ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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何でもかんでも無双ゲームにしたら、一人は確実に買っていく気がする。


ペルソナ無双。
↑出たとしても、絶対買わない気がする。


直斗再び

同日

 

現在、堂島宅

 

あの後から数時間が経ち、既に日も暮れて月が夜空に君臨していた。

そんなムシムシとした暑い夜で蝉の鳴き声が響き渡った稲羽の夏の夜を居間の窓を空け、お風呂上がりの髪をふきながら洸夜は肌で感じていた。

こんな風に月が綺麗に写る夜は、何処か心が寂しくなり黄昏てしまう。

 

そんな風に洸夜が夜空を眺めていた時だ。

 

「ちくしょーーっ!」

 

「……」

 

後ろから聞こえてきた大声に振り向く洸夜。

そこにいたのは、酔いつぶれてソファーに寝転ぶ堂島の姿。

先程、足立が来て酔いつぶれた堂島を家に運んで来たのはついさっきの事で、総司と奈々子に布団を引かせに行かせている。

何か嫌な事が有ったのだろう、堂島は先程からこの様に大声で愚痴っている。

 

「洸夜お兄ちゃん……お布団引いたよ」

 

「ああ……ありがとうな奈々子」

 

堂島の部屋の中から顔を出しながら言う奈々子の言葉に頷き、居間の窓を閉めて堂島に肩を貸して持ち上げるが、部屋に向かう途中でも堂島は愚痴る。

 

「ったく……あのガキ偉そうに……こっちはてめえがランドセル背負ってる時から刑事やってんだぞ……ヒクッ! ……くそ~」

 

「はは……」

 

堂島の口振りから察するに、どうやら直斗に相当コキ使われた様だ。

洸夜は思わず笑ってしまうが、次に発した堂島の言葉がその笑みを消し去った。

 

「まったく……何が"今までの事件と、今回の事件は別物"ですだ……だったら根拠を教えやがれ……ヒクッ!」

 

「! (別物? 直斗は今回の事件を別物と判断しているのか……だが、そう言う事なら色々と辻褄が合う)」

 

洸夜が気になっていたのは犯人の目的についてもだが、今回の事件の犯行に付いても色々と気になっていた事があった。

まず、何故犯人は今回に限ってテレビを使わなかった事について、雪子達が言った様にテレビで殺す事が出来なくってきたから現実で殺害したと言う意見も一理有るが、殺害に関して執着しているのならば既に行動を起こしている筈だ。

どっち道死ぬとしても本当に殺害だけが目的ならば、誘拐して自分の手で殺害してから遺体をテレビの中に隠せば良いのだから。

しかし、犯人はそうはせず、テレビに入れる事だけをしていた……まるで、テレビの中に入れるのが目的の様に。

総司達が救出してからも其だけは変わらないでいた。

死因も分からない、誘拐の時に目撃すらされなければ証拠も無い。

言い方は悪いが、犯人からすればこれ以上に無い犯罪の方法だろう、自分は誘拐の時に注意すれば良いだけなのだから。

だが、今回は違う。

死因が分かっており、色々と証拠も出ている。

もしかすれば、目撃者も出ているかも知れない。

今まで証拠を残さなかった程の犯人がこうも簡単に犯行を変え、証拠も残す様な真似をするとは洸夜は思えなかった。

だが、今回の堂島の話を聞いた事で洸夜の中のパズルが完成し始めた。

 

「……。(本来、遺体があんなおかしな場所に現れるのはテレビに入れられたからだ。今回はテレビの中に人が来なかったのはクマが証明している。なのに、遺体があんな場所に吊るされていたのは"今回の犯人"が今までの事件に似せたから……そして、テレビに入れなかったのは、テレビの"世界"の存在を知らなかった……そう思うと色々と辻褄が合う。ああ畜生……なんでもっと早く気付かなかったんだ)」

 

一度気付くと後から後から推理が浮かんでくる。

洸夜は堂島を布団に寝かせた後、総司の部屋へと向かおうと思ったが睡魔に勝てず部屋へと戻る事にした。

 

「しかし……直斗の奴、いきなり今回の事件と今までの事件は別物なんて言えば、そりゃあ揉めるだろ」

 

等と直斗の事を多少心配しながら。

 

==============

 

7月11日 (月)

 

現在、学校

諸岡の事件は既に学校全体に広がっており、総司達は朝から朝会やら新しい先生の紹介等で忙しかった。

そして、今は昼休み。

総司は陽介、千枝、雪子のいつものメンバーで話していた。

 

「やっぱ気になるよね……」

 

「あ? 柏木の事か?」

 

柏木 典子……亡くなった諸岡に代わり、総司達の新しい担任と成った女教師。

諸岡とはまた一味違うキャラの濃さに、総司ですら苦手な部類に入れる程であり、他のクラスメイトからも色々と不満の声が上がっている。

 

千枝がそんな柏木の事を言ったと思った陽介は、そんな風に答えたが千枝が首を思いっきり首を横に振って否定する。

 

「違うって! マヨナカテレビについてだって……」

 

クラスを見渡しながら、声を小さくして応える千枝の言葉に総司達もクラスへと耳を傾ける。

すると……。

 

「なあなあ、お前知ってるか? りせちーのストリップ」

 

「何バカ言ってんだよ、そんなのりせちーの事務所がやらせる訳ねえだろ?」

 

「ホントだって……ほら、噂の"マヨナカテレビ"だよ」

 

「"マヨナカテレビ"……そう言えば、後輩の誰かも何かそれでやらかしたって……」

 

窓際で話している男子の話に思わず顔を見合わせる総司達。

既にマヨナカテレビが只の噂では無くなってきており、こんな学校内でも普通に話す程にまでに来ている。

だが、テレビの中で戦っている自分達の姿が映っていないのは不幸中の幸いと言うべきか、誰も自分達について触れてないのは総司達にとっては都合が良い。

下手にペルソナで戦っている所を見られでもすれば、多少何か言ってくる奴もいるかも知らない。

そう思うと心の奥がホッとするのを総司達は感じていた。

 

