってはくれない様だ。

 

そんな風に考えながら商店街を歩いていると、洸夜はある事に気付く。

 

「……。(いつもよりも人がいないな……。殺人……しかも教師が殺されたって事もあって、今日は出歩くの控えているのか)」

 

他のお店もそうだが、本屋等の店にもお客が二、三人いるかいないか。

道路に関しては、商店街の途切れる遠い場所まで見たとしても人がチラホラと数えられる程度。

元々、ジュネスが出来た事で人が少なく成っていた商店街。

だが、だからと言って全てのお客がいなくなる訳では無い。

洸夜がバイトしている、りせの住む豆腐屋を始めとした幾つかのお店はジュネスよりも品質が良く、わざわざジュネスに寄った後にここまで足を伸ばしている人も少なく無い。

しかし、其を踏まえたとしても今日の商店街の人の少なさは異常としか言えなかった。

 

「……。(これで三人目か……笑えねえな)」

 

ついこの間までは普通に生きていたのに、いつの間にかに殺されている。

……もう三人。

これ程まで簡単に人が死んで良いのか。

犯人はシャドウを利用して自分では一切手を汚してはいない。

そう思うと、洸夜は自分の胸の中に怒りや悲しみ……そして、虚しさが生まれるのを感じた。

 

商店街の道の真ん中で、いつの間にか立ち止まってそんな事を考えていた洸夜。

すると……。

 

「あれ、洸夜君じゃないか? こんな暑い日に道の真ん中で何してんだい?」

 

洸夜が声に振り向くと、そこには額に汗を貯めながらも右手に麦茶のペットボトルを持った足立の姿だった。

 

「……足立さんこそ、此処で何してるんですか? 今日、殺人が有ったばかりの筈じゃあ?」

 

「……いや、それもそうなんだけど。ちょっと堂島さんを含めた刑事さん達が色々と揉めててね……」

 

何処か他人事の様に話す足立の様子に、どんな反応すれば良いか分からなく成りそうな洸夜だが、ギリギリで平常心を保つ事に成功したが、足立の言葉に気になる物があった。

 

「揉めたって……何かあったんですか?」

 

「えっ? あ……いやあ、実はね、県警から送られてきた"特別捜査協力員"ってのがいるんだけど……その協力員とちょっと揉めちゃってね」

 

「協力員と揉めた?」

 

「うん……しかも、その協力員って何か、警察内でも有名な私立探偵事務所の秘蔵っ子らしく、頭も切れるんだけど……年齢が総司君達と殆ど同じぐらいの子なんだよね~」

 

「探偵? 総司達と殆ど同じぐらいの年齢? まさか……直斗?」

 

足立の話す人物が、何処か自分の知っている人物と被ってしまい、つい名前を口にしてしまった洸夜。

そんな洸夜の言葉に足立は少し驚いた表情をしていた。

 

「なんだ、洸夜君も知ってたんじゃないか。白鐘直斗君……彼さ、事件を解く力に成るなら報酬は要らない。そう言うから上の人には気に入られているんだけど、見た目とか普通に子供だから、命令とかされると色々良く思わない人が多いんだよね。彼……推理推理と言うけど、結構態度とかもでかいから。もう少し、子供らしくすれば良いのに……」

 

「直斗……。(直斗からすれば、一人の探偵として発言しているんだろうが、叔父さんを含めた刑事達からは子供の発言にしか取れないに違いない)」

 

ある意味、直斗はたった一人で事件に挑んでいる様に思えた洸夜。

別に堂島達、警察を悪く言うつもりではなく、洸夜自身も堂島達の立場から何も知らずに直斗を見れば、普通に抵抗があると自分でも自覚している。

それに、直斗は県警から送られて来たと言う足立の言葉からも取れる様に、皆が皆そう思っていないとは思うが、直斗と言う一人の子供に自分達刑事が劣っていると思われていると感じる人もいるかも知れない。

只でさえ、直斗は何処か他者を遠ざける様な雰囲気や態度をしてしまっている。

 

「……。(直斗の事件解決に対する執念はかなりのものだが、解決を急いだり、下手に敵を作らなければ良いが……)」

 

