ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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最強の五人の集団と十人で最強の集団。
どっちが優れているんだろう?


弱りし仮面使い

同日

 

現在 ボイドクエスト (通路)

 

「キマイラ! / ネコショウグン!」

 

二人の言葉にキマイラはシャドウの頭を噛みきり、ネコショウグンは軍配で叩き付けた。

そして、そのままシャドウが消滅すると洸夜と総司は互いに武器を構えながら背を合わせた。

 

「入った直後にこのザマとは……中々に歓迎してくれるな」

 

「 確かにね。でも、なんて数だ……!」

 

目の前のシャドウを斬り衝けながら話す総司と洸夜。

ボイドクエストに進入した洸夜と総司達を待っていたのは大量のシャドウ達との激突だった。

そして、その周りでも陽介達が大量に出現し続けるシャドウに奮闘をしていた。

 

「おりゃあぁぁ!……って、コイツ硬え!? クナイが刃こぼれしやがった!?」

 

「"苦悩のバザルト"……花村先輩!そのシャドウは物理には強いけど、疾風属性には弱いよ!」

 

「マジかよ!? ……クマの服の次はクナイの修理代か……ちくしょう! スサノオッ!」

 

『ガルーラ』

 

りせの言葉に陽介は嘆きながらもガルーラを放つ。

そして、まるで陽介の鬱憤を晴らすかの様にガルーラが直撃したシャドウは岩の様なその身体ごと崩れ去った。

その時、二人より少し離れて戦っていた雪子がりせの様子を見て叫んだ。

 

「りせちゃん避けてッ!?」

 

「え……?」

 

陽介の方に注意を向けていた為に、自分に近付いて来ていたシャドウの存在に気付かなかったりせ。

りせが振り向くと武者の姿をしたシャドウ"雨上がりの武者"が巨大な刀を今まさに、りせの後ろから降り下ろそうとしていた。

その様子に今度は洸夜が叫んだ。

 

「りせッ!」

 

「!」

 

洸夜はとっさに刀をシャドウへと投げ、そのまま刀は吸い込まれる様にシャドウの顔面へと突き刺さった。

洸夜は全力で走り、シャドウが倒れるギリギリのところで突き刺さった刀を抜いてりせを自分の背中へと隠す様にして守りの態勢に成り、顔を向けずにりせに話し掛けた。

 

「りせ、油断するな。周りにサポートすると同時に自分の周囲も警戒しろ……!」

 

「は、はい!」

 

日常とは違う雰囲気の洸夜の言葉に、りせは今が非現実である事だと自覚し直して気を引き締めた。

その雰囲気の洸夜は頷き、フロアにいるメンバー全員に聞こえる様に口を開いた。

 

「総司ッ! 他のメンバーに指示を出せッ!主力と護衛に別けさせろ! 何も分からずに相手の耐性属性で攻撃したら無駄になる……りせのサポートで弱点をつけッ! セトッ!」

 

洸夜は黒龍の姿をしたペルソナ"セト"を召喚し、総司が戦っていたシャドウ目掛けて飛翔してそのままシャドウを踏み潰した。

それによって指示を出す余裕が出来た総司は他のメンバーに指示を出す。

 

「完二! 雪子! クマ! 三人は俺と一緒に主力。陽介と千枝は兄さんと一緒にりせとキツネのサポートだ!」

 

「ウッス!/了解ッ!/分かったクマッ!」

 

主力の役割となった三人は返事をした。

だが、苦戦を強いられている陽介と千枝はそれどころかでは無かった。

 

「ちょッ!? やべッ!」

 

「ゴメンッ! 直ぐにりせちゃんの側に行けそうにないかも!?」

 

「ッ! (弱体化に能力の制限……どこまでやれるか分からないが行くしかない!) ワイトッ!」

 

キマイラとセトを戻し、洸夜はりせの側にワイトを召喚した。

そして、そのままワイトは包み込む様にりせとヒミコを覆った。

 

「この力って……」

 

「りせ! ワイトのシャミングでお前とペルソナをシャドウから隠している。その間に俺は花村達の救援に向かう。お前は総司達のサポートだ!」

 

「はい!」

 