「やっぱ、広がって来てるね……"マヨナカテレビ"」

 

「でも、こうなる事はなんと無くっだけど分かっていた事だ」

 

総司の言葉に頷く千枝と雪子。

自分達が他のクラスメイトと同じ立場なら、絶対にマヨナカテレビを見ている。

総司自身も、最初初めて千枝からマヨナカテレビの噂を聞いた時、興味が有ったから試したのは紛れも無い事実。

何も無い稲羽の町では、こんな都市伝説み良い刺激に成るのは皆も分かっている事。

 

声を潜ませながら話す総司達だが、陽介が周りに注意しながら口を開いた。

 

「なあ、俺……昨日洸夜さんが言った犯人の目的がテレビに入れる事が目的って話さ、良く考えたんだけど……正しいんじゃねえかって思えて来たんだ」

 

「その根拠は?」

 

昨日は諸岡の死、クマの登場、夏の暑さ等が重なりあまり考えられなかった。

しかし、恐らく陽介は昨晩の内に事件について考えたのだろう。

その場限りだけの話にはせず、疑問点はちゃんと分かるまで考える。

そう言う事もあって、自称特別捜査隊の"参謀"名乗っている陽介を、総司は頼している。

 

「……だってよ、天城を救出した後、犯人は天城をもう一度狙わずにそのまま完二、りせちーって狙いを代えたろ? あれ……"マヨナカテレビ"に映ったから目標を代えたと思ってたけど、実際は犯人の目的がテレビに入れる事だからじゃないのか?」

 

「確かに、其だと一応辻褄が合うけど……それじゃあ……」

 

雪子はそこまで言うと、申し訳なさそうに陽介の方をチラッと見て、それに気付いた陽介は苦笑いした後、何かを諦めた様な感じで肩を落とした。

 

「……結果的に死んだんだろうな。山野アナも、そして、先輩も……」

 

「「「陽介……/花村……/花村君……」」」

 

総司達は、何処か寂しそうに床に顔を向ける陽介に、一体なんて言えば良いのか分からないと言った表情で見ていた。

もし、犯人の目的がテレビに"入れるだけ"だとしたら、最初の二人は誰にも助けて貰えずに結果的にシャドウに殺されたと言う事に成る。

陽介もそれに気付いているからこそ、こんな悲しい表情をしているだろう。

 

そんな総司達の視線に気付いた陽介は、再び苦笑いしてしまった。

 

「なに皆がそんな顔をしてんだよ? 俺は大丈夫だって……」

 

陽介は、心配すんなって……と言って手をブラブラと上限に揺らす。

そんな陽介の顔を見て、総司は拳に力を入れながら口を開く。

 

「許せないな……!」

 

「相棒?」

 

「例え、兄さんと陽介の言っている事が正しかったとしても……もう、二人も人が死んでるんだぞ? 犯人がそれを知らない訳がない。犯人の目的がテレビに入れる事だったとしても、それはもう、殺人を目的にしているのと同じだ!」

 

総司は三人の顔を見ながら内心で猛っていた。

ここまで事件が大事に成り、二人も死んでいる。

それを犯人が知らない訳がなく、もし今も殺人の自覚無く犯行を繰り返そうとしているならば、これ以上に腹正しい事は無い。

 

「確かに、瀬多君の言う通りだね。でも、犯人は直に殺人をし始めた……現に諸岡先生は……」

 

「それなんだよな……犯人は目的が変わったのか?」

 

総司の言葉に頷く雪子の言葉に悩む陽介達。

すると、総司は朝に洸夜に言われた事を思い出した。

それは、今回の事件についてだ。

 

「今朝……兄さんに言われた事があるんだ。モロキンの事件について……」

 

「えっ! 洸夜さん、また何か気付いたの!?」

 

驚く千枝の言葉に、総司は静かに頷いた。

 

「兄さんの話だと、今回のモロキンの事件にはテレビの世界が関係していないのは、クマによって証明している。なのに、遺体があんな普通じゃない場所にあったのはおかしいんだ」

 

「え? どういう事だ?」

 

「忘れたのか? 今まで遺体がアンテナとかに引っ掛かっていたりしたのは、テレビの中のシャドウ達が現実世界に放り出していたからだ。でも、今回はシャドウは関係ない」

 

総司の言葉の意味がどういう事か分かってきた陽介達は、互いに顔を見合わせた後、総司へと視線を戻して陽介が応えた。

 

「つ、つまり……犯人はわざわざそこまでして、今までの事件に似せたのか? いや、でも……シャドウがやったならともかく、犯人からすればかなり危険じゃねえのか? 目撃者だって出るかも知れねえだろ?」

 

「確かにそうだ。でも……もし、今までの事件と今回の事件の犯人が"別人"だったらどうする?」

 

「えっ!? それって……」

 

総司の言葉に思わず息を飲む千枝。

 

今回の事件の違和感。

それは、今までに比べて犯行がお粗末な所等がある。

総司も今まで手掛かり一つ残さず、自分達、警察の捜査を遅らせてきた犯人がこんな簡単に証拠を残すとは思ってはいなかったが、もし、諸岡の事件だけ別の犯人いたとしたら……。

それはつまり。

 

「それって、今回のモロキン殺害を今までの事件に似せた犯行……つまり、犯人は……模"造"犯」

 

「「「模"倣"犯!」」」

 

「も、模倣犯……」

 

千枝の良い間違いに肩を落とす総司達。

千枝はシャドウとの戦いの時は、"戦車"のアルカナだけあり、特別捜査隊の斬り込み隊長と称せる活躍をしてくれるが、頭を使う戦いには滅法弱い。

それは、この様な話し合いにも影響してしまう。

 

「でも、模倣犯なら色々と納得出来るけど……まだ完全に判断するのは少し迂闊じゃない?」

 

「それに関しては、兄さんも同じ事を言っていた。まだ、確証が無いから全て鵜呑みにはしないでくれって」

 