洸夜は今でも直斗と初めて出会った時の事を覚えている。

自分が直斗の見た目だけで危険と判断して伝えた時、今にも泣きそうな表情に成りながら神社の階段で激怒したり、自分一人の力で事件を解決しなければ自分も、探偵と言う存在も認められないと思い、誰にも頼らない。

自分を含め、一人ぼっちの辛さや寂しさを嫌と言う程知って、そして見てきた洸夜には直斗が何処かほっとけない。

覚悟がしっかりしていると言う理由も有るが、洸夜が直斗をほっとけない理由はここにあった。

 

「ハア~ 只でさえ、間違って覗き男を逮捕しちゃってるし、また、誤認逮捕したら本当に不味いんだよ。まあ、でも……今回は大丈夫だとは思うけどね」

 

「何か手掛かりでも有ったんですか?」

 

暗く成ったと思いきや、表情を明るくしたりする足立の様子に一番有りそうな事を聞いた。

 

「流石、洸夜君! 良く分かったね。今まで被害者の死因は不明だったんだけど、今回ははっきりと頭部を鈍器か何かで殴られた撲殺だって事が分かったんだよ。これは大きな手掛かりだよ」

 

「ッ! それ以外には何か分かってないんですか? 犯人の目撃情報は?」

 

今までこの事件の解決が難航した理由は、被害者達の死因の不明、屋根の上等の目立つ場所に死体が遺棄されたにも関わらず誰一人として目撃者がいなかった事等が主な理由である。

だが、今回ははっきりと死因が分かっている。

これは警察からしても大きな手掛かりだ。

 

そして、洸夜の言葉に足立は少し困った様な感じで麦茶を口にしながら口を開いた。

 

「う~ん。目撃者はまで僕も聞いてないし……と言うか、こんな事言って良かったのかな? ゴメン! 今の聞かなかった事にしてッ!」

 

一般人である洸夜に散々情報を滑らせたにも関わらず、足立は聞かなかった事にしてくれと無理を言いながら逃げる様にその場を後にしてしまった。

そんな足立の後ろ姿に溜め息を吐きそうになる洸夜だが、先程の情報は洸夜からしてもかなり有力な情報と言えた物だった。

 

「……足立さん、いつか減給とかしそうだな。(だが、この情報はありがたい。申し訳ないが、この情報はしっかりと記憶さしてもらいましたよ)」

 

そんな事を思いながら、洸夜はこの真夏の道路を駆け足で移動しながらジュネスへと急いだ。

 

===============

 

現在、ジュネス (特別捜査本部)

 

「 兄さん……こっちだよ」

 

「洸夜さ~ん!」

 

総司達がいつもいる捜査本部という名の休憩所に着いた洸夜。

そんな洸夜に手を振る総司達。

だが、総司を含めたメンバーの表情は何処か暗く、複雑と言った感じの表情をしていた。

 

「土産の話……なんて話せる雰囲気ではないな。(無理も無い。好かれていたかどうかは無視しても、自分達の担任が殺されたんだ)」

 

総司達の様子に釣られて自分も表情を暗くしそうになるが、洸夜は何とか踏ん張った。

この中では自分が一番の年上、自分だけでもしっかりと精神を保たなければ成らない。

 

そんな風に思いながら洸夜は、総司の隣の空いている席に座ると駆け足で来た事もあって、其なりに汗だくと成った服の襟を掴んで風を通しながら、もう片方の手で途中で買ってきたスポーツドリンクを口に含んだ。

口全体に広がるドリンク特有の甘さや微かなしょっぱさがとても美味しく感じる。

 

洸夜が水分補給をしている中、顔を下に向けていた陽介が口を開いた。

 

「まずは相棒と洸夜さんにお帰り……って言いたいけど、そんな雰囲気じゃないし、とんでもない事になっちまった……」

 

「殺されたのがモロキンだしね……嫌いだったけど、何か複雑な気分」

 

陽介の言葉の後に、落ち込んだ様に表情を暗くしながら話す千枝。

やはり、担任と言う事だけ有ってその心境は複雑な様だ。

 