りせが頷くのを確認すると、洸夜は刀を持ちながらシャドウの大群の中へ入って行き、りせはワイトの力に助けられながらもシャドウの間を走り総司達の下へと向かった。

その間にもシャドウに囲まれ始めていた陽介と千枝の奮闘は続いていた。

 

「このっ! このッ! 一体なんでこんなにシャドウがいるの……他の所よりも数倍多いよ!?」

 

「多分……あの久保って奴の想いが強すぎんだろ! スサノオッ!」

 

『疾風ブースタ+マハガルーラ』

 

スズカゴンゲンと共にシャドウを蹴る千枝と疾風でシャドウを凪ぎ払う陽介。

シャドウも抉る様な疾風攻撃に身体の一部を消滅させながら消えていく。

だが、強化したマハガルーラを直撃しても数匹のシャドウは消滅せずに立ち上がり、陽介達に再度襲い掛かった。

陽介達も構えて迎撃の態勢に入る中、二人の後方から洸夜が声をあげる。

 

「伏せろ二人とも! ムラサキシキブッ!」

『火炎ブースタ+マハラギダイン』

 

ムラサキシキブの前に巨大な炎が集まる。

弱体化で下がっている力はブースタ強化で補い、一気にシャドウを殲滅しようした洸夜。

だがその瞬間、美鶴から貰った腕輪に異変が起きる。

 

「!? (腕輪が……! なんだ、締め付けるような……!?)」

 

洸夜は腕輪からの締め付ける様な感じに気付き、その腕輪を掴んだ。

しかし、腕輪からの締め付けは治まらず、それと同時にムラサキシキブのマハラギダインの炎も小さく成っていく。

そして、マハラギダインはシャドウ達に放たれて辺りを焼き付くして行く。

 

「すげえ……」

 

「数匹残ったけど……半分は倒したよ」

 

陽介と千枝はムラサキシキブの攻撃に驚きながらも残ったシャドウを倒し始める。

だが、その光景に洸夜は信じられないと言った表情で見ていた。

 

「……。(ムラサキシキブの魔力は俺のペルソナの中でも一、二を争う程……なのに、強化したマハラギダインで全滅処か半分近くも倒せなかったのか。……まさか、この腕輪の能力制限がここまでとは……暴走させない為とは言えキツいな)」

 

自分でそう思う洸夜の中には既に余裕は無かった。

暴走を抑える為とは言え、只でさえ弱体化で落ちている力を更に制限している。

最早、今の洸夜の力は二年前の戦いの時の力は無く、半分あるか無いかだ。

そして、洸夜はりせが総司達の下に着いたのを確認するとワイトを呼び寄せてムラサキシキブと一緒にもどした。

また、残りのシャドウを倒した陽介と千枝は洸夜に近付いて口を開いた。

 

「洸夜さん! 相棒の方も終わったみたいです。早く合流しましょう」

 

「……はあ。いきなり総力戦って感じだったね」

 

疲れた感じの二人の言葉に洸夜は頷いて総司達の方を見た。

総司達もシャドウを全滅させたらしく自分達の方に手を振っている。

既に周りにシャドウはいない。

そう判断した洸夜は刀を納め、陽介達と共に総司達の下へと歩き出した。

その時、まだヒミコの力を使っていたりせが洸夜達に向かって叫んだ。

 

「危ない避けてッ!!」

 

「ッ! (後ろッ!?) 避けろ二人ともッ!!」

 

りせの言葉に洸夜は一瞬でワイトを再び召喚し、背後から強いシャドウの気配を感じとると陽介と千枝を両手で抱えて横に跳んだ。

それと同時にタッチの差で降り下ろされる巨大な剣。

自分達がさっきまでいた地面に深くめり込む剣を見て陽介と千枝は息を飲み、洸夜も思わず冷や汗を流す。

もしそのまま居たら五体満足ではすまなかっただろう。

そして、自分の兄と友人達を襲った相手を見て、総司は思わずそのシャドウの姿を口にだした。

 

「ロ、ロボット……?」

 

そのシャドウは左右の肩に其々一文字ずつ『正』『義』と刻まれている巨大ロボットの姿をしていた。

 

「"逃避の兵"……気を付けて、そのシャドウは物理耐性と光と闇属性無効を持ってるよ!?」

 