「しょうがねえ……今日、テスト勉強がてら皆でもう一度集まろうぜ。相棒、今日は洸夜さん時間あるのか?」

 

基本的に洸夜の日常を知らない陽介達。

その為、洸夜の予定を知っているであろう総司に聞くしかない。

 

「確か……今日はバイトが無いって言っていたから大丈夫な筈だ。兄さんメールしとくよ」

 

そう言って総司は携帯で洸夜にメールを打つ。

こう言う暇な日は、洸夜は大抵家事に専念している。

溜まった衣服の洗濯、部屋の掃除、浴場のカビ取り、空気の入れ替え等をしており、今日は家にいる事は総司はしっている。

疲れて布団を敷いて寝る時に感じる、ふかふかした布団の感覚にお日様の匂い。

洸夜のそういう気配りが、現在の堂島家を支えていると言っても過言では無い。

心配する点と言っても、忙しく携帯のメールに気付かない可能性があると言う所だけ。

 

そして、メールを打ち終えて携帯を総司がしまった時だった。

 

「あ……」

 

雪子が何かを思い出した様に声を上げ、それに反応した総司達は雪子の方を向いた。

基本的にどの様な場面でも、其なりに冷静な雪子。

そんな雪子がこんな反応するのは珍しいと同時に、何かある時だけなのを総司達は知っている。

 

「どうしたの雪子? 何か気付いた?」

 

少し心配しながら雪子の様子を伺う千枝に対し、雪子は少し困惑に近い表情をしてしまった。

 

「さっき、掲示板を見に行ったんだけど……なんか、今回から赤点取った生徒は居残りで"補習授業"をするって書いてあったのを思い出したの」

 

「「ほ、補習授業~~~!?」」

 

あまりのカミングアウトを聞き、思わず雪子に顔を近付ける陽介と千枝。

日頃はボケとツッコミの様な二人だが、こんな時も息はピッタリだ。

 

「何で! どうして!? 今まではそんなの無かったじゃん! あったとしてもレポートぐらいだったよね!」

 

「そうだぜ! そんなの横暴だ!? 」

 

「わ、私に言われても……でも、他の人達の話を聞くと、なんか、これを提案したの諸岡先生らしいよ」

 

「「は?……モロキンが?」」

 

ドン引きした表情の雪子の言葉に、今度は固まる二人。

そんなさっきから表情とかが変わる二人のリアクションに、総司は劇か何かを見ている気分に成ってしまう。

ここまで表情とか変わる物だと感心してしまう。

 

総司が三人のやり取りを無表情で眺めている間にも、三人の会話は続く。

 

「うん……なんか、赤点をとっても生徒が反省しないのは、罰が甘過ぎるからだって……それで、強制的に補習授業を……」

 

「己~~~~モロキン~~~~~~!!!」

 

「死して尚も~~~~~!!?」

 

頭を押さえながら、ワシャワシャと髪をかき乱して騒ぐ陽介と千枝。

最早、目に涙すら溜めている。

 

「……そこまで嫌なのか」

 

「嫌に決まってんだろ! 何か、お前は何か! この間、兄貴のお見合いに付き添って一生で見れるか見れないか位の美人に会って余裕を得たのか!?」

 

「こんな横暴、PTAが黙って無いからね!!」

 

「いや……今回は諸岡先生、間違って無いから……」

 

雪子自身も、諸岡の事は口等が悪く好きでは無かった。

それどころか、明らかに苦手・嫌いの部類に入っている。

だが、それを踏まえても今回は諸岡が正しいとしか言えなかった。

 

「確かに美人だった!」

 

「うがあああっ! チクショウっ! 写メとかねえのかよっ!?」

 

何故か勝ち誇った表情の総司の首筋を掴み、おもいっきり揺らす陽介。

そして、自分の目の前で未だに騒いでいる親友の姿。

 

「ハア……。(誰か、助けて……)」

 

涙を思いっきり流して良いなら流したい。

雪子は、そんな気分で溜め息を吐くのだった。

 

==============

 

同日

 

現在、商店街

 

昼も終わった頃、洸夜は商店街を歩いていた。

いつもなら、バイトの無い日は自宅で家事に集中している事が多く、今日もその予定にしていた。

しかし、今現在は真夏の商店街を歩いている。

 

洸夜は、その元凶である携帯のメールを開いた。

 

「……。(兄にこんな炎天下を歩かせるとは……総司、俺に恨みでもあんのか? くそ……腕のブレスレットが熱を吸収しているからか暑い……!)」

 

総司を通して美鶴から貰った腕輪は金属製である為、洸夜の手首に熱が集中する。

バイクで行けば良いのだが、最早動く鉄板と成り果てたバイクに股がる勇気は洸夜には無い。

 

「道の先に陽炎が見える……」

 

ユラユラと世界を歪ませる陽炎。

見ているだけでおかしく成りそうになる。

 

「温暖化なんて……滅べば良い」

 

洸夜が猛暑に対し、憎しみを抱こうとしていた時だった。

商店街の真ん中で騒ぐ、金髪の男子学生の姿が目に入った。

夏服の制服に身を包み、写真らしき物を手に数枚持って何かを言いながらに道行く人達に写真を配っているが、渡された人は困惑した表情をして去っていく。

そして、男子学生は今度は洸夜に気付き、ニヤ付きながら近付いてきた。

 

「豆腐屋のバイトのお兄さんじゃん!」

 

「俺を知っているのか? 」

 

「あんな凄いバイクでこの町を走ってんのは、お兄さんだけだからな。俺じゃなくても顔位は分かるさ」

 

「個人的には、普通のバイクのつもりなんだがな……」

 

あれで普通かよ……と苦笑する男子学生の表情に顔を反らして溜め息を吐く洸夜。

そんな溜め息に慌てる様に写真を洸夜に渡す男子学生。

りせの野次馬に対する洸夜を見ていたらしく、男子学生は洸夜を怒らせたと勘違いしてしまった。少なくとも、先程よりもチャラチャラとした態度を抑えた様子を見た洸夜はそう判断した。

 