「……俺と総司がいなかった時のマヨナカテレビはどうだった、 諸岡さんが映っていたのか?」

 

皆、其なりに悲しいのは分かるが話を纏めなければ成らない。

洸夜自身はもう少しだけ落ち着かせる時間を与えたかったが、今日この町に戻って来た自分と総司は情報が少ない。

その為、何とかして情報を聞かなければ成らなかった。

洸夜は自ら先陣を切って、事件の情報を纏める事にした。

 

「さっき、先輩にも言ったんスけど、マヨナカテレビどころか普通のテレビにも、モロキンは映って無かったんスよ。一応、先輩と洸夜さんが留守にするってんで、俺らは俺ら成りに色々とチェックしてたんで、確かッスよ」

 

意外にも、洸夜の問いに答えたのは他のメンバーとは違い、表情を落ち着かせていた完二だった。

下手に暗く成っても意味が無いと分かっているらしく、完二は結構冷静だった。

 

「両方のテレビに映って無かったのか? 見落としたって事は……?」

 

「さっき完二君が言った様に、私達も色々チェックしてましたから見落としたって事は無いと思います。もし、不自然な事が有ったら気付くと思いますし……」

 

「もしかして犯人、もうテレビに入れても人を殺せないって思ったのかな……?」

 

雪子とりせの言葉に思わず頭を押さえる洸夜。

もし本当に完二と雪子の言う通りだとしたら、色々と厄介な事に成っているかも知れなかった。

今まではメディアに映る→マヨナカテレビに映る→誘拐され、テレビの世界へ、と言う流れと成っていたが、今回は全く違う。

メディア等は一切関係無く、何の前触れも無く殺害。

唯一共通しているのは霧の朝に死体が見付かったぐらいだ。

 

と、そこまで洸夜が頭で考えた時だ。

洸夜は先程のりせの言葉に何か引っ掛かるのを感じた。

 

「りせ、君は何で諸岡さんがテレビの中に入れられて無いって思うんだ? 完二達はメディアとマヨナカテレビに映って無かったとしか言ってない筈だが?」

 

何気無く気付いて言っただけだったのだが、洸夜の言葉に皆、あ~そうか、見たいな表情をしていた。

自分は何か変な事を言ってしまったであろうか?

只でさえ、今の洸夜は空腹と多少の水分不足によっていつもよりも頭の回転が鈍い。

一体、何で総司達がこんな表情をしているのか分からなかった。

 

「そう言えば兄さんはまだ、会って無かったな……」

 

「会う? 他にもメンバーがいたのか?」

 

総司の言葉に、自分の知らないまだ見ぬメンバーの存在を指摘したが、他のメンバーは何故か苦笑している。

 

「確かに……ある意味だと、俺達も会ったのは今日が初めてだしな」

 

「うん……確かに……」

 

「何の話だ?」

 

「少なくとも兄さんも会った事は有るけど、ある意味で初対面だよ」

 

総司達の言葉に更に訳が分からなく成ってきた洸夜。

そんな時だ。

 

「ヨースケ~! ジュースいっぱい買って来たよ!」

 

後ろの方から明るい声が聞こえたと思い振り替えると、両手一杯に飲み物を持った見覚えの無い金髪の美少年の姿があった。

白い服が彼の爽やかさを更に引き立てる様に見える。

一体、この少年は誰かと思い、総司達に視線を送る洸夜。

だが、総司達は何故か苦笑しかしておらず、訳が分からないまま再び少年の方を向くと、少年は洸夜の方を見て目を輝かせていた。

そして……。

 

「大センセイ~!!」

 

「なッ!? 何なんだお前はッ!!?」

 

突如、自分に抱きついて来た少年。

只でさえ、真夏なのだから更に暑苦しい。

 

そんな事を内心で思いながらも、どうにかして少年を引き剥がす事に成功した洸夜は、今度は陽介の方を向いた。

そんな洸夜の視線に苦笑いしている陽介。

 

「花村……こいつはお前の知り合いか?」

 

「……確かに知り合いですけど、洸夜さんも知り合いですよ」

 

「……なに?」

 