「……大型シャドウ。このままでは分が悪いな……」

 

「一旦、相棒達と合流ーーー」

 

『ムドオン』

 

陽介の言葉が全て言い切る前にシャドウは自分の片腕を外してムドオンを洸夜達に目掛けて放った。

 

「……待ってはくれないか。吸収しろオシリス!」

 

洸夜の言葉にオシリスは大剣を持ってない左手を翳し、その手からムドオンを吸収する。

洸夜もオシリスから自分に力が流れて来るのが伝わった。

そして、洸夜が戦闘を始めた事で陽介と千枝もペルソナを再度召喚して自分達の前で構えさせた。

その現状に総司達も援護しようと動く。

 

「マズイッ!? 皆行くぞ!」

 

「待って先輩! 後ろからシャドウの気配が!?」

 

「なっ!?」

 

りせの言葉に影に隠れた後ろの通路の奥を見る総司達

そこには黒い手と白い手の形をしたシャドウ『キリングハンド』『ゴッドハンド』が天井や壁、あらゆる所から涌き出ていた。

 

「んだあの数は!?」

 

完二は驚きの声を上げた。

そして、シャドウ達はキリングハンドを中心に囲む様にゴッドハンドが集まって総司達に向かった歩いて来る。

その光景に今度は洸夜が声を出した。

 

「総司! こっちは俺達で何とかする! そのシャドウの群れは任せた!」

 

「でも大センセイ! その大型シャドウはかなり強敵クマよ!?」

 

「問題ない! (伊達にあの戦いを生き抜いていない……)」

 

洸夜の言葉に総司は頷いた。

洸夜が陽介達をサポートするならば安心できる。

そして、総司は他のメンバーに向かって頷くとクマ達も頷き完二がシャドウ達の前に出た。

 

「おらぁっ!シャドウ共! この巽完二の新しい力を見せてやらぁっ! ロクテンマオウッ!!」

 

完二の掛け声に伴い現れる赤く巨大なペルソナ『ロクテンマオウ』。

ロクテンマオウはイザナギやオシリスよりも巨大な大剣でゴッドハンド達の群れを凪ぎ払い、ゴッドハンド達は宙を舞った。

 

「よっしゃあっ! このまま行くぜロクテンマオウ!」

 

ロクテンマオウは再び大剣を振り上げ、ゴッドハンド達に降り下ろした。

だがその瞬間、ゴッドハンド二匹が逆立ちしながらロクテンマオウの大剣を止めた。

まさに真剣しらはどり。

パシッ! と言う大剣を抑えた音が綺麗にフロア全体へと響き、その光景に総司達は思わず笑いそうに成るが耐えた。

しかし雪子は……。

 

「アハハハハハハッ! か、完二君……あ、新しい力って……アハハハハハハッ!! パシッ!ってアハハハハハハッ!」

 

「カンジドンマイ!」

 

「完二ださ~い!」

 

「完二……まあ、頑張ったと思うぞ俺は……ブフッ!」

 

「だああぁぁぁぁっ!! どいつもこいつうるせぇっ!つうか、戦ってんの俺だけじゃねえかよっ!」

 

雪子の笑いに釣られ、つい笑いが零れてしまった総司達に顔を真っ赤にして怒る完二。

そんな笑い声は大型シャドウと戦っている洸夜達の耳にも当然届いていた。

 

「……はあ……はあ……なんかあっちの方盛り上がってる気が……」

 

「里中余所見してる場合かよ!」

 

陽介の言葉に千枝は慌ててシャドウに視線を戻した。

その隣で洸夜は今手元にペルソナ白書が無い為、手持ちのペルソナで戦っている。

限られたペルソナと力。

洸夜はそれを補う為にペルソナの合体技ミックスレイドを使う。

 

「オシリス! セト!」

 

『ミックスレイド : 謀殺の木棺』

 

オシリスとセトがシャドウの真後ろに巨大な木棺を作り出した。

その木棺はシャドウにピッタリの大きさで、シャドウはオシリスとセトによって押し入れられるとそのまま木棺に火炎と雷の集中攻撃を放ち、木棺はシャドウが入ったまま燃え上がる。

 

「少しは効いたかシャーーー」

 

「兄さん!」

 