「そ、其よりもこの写真……お兄さんにもやるよ!」

 

おもむろに受け取った写真を洸夜は見てみると、写真に写っていたのはお世辞にも明るいと言えない少年の写真だった。

制服を着て一人で写っている写真から察するに、学校か何かでの写真だと言うのが分かる。

こんな事を思いたくは無かったが、まるで生気の感じられない虚ろな目に洸夜は気味悪く感じ、思わず鳥肌が立ってしまった事に驚いた。

しかし、そんな少年の姿にどことなく見覚えがある事に気付いた洸夜。

それは、つい最近の事でも合った。

 

「……この少年は。(確か……りせにしつこく話し掛けて嫌がられていた奴だな)」

 

洸夜は、思わずマジマジと写真を見つめ続けていると、写真を渡してきた男子学生も隣から覗き込んできた。

 

「こいつ、気持ち悪い顔してるでしょ? 写真を見せた皆、お兄さんと同じ表情をしてんだよ」

 

ニヤニヤと語る男子学生の馴れた口調から察するに、自分以外の人にも同じ事を言っているのだと洸夜は感じた。

他人の写真をばらまいてこんな事をする点等を考えれば、この少年と男子学生は其ほど仲が良い訳では無く、其と同時にこの男子学生の性格が良く分かる。

写真を渡された他の人が困惑していたのはこの為だが、洸夜は気持ち悪いと感じてしまった自分が何かを言う資格は無いと感じて口を閉じた。

だが、そんな洸夜に気付かず男子学生は語り続ける。

 

「俺さ、運が良いのか悪いのか……こいつと中学の同級生なんだ」

 

「運が良いのか悪いのか?」

 

気になる話し方をする男子学生の言葉に思わず聞き返してしまった。

 

「お兄さんはまだ知らないんだな。こいつ、今この町で起こってる連続殺人の犯人らしくて警察が今朝、こいつの家に来たんだぜ」

 

「犯人!? こいつが……本当なのか?」

 

「マジマジ! 現にこいつ、殺された教師が見付かってから家に帰って無いらしいし。はっきり言ってもうーーー」

 

「コラァッ!! そこの学生ッ!!!」

 

男子学生の声を遮る程の声に、思わず振り向くと遠くから警官が走って来ていた。

そして、その警官の姿に逃げ出す男子学生。

 

「やべっ! お兄さん、その写真はやるから!」

 

そう言って、男子学生は警官に追い掛けられて行ってしまった。

そして、静かに成った商店街で洸夜はもう一度写真に目を通した。

 

「……。(何かやらかす様な雰囲気だったが……まさか本当に……! いや、先ずは総司達と合流するのが先だな)」

 

内心でそう呟くと、洸夜は暑さも忘れて急いでジュネスへと向かっていった。

 

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同日

 

現在、ジュネス(特別捜査本部)

 

総司達はマヨナカテレビの事件について話し合う為にジュネスに来ていたが、来週は期末テストもあって話は自然にそっちの方へと話が行く。

そんな屋根のある休憩所のテーブルに、勉強等から来る怠さかうつ伏せに成る千枝。

テーブルの上に置いてある教科書とノートが、可哀想になる程に視線には入れられてはいなかった。

 

「あ~……来週はもう期末かぁ、“赤”久々にくるなコレ……」

 

「どうせ、しょっちゅうだろ」

 

ジュネスの休憩所で飲み物を飲みながら、来週の期末テストの事を愚痴る千枝に陽介が突っ込む。

 

「けど千枝は赤の科目以外はいっつも平均点以上だよね」

 

「そ、そこ!フォローになってないから!メリハリよメリハリ!!」

 

フォローのつもりで言ったつもりが、千枝が赤を取っていると言う確定的な証言を言う雪子に千枝はジュースをイッキ飲みして抗議し、他のメンバーはそんな様子に笑っている。

そんなメンバー達の会話に、りせは我慢出来なかったのか声を出して笑ってしまう。

 

「あははは!」

 

「も、もうりせちゃんまで!」

 

「ふふ、違うのごめんなさい。私……新しい学校でも、どうせ当分は友達は出来ないって思ってたから……きっかけが事件なんかじゃなきゃもっと良かったんだけどね」

 

アイドルである為、学校に行っても友達は出来ずらいと思っていたりせにとって事件がきっかけとは言え、感謝はしないが総司達との出会いは嬉しいものだった。

他のメンバーもりせの気持ちを察したらしく、静かに頷く中で総司が本題に入った。

 

「それにしてもモロキンの件……どう思う? 一応、兄さんは模倣犯かも知れないって言ってたけど……真犯人と何か関係があると思うか?」

 

「昨日も言ったけど少なくとも、テレビは使われてないよ。前より“鼻”が利かなくなってきてるけどそれくらいは間違えないクマよ」

 

「それは分かったけどよ、犯人の動機ってなんなんスかね? モロキンを恨んでいる奴なんて腐る程いると思うッスけど……」

 

「動機か……確かに"マヨナカテレビ"が関係無い以上は動機も考えないとな」

 

一応、考えてはいるが、考えれば考える程に謎が生まれてくる。

結局、考えても何も分からずテーブルに倒れてしまう総司だったが、そんな様子を見ていた花村が何か秘密を白状するかの様な苦肉の表情をした。

 

「……俺、白状するとさ。正直、心の何処かでモロキンの奴が犯人かもって思ってた事もあんだ……」

 

「え? どうしてモロキンが犯人?」

 

「ウチから二人目って言うけど、実際はもっとだろ? それに、あいつ先輩達の事を“死んで当然”とか何度も言ってたしよ、けど……疑って悪かったなって……」

 

「……」

 

陽介の言葉に皆は飲み物を飲みながら黙って聞いてる。

もしかすると、陽介以外にも諸岡が犯人だと思っていた者がいるかも知れない。

総司も、微かにだが諸岡が犯人かも知れないと思った事は有った。

だから、陽介の気持ちが分かる。

 