陽介の言葉に今一納得出来なかった洸夜。

はっきり言って、こんなキャラ濃い人物に会えば忘れる事は無い筈なのだが、全く覚えが無かった。

そんな時、総司が静かに洸夜の肩に手を置いた。

 

「兄さん……実は、クマなんだよ」

 

「熊なんだよ? どう言う意味……。(待てよ……大センセイ……熊……熊……クマッ!?) まさか……クマ……なのか?」

 

そう言いながらゆっくり首を少年の方へ向けた洸夜。

そんな洸夜に、少年は更に目を輝かせた。

その周辺に光輝く何かを見た気がしたが、恐らくは気のせいだろう。

 

そして、洸夜の言葉に少年はピースしながらポーズを決めた。

 

「ザッツライト! さっすが、大センセイ……クマ、忘れられたと思って悲しかったよ 」

 

「……」

 

開いた口が塞がらない。

まさに、そのまんまの洸夜の様子に総司達も気持ちが良く分かると言った様に頷いていた。

 

============

説明中

============

 

「つまり、外の世界が気になって出てきた後に陽介達と会って、話していたら暑く成ってキグルミを脱いだ。そしたら、中からクマ(人)が出てきた……で良いのか?」

 

「殆ど其で正解です」

 

飲み物を飲みながらクマがこの世界に来た経緯を聞いた洸夜。

色々と思う事もあるが、色々とありすぎてつっこむ気にも慣れなかった。

 

「瀬多君の時もそんなリアクションだったけど、洸夜さんも普通に驚くんですね」

 

「俺だって初めての経験だからな。そりゃ、普通に驚くよ……」

 

千枝の言葉に思わず溜め息をを吐く洸夜。

最早、驚きを通り越して新鮮に感じてしまい、胸がすがすがしくも感じていた。

 

そんな中、陽介がクマに対して口を開く。

 

「と言うか、おいクマ。本当にモロキンはテレビの中に入って無いんだよな? ホントは分からねえだけなんじゃねえのか?」

 

「ヨースケしつこい! 誰も来なかったって言ってるっしょ!クマは探知能力下がっているけどあっちの世界に誰かが来たか来ないか位は分かるの!」

 

両手を振りまして陽介に抗議するクマ。

本人も言う様に探知能力は下がってきているが、テレビの中に人が来たかどうかは探知は可能と言っており、クマは諸岡が殺されていたと思われる、ここ二日は誰もテレビに来ていないと主張する。

しかし、そう言った後に鼻を擦ってクシャミをするクマの姿に、洸夜と総司は互いに顔を合わせて溜め息を吐いた。

そんな風に洸夜達が悩んでいると、陽介が考える様に腕を組んだ。

 

「ただ言える事は、モロキンはそもそも“テレビに入れられてない”のは確かだよな?」

 

「なら、こっちで殺されたってこと? でも、何で犯人はモロキンだけテレビに入れなかったんだろ?」

 

最もな疑問に皆が考えるなかで雪子が口を開く。

 

「ひょっとして……もう、テレビに入れても殺せないって思ったとか? だって私たち続けて三人も 助けた訳だし」

 

「有り得るね、それ!」

 

雪子の言葉に賛同する様に頷く千枝。

そして、雪子の言葉を聞いた完二はその場から立ち上がってジュースの缶を掴みながら腕を上げた。

 

「んだよそれ! しくじらねえように、いよいよ外で殺りやがったってか!クソ、もしそうなら、も う犯人押さえねえと防ぎようねえぞ!?」

 

そう言って完二は、自分の飲んでいたジュースの缶を握り潰した。

しかし、翌々その缶を見ているとジュースでは無くコーヒーである事に気付き、完二が潰した缶はスチール缶であった。

族を中学生の時に潰す程の力を持つ完二にとって、スチール缶を潰すのは楽勝とは言わないが不可能では無い。

そんな完二の迫力に陽介・千枝・雪子・クマは絶句し、洸夜と総司は兄弟だけあり、鏡の様に同じ動作でスポーツドリンクを含みながら目を剃らす。

 

そんな中、りせは震えながら自分の肩を両手で掴んでいた。

 

