4月14日(木)雨
最初の事件から二日が経っている。
それに、アレから分かった事も多数ある。
まず、夜中に映るテレビは通称“マヨナカテレビ”と呼ばれている。
マヨナカテレビとは、雨の日の午前0時に見ると運命の人が映ると言われている言わば都市伝説である。
だが、洸夜はこのマヨナカテレビをただの都市伝説で終わらせる気はない。
人が既に一人死んでおりしかも、その亡くなった山野真由美はマヨナカテレビに映っていたとなると偶然で済ませる事は出来ない。
そして、次はその亡くなった山野真由美について、今回の事件で真っ先に疑われたのは不倫相手の“生田目太郎”と、その妻“柊みすず”。
動機は不倫関係の縺れか、不倫相手への復讐だと思われた。
だが、事件当時にこの二人には完璧なアリバイがあり犯行7は不可能とされた。
しかも、害者には怪我一つ無く死因は不明。
更に、死体発見現場が民家のアンテナの上と言う、常識的に有り得ない場所にも関わらず目撃者が誰一人いないと言う事態。
その為、捜査は難航するとメディアは予想している。そして、今日の天気は雨で時間も丁度午前0時に成ろうとしている。
洸夜は部屋でマヨナカテレビを確認しようとしている真っ最中だ。
「(マヨナカテレビについてはまだ謎が多い。これ以上、何も起きないならそれで良いんだ……それで)」
これ以上は誰も映らない事を願う。
そう祈る洸夜だったが、その願いは虚しくも叶わなかった。
ピー、ザ、ザザー!
「ッ!? またか……!」
テレビは相変わらず砂嵐等で映像が歪み良く見えないが、一人の女性が映る。
何となくだが体型や制服を着ている事から、この女性が女子高生だと分かる。
そして、その女子高生はまるで何かに襲われているかの様に苦しみだす。
その姿に洸夜は身を乗り出した。
「クソッ! どうにか出来ないのか……しかし、この場所は何処だ…! このテレビの映像からじゃあ何とも……ん? テレビ……? そうか!」
洸夜は思いだす。
初めて自分がマヨナカテレビを見た時に起きたもう一つの不可解な現象。
それはテレビに飲み込まれると言う現象だ。
コレは最早賭け、しかし考えている余裕は既にない。テレビで今も苦しんでいるその女子生徒の姿を見て、そう思った洸夜は刀等の一式を持ちテレビに触れる…すると。
ズ、ズズ……!
洸夜の予想通り、身体はどんどんテレビの中に入って行く事が出来た。
恐らく、このぐらいの大型テレビじゃなければ身体全体は入ら無かっただろう。
「母さんに感謝だな。間に合ってくれ……!」
そして、洸夜はテレビの中に入って行った。
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現在、テレビの世界
「此処がテレビの中なのか……タルタロスとは違う様だな」
テレビの中に入った洸夜は辺りを見てみると、周りは広い空間だった。
タルタロスとも違う雰囲気に、一瞬戸惑いそうになるが視界も霧一つなく良好な景色な分、マシだと割り切る。
だが、洸夜が後ろを見ると入口らしきモノは無く、既に戻る事は出来ない。
「入口は無し……か。だが、それぐらいのリスクは覚悟の上だ……ワイト!」
『カシャシャ!』
ワイトは召喚されたと同時に洸夜の前に舞い降りる。
「この辺りで至急、人を探すんだ!。急いでくれ!」
『シャシャッ!』
洸夜の言葉にワイトは錆びた鎌を振り上げると、まるで何かを探る様にその場で佇む。
そして、数秒が経った時ワイトが鎌を振り下ろし、とある方向に鎌を向ける。
『シャシャッ!』
「見付けたのか!? 案内してくれワイト!」
ワイトにこの世界を案内させ、洸夜は走りだす。
「(頼む! 間に合ってくれ…! これ以上、命が散る所は見たく無い)」
そう思いながら、洸夜が走っている時だった。
突如、自分の前方に三つ程の黒い水溜まりらしきモノが出現したのだ。
そして洸夜はその水溜まりに二年前まで戦っていた奴らと同じ雰囲気を感じ、刀を握る。
「コイツ等まさか…!」
ゴポ…ゴポポッ!……ニュルン!