「ムカつく奴だったけど、こんな死に方ありえないだろ……モロキンだけじゃないけど、かわいそうっつーか、なんつーか……クソッ! とにかく犯人達許せねぇよ!」

 

「そうだね……モロキンの為にも、あたしたちに出来ることやるしかないよ!」

 

陽介と千枝の言葉に力強く頷くメンバー達。

 

「そーと決まれば、早速手掛かりを探しますか。洸夜さんばっかりに頼る訳にも行かないスから……」

 

完二がそう言って立ち、総司達も立とうとした時だった。

 

「その必要はありません」

 

自分達の後ろから聞こえる幼いながら大人びた口調での突然の言葉に、全員が声の出所を見るが完二だけが過剰な反応を見せた。

 

「お、おめぇ……」

 

「諸岡さんについての調査はもう必要ありません。容疑者が固まった様です。ここからは警察に任せるべきでしょう」

 

そこには、青い特徴的な帽子を被り、見た目に似合わない雰囲気を漂わせる人物、白鐘直斗が立っていた。

総司達は何だかんだで直斗と遭遇している。

特に完二は直接話を聞かれた為、無駄に意識してしまった。

そして、突然の登場に呆気に成っている陽介達を代表して総司が直斗へ応えた。

 

「どうして君にそんな事が分かる?」

 

自分よりも年下の少年が、何故テレビにも発表されていない情報を知っているのかと言う当たり前の疑問を総司は感じ、直斗に問いかけるが、それに対して直斗は至って冷静に答えた。

 

「本来なら答える義務はありませんが……貴方のお兄さんには、こちらもお世話になりましたので教えます」

 

「「「!?」」」

 

その言葉に総司達は驚いた様子だったが、総司は直ぐに冷静になった。

最早、総司の中では洸夜と直斗が知り合いだとしても其ぐらいでは驚きに値しなくなっていた。

 

「兄さんとの事は一旦保留にして、それで君が知っている理由は?」

 

「……僕が県警本部の要請で来ている“特別捜査協力員”の探偵だからですよ」

 

その言葉に陽介達の驚きの我慢が出来なかった。

 

「探偵! なんだそりゃ!?」

 

「それよりも、容疑者が固まったって誰なのっ!?」

 

陽介達のリアクションに至って冷静で平常心を保っている直斗は応えた。

探偵である直斗はこれぐらいでは動揺せず、平常心を保つのは造作も無かった。

 

「顔は分かりますが、名前は僕も教えてもらっていません。なんせ、容疑者は僕達と同じ“高校生の少年”なんですから」

 

「こ、高校生!?」

 

「なんじゃそりゃ!?」

 

容疑者は高校生の言葉に、総司達は顔を見合わせるが直斗はそれを無視して話を続ける。

 

「メディアにはまだ伏せられていますが、少なくとも皆さんの学校の生徒じゃない様です。ただ、今回の容疑者手配にはよほど確信があるみたいですね……。今までの事件と問題の少年との関連が周囲の証言ではっきりしているそうですから、逮捕は時間の問題かも知れません」

 

「……容疑者は高校生か」

 

直斗の言葉に総司達は下を向く。

犯人が自分達と同じ高校生が殺人犯だと聞いたら良い気分に成らなければ、同じ高校生と言う事実が後味悪い感じに総司達にまとわりついた。

だが、総司は少し疑問も感じていた。

 

「……。(警察が見付けた犯人は恐らくはモロキンを殺した模倣犯の方だ。だけど、彼の話ならその犯人は山野アナや小西先輩の事件にも関係している様な感じだが……どう言う事だ? 兄さんの推理が間違っているのか?)」

 

一人で総司が悩んでいると、陽介が直斗に対して口を開いた。

 

「ところで、お前は何しに来たんだ? 伏せられるんだろ、何でわざわざ知らせに来た?」

 

陽介の言葉に、直斗は帽子を深く被り直すと目を閉じながら応えた。

 

「皆さんの“遊び”も間もなく終わりになるかも知れない……それだけは伝えた方がいいと思ったので」

 

「……。(さっきは、兄さんにお世話になったからって言って無かったか?)」

 

直斗の言葉に、総司は普通に受け取ったのだが陽介達の怒りに触れてしまったらしく、陽介が立ち上がった。

 

「な、何だと!」

 

「おい! 陽介!」

 

「花村!?」

 

突如、出てきて自分達の行動を遊び扱いされた他のメンバーも直斗の言葉に怒りを覚えたが、流石に暴力を振るう訳には行かない。

それを分かっている総司達は、陽介を止めようとしたが間に合わず、陽介は直斗の間合いに入り手を伸ばし、直斗に掴み掛かる。

そんな時だった。

 

「……少しは成長したと思ったのは俺の気のせいだったか?」

 

「兄さん……」

 

「洸夜さん……」

 

洸夜は陽介の腕を掴んで、直斗との間に入って来ていた。

突然の出来事に陽介と直斗は驚いていて、総司達も驚きながらも大事に成らずにすんだとホッとしている様子だ。

 

そして、洸夜が陽介の腕を放すと、直斗は洸夜に顔を向けた。

 

「洸夜さん……やっぱり貴方も関係していたんですね」

 

直斗の言葉に洸夜は小さく笑いながら返答する。

 

「よく言うぜ……俺と総司が兄弟って分かってるって事は、少なくとも総司達に俺も関係しているって感づいてたんだろ?」

 

「当たらずも遠からずってところですね……」

 

洸夜と直斗の間で飛び交う言葉は少ないが洸夜と直斗の二人には意味が分かっている、だが第三者である総司達にはこの少ない言葉の意味が分からず、二人を見る事しか出来ない。

そんな中、千枝が手を挙げる。

 

「あの〜 洸夜さんは彼の事を知っているんですか?」

 

「まあ、色々とな……それよりも直斗、あんまり総司達を刺激する様な言い方は止めてくれないか?」

 

「僕はそんなつもりじゃあ無かったんですけどね……」

 