「もしかして私……結構、ギリギリだったのかも……。」

 

「えッ? りせちゃん……どうしたの突然?」

 

震えるりせを心配し、隣に座っていた雪子が落ち着かせる為にりせの肩に優しく手を置いた。

そんな雪子の温もりに安心したのか、りせの震えるはゆっくりと静まって行く。

 

「大丈夫か、りせ?」

 

「ど、どうしたの突然……?」

 

りせの様子に心配し、声をかける総司と千枝。

そんな二人の声に、苦笑しながら総司達の方を向いた。

 

「なんか……犯人がテレビに入れずに直接殺人をし始めたと思ったら、私も危なかったんだなって思っちゃって……」

 

「りせ……」

 

りせは、皆の話を聞いている内に自分が殺されていたのかも知れないと思い、心細く成り、恐く成ってしまった。

総司達が救出したのはりせで三人目。

もし、完二が救出された時点で犯人が、現実世界で直接殺人を始めていたら……。

そう思うと、自分はギリギリだったのでは無いかと思ってしまった。

 

そんな事を思ってしまい、表情が暗く成るりせ。

すると、其を見ていた洸夜が総司へと視線を送る。

その視線に総司は気付き、洸夜に視線を返すと、洸夜は視線をテーブルの下へと向けた。

そこに有ったのは、総司に持たせていた陽介達へのお土産の入った紙袋。

洸夜は、今回の事件で気分が落ちていて渡し損ねていたお土産を今渡し、りせや他のメンバーを励ます様に言っている。

それを理解した総司は、紙袋を持ち上げてテーブルの上に置くとメンバーの前に出した。

 

「お土産を配るぞ……」

 

「えッ! このタイミングでなのッ!?」

 

「ある意味、良いタイミングなんじゃないんスか?」

 

「うん、私もそう思う」

 

「ま、まあ……そうだな。そんじゃあ、そう言う事だし貰っちゃうぜ」

 

皆も察してくれたのか、素直にお土産を受け取ってくれるメンバー達。

陽介にはリストバンド、千枝には青龍伝説の続編のDVD、雪子には扇子、完二には都会で売っていた色々な種類が載っているぬいぐるみの本、りせにはハンカチ、クマには菓子。

そして、それぞれに総司がお土産を配っている光景を洸夜は、ある事を思いながら静かに眺めると、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

「……。(こいつ等には……ずっと仲良く絆を繋いで行ってもらいたいものだ。俺は、例え望んだとしても"全員"で集まる事はもう出来ないからな……)」

 

洸夜の言葉の意味。

それは、美鶴達と和解するしないうんぬんの問題では無い。

総司達とは違い、自分達は仲間を失い過ぎた。

洸夜は、総司達の仲良く笑いあっている姿に過去の自分達と重ねてしまい、どこか悲しく成ってしまった。

 

そんな風に、洸夜が夏の風に揺れながら黄昏ていた時だった。

 

「あの? 洸夜さんは、何か気付いた事ってありますか?」

 

「ん、俺か……?」

 

雪子の言葉に洸夜は目を開くと、既に総司は皆にお土産を配り終えており、皆が自分の方を向いていた。

 

「兄さんは、最近まで俺達とは別の視点から事件を見てた。だから、今回の事件で何か気付いた事でも無いかなって……」

 

「別の視点と言っても、殆どは同じだぞ? お前等が求める様な答えは言えないかも知れないぞ」

 

「其でも言ってくれ兄さん。これは、リーダー命令」

 

「それはずるいな……」

 

総司は親指を上げ、人差し指を伸ばして銃の様な形にして洸夜へと向ける。

それに対し、洸夜はやれやれと言った風に苦笑いしながらも応えた。

 

「……何と言うか、前々から気になる事が一つ有る」

 

「気になる事……?」

 

洸夜の言葉にジュースを飲みながら、おうむ返しの様に呟くりせ。

そんな言葉に、洸夜はああ……とだけ呟くとスポーツドリンクに口を浸けて水分を補給して、続きを語り出した。

 

「犯人の目的なんだが……本当に殺人なのかと思ってな」

 