突如、黒い水溜まりが浮き上がり丸くなると、巨大な口を持つ球体の形をした『アブルリー』型のシャドウが出現する。
『『『ヒャア~』』』
「嘘だろ、シャドウだと……! コイツ等こんな所にまで居やがるのか!? しかも、急ぐ余り、ワイトのジャミング能力を使うのを忘れていた……!」
数は三体だが、この急いでいる状況でワイトを戻す訳にはいかない。
そう思いながら、洸夜はワイトを自分の後ろに来させるとシャドウを睨む。
「こちらは急いでいるんだ! 雑魚は引っ込んでいろ! クー・フーリン!!!」
『デスバウンド!』
クー・フーリンは槍を地面に叩きつけ、辺りに巨大な衝撃波が発生しシャドウ達を飲み込む。
『ビャ~ッ!』
クー・フーリンが出した衝撃波によりシャドウ達は木っ端みじんに消し飛ぶ。
「ワイト! ジャミングだ!」
洸夜の言葉にワイトは、まるで洸夜に纏わり付く様に包み込んだ。
「急ぐぞ!」
そう言って洸夜は再び走り出した……だが。
「どうしたワイト? 何故止まる!」
突如、ワイトが案内を中断してその場で止まってしまったのだ。
そして、洸夜自身もワイトのその行動の意味を知っている。
「まさか……間に合わなかったのか……?」
ワイトが案内を止めた理由はただ一つ。
捜索対象の消滅。
それを理解した洸夜はその場で膝を着く。
一体何の為にこの町に来たのか。
何故、もっと早く行動に移さなかったのか……。
洸夜は後悔した……。
また目の前の命を守れなかった事に。
「チクショウ……! 俺は何度同じ事を繰り返せば気が済むんだ! 一体俺は何がしたかったんだ……」
そう言って洸夜が自分の無力に咆哮を上げていると。
「そ、そこにいるのは誰クマ!」
突如、謎の声が聞こえたと思ったら、その声の主がどんどん近付いてくるのが分かった。
「ッ! まずい……誰かは分からないが、今誰かに見付かるのは得策では無い……だが、どうやって帰れば……」
そう言って洸夜が万事休すに陥っていた時、突如洸夜の右手が光り出した。
「こ、コレは一体……!?」
洸夜は、この光が何なのか分からないでいたが、光はどんどん大きく成って行き、やがて洸夜を包み込むと洸夜はテレビの世界から消えた。
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現在、洸夜自室
「……俺は、戻って来たのか?」
洸夜は気が付くと自分の自室に戻っていた。
そして、洸夜はゆっくりと再びテレビに視線を移すが既にマヨナカテレビは終わっていた。
それに気付くと洸夜は、装備一式をその場に置き、布団の上に横になる。
今日は色々あり過ぎて疲れてしまったが、洸夜が一番疲れているのは心だった。守れなくてすまなかったと洸夜は、顔も知らなければ名前も知らない女子生徒に謝罪しながら目を閉じた。自分は再び力を無駄にするのか……と思いながら。
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4月15日(金)雨
現在、堂島宅
洸夜は朝食を食べている菜々子と共に、テレビのニュースを見ている。
しかし、洸夜の顔を何処か優れない表情に成っている様子だ。
理由は、ニュースの内容に有る。
『今朝、山野真由美さんの第一発見者だった小西早紀さんが、電信柱の上で遺体で発見されました』
「……やはりか」
洸夜はニュースで映しだされている小西早紀の写真を見て表情を暗くする。
昨日、マヨナカテレビに映ったのは間違いなく彼女だと洸夜は確信した。
小西早紀は、山野真由美の遺体を最初に発見した事によりこの所メディアに良く取り上げられていた人物。そして、洸夜はマヨナカテレビに映った人物が理由はどうであれ、殺害されるのだと理解する。
それに恐らく、殺害された人達はあのテレビの世界にいたのはワイトが確認しているから間違いない。
しかも、あの世界にはシャドウもいた。
被害者には二人とも外傷が見当たらず死因は不明。
「(イゴールが俺を呼んだ理由が分かったよ……)」
そう思いながら洸夜はテレビのニュースに目をやっていると。
「お兄ちゃん……なんかツラそう……調子悪いの?」
朝食を食べ終えた菜々子が暗い表情をしていた洸夜を心配し声を掛ける。
その言葉に洸夜は、家族に余計な心配をさせた事に申し訳なく思ったが、逆に心配してくれた菜々子に嬉しく思いながら頭を撫でた。
「俺は大丈夫だ。心配してくれてありがとな……」
「お兄ちゃんの手って暖かい……」
「?……嫌か?」
洸夜の言葉に、頭を撫でられている菜々子は首を横に振る。
「ううん。嫌じゃないよ……逆にあんしんするから菜々子大好きだよ」
そう言って笑う菜々子の表情に洸夜は心が温かくなるのを感じた。
いつまでも引きずっている場合じゃない。
自分に出来る事はこれ以上の被害を出さない様にする事。
そう思っていた時、テレビを見ていた菜々子が何処か不安そうな表情に成っていた。
「犯人、まだ捕まらないの……?」
「……大丈夫だ。叔父さん達も頑張っているんだ。それに、もし菜々子に何か合ったら叔父さんも総司も、勿論俺も菜々子を守るよ」
「本当?」
「本当だ。約束しよう」
「うん! 約束だよ!」
そう言って指切りする洸夜と菜々子。
この約束だけは何が有ろうと守ってみせる。
内心でそう誓いながら。
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現在、事件現場
菜々子との会話の後、洸夜は商店街の外れにある電信柱に来ていた。
その手には花束を持っている。
「やっぱり、警察もまだ捜査してるんだな……」
しかし、堂島の姿が見られないと言う事は、捜査の大半は終わっている様だ。
周りには警察の姿は少なく、泣いている遺族や、それを映しているメディアしかいない。
そして、洸夜も雨の中で遺族や近所の人に混ざって花束を置いて合掌する。
「(守れなくてすまなかった……必ず真実を見付け出す。だから、もう暫く待っていてくれ)」
そして洸夜は再びその目に覚悟を宿し、あのテレビの世界へと再び足を踏み入れる。
End