そう言って直斗は帽子を深く被り直す。

本人に悪気が無いかも知れないが、いきなり現れてあんな事を言えば、相手がどんな反応するかは予想出来ると思うが、少なくとも直斗は相手のリアクションは関係ないと言う事だろう。

直斗からは、反省の雰囲気処か動揺した様子も無かった。

そんな余裕を持った直人の態度が気に入らなかったのか、直斗に対してりせが口を開いた。

 

「……遊びはそっちの方なんじゃないの?」

 

「!?」

 

「ちょ、ちょっとりせちゃん!?」

 

普段のなら言わない様な事を言うりせに皆が驚いた感じになる中、直斗は一瞬だけ目を大きく開き、初めてリアクションを見せた。

そして、それに気付いた洸夜がりせの方を見る。

 

「りせ……悪いが少し黙っててくれ」

 

洸夜がりせを説得するが、りせは黙らず話を続ける。

 

「探偵だか何だか知らないけど、貴方は謎を解いてるだけでしょ? 私達の何を分かっているの?そっちの方が……全然遊びよ」

 

「……」

 

りせの言葉に黙ってしまう直斗と総司達だったが、洸夜は違った。

洸夜はそんな様子に溜め息を吐いた。

 

「だったら……俺達はそれ以下の遊びだな」

 

「!?」

 

「ちょ、洸夜さんはどっちの味方なんスか!?」

 

「……洸夜さん、私も納得できません」

 

驚く完二達と怒った目で洸夜を見るりせだったが、洸夜が顔を上げてりせを見る目を見て総司が気付く。

 

「!?(兄さんのあの目は、完全に怒っている時の目だ!)」

 

そう今の洸夜の目は、冷たく一切の冗談も写ってない目。

だが、りせや皆は少し頭に血が上っているのか洸夜の様子に気付く様子がなかった。

そんな中で洸夜は口を開いた。

 

「すまない直斗、少し席を外して貰えるか?」

 

「あ、いえ、僕は……そろそろ帰る気だったので……」

 

直斗は気付いているのだろう洸夜の怒気に、その為か少し声が震えていた。

そんな直斗の様子に洸夜は、特にリアクションはせず、静かに空いている席に腰を掛けた

 

「そうか……じゃあ、気をつけて帰れよ」

 

「あ、はい……」

 

そう言って直斗は、総司達の顔を見渡すと後ろを向きゆっくりと帰っていったが途中で足を止めて洸夜に声をかけた。

 

「洸夜さん、帰る前に一つ聞いても宜しいですか?」

 

「……なんだ?」

 

別に断る理由もない洸夜は視線は直斗に向けてはいないが直斗からの質問を待つ。

 

「いえ、ただこの事件はこのまま終わるんでしょうかと思って……」

 

「前にも言ったが俺は一般人だ。あんまり参考には成らないと思うが……?」

 

「僕も前に言いましたが、貴方の意見と推理はとても参考になるのでお願いしています」

 

洸夜は基本的に自分の事を過小評価する性格だが、総司達を初め、探偵である直斗でも洸夜の推理力と想像力はかなりのものだと思っている。

だからこそ直斗は、自分には思い付かない様な事を思い付く洸夜の意見が聞きたかった。

 

「俺の予想ではこの事件は恐らく終わらない……いや、終わらせられない。お前も気付いているんだろ? 今回の事件の違和感に……。(そうじゃなきゃ、俺が模倣犯と言う推理を出すのはもう少し先に成っていたからな)」

 

洸夜が今回の事件が模倣犯による犯行だと推理した切っ掛けは、足立を通じて聞いた直斗がそう推理していた事を聞いたから。

後は、自分の持つ情報と照らし合わせれば自ずと模倣犯の可能性が高い。

 

「……」

 

洸夜の言葉に直斗は静かに目を閉じ、総司達は洸夜と直斗のやり取りに息を飲んで聞いていた。

 

「総司達にも言ったが、俺自身は今までの事件と今回の事件は別物と考えている。これと言った証拠は無いが、少なくとも俺はそう睨んだ……まだ何か聞きたいか?」

 

洸夜の言葉に直斗は黙って首を横に降るが、その表情に笑みが見える事から、どうやら望む答えが聞けた事が分かる。

そして、直斗はゆっくりと洸夜を見た。

 

「いえ、もう結構です。あくまで貴方の意見を聞きたかっただけですから……。そうか、やっぱり貴方も……」

 

最後の方は小さくて聞き取れなかったが、洸夜は黙って聞いている。

 

「ありがとうございました洸夜さん。では今度こそ僕は帰ります。ではさよなら」

 

そう言って直斗は今度こそ帰り、ジュネスから去っていった。

そして直斗が帰った後、総司達の視線は自然と洸夜へと集まる。

だが、総司は少しだけ気まずい顔をしていた。

それもその筈、直斗との会話で少し間があいたとはいえ、洸夜の目はまだ怒りがある。

しかし、りせはそれに気付かずに声をあげた。

 

「洸夜さん! 私達が彼以下ってどう言う事ですか! さっきの子は私達の事を知らないくせに“遊び”って言われたのに……何で洸夜さんはそんな事が言えるんですか!」

 

「……ちょ、りせちゃん、落ち着いて!」

 

千枝がりせを落ち着かせ様としたが、陽介も立ち上がり洸夜に抗議する。

 

「りせちゃんの言う通りですよ!俺達は大切な人を失ったんだ……“遊び”でやれるかよ……!」

 

「ヨースケ……」

 

陽介の言葉にクマが聞いていたが、肝心の洸夜はと言うと……

 

「……駄目だ完二。この箱には潜水艦は見付からないぞ」

 

「マジっスか!?やっぱりそう簡単には見付からないか……」

 

テーブルで、おっとっとの隠しキャラである潜水艦を完二と探していた。

その洸夜の全く反省していない様子に、りせと陽介はテーブルから立ち上がり怒りだした。

「洸夜さん!あんた何なんだよ!その態度は!」

 

「洸夜さんのせいでこう成ったのにふざけないで下さい!」

 

「いや……でも、おっとっとの潜水艦は……」

 

 