洸夜の言葉に顔を見合わせる総司達。

既に三人も殺されているこの事件。

他のメンバーも危険な目に合っているのだから、当たり前と言える。

 

「……兄さんは、何でそう思ったの?」

 

表情一つ変えずに自分を見る総司に、空を見ながら洸夜は応える。

 

「……本当に殺人が目的なら、何でわざわざ誘拐してテレビに入れる? 最初から殺人が目的なら、そんな面倒な事はせずに直接殺害した方が手っ取り早いし、その死体をテレビに入れた方が色々と捜査の妨害に成る」

 

「た、確かにそうっスけど……犯人が直接じゃなく、シャドウに殺させて証拠を完全に無くす為なんじゃないんスか?」

 

「おッ! 完二君にしては、中々まともな意見」

 

「完二……成長したな」

 

「馬鹿にされてる様にしか感じねえと思うのは、俺の気のせいか……?」

 

完二の言葉に、感動して優しい目を完二へと送る総司達。

そんな総司達の目線へ、どう反応すれば良いか分からない完二。

そして、早く事件についてまとめたい洸夜は、その光景に溜め息を吐きながらも続きを話す事にした。

「続きを話すぞ? ……完二の意見もそうだが、そう成ると犯人がテレビの世界を知っている事が前提に成るよな?」

 

「何、今さらな事を言ってるんでーーー」

 

陽介がそこまで言った時だった。

洸夜は突如、ポケットの中から召喚器を取り出して、陽介へと向けた。

 

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!! お、俺は別に、こ、洸夜さんを馬鹿にした訳じゃッ!?」

 

陽介は思わず身構えながら、洸夜に必死に弁明しようとし、その様子に他のメンバーも思わず身構えながら事の成り行きを見守っている。

そして、そんな皆の反応に洸夜はクスクスと微笑みながら召喚器をしまった。

 

「花村……今、何で身構えた?」

 

洸夜が召喚器をしまった事にホッとしていた陽介は、洸夜からの言葉に面食らった表情で応えた。

 

「何でって……? そ、そんな物を突き付けられたら誰だってそう成るだろ!?」

 

「そうだ。そうなるに決まってる」

 

「へ?」

 

まさか、そんな素直に頷くとは思っていなかった陽介は、自分でもマヌケだと感じる様な声を出してしまった。

他のメンバーも呆気に取られている。

 

「人ってのは、刃物や銃等言った物を向けられるとさっきの様に身を守る為に身構える。そして、もし相手が襲って来た場合、少なくとも抵抗をして、体の何処かに抵抗した痕跡が残る筈。だが、シャドウに殺害された最初の二人を含め、誘拐された君達には傷一つ付いてなかった」

 

殺害された二人の外傷については、既に報道されている。

両者共に、致命傷と成る傷も無ければかすり傷一つ無い綺麗な状態であり、死因が不明。

それが、警察の事件解決を遅らせる大きな原因の一つとも成っていた。

 

そして、そう言いながら洸夜は、今度は指を先程の総司の様に銃の様な形にして陽介へと向けた。

だが、そんな指を向けられても何の害が無い事を分かっている為、陽介は先程の様には身構えずにただジッとしていた。

 

「……何してんですか?」

 

「花村……何で身構えなかった?」

 

「いや……別に害が無いと思ったし」

 

陽介の言葉を聞き、その言葉を待っていたと言った様に洸夜は頷くと、口を開いた。

 

「見ての通り、人は自分に害が無い、安心出来る……等の状況下では身構えしなければ警戒もしない」

 

「えと、その、う~~! 結局……どう意味?」

 

洸夜の言葉が理解出来なかったらしく、両手で頭を押さえながら唸る千枝。

そんな親友の様子に少し苦笑いする雪子だったが、雪子自身は理解出来たらしく、千枝に説明する為に口を開いた。

 

「最初の二人の死因はシャドウによって殺害されたから不明に成ってるけど、ニュースでも言っていた様に外傷もなければ、抵抗した様子も全く無かった。元々、犯人がその場で凶器を持っていて襲って来たなら二人共、さっきの花村くんの様に身構えたり抵抗する筈。つまり、二人が警戒しない状況……」