総司が洸夜の言葉を遮った。

そして、洸夜が振り向くとゴッドハンドの数対がいつの間にかに洸夜達の背後を取っていたのだ。

 

『デスバウンド』

 

突如、ゴッドハンド達は洸夜達の目の前でデスバウンドを放ち始めた。

数も多く、デスバウンドがまるで地震の様に思えた。

だが、デスバウンドは洸夜達には届いておらず、陽介は思わず腕を組んだ。

 

「……何してんだあのシャドウ?」

 

「只デスバウンドしながらジャンプしてるだけだよね? 倒して良いのかな……?」

 

「迷っている暇は無いぞ。とっとと倒ーーー」

 

ピシッ!

 

洸夜達の会話の途中で鳴った謎の音に千枝が身構えた。

 

「え……なにこの音」

 

「まるでヒビが入っている様な……って、地面にき亀裂が入ってるじゃねえか!」

 

陽介の言葉に自分達が立っている地面を見た洸夜達。

そこには先程シャドウが放った一撃で誕生したヒビを中心に亀裂が入っていた光景だった。

そして、洸夜達はゴッドハンド達が何故先程から自分達に届かない攻撃をしているのかが分かった。

 

「コイツ等俺達を落とす気かよ!」

 

「その様だ……出来るだけ素早く慎重にゴッドハンドを倒すぞ。行ーーー」

 

『ゴッドハンド!』

 

「「えっ……」」

洸夜と陽介は目の前で起こった事に思わず声を出してしまった。

何故ならば、千枝がシャドウと同じ名前の技ゴッドハンドを放ったのだ。

ゴッドハンドは物理技の中でも強力な部類に入る。

スズカゴンゲンの放ったゴッドハンドは上空から巨大な拳が降り、シャドウのゴッドハンド達を叩き潰した。

それと同時に地面にも大きな衝撃を与えてしまったが……。

顔色を青くする洸夜と陽介とは裏腹に、千枝は勝ち誇っていた。

 

「よしっ! どーよ、同じ名前でもこっちの方が上なんだから!」

 

千枝はそう言ってシャドウ達がいた場所を指差して笑った。

だが、洸夜と陽介は互いに顔を見合わせた。

「……洸夜さん。さっきはああ言いましたけど……落ちる何て有りませんよね?」

 

「当たり前だろ……ここはフロアの一階だぞ。まさか……なあ?」

 

二人は一番想像したくない事を口に出した。

だが、ここは常識が通用出来ない世界なのは皆知っている。

はっきり言えば怖いのだ。

洸夜も……陽介も……このミシミシと鳴り響くフロアが。

そして、段々と自分達の目線が徐々に沈むかの様に下に向かっていく。

 

「あれ? なんかさっきよりもミシミシいってない?」

 

一体誰のお陰でこの廊下の寿命が尽きたのか分かって無い千枝は、フロアの異変に頭を捻る。

そんな千枝に、洸夜と陽介は互いに彼女の顔を見ると静かに口を開く。

 

「千枝ちゃん……/里中……」

 

「え? どうしたの二人と……もぉっ!!?」

 

千枝がそこまで言った瞬間、洸夜達三人の目に闇が広がった。

光が自分達から離れていく。

そうだ、自分達が落ちているんだ。

そう気付いた洸夜と陽介は、何で一階なのに下に落ちるのかと言う疑問を捨て、さっきの言葉の続きを落ちている穴全体に響く様に大声で発した。

 

「反省しろっ!/馬鹿野郎っ!」

 

そう発した洸夜達が見たのは徐々に閉じていくフロアの穴だった。

 

=============

 

「兄さん!」

 

「嘘だろ落ちやがったぞ!」

 

「これで最後クマよ!」

 

総司と完二が洸夜達が落ちた事で叫ぶ中、クマが最後のキリングハンドを武器の爪で斬り上げた。

これでもう周りにシャドウはいない。

そう判断した総司達はりせの方を向き、りせが頷くのを確認すると洸夜達が落ちた穴の方へと走った。

だが、既に穴は閉じられており普通の通路に戻っていた。

穴何て最初から空いてはいなかったと思わせるかの様に綺麗な状態で……。

そして、先程穴が空いていた場所を触りながら雪子が口を開いた

 