「「完二は黙ってろ!/て!」」

 

「はい……」

 

陽介達に一蹴された完二は落ち込んでしまい椅子の上で器用に体育座りをしていじけてる完二を、総司と千枝が慰めている。

しかし洸夜は相変わらず冷静で、おっとっとを完二に返した後にりせ達に視線を戻すと口を開いた。

 

「……俺、子供の駄々に付き合う気はないんだが?」

 

洸夜の言葉は最早火に油よりも強力な感じでりせ達の怒りのボルテージを上げていく。

 

「流石に私も怒りますよ……」

 

「潜水艦探しならまだしも、俺達の事を駄々っ子扱いかよ……」

 

こめかみをピクピクさせながら、不吉な笑みを浮かばせながら洸夜に近付いた。

その様子に洸夜は一瞬だけ陽介達を睨むと口を開いた

 

「だが、実際はお前等……少なくともつい最近まで遊び気分だったろ? 違うか?」

 

「「うっ!?」」

 

さっきまで強気だった陽介達だったが、痛い所をつかれて少し後ずさりする。

そして、総司達も声を出してはいないが本当の事を言われて耳が痛いのか耳を手で塞いでいる。

 

「で、でも!あいつは俺達の事を知らない癖にあんな事を言ったんですよ!」

 

「そ、そうですよ!言い方ぐらいあるじゃないですか!」

 

負けじとばかりに陽介達は反論して、その様子に洸夜は少し考えるそぶりをした後に飲み物を少し飲んでから口を開いた。

 

「確かに……言い方は悪かったかも知れないな」

 

洸夜の言葉に陽介とりせの顔に笑みが生まれるが、洸夜の話はまだ終わってなかった。

 

「だがな……お前等があいつについて何を知っているんだ?」

 

「えっ?いや、全然知らないですよ。あいつとはそんなに話さないし……」

 

洸夜の言葉に陽介は普通に答えたつもりだったが、総司や雪子は何と無くだが、洸夜の言いたい事が分かった。

だが、陽介やりせの様子見るからに気付いている様子はなく、洸夜は少し目に力を入れて陽介達を睨むとそのままの状態で口を開く。

 

「だったらお前等……何であいつの事、好き勝手に言ってんだ? お前等の言い分は、直斗が自分達の事を知らない癖に自分達の行動を“遊び”だと言った事に怒ったと言う理由だ。だがそれは直斗からしても自分の方からも言える筈だぞ」

 

「「うっ……」」

 

的確に正論を言われて黙ってしまう陽介達だが、洸夜の話はまだ終わらない。

 

「それにな……あっちからしたら十分遊びなんだよ……俺達の行動は」

 

「あの〜洸夜さん、私達の行動のどこら辺が遊びになるんですか?」

 

いつもの事ながら、洸夜の言葉に対して質問する役割が板について来た千枝が洸夜に質問する。

 

「……いいか? 直斗は警察から直接依頼されているから、ちゃんとした捜査する理由がある。それに比べて俺達は、いくら警察では解決出来ないとは言え、外から見たら一般人がただ首を突っ込んでいるだけだ。場合によっては捜査の邪魔をしている野次馬と同じかも知れない」

 

「……でもよ洸夜さん。俺達は邪魔する気でやっている訳じゃあ……」

 

「ああ、俺達はそんな気持ちでやっている訳じゃない……」

 

総司達の言葉に洸夜は頷くと話を続けた。

 

「お前達がそんな気持ちで事件に首を突っ込んでいる訳じゃないって、俺にはもう分かっているよ。それに直斗もあんな事を言っていたが、実際はちゃんとお前等の事を認めているかもな……」

 

洸夜の言葉に総司達は顔を見合わせると、それは無いだろうと言った感じの顔になる。

 

「いや、それは無いでしょう……」

 

千枝に関しては最早、口に出ている。

 

 

「本当に邪魔だと思っているなら、とっくに叔父さんとかに報告してるさ……それに直斗は何だかんだでちゃんとお前等に情報とか教えているだろう?」

 

「……そう言えばそうだよね?」

 

「確かに何だかんだで色々教えて貰ったな……」

 

「認めてくれてるなら、もっと素直に言えばいいのに……」

 

「きっと照れ屋さんなんだよ。クマだってこう見えてかなりの照れ屋さんなんだよ☆」

 

「いやいや嘘つけ!照れ屋な奴が外で全開になろうとする訳無いだろう!」

 

そう言って陽介がクマの頬を引っ張り、そして他のメンバーもそれを見て笑いだす。そして洸夜は総司が自分の隣に来たのに気付くと、そんな様子を見ながら話をする。

 

「……すまないな」

 

「?……何が?」

 

突然の兄である洸夜の言葉に総司は聞き返す。

 

「……俺は不器用だから、あんな風にしか物事を言えない。だから、そのたびにお前等は傷付くだろ?」

 

洸夜の言葉に総司は面食らった顔になるが、直ぐに顔は笑みに戻ると首を横に振った。

 

「いや、俺は少なくとも兄さんには感謝している。俺達はまだ子供みたいな所があるから、兄さんにはっきり言ってもらって助かってるんだ。もし、兄さんが俺達にペルソナ能力についてや事件についての事を言ってくれなかったら、俺達はペルソナ能力をゲームか何かの力と勘違いしたままだったと思う……だから、ありがとう兄さん」

 

「……」

 

総司の言葉に今度は洸夜が面食らった顔をしたが、総司同様に直ぐに顔を戻すと、そうか……と呟き、遊んでいる陽介達に視線を戻すと再び口を開いた。

 

「総司……あいつらは、お前にとって大切な仲間なんだな?」

 

何気無く言ったつもりの洸夜の言葉。

そんな兄の言葉に、総司は顔を洸夜に向けて笑顔のまま口を開いた瞬間だった。

 

「『ああ、俺の大切な仲間で友達だ』」

 

「っ!?」

 