 

「???」

 

「あ~だから、恐らく、犯人は犯行の時に凶器を持ってもいなければ、殆どの人から警戒されない様な人。そして、犯人は危害を加える事が目的じゃなく、最初から誘拐してテレビの中に入れる事が目的……こんな感じですよね、洸夜さん……」

 

言葉の意味が理解出来ず、目が点に成る千枝の姿に苦笑いしながらも教える雪子は、そう言って洸夜の方を向き、洸夜もその言葉に頷き応えた。

 

「大体はそんな感じだが、犯人については違うな。君達自身が誰も犯人を見ていない事を考えると……最初の二人も見ていない可能性が高い」

 

「確かに、俺ら三人……誰も犯人を見て無いんスよね」

 

「なあ、ホントに何も覚えて無いのか? 本の些細な事でも良いからよ?」

 

テーブルから身を乗り出して聞いてくる陽介の言葉に、雪子、完二、りせの三人は腕を組んで考え混む。

りせはともかくとしても、雪子と完二のは其なりに日数が経っている。

今更、何か思い出せるとは雪子と完二自身も思ってはいなかったが、当事者である自分達が数少ない手掛かりである事は確かな為、三人は腕を組ながら何かを思い出そうとする。

 

「う~~~ん……何かをしようとしてたのは覚えてるんだけど、其が思い出せないし……気付けば既にテレビの中だったから……」

 

「俺も大体似た様な感じなんだよな……誰か来た様な気もするんスけど、今一あやふやだし、何かを嗅がされた様な……あッ、でも、洸夜さんの犯人が凶器を持っていないって推理は正しいと思うッスよ」

 

「その根拠は?」

 

平然と口走る完二に、何故分かるのか問いかける洸夜。

そして、完二へと視線を向ける総司達。

 

「基本的に武器とか持っている奴にやられたりしたら、結構覚えてるんスよ。でも、誘拐された時の事は何も覚えてない…… つまり、犯人は武器を持ってはいなかった!」

 

「……」

 

腕を力強く掲げる完二の言葉に、思わず黙ってしまう総司達を代表して総司が口を開いた。

 

「完二……お前、犯人の姿を見ていなかった場合もそう言えるだろ?」

 

「あッ……!」

 

しまった!

まさにそんな表情をする完二に、メンバー全員は堪えきれずに溜め息を洩らす。

そして、色々と複雑に成ってきた今回の会話に、千枝の脳内がオーバーヒートを起こしたらしく、椅子から立ち上がってその場で大声を挙げた。

「あーーーーーーーもうッ!! 訳が分かんなく成ってきた!! 結局、洸夜さんが言いたいのは犯人の目的が殺害を前提としているんじゃなく、誘拐してテレビの中に入れる事が目的かもしれない! そして、私達が謎としてるのは今回の犯人が何でモロキンをテレビに入れなかったのか! そう言う事でしょ! はい! この話は終わりッ!!……はあ……はあ…… 」

 

全てを言い切った。

まさにそんな感じで椅子に座り込み千枝。

そんな様子に目を丸くする総司達だったが、今日は色々と喋り過ぎたと感じた洸夜は、今日の話はこのぐらいで終わらせようとした時だった。

その後に発した千枝の言葉が、其をさせなかった。

 

「あ~~。"テスト"も有るのに……何で色々と重なるんだろ……」

 

「テスト……?」

 

「「「「「「あ……」」」」」」

 

千枝の言葉に、総司達と言った本人である千枝も思わず口に出した。

その表情からは、思い出した、どうしよう。

皆の表情からそう言った感情が読み取れた。

 

そんな中で、総司がゆっくりと洸夜へと首を向け、口を開いた。

 

「兄さん……」

 

「な、なんだ……?」

 

無表情ながら、尋常ではない程の眼力を自分に向ける弟の視線に、暑さとは別の意味で汗をかく洸夜。

そんな洸夜の様子を知ってか知らずか、総司は静かに口を開く。

 

「前に言ってたよね……後輩に勉強を教えたら、其なりに点数が上がったって……」

 