「千枝……洸夜さん……花村君………」

 

「はあ……はあ……総力戦の次は分断かよ……何処までも堪に触りやがるぜ!」

 

三人の安否を心配する雪子と、その隣で先程の戦いで乱れた息を整えながらこの世界を作った久保に対する怒りを更に増長させる完二

三人も殺したと思えば次は自分の仲間も危険さらす。

これだけで既に久保に対する完二の怒りのボルテージは憤怒に達していた。

そんな中で総司は冷静に頭を働かせ、りせに三人の居場所を探索してもらう様に頼んだ。

りせも先程の戦いで疲労はしていたが、大事な人達の為に総司の言葉に頷くと自分の身体に鞭を打って探索を開始すると、りせはヒミコの能力によって自分の頭に映し出されるマップを調べ始めた。

 

「う~ん……。(このフロアじゃない……ここも違う。洸夜さん達は下に落ちたのに反応が無い……どうして? ハア……もう、ホントにこの世界は非現実に程が有るよ……ん? 非現実……? もしかして……) ………………っ! 見付けた! 洸夜さん達はこのフロアよりも"上の階"にいる!」

 

探索に苦戦仕掛けたが非現実と言う言葉からある事を思い付いたりせは、洸夜達が落ちたにも関わらず下では無く、敢えて上の方を探索してみると見事に三人の気配を探知した。

だが、りせの言葉に驚いたのは完二だった。

 

「上のフロアだぁ? こっから落ちたんだぞ、何で上なんだよ」

 

「私が知る訳無いでしょ……この世界がオカシイのは今に始まった訳じゃないし」

 

「元々、こういう世界は産み出した本人によって姿が変わるクマ。だから、大センセイ達がこっからオッコチタにも関わらず上に要るのは不思議じゃないクマよ」

 

おかしな現象に悪態をつく完二を宥める様に話すりせとクマ。

この世界がオカシイのは完二達も分かっている。

だが、どうしても無意識の内に現実世界を基準で考えてしまい直ぐには納得が出来ないのだ。

また、兄と友人達の無事を一応確認する事が出来た総司は、少なくとも洸夜が一緒ならば陽介と千枝は大丈夫だと判断し今度は自分達の今後の行動を決断した。

 

「上に急ごう。……今回の世界は何処かオカシイ。どっち道、上には行かなければいけないんだ、兄さん達との合流を急いだ方が良い」

 

「……其が妥当クマね」

 

「コーン!」

 

「おっ!? お前いつの間に……」

 

総司の言葉に頷くクマ同様に賛成の意味を込めて鳴くキツネに、完二は今まで何処にいたと言う意味合いで驚いた。

殆ど傷が無い所を見ると安全な所で隠れていた様だ。

そして、周りがそんな感じで雑談を始めた時だった……雪子があることに気付く。

 

「……? (あれ? さっきまで燃えてた木棺が無くなってる……洸夜さん達が落ちた時に一緒に落ちたのかな?)」

 

洸夜達の戦いを少し見ていた雪子は、洸夜がシャドウを閉じ込めて木棺が無い事に気付いたのだ。

雪子が少し不安な表情をし始めた時だった。

階段付近にいたりせが雪子に手を振った。

「雪子せんぱ~い! 上に行きますよ!」

 

りせの言葉に雪子は振り向くと、上のフロアへの階段の前で自分を待つ総司達の姿。

雪子が考え込んでいる内に皆は階段へ向かっていた様だ。

雪子はりせの言葉に頷いた。

 

「今行く! (……考えている暇なんて無い。早く千枝達と合流しないと)」

 

雪子の言葉に総司達は頷き、洸夜達との合流を果たす為に上へと向かった。

 

 

=============

 

 

現在、ボイドクエスト(上フロア)

 

「……」

 

一階のフロアから落ちた洸夜達は、現在上のフロアの通路で三人揃って川の字状態で気を失い倒れていた。

また、洸夜達の横に成っている地面だが洸夜が落下寸前にベンケイを召喚した為に亀裂が入りながら少し凹んでいた。

落ちた先が上のフロアとは言え、洸夜達からすれば高い所から落下しているのだ。

ベンケイのお陰で洸夜達は気絶だけですんだと言える。

そんな気絶する洸夜達に近付く人物がいた……エリザベスだ。

エリザベスは右手に自分のペルソナ全書を、左手に洸夜から預かったペルソナ白書を抱えながら洸夜達三人に近付くとペルソナ白書を洸夜の上に置き、空いた左手を三人に翳した。