その総司の言葉に一瞬だけ総司が『彼』と重なって見えた洸夜は驚くと同時に呆気にとられる洸夜。

総司の姿が『彼』に重なって見えたの少なくない、その事からして総司と『彼』には少なからず共通点があるのだろう。

そして、総司はその洸夜の姿に驚いた顔になっており、その様子を見た洸夜は総司に話し掛けた。

 

「どうした総司、そんな顔をして? 俺の顔に何か付いてるか?」

 

「いや、だって兄さん……涙が出てるから……」

 

「なっ!? はっ!?」

 

総司の言葉に目の辺りを手で触ってみると確かに涙が流れていた。

その自分の状態に、洸夜はパニクるが直ぐに冷静になると突然笑いだした。

 

「ククク、アハハハ……そうかそうか、俺は……」

 

突然、洸夜が何かを言い初めたと思ったら、まるで何かに納得する様な感じに困惑する総司だったが、洸夜は涙を拭いて笑うのをやめると視線はふざけている陽介達に向けながら口を開く

 

「総司……お前は俺みたいになるなよ」

 

「?」

 

「お前は仲間を大切にしろ、そして守れ。俺みたいに手遅れにならない様にな……」

 

「兄さん……それって、もしかして兄さんがペルソナ能力を持っている事と関係が?」

 

「今日はもう疲れた! 先に帰ってるぞ……」

 

総司の言葉を最後まで聞かずに洸夜は立ち上がるとそう言って先に帰ってしまった。

 

そして総司はそんな兄の背中を見るだけだった。

恐らく総司は、お見合いの時と同じでこの話はまだ聞いてはいけない事だと判断した。

そんな時だ、クマが帰っていく洸夜を見ている事に気が付くと総司はクマに近付き話掛けた。

 

「どうしたクマ? 何かあったのか?」

 

「う〜ん、いや何でもないよセンセイ!それより勉強するんじゃなかったんじゃないの?」

 

「あっ!忘れてた……」

 

そう言って、総司は肩を落し、皆の下に行く総司を見ながらクマも隣を歩くが、クマはある疑問が頭にあった。

 

「……。(う〜ん、大センセイから一瞬だけシャドウの匂いがしたんだけど気のせいクマよね……)」

 

=============

 

7月29日 (金) 雨

 

あれから数日が経ち……総司達は期末テストの為に必死で勉強していたが途中で洸夜に泣き付いてきたりして、約束通りの勉強会を開く事になり、何とかギリギリで千枝や陽介達は赤を免れたとお礼をいったりなど事件についての情報はなかった。

洸夜が、総司から聞いた話ではジュネスで偶然サボっていた足立から容疑者の行方が分からないとの情報を得たのが最後らしい。

あと、総司は学年で五位以内に入っていて洸夜と堂島や菜々子から褒められて嬉しそうだが、今一複雑な表情もしていたのを洸夜は気付いていた。

理由は単純に、犯人を自分達の手で捕まえられないのが辛いからだ。

本来、調査をする警察が犯人を追い詰めるのは良いことなのは総司達も分かっている。

しかし、やるせない気持ちもある。

そこの所を洸夜は理解しているつもりである為、下手に口出しはしなかった。

 

そして、霧の出ていた金曜日の夜の事……。

 

ピーー、ザ、ザザーー

 

「これは……」

 

何時も通り洸夜は霧の出る夜にマヨナカテレビを確認していた。

この所、対して異変がなかった為、今日も何もないだろうと思った洸夜だったが今日は少し違った。

景色はいつものテレビの広場の様に、たいして特徴がない場所だったが、そこにはどこか顔色が悪く文字通り目が死んでいる様な目をした写真の少年が映っていた。

そして、少年はまるで自分がテレビに気付いている事を知っているかの様にニヤリと口を歪ませると、静かに口を動かした。

 

『みんな、僕のこと見ているつもりなんだろ? ……みんな、僕のこと知っているつもりなんだろ?』

 

「兄さん!」

 

洸夜がテレビの中にいる少年の言葉を聞いていると、総司が部屋の扉を勢いよく開けて入って来た。

それに対して洸夜は、一瞬だけ視線を総司に向けて頷くと直ぐにテレビへと視線を戻した。

 

「やられたな……」

 

「兄さん、彼はまさか……」

 

「ああ、恐らくは諸岡さんを殺害した模倣犯だろ」

 

机の上に置いてあった写真を総司へと見せる洸夜。

そして、その写真とテレビを見比べて思わず溜め息を洩らす総司。

 

「やっぱり……けど、模倣犯はテレビの世界を知らない筈じゃあ!?」

 

総司の言う通り、洸夜は模倣犯がテレビの存在を知らないと言う考えで固め、総司にもそう伝えていた。

だが、現に少年はテレビの中にいる。

総司の言葉に、目を閉じて洸夜だったが直ぐに口を開いた。

 

「俺の考えが甘かったと言う事だな……」

 

そう言って洸夜は、拳を握り締めながらテレビを見ているとテレビの中の少年はまるで挑発する様に笑い、ゆっくりと口を開いた。

 

『捕まえてごらんよ……フフフ。お前等なんかに捕まらないよ……』

 

「「……。(イラ)」」

 

ザ、ザザーー

 

そう言ってマヨナカテレビは消えて砂嵐に戻ってしまったが、洸夜と総司はテレビに視線を戻さずにそのまま状態で立っていた。

常人よりも声が低く、顔が腫れているかの様に太った顔。

別にその人の外見に何かを言うつもりは無い。

だが、他者を見下すあの態度が何故か洸夜と総司は気に入らなかった。

そして、総司が口を開く。

 

「兄さん……」

 

「なんだ……?」

 

「明日、皆を呼んでテレビの中に行くよ」

 

「奇遇だな、俺もだ……一応聞くが、何をするか分かってるな?」

 

「そう言う兄さんは?」

 

「じゃあ一斉に言ってみるか?」

 

洸夜の言葉に総司は無言で笑うと、洸夜と総司は息を合わせて同時に口を開いた。

 

「「あいつを取っ捕まえて無理矢理でも話を聞き出すんだよ!!!」」

 

 

END


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