総司のその言葉に過剰に反応する陽介、千枝、完二、りせの四人。

雪子はそんな中で、雰囲気が変わったのを感じとった。

 

「ああ……何か、点数的にキツいって寮で騒いでいたから見かねてな。何とか、ノートとかをちゃんと書かせたり、俺の時のテストの内容を教えたりして色々と教えた。その結果、平均的に結構上がっていたな……。(その結果、俺の点数が落ちたが……)」

 

洸夜の言うその後輩、それは伊織順平の事である。

テスト期間に発狂よろしく騒いでいた順平を見かね、勉強を教えたのだ。

元々、日頃のノートをしっかり書き、基礎を固めれば少なくとも赤点は免れる。

しかし、順平に勉強を教えていた結果、自分の勉強が疎かに成ってしまい、点数が下がり落ち込んだのも今に成っては良い思い出に成っている。

 

そんな時、りせが徐に洸夜の服を掴んだ。

 

「洸~夜さん! 私……転校したばっかりだから、勉強を教えてほしいんです……」

 

「あッ! テメェー汚えぞッ! 洸夜さん! 俺にも教えてくれよ! 此処んとこ学校行って無かったから、色々とあぶねえんだ!」

 

「それは、あんたの自業自得でしょ! お願い洸夜さん!」

 

そう言って、互いに怒気丸出しで睨み合うりせと完二。

そんな二人の怒気に後退りする洸夜。

すると……。

 

「ん?」

 

背後に何か気配を感じた洸夜は、後ろを振り向いた。

そこにいたのは陽介と千枝だった。

二人とも、頭をかきながら、いや~と笑いながら洸夜を見ていた。

 

「洸夜さん……」

 

「俺らにも……勉強を教えてくれませんか?」

 

「えッ!? 何でだ! 少なくとも、千枝ちゃんには雪子ちゃんがいるだろ?」

 

「雪子には数学、英語、現代文を教えてもらうんです!」

 

「えッ!? (前の時より増えてる……!)」

 

何気無く言った千枝の言葉に思わず声をあげる雪子。

今までも千枝に勉強を教えていた事はあったが、まさか今回は三教科も教える事に成るとは思わなかった。

そんな風に、ごちゃごちゃと揉めている洸夜達から然り気無く後退りする総司。

 

「ごめん兄さん……。(この所、色々有りすぎてまともに勉強してないから……皆に教える暇が無いんだ)」

 

元々、成績が悪くない総司。

だが、この所続く事件等によって忙しくなってしまい、少し勉強が疎かに成ってしまっている。

陽介とかが自分に勉強を教えてくれと言ってくるのは予想できており、その対処として洸夜の事を話したのだ。

 

「……。(許せ皆……人は時として残酷ーーー)」

 

総司が皆から背を向けて立ち去ろうとした、その時……。

誰かが総司の服をガシッと掴んだ。

そして、徐にゆっくりと総司は後ろを振り向くと、皆に服を引っ張られながらも、自分の服をこめかみをピクピクとさせながら掴む兄の姿だった。

 

「総司~! この所、色々有りすぎて忙しかったから勉強が疎かに成っているからって……俺と雪子ちゃんに全てを任せようとしても、そうは行かんぞ!」

 

「!? (ば、バレてる!) たまには良いだろ!? どうせ、兄さん暇でしょ!」

 

別に職に就いている訳でも無ければ大学にも行っていない洸夜に対し、そう行ってしまう総司だったが、その瞬間、洸夜の目が光った。

 

「なんだと……総司! 俺だって家事全般やバイトの掛け持ちで忙しいんだぞ!? 浴場のカビを落としたり、お前の布団をフカフカにしてやってんの誰だと思ってんだ!」

 

「も~クマの事を無視しないでよ!」

 

「大体、兄さんはッ!」

 

「お前も大概だろうがッ!」

 

それから、互いに言い合いが始まり、テスト前に勉強会をする事で決まって事件についての話し合いはいつの間にか、テストについての語り合いに成ってしまった。

そして、余談だがクマの身柄は陽介が引き取る事に成った。

 

End


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。