 

『メディアラハン』

 

エリザベスが翳した手から放たれる優しい光が洸夜達に注がれて行き、洸夜達から擦り傷等が癒されて行く。

そして、まだ気を失ってはいるが傷が完治した洸夜達にエリザベスは優しく微笑んだ。

 

「……預かっていた物をお返し致します。治療はついで御座いますのでお気に為さらずに。(全く……本来ならばこう言う事態の対処を教えるのが貴方様の役目の筈。一緒に落ちてどうするのですか)」

 

エリザベスは洸夜の顔を見て、やれやれと言った感じで困った笑みを浮かべた。

だが、エリザベスは表情をいつもの感じに戻すと洸夜の手首に付いている腕輪に目を向けた。

 

「……ペルソナの力を抑える腕輪。(……暴走を抑える為ならば仕方ない事。ですが、ペルソナを抑えると言う事は自分自身をも抑え付けるのと同じ事……オシリスと言う"色"を選んだ時点で既に黒の力を抑えている。これ以上、ペルソナを抑え付け尚且つ自分や過去に目を背けるならば貴方はもう未来に進めない。……洸夜様、私はーーー)」

 

『!!?!!??』

 

エリザベスがそこまで思った瞬間、彼女の背後から突如巨大な剣が降り下ろされ周りに砂埃が舞い上がった。

エリザベスを襲ったのは先程洸夜達と戦い一緒に落ちてきたロボット系大型シャドウ"逃走の兵"だった。

先程の洸夜の攻撃のダメージの影響からか全身に焦げ後が刻まれており、肩や足の関節部分からは放電が起こっていた。

だが、逃走の兵はそんなダメージの事は無視し自分を傷付けた天敵である洸夜達を見付けると近くにいたエリザベスに攻撃したのだ。

だが、相手が悪かった。

 

「……女性が話しているにも関わらず後ろから攻撃だなんて、全く礼儀が成っていないシャドウですね」

 

『……!!?!?』

 

砂埃が晴れた場所にいたのは、逃走の兵の大剣をペルソナカード一枚でしかも片腕で防いでいるエリザベスの姿だった。

その姿勢は先程とは一切変わらずしゃがんだままであり、まるで何事も無かった様な雰囲気を醸し出していた。

逃走の兵もまた、その大剣を持つ腕に力を入れるが一切動かない。

そして、エリザベスが静かに顔をシャドウに向けた瞬間……逃走の兵の両腕が飛んだ。

 

『??!!』

 

逃走の兵は一体自分の身に何が起こったのか認識出来なかった。

認識出来たのは……そう、エリザベスに手を出したのが間違いであり、自分は彼女に勝てないと言う事だけだ。

そして、そんな逃走の兵の様子に何も感じていないのかエリザベスは立ち上がると逃走の兵にゆっくりと歩きながら近付くと口を開いた。

 

「そんなシャドウには……」

 

『!』

 

逃走の兵は思わず身構えた。

その瞬間、エリザベスは既に逃走の兵の背後に回っていた

そして、満面の笑みでエリザベスはこう呟いた。

 

「フフ……メギドラオンで御座います」

 

『!ーーー』

 

逃走の兵は声か何かを発しようとしたが、発する前に内側からメギドラオンによって爆散した。

そう、エリザベスはメギドラオンの力を全て逃走の兵の中に放ったのだ。

力を司る者と言われるエリザベスだからこそ出来る荒業とも言える。

そして、周りに落ちる部品が洸夜達に降り注がない様にペルソナで守るとエリザベスは洸夜を見ると静かに口を開いた。

 

「……ゆっくりで良いんです。急ぐ必要は有りません。……洸夜様、未来は誰かが進んだから自分も進むのでは有りません。自分で選んだ者が未来に進むので御座います」

 

それだけ言うと、エリザベスは通路の闇へと消えていった。

 

End

 

 




失踪はしないよ♪

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